教えてください、アサヒちゃん!
Twitterの以下ネタ診断を使った短編です。
シモネタが含まれるのでご注意ください!
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あきしんさんに全く縁の無い言葉上位5つ
1位【変態禁止】
2位【露出禁止】
3位【二次元嫁(婿)に嫌われる】
4位【結婚】
5位【性欲処理禁止】
午前の授業が終わりチャイムが鳴り終わると、ずんずんと巨体を揺らして歩く男子学生のセイヤは、平均的な女子学生ですら大きく見える小柄な少女アサヒが廊下に出ると同時に迫り壁へと追いやった。
「アサヒ! 教えてくれ!」
「や、やっくん……。今度は、な、なーに……?」
セイヤの巨影に覆われながらバッグを不安そうに抱えてセイヤを見上げるアサヒ。
セイヤはそのままの勢いで壁にドンと大きな音を立てて手をつき、真面目な顔で問いかけた。
「……オナニーってなんだ?」
「お、お、オナ、オナニー!?!?」
セイヤの思わぬ単語にアサヒは動揺して、顔を真っ赤にさせながら復唱するように叫んだ。
そう、叫んでしまったのだ。周りに異性がいるというのに。
アサヒがそれを気づく頃には、偶然周囲にいた男子学生はニヤついた顔を止められずにいた。
「う、あ、ち、違うから! お、オナニーなんていってないから! ……あぁっ! んもう、やっくん!!」
墓穴である。
弁明したくてあちらこちらに視線を移してはツーサイドアップでまとめた髪をブンブンと揺らしているが、その姿こそが周りの嗜虐心を煽ってしまうのをアサヒは知ることはない。
赤面させてセイヤを叱ろうとしても、当の本人であるセイヤは真剣な眼差しでアサヒを更に追い込んでいく。
「で、オナニーというのは何なんのだ? 教えてくれ、アサヒ」
「あ、あのね? いくら友達でもそういうのは女の子に聞いちゃいけないんだよ?」
「む、そうなのか? だが、ユウがそういうのはアサヒに聞けと言われたから聞いたのだが悪かったな……。すまない」
ブツンとアサヒの中で何かが切れる音がした。
そして、みるみるとアサヒの顔は羞恥による赤ではなく怒りの赤に染まっていき、元凶であるやつの名前を叫ぶ。
「ゆーーーーーーーーくん!!!!!!!!」
このときのアサヒのこれでもかという全力の叫びは学校中に響いたとか響かないとか、本人は至って真面目に叫んでいるのだが、その小さな身体では大した声量はでないのだ。
「あははは! もう、セイヤ、僕が言ったって言わないでよねー」
無邪気に笑うセイヤに吹き込んだ元凶であるユウは、アサヒと変わらぬ身長で見た目は子犬のにように愛らしく、いわゆるショタっ子という外見なのだが。
「もう、それで顔を赤くして慌ててちゃ、意味知ってますよ、って言ってるようなもんじゃないか、アサヒちゃん。なに? やっぱり家だとムラムラしてやっちゃうの? オ・ナ・ニー」
セリフからもわかる通り、外見に似合わないことをアサヒにしては反応を楽しんでいる。
「し、してないもん……! たまにしか……」
「えー? ボソボソとして聞こえづらかったなぁ。たまにだってー?」
「し、してないったらしてないもん! いい加減にしてよ!」
ケラケラと悪ガキのように笑うユウは、その顔をそのまま悪巧みに変貌させて疑問符を頭にいくつも浮かべているセイヤの耳にボソボソと耳打ちし、また何かを吹き込む。
「なに? アサヒはセイヨクショリキンシをしているだって? 何を禁止にするのだ? 性欲を処理するって具体的に何をするんだ? どうなんだアサヒ?」
「だから、私に聞かないでよっ!」
「何を怒っているんだ」
「こんなの誰だって怒るってば!」
セイヤの陰で様子を伺ってニシシとイタズラに成功したガキのように笑うユウは自分のイタズラでアサヒを困らせることを喜びに感じるどうしようもないやつである。
ユウの背後からぬっとセイヤとあまり変わらない大きな影が表れると、セイヤはアサヒの言葉を受け流すようにその影にも問いかけた。
「そういうものなのか? マヒル?」
「そういうものよ、セイヤ。ユウくん、またアサヒのことからかっているの?」
マヒルと呼ばれた影の正体は、長身の美女だった。
