表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/2

後編



 こうして沢山の野菜や果物、調味料から始まって、粉類、卵、肉、缶詰などを購入する。

 見たことのあるキャベツやホウレン草、ニンジン玉ねぎなどなど、カレーの材料になりそうな見覚えのある野菜から始まり(名前やすこし形が違っていたりする)、胡椒やハーブの類などもそろっている。

 上手く調合すれば手作りカレーが作れるかもしれない。

 卵もいろいろな種類があり、鶏の卵くらいの大きさのものもたくさんあったが、それよりも大きい、俺の頭くらいの卵なども売っている。

 “バフリ鳥”の卵であるらしい。

 非常に異世界らしいと俺は思った。

 小麦粉のようなものも、麦のふすまやコーンを粉にしたようなものなどいろいろなものが販売されていた。

 俺が元の世界で見かけたことのある物の多くはあるようだ。

 そのあたりはよかったように思う。

 一通りそういったものを購入して、夜は肉にするか魚にするかといった話になる。

 それで話し合った結果、魚は昼に食べたので夜はなしになった。

 また、昆布のようなものなどを購入。

 他にも保存がききそうなものもそこそこ購入した。

 結構な量があるが、何もない所からの一番初めの食事はこのような形になるだろう。

 というわけでそれらを手分けして持ちながら俺はあの家に戻るが、

「あれ? あの女の人、本をベルトで装備している。もしやあれは……魔導書」

「正解です。魔法が使える方のね。勉強用ではなさそう……背負っているリュックに教材が少し出ているものね。ちなみに魔導書はそれを使って杖の代わりに魔法を使ったりできるわ。ちなみに杖派と魔導書派で分かれているの」

「両方使うわけにはいかないのか?」

「ルナは両方使えるわよ? 魔法の能力は天才的だから。……怖がりだけれどね」

 そこで俺はルナの方を見ると、頷く。

 どことなく恥ずかしそうだ。

 さすがは公爵令嬢、そういった事も出来るのかと俺は思った。

 だが魔導書を作るのであればそのうちそういった魔導書を使った魔法を使ってみたい気はする。

 本を開いたりしてそこに魔法陣が浮かび上がって……といった形になるのだろうか?

