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武士道復讐行  作者: 心鶏
矢笠編
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第十九話 元気出せ!

 三人は順調に旅をして、西へ西へと進んでいた。まだ子供の木郎きろうには、この長旅は大変だったが、疲れる度に生百合うゆりが負ぶってくれたため、体力が原因で足止めすることはなかった。

 町に着けば別行動だが、木郎は生百合についてまわった。そして生百合もそれを良しとした。生百合と阿之助あのすけは木郎が加わっても、それぞれ程よい距離感を築き、旅仲間として認識していた。とても穏やかな日々であり、気ままな時間だった。

 立崎たちさきという港町に着き、三人は鬼の里について情報を集めようと、二手に分かれた。

「じゃあ、三日後にここで」

「ああ」

 いつも通り阿之助は一人、生百合と木郎は一緒に情報収集を開始した。

「さて、夜までに女の子探そーっと」

 女たらしの阿之助はナンパを始める。一方、生百合と木郎は鬼について聞いてまわった。しかし、鬼の情報は得られなかった。代わりに出てくる話は決まって二つ。ここらの海の人魚の話と、近くにある矢笠やがさ家の屋敷の書物庫の話だ。

「鬼の話はないな」

「うん。矢笠家ってところに行けば、怪しい読み物が沢山あるって言ってたし、そっちに行くのがいいんじゃない」

 生百合と木郎が聞き込みをしている最中、町の港の方から叫び声がした。

「化け物だーー!」

 声色は切羽詰まった様子で、襲われていると容易にわかった。

「生百合さん」

「ああ、行こう」

 二人は港の方へ駆け出した。港へ着けば、一人の男が腰を抜かしており、騒ぎを聞きつけた町人たちも立ち往生している。その全員の視界は海から、上半身だけを出している黒い巨体に集まってる。

海坊主うみぼうず

 危険だと止める人たちをかき分け、生百合はその巨体の前に立つ。巨体は少し沈黙し、ハッと思い出した。

「あんた、あの時の!」

「ああ、そうだ。これはなんの騒ぎだ?」

「ここらの海の様子がおかしいから、そいつに話を聞こうと思っただけだ」

「だとさ、敵意はないようだ」

 町人をなだめたが、腰を抜かしていた男は、木郎の手を借り起き上がりながらも、まだ怯えた表情だ。

「木郎、そいつを連れて行け。私が代わりに話を聞こう、事情を話せ、海坊主」

 木郎は怯えた男を連れ、この場を後にした。他の町人も、海坊主が素直に話し始め、危険がないとわかると去っていった。

 海坊主の話は曖昧なものだった。大橋の港でずっと客寄せのために観光客に愛想を振りまいていた海坊主だったが、ある日、嫌な予感がした。遠くの海で何かが起きていると感じた。そこで、その予感を辿ってみたところ、この海にたどり着いたのだという。

「実際に来てみて、何かおかしなところはあるのか?」

「それがないんだ。だからオイラ、どうしようもないから、人に聞こうと思ったんだ、最近、海で変わったことがないか。そんでさっき、海見ながらぼーっとしてる奴がいたから話しかけたんだ」

「なるほど。わかった、さっきの男も含め、町の人に、ここ最近の海の様子について聞いてこよう、明日この場所に来い。聞いたことを伝える」

「また、あんたには世話かけちゃうな」

「気にするな。小松は元気にしているか?お前と町おこしをしているのだろう?」

「ああ、観光客から大人気だ。この前、若い漁師と結婚してたぞ」

「そうか、あのチビに引きずられなくてよかった」



 生百合は大通りへ向かった。予想通り、大通りの茶屋で木郎と男が待っていた。

「おかえり、なんだって?」

「大した話ではなさそうだった。ひとまず、お茶をもらおうか」

 木郎と男はすでにお茶を頼んでいたため、生百合はもう一杯追加の注文をして、海坊主の話を二人に話した。曖昧で気のせいにもできるような話だが、男には心当たりがあるようで、うつむき悔やむように話し始めた。

「俺のせいかもしれない……。でもここじゃ話せない。家に来てくれ」

 そう言って男は、二人を家まで案内したため、生百合はお茶が出来上がる前に、勘定を済ませて茶屋を出て行くことになった。



 男の名前は浦岡うらおか 二郎じろう。この港町で漁師をしている青年だ。彼には秘密があった。

 二年前、浦岡が漁師の見習いをしていた頃、沖で漁をしていると、船が嵐に襲われ、浦岡だけが海に投げ出されてしまった。他の船員は救助しようとしたが、大波でとても助けられるような状況ではなく、浦岡は溺れて死ぬはずだった。しかし、目を覚ますと、見たことのない真っ白な砂浜の孤島に横たわっていた。その傍らには人魚が大きな葉っぱを持って、浦岡のことを扇いでいた。

 この町には人魚が出ると、聞いたことはあったが、実際に見たものはおらず、伝承の存在だと思っていた。浦岡はこのことをいち早く町の人たちに知らせたかったが、溺れて体が衰弱しきっていた。そのため、孤島にて、人魚の介抱を受けた。

 その間に、浦岡と人魚は仲良くなっていった。人魚は透き通るように白い肌で、太陽にきらめく金色の髪をしていて、何よりも美しい容姿だった。それでいて、優しく、健気でもあった。彼女の名前はホヨ、浦岡はこのホヨのことをすぐに好きになった。またホヨも、浦岡が話す地上での話や、漁の話が面白く、二人は惹かれあっていった。

 その後、浦岡は回復し、ホヨがどこかから集めてきてくれた木材でイカダを作り、イカダに乗って、ホヨの助けもあり、無事にこの町に帰ってくることができた。

 二人はすでに恋に落ちていたため、帰った後も頻繁に海で会っていた。ホヨの話では、人間と人魚は恋をしてはいけないという昔からのルールがあるらしい、だが愛し合う二人を止められるはずもなく。二人の関係は続いた。そしてこの前、ホヨが人魚の王様と話をして、二人の結婚を認めてもらえることになった。ただ、この結婚には一つ条件があり、どちらかが人間もしくは人魚になり、相手と同じ種族にならなければならなかった。

 人魚の住処には、そういった魔法を使う者がいるため、二人はその人のところに行こうと約束していた。その約束の日が昨日であり、一度も約束を破ったことのないホヨが、昨日は約束の場所に来なかったのだ。

「それで黄昏ていたと」

「ああ。ホヨがいっていた人と人魚が、恋をしてはいけないというのは、人魚の掟みたいなものだと思っていたが、もしかしたら、海のバランスを崩すような、もっと重大なものだったのかもしれない」

「考えすぎだ。海坊主は異変はないと言っていた。ただ予感だけだと」

 そう聞いても、男は落ち込んでいる。その背中を叩いて木郎が言った。

「元気出せ!困った時はお互い様だ。協力すっから」

「木郎の言う通りだ。任せろ。人魚の住処はどこかわかるか?明日、海坊主と見てきてやろう」

「すまないな。俺のために……。人魚の住処はここから南東の沖、大きな岩が突き出しているところだと言っていた」

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