アサヒの幼女体系といってもおかしくない凹凸がほぼない貧相な身体に対して、マヒルはモデル顔負けの美貌の持ち主である。艶のあるキレイな長い黒髪、キリッとしたクールな印象を与える整った顔立ち、ブレザーの上からもわかる主張の激しい大きな胸、くびれからスカートを通って足先まで流れる綺麗で艶めかしいライン、思春期の男子学生には刺激が強すぎて毎晩のお供になるようなものだが。
「だって、アサヒちゃんが慌てる姿みてるのたのしーんだもーん」
「はぁー、もう、ユウくん……」
マヒルは深くため息をつき、アサヒは顔をひきつらせた。
アサヒはマヒルと幼馴染であり昔から遊んでいる仲なので、マヒルのことをよく知っているし理解もしている。だからこそ、この後のことが想像できてしまう。
「そういうのはね、私も呼びなさいよ!? もう、アサヒが顔を真赤にさせて慌てふためく姿を写真に収められなかったじゃない!」
マヒルはそんな美貌を徹底的に無駄にするアサヒラブで、ユウと同じセクハラの化身である。
ユウはそんな彼女をこう例えたという。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、されど言葉を紡げばラフレシア、と。
「バツとして、ユウ君はセイヤと一発ヤりなさい。それで許してあげる」
「は!? 嫌だよ、そんなの!」
そしてマヒルは腐女子でもある。密かにユウとセイヤの絡みを想像してはグフグフと興奮している。彼女は両刀使いなのだ。
「一発……? 野球対決でもするのか?」
「うーん、バットは使うけど、そっちのバットじゃないんだよね~」
「ユウ、それはどういうことだ?」
「セイヤは知らなくて良いの! 私はそのほうが好物!」
「ならアサヒちゃんに聞けばー?」
「だから、私に振らないでって!」
「えー? 振るって何を振るのかなー?」
「わ・だ・い!」
「あ! ほらほら、マヒルさん、シャッターチャンスですよ。顔真っ赤」
「あぁ~、アサヒたん、かわいいんじゃ~」
「もう、まーちゃんもゆっくんもやめてってば! 本当に怒るからね!」
ジュルリとヨダレを垂らしそうな間抜けな顔をさせたマヒルはパシャパシャとスマートフォンを使って羞恥と怒りが入り混じったアサヒを撮り続けた。
さすがのアサヒも羞恥を上塗りするように怒りの限界を迎えている。だが、マヒルとユウにとってはアサヒは愛玩動物のように可愛らしい存在であり、アサヒが怒ったところでそれもまた愛くるしいと心の中で悶えマヒルとユウのご褒美になるだけなのだった。
しかし、良きタイミングで空気を読まないセイヤが二人を制止させる。
「マヒルもユウもそろそろやめるんだ。アサヒが本当に怒るぞ?」
「えー? アサヒちゃん怒っても別にこわ……」
「まあまあ、ここはセイヤの顔に免じて私達は引こうよ、ユウくん」
と言いつつも含み笑いが抑えられないマヒルの企みを察したユウは、素直にマヒルの言うことを聞いて引き下がる。ユウはマヒルに何かあると確信していた。
「そうだねー。今回はやめておこうかな」
「うん? 珍しく素直だな、ユウ」
「まぁね」
いつもならここでもう少しアサヒを一通りからかって終わるのだが、今回は違って素直に引き下がった。セイヤは人を信じやすいので、マヒルが上手くユウを引き下がらせたと思っていたが、それは違っていた。
セイヤは最初の言葉の意味を聞くためにアサヒに声をかけようとしたが、ユウはそれを止めて言葉の意味を知らせた。セイヤはなるほどと納得をしていたが、アサヒがなんであんなに慌てているのかを理解することはなかった。
一旦は落ち着いて解散するが、アサヒはその後にユウとマヒルはヒソヒソと陰で話し合っているのを目撃して、また嫌な予感をひしひしと感じさせていた。
放課後。その悪夢はやってきた。
セイヤはまたもやアサヒに一つの問いを投げたのだった。もちろん、それを扇動したのはユウとマヒルである。
「アサヒ! 教えてくれ!!」
「ひゃぁっ……! やっくんか……。脅かさないでよ!」
アサヒが校門を通ろうとしたとき、突然セイヤが死角から現れた。
思わず小さな悲鳴を上げたアサヒ。だが、すぐにセイヤだと分かると安堵していつも通りに注意をする。そんなアサヒの安心も毛のほども気にせずに、セイヤはアサヒにあるお願いをした。
「すまないが、この後すぐに露出プレイとやらに付き合ってくれ!」
「ろ、露出プレイ!?」