 などと思っているとそこで、家の前まで差し掛かると、見覚えのある人物が走ってくるのを見かけた。

「ああもう、あいつしつこいな……ん?」

「昼間ぶり」

「……どうして素で、私の特殊能力チートを見破るのですか」

 この前の猫耳少女ががっかりしたように猫耳をたれ下げながら、俺たちにそう言う。

 だが誰かに追われいるようだったけれどと俺が思っていると、

「そういえばあのお化け屋敷の住人になったのですか?」

「それはまあ」

「かくまっていただけませんか? 近くですし」

「それは構わないが、何に追われているんだ?」

「別に私が悪いことはしてないんですお願いします」

 そう猫耳少女は言うので、とりあえず家に招き入れたのだった。


 お客様にはお茶を出すべきだが、猫なので猫耳と考えるとミルクにすべきかと俺は混乱しながら思った。

 そこでルナが、

「お飲み物は何になさいますか?」

「ミルクで!」

 どうやら牛乳がいいらしい。

 というわけで、ミルクを出して、俺たちは果物の瓶詰ジュースを飲むことに。

 魔法で動く冷蔵庫のようなものに、俺やミネルヴァ、ルナで買ってきた冷蔵しないといけないものを入れつつ、そこで、

「ルナ、一人くらい増えてもかまわないか?」

「そうですね。はい」

「じゃあ、そこの猫耳少女、うちで食べていくか?」

 俺はそう声をかけると、猫耳少女が、

「いいのですか?」

「しばらく隠れていたいみたいだしそれに、俺もここ周辺の話が聞きたいからお願いしていいか?」

「いいですよ~。これで夕食代が浮く」

 猫耳少女は嬉しそうだ。ただ、俺としては、

「これからも猫耳少女と呼ぶのはあれだから偽名でいいから名前を教えてくれないか?」

「う~ん、そうですね。では、ユキでお願いします」

 そう猫耳少女ユキはそう答えたのだった。


 というわけで猫耳少女ユキと一緒に食事をすることに。

 夕食はルナがパスタとスープを作るそうだ。

 鶏肉の入った野菜のスープらしい。

 また、トマトのようなものを使ったパスタも作るそうだ。

 ちなみにミネルヴァや俺がお手伝いしようとしたが、

「一人で大丈夫です。それよりもお話が聞きたかったのでは?」

 と言われたのでお言葉に甘えることに。

 そもそもルナ一人で手際よく料理をしているのを見ると、手伝うと逆に邪魔になってしまうのではとも思うくらいに調理がはやい。

 といった理由から俺達は今、ユキの近くにこの周辺のガイドブックを持ってやってきていた。

「まずは俺達もお金を稼いだり何かをするために、どこに行こうか考えているんだ。良さそうな場所を知らないか?」

「……お金を稼ぐのは分かりましたが、何をしたいのかがわかりません」

「うん、俺も言っていてそう思った。でもまず初めに手軽に始められそうな副業というと、料理系か? ……この辺ではあまり見かけないものを作って料理してみるか? ……味噌を作るとたまりの方の醤油も作れるから、それを作ってみるか? でもそのあたりは冒険に行かななくてもできるな……」

「味噌ですか? そういえばこの辺の地域にはありませんね。お味噌汁また飲みたいな~」

「俺は豆腐とわかめのお味噌汁が飲みたい」

「いいすね。でもジャガイモや油揚げも美味しいですよね。他にも……あの、一つお聞きしていいですか?」

 そこで猫耳少女のユキが警戒したように、

「味噌汁は私の故郷の伝統食です。貴方は私の追手ですか?」

「え? 追われているのか? というか、この世界にもみそ汁はあるのか」

 実は和風? 日本風? の場所もあるらしい。

 俺が現代日本のスーパーで見かけた物と同じようなものもこちらでは手に入るようだったからもしやと俺は思っていたが……。

 やはりこの世界にも味噌や醤油のようなものがあるらしい。

 そういえば俺達の世界のゲームなどを参考にしていたと聞いたから、そういったものもあるのかもしれない。

 などと考えているとそこでミネルヴァが、

「ニーホン、出身なのね」

「ニーホンをご存じなのですか?」

「東の方にある大きい島国よね。ええ、よくと言っていいほどかは分からないけれど知っているわ」

「そうですか、味噌汁も知っているようですし貴方方は何者ですか?」

 警戒するユキを見つつ俺はミネルヴァに、

「え~と、ミネルヴァ。話してもいいか?」

「いいわよ? いざという時は記憶を消すから」

 さらっと記憶を消すと言い切った女神ミネルヴァ。

 ひょっとしてこの女神様は邪神か何かだったりするのかな~、という気がしないでもないがとりあえず、

「俺、異世界人なんだ。そっちで味噌汁があったから知っているんだ。なんでもこの世界に似ているらしい」

「……」

「ちなみにここにいるミネルヴァは、この世界の女神様なので、そう言った事はすべてご存知です」

「……」

 ユキは沈黙した。

 しばらく呆然としたように俺たちを見てから、

「もう少し工夫をしましょうよ」

「いや、でも本当のことだし?」

「まあいいです。その設定で……そもそも私の能力を見破れる人間はあちらでも限られていましたし、貴方を私は知らないので、何らかの偶然が働いたのでしょう。もしくは私のいた地域の人が近くにお店を出していたとか、そういった理由かもしれませんし……ああ、驚きました」

