表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武士道復讐行  作者: 心鶏
岡崎編
18/57

第十八話 諦める復讐もある

 城の救護室にて、一葉いちはは今回の一件のことを、包帯でぐるぐる巻きにされ、布団に横になっている生百合うゆりに伝えた。話す途中で何度も泣ながら、それでも一葉は伝えきった。生百合は純真な一葉の頭を撫でた。

「選ばれたのは本当に、ちっちゃい赤ちゃんばかりで、……木郎きろうくんは、選ばれてなくて」

 撫でられてまた大泣きする一葉。練五郎れんごろうの正義の心が宿っている。しかし、それに見合う力はない。だから泣くしかないのだ。一方で生百合は、阿之助あのすけの予想に反して、至って落ち着いていた。

「会いたい者がいる。場所を教えてくれ」

「えっ。生百合さん、そんな怪我で動いちゃ、治りが」

「教えてくれ」



 二人がその場所へ向かっていると、途中で阿之助が立ちふさがった。

「安静にしてないとダメですよ、生百合さん。どこに行くつもりですか?」

苔尾こけおに話がある」

「ああ、なんだ。てっきり九条くじょうさんのところに行くのかと思いました」

「どいてくれ」

 生百合が先に行こうと阿之助とすれ違う瞬間、阿之助は小声で囁いた。

「今回のことは僕も不服です。でも九条さんはあなどれない。くれぐれも変な気を起こさないように」

「わかっている」



 苔尾の待遇は決して悪くはなかった。客間を自室として与えられ、交渉の際に足を貫かれ、歩けなくなったため、世話係が交代でついていた。九条がなぜここまで、隙を見せているのか、苔尾はよく理解していた。残った五人の赤子が人質として機能しているのだ。もし苔尾が不穏な動きを見せたり、九条の指示に従わないようなことがあれば、その赤子の首が飛ぶのだ。状況は最悪である。そんな妖怪の長の自室に生百合がやってきた。

「わしを斬りに来たか」

「聞きたいことがあって来た」

 生百合は苔尾の前に正座する。案内した一葉は生百合に言われ、部屋の外で待っている。

「妖怪たちが身を潜めていたのはどのあたりだ?」

「この城の東の森だ」

「そうか、わかった」

「それを聞いてどうする?」

「墓を建てる」

 そう言って部屋を去ろうとする生百合は、引き止められた。

「待て。名を聞いていなかった」

「生百合だ」

 振り返らずに答え、そのまま部屋を出て行った。

「生百合か。いい名をもらったな」

 最後に聞こえたその言葉が、一体どういう意味なのか。生百合にはわからなかった。



 生百合はその足で、城の東へむかった。

「ごめんなさい、生百合さん。本当は城の人みんなで、お墓を作るべきなのに」

「立場がある。一葉も気をつけろ。九条家は妖怪を敵としている」

「でも、こんなの正義じゃないです」

 九条家の忍者としては、少々、心が清すぎる。一葉はこういう曲がった事が大嫌いな性格で、それは生百合にも共通した。ゆえに、一葉は生百合を頼るのだが、生百合は怒りを押し殺していた。

「諦める復讐もある」

 本当は九条家を討ち滅ぼしてやりたい気持ちが、胸の中で爆発しそうだったが、生百合は阿之助のことを信頼している。特にこういった権力が絡んだ事柄は、自分より阿之助の方がやり手だとわかっていた。そして、そんな阿之助が九条家を敵視するようなことを言っていたため、生百合は阿之助が企む何かの、邪魔にならないようにすることが得策だと考えたのだ。



 東の森にたどり着いた。森の中は所々血の跡があるが、死体は一つも見つからなかった。

「片付けられたか」

 生百合は一葉を途中で城に帰した。九条家の人間が妖怪を弔っているところを誰かに見られれば、問題になるからだ。

 一人で墓を建てる。大きな岩を、自慢の怪力でひらけた場所まで転がして立てる。その岩に、あたりの石で文字を刻む。

 安らかに眠られよ。そう一言刻み、生百合は黙祷をした。



 城へ戻る途中の城下町にて、生百合は呼び止められた。

「生百合さん!」

 振り返れば、見覚えのある少年が立っていた。人間の姿に変身した木郎であった。

「木郎……」

 木郎は駆け寄り、生百合は膝から崩れ落ちながら、抱きしめた。

 父譲りの変身の才能があり、これまでも、人間社会と関わりがあった木郎は、殲滅作戦を逃れ、うまく町人の家に転がり込んでいた。

「すまない。私には何もできなかった……」

 木郎を強く抱きしめて、生百合は泣いていた。

「いいんだ。生百合さん。会いたかった」

 木郎も泣いていた。最近はあまりにいろんなことがありすぎた。二人には休息が必要だった。



 一ヶ月が経ち、生百合の傷は完治した。また、旅が始まる。生百合と阿之助は遥か西にあるという鬼の里を目指す。そしてもう一人、旅仲間が増えた。妖怪として生きていける家を探す木郎だ。

「ハタから見たらどんな関係の三人に見えるんですかね」

 山道を歩きながら阿之助が二人に尋ねる。

「姉弟とその友達」

 木郎が答える。

「その場合、僕が弟?木郎君が弟?」

「そっか、どっちも弟でいけるのか」

 さすがに阿之助の方が大きいが、それでも、木郎と大した身長差はない。

「全員他人だ。顔が似てない」

「そりゃないよ、生百合さん」

「そりゃないよ、生百合さん」

 全く同時に同じこと言う、阿之助と木郎であった。



「来るのか。例の人たちが」

 男は屋敷の中庭で、家臣の話を聞いていた。

「はい、二人は西へ向かったと」

「何かを探しているなら、うちに来るのは時間の問題だね。フフ、楽しみだ。会う日が待ち遠しいよ」

宗将むねのぶ様は、その二人を殺すのですか?」

「まさか、会いたいだけさ。瀬野さんを斬り、清水家の伊東を斬り、挙句には先の岡崎で暴れていた武蔵丸という狂人を、佐伯殿が倒す前に瀕死にまで追い込んでいたそうじゃないか。並の剣士ではないよ。それも、私と同等か、それ以上の」

「強者には間違いありませんが、そこまで強いとは思えません」

「先入観だね。全く無名の剣士だからそう思うのさ。出生を調べておくれ。流派となぜ今までそんな強者が埋もれていたのか、とても興味がある」

「わかりました」

 矢笠やがさ家の屋敷にての会話であった。

岡崎編はこれにておしまいです。

鬼の里を目指して、新しい編が始まります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