表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武士道復讐行  作者: 心鶏
岡崎編
12/57

第十二話 悪魔のようなことを言う男

 百鬼夜行は新月の夜に現れる。そんな情報を岡崎おかざきの情報通から教えられ、二人は格安の宿屋で待つこと数日、新月の夜がやってきた。二人は宿屋を出て、町一番の大通りを、民家の影から見守った。すると、大通りに一つの火の塊が灯った。ふわりふわりと浮かび、大通りを北に向かっていった。

人魂ひとだまだ」

「来ましたね」

 二人は小声で言葉を交わし、大通りを見続けた。

 また一つ、火の球が浮かび、北へと行く。次第に数が増え、二つ三つ。十を超す前に、狐のような二足歩行の獣がその列に加わっていた。その後からは、獣らしき者や人らしき者、まるで見たことのないような形をした者まで、得体の知れない異形いぎょう一群いちぐんが列をなして、北へと向かっていく。

 その妖怪たちは噂通り、傘を持っている。お祭り騒ぎということはなく、仲間たちと話したりはしているが、どの妖怪も淡々と、浮かれた様子なく歩いている。

「鬼はいないようだが……」

「最後尾の人から傘をもらって、潜り込んでみます。生百合うゆりさんはここで待っていてください。妖怪が一人来ると思うので、その人を黙らせておいてください」

「わかった」

 阿之助あのすけは忍び足で最後尾の妖怪の背後にまわり、その妖怪の肩を叩いた。振り返ったその妖怪はほとんど人と変わりない形だったが、ただ一点、眼が一つしかなかった。

 人差し指で口元を押さえ、静かにするようにジェスチャーし、一つ目の男を列から連れ出して、民家の陰に誘い込んだ。

 一つ目男は小声で話した。

「人が何の用だ」

「その傘ください」

「ダメだ。こりゃあ、俺んだ」

「なに、ただとは言いませんよ。向かいの民家の陰に、女を待たせているんです、その女でどうです?」

「どんな女だ?」

 阿之助はニンマリと笑みを浮かべた。

「美人な19歳でとにかくデカイです」

「なにが?」

「そんなの説明不要じゃないですか」

「女がいなかったらどうする?」

「その時は、僕のことを追いかけて殺せばいい」

「わかった、交渉成立だ」

 一つ目男は頭の傘を阿之助に手渡し、向かいの民家の陰へと向かい、阿之助は何食わぬ顔で百鬼夜行に加わった。

 一つ目男は妄想を膨らませながら民家の陰を覗いた。次の瞬間、凄まじい怪力で胸ぐらを掴まれ、ヘッドロックを決められる。あまりの締めつけに声も出せず、その腕をひたすらタップして、ギブアップだと伝えることしかできない。一つ目男は思った。ゴリラじゃねぇか、と。



 百鬼の一群は町を北に抜け、大きな山へと入っていった。大橋おおはしの情報屋 官兵衛かんべえの話によれば、この山に妖怪の集落があり、そこに妖怪の総大将がいるということだった。

 奇怪なもののけに囲まれ、不気味な世界へと入り込もうとしている阿之助だが、この男は小柄な割に度胸だけはあるのだ。やがて、官兵衛の言う通り、妖怪の集落が現れた。風呂敷を広げただけの店がそこかしこに陣取り、得体の知れない物を得体の知れない者たちが売っている。夜行の列を離れる者もいたが、列はまっすぐに、鳥居が並ぶ階段を登っていく。頂上には大きな神社があり、妖怪たちはそこへ入っていく。用事を済ませたのか、神社から出て、戻っていく妖怪ともすれ違う。

 阿之助は理解した。緊張感の漂うその神社こそが総大将の根城なのだと。

 妖怪たちは順番に呼ばれ、総大将のいる部屋へと通される。総大将への用事が済んだら出ていく、それが繰り返される内に、最後の阿之助の番がやってきた。番人の二足歩行のイノシシに通された部屋には、だらりとあぐらをかき、やけに濃い煙のタバコを吸っている老人がいた。

「最後の客かね」

 老人は様々な人間の声が、何重にも重なったような、聞く者の耳を狂わせるような声をしていた。

「そうですね。僕で最後です」

 しかし、阿之助の度胸も本物であり、妖怪の総大将の異質な存在感にもおくすることはなかった。

「そうかい。何用かね」

 阿之助は知り合いの師匠が殺され、犯人を探していること。その犯人が鬼かもしれないということを伝えた。

 老人は一つため息をついた。

「わしらの群れは小さくなった。河童に天狗、龍に鬼。みな、人との共存を目指し、群れを離れていった。中でも鬼は離れて長い。連中が何をしているかなど、知る由もない。遠く西に行けば鬼の里がある。あそこは森を切り開くのにわしも尽力した。紹介状を書いてやる。自分の目と耳で確かめることだ」

「ありがとうございます」

 老人は空中から取り出すように、紙と筆を何もない場所から出現させ、紹介状を書き始めた。

「それで、小取といったか。お前はわしに何をくれるのかね?まさか、群れに忍び込んだことに目をつむり、今の情報をやったのがわしの善意だとは思っていまいな?」

 相手の逃げ場を奪ってからの脅迫、恐ろしい問いであったが、阿之助はそんなもの、九条家で経験済みだった。

「毒味のさかずきなどはいかかでしょうか?」

 阿之助はふところに手を入れ、清水しみず家からくすねてきた杯を取り出した。

「フッ。安いな」

「ところが、ただの毒味の杯じゃないんですよ。ほぼ全ての毒に反応して、底の模様が変わるようになっていますが、この小瓶の毒だけ、反応せず模様が変わらないんです。意図的にそう作られているんです」

「ほう」

「この杯の真価は毒味ではなく、内情を知る身内の毒殺。一人いますよね、殺したい身内が。人間に傘を渡してしまった愚か者が」

「フフフッ。悪魔のようなことを言う男だ。お前に傘を渡した一つ目男、あんな奴だが幼い子がおる。その子が不憫ふびんだ、殺しはしない。だが気の触れた人間は好きだ。良かろう、その杯と交換だ」

 阿之助は杯と小瓶を渡し、紹介状を受け取った。

「それから、その傘、返してやってくれ。数に限りがあるのでな」

「わかりました。では失礼します」



 阿之助は上機嫌なまま、来た道を戻り、山を降りた。

 山のふもと、町まで道をまっすぐに行けばいいだけのところまで来たが、唐突に阿之助の目の前に刀が現れた。

「妖怪の山から出てきたな。お前を逮捕する」

 刀の柄の方をたどれば、その刀を握っているのは、事もあろうに佐伯さえき 小太郎こたろうなのであった。

「嘘でしょ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