 そう、深々とユキはため息をついてから、それ以上追求しません、私に関係ないのならと言って俺にガイドブックを渡すように言う。

 それからページを幾つかめくってからそのうちの一つを開いて、

「どうせならこの山がおすすめです。今の時期いろいろ手に入りますからそれを売るだけでもお金になりますし、手に入ったもので、何を作るか決めたらいかがですか?」

 そう、ガイドブックのある山をユキは示したのだった。


 山の名前は、“モタト山”。

 ハイキング場所としても有名で森や湖、山頂付近では小さな山野草の花がある時期には楽しめるとかなんとか。

 薄尾紫がかった青い花が一面に咲く光景は圧巻であるらしい。

 それほど険しい山ではなく、冒険者だけではなく普通の町の人も遊びに行くような山であるらしい。

 そのために道はそこそこ整備されているらしく、魔物もこまめに駆除されているらしい。

 時期によっては長い列ができるようなそんな場所だそうだ。

 またその近くにある湖では様々な魚が釣れるので、釣り人に人気であるらしい。

 観光シーズンでは釣り人客や観光客でにぎわう場所でもあるそうだ。

 そんな場所でしかも森の恵みも自由にとれる、そんな場所であるらしい。

 ちなみに初心者冒険用とのことだが、それでも必要なものはそこそこその山からとってこれるそうだ。

 だから冒険者もよくこの山周辺を使っているらしい。

 といった物を見たり聞いたりしながら俺は、

「このガイドブックによると、“ノラネ鉱石”がおすすめらしい。あとはちょうど今の時期にとれる果実があるそうだが、なんでも“マモモの実”という酸味の強い果実で、ジャムやコンポートにいいのか」

「“マモモの実”の野生のものが取れるのですか? ぜひ欲しいです!」

 ルナが欲しいほしいと何度も言う。

 もしや好物なのだろうか?

 ではぜひ探してみようと俺は思う。

 それからガイドブックを見るも今の時期だとそれくらいのものしか見当たらない。

 あるとするなら山から湧き出る新鮮でおいしい水くらいだ。

 水筒か何かを明日、山に登る前に購入していくか、この屋敷にあるかを聞いておいてもいいかもしれない。

 もっとも、水くらいであればほんの少し空間をつなげて手に入れてしまっても、いいかもしれないが。

 そう俺は考えつつ、もう一度そのガイドブックを見て、

「食べ物系と鉱石か。これは加工をすると高く売れたり、いい武器になったりするのか?」

「“ノラネ鉱石”をご存じないのですか!?」

「え、えっと、俺たちの住んでいた所にはなかったので」

「……攻撃に使ったり包丁などにも使えるのですが、弱いとはいえ、“魔法付加属性”があるためにほんの少し魔法を剣に乗せられて、しかもそこそこ産出するので安価な方の武器に使われる金属です。冒険者なら大抵持っているようなものです」

「あ、えっと、俺、この町でギルドカードをさっきとってきたばかりの初心者なんだ」

 ユキが俺を見てから次にミネルヴァを見ると、ミネルヴァは微笑み、

「もちろん知っているわ。女神ですもの」

「……そうですか」

 ユキがそう呟いて、もう放っておこうと思ったのか、次に食事を作っているルナを見て、するとルナが、

「えっと、それは私も知りませんでした。普段使っていたのが、“モル金属”とか“レリ金属”とかだったので……」

「超高級魔法金属じゃないですか! どこの名家のお嬢様ですか!?」

「……聞かないでください」

 そう言われてしょんぼりとうつむいてしまったルナ。

 慌てたように、訳ありだと気付いたらしいユキがフォローしているが、そういえばルナは公爵令嬢だったので、そういったものを使っていたがために普通のよく知らないのかもしれない。