セイヤの手には一眼レフカメラが握られていた。そのカメラに気づいたアサヒはセイヤの顔とカメラを交互に指差しして、段々と顔を赤らませていく。
「そうだ。しかも長時間露出プレイなんだ」
「長時間!? こんな寒い日に長時間なんて風邪引いちゃうよ!? ってそうじゃなくて、そういうのはダメ! 露出禁止!」
アサヒは自分が思う言葉のままに理解して、そして赤面させる。だが、それはセイヤが吹き込まれた露出プレイとは異なるものだった。
「なんで露出禁止なんだ? 何か関係あるのか?」
「か、関係あるよ! 長時間な上にカメラまで持ち出して、そんな変態プレイ、結婚もしてないのにできるわけないよ! 変態禁止!」
アサヒの中で広がるすれ違いの妄想。掻き立てられる血圧。そして赤らむ顔。
その発言を見逃さんとする二人の影が現れた。
「へぇー、アサヒちゃんって、結婚してるんだったらそういうのもOKなんだ? だいたーんだね」
「うへへ、羞恥に悶えるあさひたん可愛いんじゃ〜」
それはユウとマヒルである。
美人なのにだらしない顔で残念な姿を晒すマヒルは、アサヒのベストショットを撮るべくパシャパシャとスマートフォンで様々な角度から連射をしている。
ユウのほうは更にアサヒの揚げ足を取って追い打ちをかけようとしている。
そんなマヒルとユウに気づいたアサヒは、やられたという思いと同時に怒りを示すように頬を膨らませた。顔は赤いままで。
「もう、ゆーくんもまーちゃんも知らない! だいっきらい!」
とうとうアサヒの怒りのボルテージがマックスに到達して噴火した。アサヒはセイヤの手を握ると、ユウとマヒルに背を向けて歩き始めた。アサヒの歩くスピードは怒りを示すように早く、セイヤは引っ張られて無言のままアサヒについていくしかなかった。
ユウはというと、あーあやりすぎちゃったなぁと舌を小さく出して、あくまでもあざといままだったが、アサヒラブのマヒルはそうもいかなかった。
その顔は絶望に染まり、目から光を失っていた。
「あぁ、リアル二次元嫁に嫌われるーーーーーー!! もうおしまいだーーーー!」
と叫びながら、大げさに膝と手を地面につけてわめき始めた。
「あー、ボクは嬉しいんだけどさ。マヒルさん、スカートの中が……」
そんなユウの忠告はマヒルの耳に入らず、そして下校する男子生徒にその中を見られても気にもしなかった。
それほどショックなのだろうが、過去にこういったことは何度もあり、反省もしなければ同じことを繰り返している。本人としてはアサヒの赤面が見られないのなら学習するに値しないと考えている。この大げさな喚きは”ふり”であり、とりあえず反省しているように見せておけばアサヒたんは天使だから許してくれるとゲスな考えをしている。
そんな思惑を知らずにアサヒはいつもどおりに、ため息をついてから、
「もう、まーちゃん、泣かないでよ。大丈夫、大嫌いじゃないよ?」
と天使顔負けの笑顔をマヒルに向けて手を差し伸べると、
「あぁ、ここにアサヒたんという天使がいます……」
それを両手で掴み、柔らかな手を揉みしだいて楽しむ抜け目のないマヒルの心を射止めている。
「ところでアサヒ」
そんな雰囲気を気にしない自分が知りたいこと聞くセイヤがアサヒに声を掛けると、例の二人に吹き込まれた内容をアサヒに質問した。
「長時間露出プレイではテールライトが川のように流れて綺麗な写真が撮れると、マヒルとユウから教わったのだが、それはダメなことなのか? どうなんだ、アサヒ?」
アサヒは理解した。露出プレイというのはカメラの撮影手法のことで、自分が考えていた恥ずかしい内容ではないことを。そして、そのように誘導した二人のことも。
「……まーちゃん、ゆっくん……?」
自分の背後にいる二人に声を掛けるアサヒ。ギクリとするマヒルとユウ。
「やっぱり二人のせいなのね!? もういい加減にして!」
「あはは、ごめんごめん。アサヒちゃん可愛いからさー」
「やっぱり、恥ずかしがってるアサヒたんが一番天使だ!」
その場を離れようと逃げるユウとマヒル。
そして顔を羞恥に染めて二人を追いかけるアサヒ。
置いてけぼりにされて疑問もお願いも解消できないセイヤ。
とある一人を羞恥に染めていく三人の学校生活は始まったばかりである――。
この作品の不定期連載始めてみました
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