大好きだったあの子を奪われたので、神と世界に対抗します
「令」がどこにあるかと見直したら令和元年10月21日改題に引っ掛かったようです。これも一つの縁なのだと思います。
作者:よぎそーと様
ジャンル:ハイファンタジー
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タイトルで大体の流れを示された後、あらすじでいつか再会して一緒になりたいと思っていた女性が勇者と男女の仲になっていたことを知り、それを奪った相手を崩壊させるために寝返ることにした、と語られます。
そして「もういいか」と見切りをつけて裏切るシーンから物語は始まりますがその時に一緒にいた同行者を倒したあと裏切った時に遭遇していたゴブリン達に自分が女神側に見切りをつけて裏切ることを伝え、人間側に攻撃を仕掛けていくというのが大まかな流れで、初めは少数での攻撃ですが成功を積み重ね少しずつ戦力を増やして人間側に攻め込んでいく物語です。
主人公はある出来事をきっかけに能力が開花し、最新話付近ではかなりの便利能力にまで成長するのですが万能と言えるものではないので常に仲間頼りとなります。よってそれなりの頻度でゴブリンリーダーや邪神官といった幹部級と折衝する場面もあるのですがそこでも無条件には信頼されず少しずつ戦力や協力を得ていくのが非常に現実的だと感じさせてくれます。
人間側も決して馬鹿ではないのですが組織のしがらみや教義などから主人公の打つ手に遅れをとってしまうあたりも妙な現実感があり、露骨に知能指数の低い敵役としては描かれていないところもよいです。
この作者様は他の作品でも初めに設定された世界観の中で現実的に少しずつ進めていく話を書かれているのでこういう描写が非常に上手いです。
また物語の序盤では読者にはほとんど情報がなく、いくつかの会話から大まかに推測出来る女神と魔族の争いが続いているという位しかわかりませんが説明不足というよりは必要な情報が適宜出てくるという感じで読む分でどういう意味やねんとなることはありませんでした。設定を思い出して読みに戻ったりすることがない分スムーズに読み進めていけたと思います。
この作品の見所の一つとして挙げたいのがゴブリンの扱い方の描写です。
作品によって描かれ方にも結構な差があるゴブリンですがこの作品では多くの作品で見られる小型で知性が低く欲望に忠実な姿で描かれています。
そんな彼らが仲間になったからといって思い通りに動くことはないわけで主人公と最初に出会ったゴブリンリーダーは彼らが上手く動くように誘導していくのですが、ありがちなハデな魔法でビビらせる、痛め付けて言うことを聞かせる、獲物を与えてヤッター従いますという展開にはなりません。
彼らの欲を上手く刺激して「こいつに付いていけば美味しい思いが出来る」と協力させて少しずつ協力する数を増やしていきます。更にゴブリンとはいえ貴重な戦力なのでそれを浪費しないように襲撃方法を工夫し、調子に乗って突撃したがるようであれば制止するのではなく戦利品で楽しむようにして待機させる、と利にかなった運用をします。
このあたりゴブリンを率いる物語を書こうとしている人に是非読んでほしいと思うところで設定にもよるでしょうがテンプレゴブリンの集団を統率するのがどれ程大変かということが理解できると思います。
個人的に大好きな作品なのですがストーリー上結構な頻度できつめの展開が入ります。あくまで展開であって描写自体は最小限に抑えられているもののそういう展開が嫌いな方は遠慮した方がいい作品ではあります。
大切なあの子を奪われた主人公が神と世界に対抗するこの作品
、最新話で大きな山場を迎えつつあり実に先が楽しみな場面となっています。
またチートで俺ツェーや取り敢えず形成されるハーレムや不自然に感じられるほどのご都合展開もないのでそういう作品が読みたい方、ゴブリンを率いる物語を書こうと思っている方にも非常にお薦めできる作品となっていますので興味のある方は是非一度読んでいただければと思います。
与えられた条件の中でとにかく堅実に出来ることを進めていく主人公を書く第一人者としてよぎそーと先生の名前が上がるのは私の中では有名な話です。
先生の作品の「転生したけどやっぱり底辺ぽいので冒険者をやるしかなかった」とか本当にそういう話で俺ツェー、チーレム、ご都合主義が嫌だ堅実な作品を読みたいという人に是非読んでほしい作品だと思います。