 そしてミネルヴァは女神なので全部知っているが、必要以上の説明や口出しはしない主義なのかもしれない。

 そもそもスローライフが目的なので、ある程度俺の自由にやらせるつもりなのかもしれない。

 そのあたりの情報も今後集めていかないとなと、と俺は思う。

 ネットがあれば調べるのは簡単そうだが、残念ながらこの世界にネットはなさそうだ。

 となると主な情報源は本だが、

「そういえばミネルヴァ。この町には図書館はあるのか?」

「あるわよ、一つだけ」

「じゃあそこで調べてもいいのか。どんなものが作れるのか、といったものがわかるかもしれないし」

「でも実際に作るとなると、難しいものはそれこそ弟子入りして~となるかも?」

「……」

「だからそこまで大変ではなくて、この世界にないような変わったものが、個人的には欲しいかしら」

「……難しい」

 そう俺はつぶやきミネルヴァに答えるとユキが、

「なんでしょう、この設定。いえ、女神と異世界人なんてこんなところにいるはずがありません。ええ……」

 ユキが頭を抱えていたがそこでルナが、

「できました~」

 そういって料理を運んできたのだった。


 早速ルナが作ったパスタはとても美味しいものだった。

 程よい酸味と甘みが口に広がる、そんなパスタだ。

 またスープも鶏肉の出汁がきいていて、程よい塩味が……しかも香草の香りもとてもいい。

 さらに野菜はトマトのような香りと色と味がするそれは、それこそお店が開けるくらいの味だ。

 今日買ってきた貝……アサリのようなものも入っている。

 鳥と貝のうまみが合わさって、濃厚なうまみを感じる。

「美味しい、これから毎日食べたいくらいだ」

 そう俺が言うとルナはいつにもまして嬉しそうに、

「ではこれから毎日作りますね。うん、明日のお弁当も作ってしまおう」

 ルナが機嫌よさげにそう言って、食べる。

 とても幸せそうだ。

 そしてこれからもしばらくは美味しい食事が食べられそうだと思う。

 しかもお弁当まで作ってくれるらしい。

 女の子のお手製弁当という、未知の体験ができるし、節約にもなる。

 ありがとうございます、とそう俺は思う。

 そして、ミネルヴァもこの料理が気に入ったらしい。

 また、今日の客人であるユキはというと。

「もぐもぐぱくぱく、ごくごく、もぐもぐ」

 夢中になって食べていた。

 それこそ話しかけるのを躊躇してしまうくらいに。

 山盛りのパスタが、次の瞬間に何センチも減っていく光景を俺は目撃してしまった。

 なのでユキは放っておくとして、

「この屋敷に何があるのかを見て、幽霊の執事のセバスチャンに、借りていいかを聞いてみたほうがいいかもしれない」

「今私を呼びましたか~」

 そこで床の下から白い幽霊が姿を現した。

 セバスチャンである。

 名前を呼ぶとやってくるのだろうか? と俺は思った。

 だがそれは言わずに武器等を貸してほしいというとそこで、

「ええ、かまいませんよ。大事に手入れをしていました武器がようやく日の目に……」

 と、感慨深げに言われて俺はそれ以上何も言えなかった。

 確かに今までの話を総合すると普通の会話ができたのは、俺たちくらいであるようだ。

 そう俺が思っているとそこでルナが、

「私はできれば杖があると嬉しいのですが。あ、魔導書でもいいです。どちらもかさばるので、簡易的な杖しか今回は持ってきていなくて」

「ええ、杖ですか。確か何種類もの、ルナ様にお似合いの可愛らしい杖があったはず」

「かわいい、ですか?」

 ルナが不思議そうに聞き返したが、それに答えたのはミネルヴァだった。

「この屋敷の主の子の趣味よ。ああ見えて可愛いものも大好きだから」

「そ、そうなんですか。ではお借りします」

 ルナそう戸惑ったように答える。

 けれど今の話を聞いていると結構いろいろな武器はありそうだが、

「俺、武器は触ったことがないです。木の棒とかぐらいで……」

「じゃあ、こん棒なんていいんじゃない? ジングウジは」

「……でもどうせなら剣の方が、何かを削ったりするにも使えそうですから、短剣かな」

