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一緒に遊ぼ


 狼のような姿をした少年の手には鍬が握られていた――アンドリューの思っていたとおり土を耕していたようだ。


「……ころさ、ないで」


 ようやく口から出た言葉はそれだった。

 少年は鍬に顎をのせて、アンドリューの方へむいた。ため息をついた。少年の口の隙間から鋭く尖った牙が見える。


「殺さねぇよ。逆になんで殺さなくちゃいけねぇんだよ。ほら、わかったならとっととおうちへ帰んな。俺のことは絶対に誰にも言うなよ。」――しっしと手であしらった。

「え、あ、えと。わかった」


 急に予想外のことを言われて思わず「わかった」と言った。だがアンドリューは家に帰ろうと思っていなかった。理由は簡単。この少年が気になるからだ。ただの好奇心だ。


「やっぱり嘘。帰らない」

落ち着いた声でアンドリューは言った。


 間


「はあぁ?」


 少年は頭をあげ、鍬が地面に倒れた。


「なんて言っても帰らないよ。君のこと知りたいし。教えてくれたら帰るよ、また来るけど」

「え?いやいや。なんでだよ」――さっきまで怯えてたくせに


 少年は頭(耳も)をかいた。悩んだ末、少年は落ちていた鍬を拾い奥の方へ歩いていった。

 アンドリューは自分が帰らないと言っただけだ。少年に対して帰るなとは言っていない。言っていたとしても少年は帰っていただろうが。


「ま、待ってよ!」

「……」


 少年は少し立ち止まり、また歩いていった。


「ーっ!もう!」

「へ?」


 アンドリューは少年の手を引っ張り止めた。勢いでカゴの中の実がぽろりと落ち、少年の鍬もごろんと地面に落ちた。


「遊ぶよ」

 アンドリューはそう言って落ちた実を拾った。


 アンドリューが実をすべて拾い終えるのを少年は待った。なんとなく、一人帰ってはいけないような気がした。

 地面の赤い水玉模様が消えていく。


「遊ぶって、何するんだ?」

「わかんない。後で考える。まずは自己紹介」


 アンドリューは近くに実の入ったカゴをおいて言った。


「僕はアンドリュー。アンドリュー・ハロルド・フォーサイス。気軽にアンディって呼んでね。歳は十三。よく畑やパブでお手伝いをしてるよ。よろしく!」


 さっきまでの怯えた声はどこへいったのやら、ニコッとアンドリューは歯を見せて笑った。


「……」

「次は君の番だよ」

「俺もするのか?」

「うん」

「しなければならないのか?」

「うん!」


 アンドリューは元気よくうなずいた。

 はぁ、とため息をつき、少年は決心した。ここはちゃっちゃと終わらせて今日のところは帰ってもらおうと。


「アルフレッド・オーウェン。フレッドでいい。歳は……十四。一人で暮らしている。これでいいか?」

「いいよー。じゃあ遊ぼっか、フレッド」


 どうやらアンドリューは帰らせてくれないらしい。アルフレッドはもうどこまででも付きあってやろうと思った。


「何するんだ?」


 アンドリューの方へむいた瞬間、アンドリューはギクッと反応した。目が泳いでいる。


「……遊ぼっかって言ったけど、何するかまだ考えれてない」

「それなら帰っていいか?」


 鍬を持ってアルフレッドは奥の方へむいた。ニヤッとした少し意地悪な顔をしていた。


「待って待って!マザーグースしよ、マザーグース!ロンドン橋にする?」

「マザーグース?ロンドン橋?なんだそれ?」


 アルフレッドは振り向いた。アンドリューは、なんとかアルフレッドの気をこちらに向けれたことにほっとしている。


「歌とか手とか使う遊び。でも、よくよく考えたら二人だしできないや」


 アンドリューはしょんぼりとした顔で言った。自分から遊びに誘ったのに何も思いつかないのだ。申し訳無い。


「そ、そこまでしょげなくてもいいだろう!何なら俺にその、ロンドン橋って言うのを教えろ!」


 アンドリューを気にして必死に慰めようとした。尻尾をぶんぶん振っていた。


「え。それでいいの?」

「それでいいんだよ」


 アルフレッドは素っ気なく言った。だが、アンドリューにとってはその言葉がとても嬉しかった。つい、顔がにんまりとなってしまった。アルフレッドは眉間にしたをよせた。


「おい、なんだよ。せっかく慰めてやったのに。早く教えろょ」

「うん、わかった」


アンドリューは花が咲いたようにぱっと笑った。


「ロンドン橋はね、六人以上で遊ぶ遊びなんだ。二人が手をつないで橋を作るの。他の人はその橋のしたを『ロンドン橋落ちた、落ちた、落ちた』って歌いながら渡るの。落ちた橋、二人の両手の中に入った人が橋の人と交代するの。橋の人達は二人同時に中に入れることもできるんだ」

「ふーん。で、今二人だから出来ないと」

「うん」アンドリューはまた、少しだけしょんぼりした。


 静かになる。太陽が真上に登っているから、ちょうど昼間だろう。村の方から賑やかな声がする。空からで鳥の声が聞こえる。

 アンドリューもアルフレッドも黙っている。

 空で舞っている鳥を見ていた。


「あっ!踊ろう、踊ろうよ!歌って踊ろう!」


 アンドリューは思いついたように言った。驚いたのか、空で舞っていた鳥はどこかへ行ってしまった。だが、アンドリューの表情は明るく戻っていた。アルフレッドと一緒に遊べる遊びだ。楽しいに違いない、アンドリューはそう思った。


「踊るって何を踊るんだ。俺はあまり曲は知らないし、踊りなんて踊ったこともない」

「ぼくかが教えるよ」ニコッとアンドリューはした。

「それは嫌だ。見様見真似でやる」


 それを聞いたアンドリューは不満に思うこともなく、嬉しそうに笑った。




「ターラタッタラン、ジャン」


 アンドリューは林の中アルフレッドの手をとり歌い踊っていた。アルフレッドは顔をしかめていたが、アンドリューに付き合っていた。意外にもアンドリューの踊りについていけていた。


「なぁ、これいつまで続けるんだ?」


 二人は踊ってからもう一時間はたった。一時間通して踊ったのだからもうへろへろなはずだ。アルフレッドは疲れたからもうやめたいんだろう。


「え?うーん、じゃあ今止める。飽きた」

「始めた奴がそれ言うか」

「うん、言うよ」


 素直でよろしい。だが、素直過ぎる。アルフレッドは呆れた。

 アンドリューが踊りを止めたのでアルフレッドはもう帰れると思い森の奥の方へ向いた。


「いっぱい遊んだだろ、俺はもう帰る。ここでのこと、村の奴らに話すなよ」


 そう言ってアルフレッドは歩きだした。


「えぇ!もう?まぁ、いっぱい遊んでくれたし。じゃあ、また来るよ。ばいばい、フレッド」


 アルフレッドは歩みを止め振り返った。少し渋って言った。


「あ、アンドリュー!……バイバイ」


 アルフレッドはまた、奥の方へ向き直り走って行った。

 アンドリューは嬉しかったのか、無言でじたばたしていた。


今日(投稿日)は夏至前夜です。確か妖精の世界との境界があやふやになったりするそう。

妖精、見たいなー。

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