第二節 旅立ち
3人は主人公宅に集まった。インターフォンを推す主人公。
「ピンポーン」
中からドタドタと歩く音が聞こえる。
「はーい。あら、ツトム。学校はどうしたの? この人達は?」
「……母さん……」
玄関から出て来た母に何か伝えたそうな主人公。少し沈黙の時間が続く。
「お母さん……」
爆破が口を開く。
「! 待って下さい‼ 自分で……自分の言葉で伝えたいんです」
「……」
主人公の発言に、少し黙り込む爆破。
「……そうか、なら良い。自分の口で、伝えろ。しかし、後悔したり、お母さんを心配させてはいけないからな」
そして、少しだけ釘をさしておく。
「はい……」
「? どうしたの、ツトム。改まっちゃって。それにこの人達は……?」
かしこまる様子の三人に、はてな顔の母。
「母さん、僕……また家を留守にします……」
「!」
「場所は……言えない。心配……かけるから。でも! 絶対生きて帰るし、ケガもしないように、母さんからもらったこの身体、傷つけないようにするから……だから……!」
「もういいわ」
主人公の言葉を遮る母。
「やって来なさい、……お母さんも今は応援してるよ」
「母さん……‼」
母からの意外な言葉に感動する主人公。
「……分かったよ、母さん。じゃあ行ってくる」
右手を上げ、軽く振る母。
「決まり、だな」
爆破は呟く。
「何かあったら、スマシさんに助けてもらうから! じゃあね! 母さん‼」
母は主人公が小さくなるまで手を振って見送った。
「よし、じゃあパスポートを作るぞ。パスポートセンターへ行く」
「あ、そうか海外へ行くから……」
「パスポート? 何だい?」
口々に言う爆破と主人公、そして逃隠。
「費用は狩人が受け持つ」
「ほっ、よかった」
逃隠を無視して会話する爆破と主人公。
「無視かこラ――‼」
「結構高いですからね」
「そうだな、中学生の小遣いから出せるものではなさそうだな」
「……泣くぞこラ(俺、帰ってもいい?)」
強がる逃隠であった。
パスポートセンターへ着いた。
「そうだな、ここで証明写真を撮ってもらう」
「そうか……証明写真を撮るのか……」
爆破と主人公は落ち着いた様子だ。
しかし、逃隠は……
「タ……タマシイが……抜き取られるんだい……」
戦前の思考だった。
「パシャッ」
写真を撮る主人公。写真の出来具合を見る。
(あ……目ぇつむってる)
横から除く爆破。
「撮り直しだな」
「……はい」
その横で
「嫌だい! 嫌だい! タマシイ抜き取られるんだい‼」
逃隠が暴れていた。
「こら! サケル‼」
爆破が叫ぶ。
「⁉」
「ゾムビー達を駆逐するのではなかったのか?」
問う爆破。
「……写真、撮ります……」
「よろしい!」
(なんかすごくシュールな会話だぁああ!)
心の奥底でツッコミを入れる主人公であった。
パスポートを作り終える。(未来の話なので将来、パスポートも即日で作り終えられると捉えてもらいたい)
「キュルルルル、キュ」
身体スグルが、移送車で登場した。
「お待たせしました、隊長」
「ご苦労」
爆破は返す。
「さて、……」
爆破は続けて口を開く。
「事は急を要すると言ったが、ツトム達の負担を考えて余裕を持ったスケジュールを組んである。本日は一旦、サンフランシスコで宿をとる事とする!」
「サンフランシスこぉおお⁉」
叫ぶ逃隠。
(! 本格的にアメリカ行きが実現化してきた気がする)
主人公もサンフランシスという言葉に反応する。そして爆破が口を開く。
「これから二日かけて目的地に向かう! そうだな、今回はあちらの時間で深夜2時くらいにホテルに着くことになるだろう」
数十分後――、羽田空港にて。
(修学旅行以来だなぁ)
主人公はそっと思う。
「飛行機カ……何も起きなければいいのだガ……」
逃隠は意味深な言葉を発する。
「こらこら、普通の飛行機だぞ? 他の搭乗者に失礼だろうが」
爆破は呆れたように言う。
「隊長。ツトム、サケル、この私、そして爆破隊長とその他隊員の計20名、無事、羽田空港に到着しております」
報告をしたのは身体副隊長だった。
「ご苦労、では出発するとしよう」
搭乗していく一行。
(飛行機に、約9時間も乗るんだよな、寝ていいのかな? 任務中だけど……よし、聞こう)
爆破に一声掛けようとする主人公。
「あのっ……」
「ツトム、サケル!」
口を開いたのは爆破だった。
「フライトは長い時間かかる。そこで私の人生のイロハを授けようと思う。戯れ言の様に聞こえるかも知れないが聞いてはくれないだろうか?」
「合点承知の助だい!」
「ハッ……ハイ!(とほほ、寝られない)」
元気よく答えた逃隠に、半ば不満をもって答える主人公であった。
飛行機の座席に座ったところで、爆破は口を開く。
「何の脈絡もないが、聞いてくれ。噂というモノは『ここだけの話』というものをキーワードに次々に伝染していくものだ」
「はぁ(何のことだろう)」
「はイ。メモメも」
話半ばな主人公に、きびきびとメモを取る逃隠。
「そして、裏切られたと感じる時に、人は鬼になってしまう」
「え?」
爆破の一言に、虚を突かれる主人公。
「いや、今のは何でもない……まぁいいだろう。そして愛する人の為にも、人は鬼になってしまうものだ」
「えっ、いきなり何を?」
突然のことに、動揺する主人公。
(回想)
『此処の支部長や隊長は?』
爆破が英語で聞く。
『こちらの支部、つまりN州の支部長、並びに隊長は近くのゾムビー発生現場を調査していマース。つまり、双方不在デース』
「⁉」
目を見開く爆破。
(調査⁉ ゾムビー事件の現場対応ならまだしも、調査程度でこの話を直接聞かないという選択肢を取っただと……舐められたものだな……)
数日後、
『こんばんは、hunter.N州支部の方だろうか?』
『そうだ! そちらで言うところの、副隊長を務めさせてもらっている者だ。何だあの石は⁉ アレの所為でこちらの支部の基地はゾムビーだらけだ! 隊員達も数十名やられた。どうしてくれるんだ‼』
(回想終了)
「フー(…………)」
溜息をつく爆破。
「一つ目のイロハは以上だ。二人共、何か質問はあるか?」
「ハイ! ハイハい」
元気よく逃隠が手を上げた。
「何だ?」
爆破が反応する。
「イロハって何なんだい?」
「……ググれ」
「が――ン」
爆破の心無い一言でショックを受ける逃隠。
「今のはサケルが悪い」
身体も手厳しい。
「そうだな、ツトム。ところであの女性との仲はどうなんだ?」
爆破が話をふる。
「え……まぁ、上手くやってます。そうだ、連絡しておこう」
急な展開に驚くが、淡々と返す主人公。尾坦子に何か連絡する様だ。
「急でゴメン、狩人の任務で、アメリカに行きます、と」
「ツトム」
「ハッ‼」
急に近づく爆破。
「馬鹿正直は馬鹿を見るぞ」
「えっ?」
「それと、カッコつけないと格好悪いんだ」
「は……ハイ。覚えておきます」
知らぬ間に離陸していた飛行機は、アメリカ・サンフランシスコへ飛ぶ