「こん棒も意外に使えそうな気もするけれど、ジングウジがそう言うならそれでいいわね。そうなると私はどれにしようかな。弓なんていいかしら」

 そう女神さまが武器を語り始める。

 そうしているうちに楽しい食事は終了したのだった。


 ユキはまた食事に来たいですと言って去っていった。

 幽霊に関しては……俺達の様子を見ていて慣れてしまったらしい。

 ともあれ、また何かあったらユキに聞くとしよう、食事付きでと俺たちは決める。

 ここの事情にはまだ詳しくないのだから。

「そして武器庫には案内してもらったが、これはすごい」

 所狭しと並べられた武器の数々。

 銃やら何やらまできれいにそろえられて並べられている。

 それもすべて新品同様だ。

「これ、借りて行っていいんですか?」

「どうぞ。磨くだけで飾るだけというのも、宝の持ち腐れですからね」

 そう、ここの屋敷の幽霊のセバスチャンは俺に言ったのだった。


 こうして何となく見た目が良さそうで、軽そうな短剣を俺は手に入れた。

 銀色の細身の刀身に塚も同じような銀色。

 青い色の宝石? のようなものが埋め込まれているが、これは魔力でこの短剣自体を強化するものであるらしい。

 魔物から取れた魔石を加工しているそうだが、強い魔力を持つ人間も自力で魔石を作ったりは出来るそうだ。

 魔力というエネルギーの固形化がどうのこうの……とやけに幽霊執事のセバスチャンが語っていた。

 ルナは好みの杖を手に入れたらしい。

 銀色の杖で、上の方に赤い魔石がつけられている。

 周りには銀色の花の彫刻がいくつもついていて、いかにも女の子が持っていそうなあざといデザインだった。

 そして結局、ミネルヴァは、弓を選んだらしい。

 弓の本体にも彫刻やら青、赤、緑、黄色の小さな魔石がはめ込まれた強そう? な弓だった。

 ちなみにどうしてこの弓を選んだのかというと、

「エルフが使ってそうよね」

「そうですか……ところでこの世界にエルフはいるのですか?」

「いるわよ。ただ……」

「ただ?」

 そこで珍しくミネルヴァが言葉を濁す。

 何かあったのだろうか?

 そう俺は思っているとミネルヴァが、

「エルフって知能が高いけれどどちらかというとこう……“引きこもり”みたいになっちゃって」

「そうなのですか?」

「ええ、それで魔法研究などもしていたりと個々の世界では高度な文明を持っていたりするのだけれど……」

「けれど?」

 そこでミネルヴァが再び言葉を切る。

 そして俺から顔を背けて、

「……私の影響で“オタク”化しちゃって」

「……そうですか」

「しかも、ジングウジの世界の漫画やゲーム、アニメの魔法などを再現し始めるようになって」

「……そうですか」

「日用品もちょっと……多分違うんじゃないかなって方向で再現したりとか」

「……そうですか」

「最近は特撮系もいいよね、と言い出したりとか」

「……そうですか」

「……多分、その、ね。ジングウジのイメージするエルフとは多分、違うかもそれない。もっとこう、“身近”な感じではあるかしら」

 俺はそれ以上、聞くのをやめようと思った。

 美人のエルフさんに会える機会は確かに欲しいが、どんな風になっているのか怖くなったのでそれ以上は考えないことにした。

 でもコスプレをしているなら少しは見てみたい気がしたが。

 そんな話をしつつ、俺は武器を手に入れて、その日はぐっすりと朝まで眠ったのだった。


 鳥の声がして目をゆっくりと目を開けると、目の前で何人も? の幽霊が俺を見ていた。

 そういえば、幽霊は仲間が欲しくて寝ている人物をのぞき込むのだ……といった噂があったような、と俺が寝ぼけた頭で思い出していると、幽霊達が逃げて行った。

「いったい何をしたかったんだ」

 俺は呟きながら支度をして、一階の調理場へ。

 そこでミネルヴァとルナがすでに起きていたので挨拶をし、先ほどの話をすると、

「私たちの所にも来ましたよ。どうされたのでしょうか、と聞いたらこの家に来た新しい住人の顔を見に来たらしいです。なのでこれからよろしくお願いします、と言っておきました」

