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武士道復讐行  作者: 心鶏
曽根編
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第十一話 神様を信じる心に陰りはないわ

 阿之助あのすけ一葉いちはの二人が、広場で待っていた生百合うゆりの元に戻ると、追ってきていた兵士たちは足を止めた。すでに十数人を斬り、清水しみず家最強の剣士 伊東いとうをも破った生百合を前にして、当主の仇を討とうとするものはいなかった。

「用も済んだし、帰りましょうか。生百合さん」

「ああ。何に巻き込まれたのか、はっきりさせんとな」

「あ、そっか、生百合さんは何も知りませんでしたね。説明しますよ」

 阿之助は曽根城を出る間、生百合に事の大筋を話した。

「おそらく、九条くじょうさんはキリシタン弾圧の名目で、この領地を自分のものにするのが目的です」

「なるほどな。寄り道する場所ができた。先に行ってくれ」

 城を出た阿之助と一葉は、そのまま城下町を素通りし、青谷城あおやじょうへと向かう道を歩いて行った。一方、生百合は城下町の中の一軒の家に用事があった。

 小さな民家の戸を叩くと、紗枝さえが出てきた。

「あなた!もう心配したのよ!」

「すまない。助けなければいけないヤツがいた」

「それだって、その怪我じゃ。とにかく入って、安静にしなさい」

「いや、私はもう行く。別の用で来た」

「そんな無茶言って。良くないわよ」

「九条家が近々、この町のキリシタンを弾圧する。ここを離れて遠くに行った方がいい」

 紗枝は急な言葉に絶句した。

「あんたには世話になった。斬るしか能がない私には、これが精一杯の恩返しだ」

 深呼吸をして、物事を受けとめた紗枝は、生百合に向かってニッコリと笑ってみせた。

「ありがとう。でも大丈夫。神様を信じる心に陰りはないわ。私はここで死ぬ覚悟よ」

「……その心を私は武士道と呼ぶ」

「なら、キリスト教と武士道は似ているのかもしれないわね」

 生百合は背筋を伸ばして、紗枝に向き直り、深々と頭を下げた。

「あなたには敬意を払います。お世話になりました」

 その頭をそっと撫でて、紗枝は言った。

「困った時はお互い様よ。女の子なんだからあんまり無茶しちゃダメよ」

「はい」

 生百合は頭を上げる事ができなかった。この泣き顔を晒したくなかったからだ。

「行きます」

 なるべく紗枝の顔を見ないようにして、生百合は背を向いて歩き出した。その背中を見送りながら、紗枝はポツリと呟いた。

「武士道ね」



 曽根そねの隣町にて合流した三人は、揃って青谷城へ向かった。

 阿之助も一葉も生百合の傷を心配したが、生百合は大丈夫の一言で押し通した。いくつかの町を越え、三人は青谷城へ戻った。曽根城から無理をしていた生百合は、怪我の手当てのため、すぐに救護室に運ばれた。一葉は生百合に付き添い、阿之助は九条 シオと話をしていた。

「よく帰ってこられましたね」

「捨て駒が生きて帰ってきて面倒、って顔ですね」

「いいえ、ご無事で何よりです」

「そう思うなら、報酬もたくさん、ですよね?」

「あなたたちが清水の当主、その他大勢の家臣を殺しておきながら、幕府からの追及を受けずに済んでいるのは誰のおかげですか?」

 阿之助は痛いところを突かれた。

「ともあれ、危険を冒さずに国が広がり、私は機嫌がいいので、生百合様の怪我が治るまでの衣食住の確保、その後の旅の資金を少々、あの忍者の再就職先の手配。で、手打ちとしてしていただけませんか?」

 普段の阿之助ならば、粘って報酬を釣り上げるところだが、完全に立場が下であった。だが阿之助は諦めていなかった。何としても九条 シオの弱点を見つけ、脅しをかけるつもりで、この数日間探りを入れたが、ついにこの底知れない当主の弱点を見つけることはできなかった。次に銃を使って脅すことも考えたが、生百合が動けない今、争いを起こすのは危険だと判断しやめた。

「わかりました。それで十分です」

「よかった。では、私はこれからやることが山積みなので、失礼させていただきます。ああ、それから、ふところの銃はもっと隠した方がいい」

 そう言い残し、九条は客間を出て行った。

 阿之助は唾を飲んで震えた。最後に九条が言い残していった言葉は、銃を見通していたこと伝えるもの、つまり、銃を出していれば殺していたという意味だった。抜かりのない脅しに、有無を言わさぬ圧。阿之助は心の底から、敵に回したくない人だと思った。



 生百合の怪我の回復を待つこと、一ヶ月ほど。その間に、九条家は領地を広げた。曽根周辺のキリシタンは処刑され、清水家は完全に滅んだ。忍者の一葉は九条家に仕えることになり、阿之助と生百合は再び、岡崎おかざきを目指し旅を始めた。

「生百合さんはやっぱりすごいですね。あの傷が痕すら残らず、一ヶ月で完治するなんて」

「昔から体は丈夫だからな」

「そういうレベルじゃないと思いますけど」

「反省している。もう無茶はしない」

「あっ、一歩間違えたら死んでいたの、自覚してたんですね。でも、生百合さんらしくない言葉ですね。無鉄砲なところが結構好きなのに」

「恩人との約束だ」

「じゃあ、僕の出番が増えますかね」



 長らく歩き、二人は岡崎の隣町まで来ていた。

「もうすぐですね」

「ああ、しかし、いつ百鬼夜行が現れるかは、わからないのだろう?しばらく待つようかもしれないな」

「そうですね。まあ、気長に待ちましょうか。この町にも百鬼夜行の噂が流れているところを見る限り、出ないってことはなさそうですし」

 そんな会話を茶屋の外の席で、一息つきながらしていると、二人の前を一人の長身な剣士が通りすぎていった。生百合はすぐにその男が誰だかわかった。面倒ごとになるのを避ける為、完全に通り過ぎるのを待ち、阿之助に話した。

「今の男。佐伯さえき 小太郎こたろうだぞ」

「佐伯 小太郎って、あの燕返つばめがえしの!?」

 佐伯 小太郎は今の時代に知らない者はいないほど、有名な剣豪だ。名門 矢笠家の当主 矢笠やがさ 宗将むねのぶと並べられ、最強の剣豪と言えばそのどちらかがあげられる。

「なんでこんなところに」

「わからないが、関わりたくはないな」

「同感です」

岡崎編がはじまりますよー。

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