 と、目玉焼きを作りながらルナが答える。

 そしてミネルヴァはというと、

「神々しい気配がする、と言って私は見に来たわね。さすが幽霊達、私の魅力がわかるのね」

 とのことだった。

 新しく来た住人がどんな人か、興味本位で覗きに来ただけらしい。

 とはいえ確か、仲間にするために覗きに来るといった話があったような……というのを俺は思い出してから、なんでそんなホラーな話になったのかと思った。

 だが、怖い怖いと人間思っていると、ススキの穂でも幽霊に見えてくるのかもしれない。

 そんなことを考えながら俺は、目の前に出された目玉焼きやサラダ、パンを食べる。

 なかなか美味しい。

 そして食べ終わってからお弁当を作り、藁のようなもので編んだ籠にそれらを入れて、俺達は山に向かったのだった。


 山のふもとまでやってくるのにそれほど時間はかからなかった。

 町から見える山だったので、それに向かって道を歩けばすむのは良かったようだ。

 段々に商店街から住宅街、畑に周囲の風景が移り変わり、あのお屋敷が比較的町のはずれの方のあったこともあってか、舗装されていない土の道を歩くこと数十分。

 山の入口の所にまでやってきている。

 ここまでそこそこの人が歩いていると思ったが、どうやら今見ごろの花畑が山頂付近にあるらしい。

 ガイドブックには載っていなかった情報だった。

 この時期にも見ごろの花があるのかといった新しい情報を得つつ、ルナが妙にそわそわしているので空気の読める俺は、

「そのうち山頂の花も見に行こう」

「は、はい。私はお花とか見るのも好きなのですごく楽しみです。その時はお弁当を張り切って作ります」

 と、嬉しそうに語る。

 近いうちにそうやって俺達で遊びに来てもいいかもしれないなと俺は思った。

 そうして進んでいくと、更にいろいろな方向から人がやってくる。

 歩いている人たちの話を聞いていると、どうやら有名な観光場所にもなっているらしく……山のふもとの入り口付近には、幾つもの店が並んでいる。

 海の家を彷彿とさせるそこでは、肉などが串焼きにされて売られている。

 非常に食欲をそそる香りだが、朝食をきちんと食べてきた俺達に死角はない。

 ということで、早速山道を登り始めた俺達だが、

「ガイドブックによると、今見頃のその花も薬草になるのか」

「でもジングウジ、それ、そんなに高くは売れないし、取りに行くにも何時間もかかるわ。それにほかの薬草で代用もできるしね」

 ミネルヴァがそう解説してくれた。

 それを考えると、

「そこまで登って採るよりも、その鉱石などを探したほうが良さそうだな。ルナが好きな果実も探したいし」

「あ、でも私の、それは別に……」

 ルナが慌てたように言うけれど俺は、

「ほしいものは欲しいって言わないとだめだと思う。それに見つけられるかわからないから両方探そう」

「……はい」

 そう嬉しそうに笑うルナを見て、探そうと俺は決めた。

 ミネルヴァは楽しそうにしていてそれ以上何も言わないので、これで良いのだろう。

 そして山道を歩いていくと三本の分かれ道がある。

「えっと、この真ん中の道が一番長くてあまり人通りが多くないのか。……だとすると、“マモモの実”がそのほうが残っていやすいか? それに小さな洞窟に通じているようだから、そこだと“ノラネ鉱石”も探しやすいか」

 といった判断から真ん中の道を行くことに。

 ただ人があまり歩かないのには理由があると思いながら俺はその道を行く。

「歩きにくいな」

「そうですね」

 俺とルナがそう話しながら歩いていくとそこでルナが、

「あ! “マモモの実”の木が……でも、切り立った崖の上ってすごいですね。私、空を飛ぶ魔法が使えるからそれでとってきますね」

 と言い出した。

 けれどそこでミネルヴァが、

「ルナの魔法の出力はおかしいから、下手をすると木に激突して谷底に……」

「す、少しの距離なら大丈夫です!」

 ルナが顔を真っ赤にして、そうミネルヴァに言っているが……ルナのこの感じというか、少しならば大丈夫と言っているあたりが気になる。

 それにミネルヴァは女神さまでもあるわけで、つまり、多分、間違っていないのだろう。

 さらに付け加えるなら俺には特殊能力チートがある。

 それも空間支配という、能力だ。

 そしてこの“マモモの実”は天然ものである。つまり、

「こうすればいいんじゃないか? えっと、範囲はあの木の上の方にある、“マモモの実”で……どうだ。出力範囲は俺の目の前」

 口に出して、イメージを明確にする。

 すると目の前にころころと、俺の握りこぶし程度の果実が山盛りになって現れたのだった。


 大量の“マモモの実”が手に入った。

 目の前にあった大量の赤い果実の山。

 ためしに呼び出してみたが上手くいったと俺は思う。

 ただ、必要な分はどれくらいなのだろうと俺は思う。だから、

「これぐらいあればルナは満足かな? 必要があればもっと採ってくるけれど」

「いえ! 十分です。こんなに……早速カバンに入れて持って帰りましょう」

 嬉しそうにルナが言うのを聞きながら俺は、帰りにこれを回収しておけば持ち運びせずに……と考えた所で気づいた。

 持ち運びなんてする必要すらない。

特殊能力チートで家とつないでしまえば持ち運びせずに済むのか。区間をつないで家の方に送ってしまえばいいのか。でもちょうど周りに人というか冒険者の人が来たな。……この能力を見られるのはあまりよろしくないな。珍しい力だし」

 俺はそう呟いて何かいい方法がないかと考える。

 そしてたまたま持ってきたそこそこ大きい袋を思い出す。

 その袋の中でその転移の能力を発動させればいい。

 底の部分を今住んでいる“幽霊屋敷”につないでしまえばいいのだ。

 そうすれば、今現在外から見る範囲では、俺は袋の中に果実を入れているようにしか見えない。

 というわけで早速試すと、袋の中にあのお化け屋敷の調理場近くにある机が目に入る。

 あまり高い所から落としても潰れてしまいそうなので、もう少し高度を下げて……。

 調理場近くの机の十センチ程度上にまでつなげた空間を移動させる。そして、

「これくらいならいいだろう。後はこの袋に入れるだけで簡単に自宅に転送だ」

「! それは素晴らしいです!」

 ルナが嬉しそうにそう言ったのを聞きながら俺は、

「そうだろう。これから何か良さそうなものがあったら、こうやってとって自宅行きだ!」

 俺はそう言う。

 というかこうすれば途中途中で、売れそうなものなどを手に入れたら自宅送りできる。

 また一つ新しい特殊能力チートの使い方を見つけた。ただ、

「俺にはこの世界のものがどんな風に有用だか分からないんだよな。それが分かればそれを選び出して次々とここに入れて……後は売れば、スローライフ用の資金が簡単に集まるのに」

「それは普通だと思います。あ、“鑑定スキル”を持っていると、これはどんなものだ~、とか分ることはあるみたいですね」

 ルナが教えてくれるが、それを聞いて俺は、

「“鑑定スキル”か。それがあるとすると、その情報ってどこから来ているんだ? ミネルヴァ」

「うーん、私が触れられる“天球大図書館ゼロ・アーカイブ”のアクセス権限は普通の人にはアクセスする権限はないから、大抵、“鑑定スキル”用の魔導書があって、その本と現物との“解析”“検索”によってあらわされている形のはずよ」

「そうなのか……。となるとその“鑑定スキル”用の魔導書がないと……待てよ?」

 そこで俺は気づいた。

 俺の能力は“空間支配”である。

 その繋げたり支配した場所で、その場所を構成する“情報”を、例えば、ゲームの説明画面のように透明な色付きの窓用に表示することは可能だろうか?

 そして俺の手には、放り込む最後の一つの“マモモの実”がある。

 とりあえず目に見える範囲の、唯一の冒険者がすぐ横を通り過ぎようとしていたので俺は黙り、彼らが見えなくなるのを待つ。

 それから再びその果実を俺は見て、念じてみた。

ぴきゅん

 そんな高い音が出て、俺の目の前に薄い水色をした光の板が現れる。そこには、

「あ~、“マモモの実”の情報がここに載っているな。なるほどふむ」

「な、なんですかこれは」

 ルナの言葉に俺は、

「この物体のある空間を支配して、そこにある情報を俺たちが見える形で表示した、かな? ……一部、売ると幾らといった値段も書かれているから、これは相場の情報もアクセスして表示しているのか?」

「こ、こんなの、見たことがありません」

 驚いたようなルナの言葉。

 そしてミネルヴァが、

「なるほど、そういった使い方もあるのね……参考にさせてもらうわ~」

「あ、はい。どうぞ」

 そう女神様であるミネルヴァに俺は答えたのだった。


 どうやら俺の能力は“概念”に近いらしい。

 とりあえず、“鑑定スキル”……といってもこの世界のものと同じではなく、俺が使いやすいようになっているものが現れたという感じだ。

 まるでゲームか何かをしているかのように、目の前の物体に対しての情報が光の板となって現れている。

 しかもこの世界の物とはちょっと違っていて、女神様の領分に入る能力であるらしい。

 そもそも女神様がくれた特殊能力チートだからそういった影響があるのかもしれない。

 などと考えつつ俺は目の前に表示された情報に再度目を向ける。

 これが“空間支配”の特殊能力チートによって引き起こされたものであるらしいけれど、

「もしかして、どう使うか、ではなくて、何かをしたいからどうすればいいのか、といった思考過程で考えて、特殊能力チートを使った方がいいのか?」

「確かにそういった方法もあるわね。なるほど~。欲しい目的を最初に設定してしまうのね。」

 ミネルヴァがうなづいているが、実際に必要に応じた形で、特殊能力チートの使い方を変更していってもいいかもしれない。

 この“空間支配”という特殊能力チートはふわっとしていた能力で、おそらくは大抵の事が出来るけれど、それをどう扱えばいいのか分からなかった。

 だが例えばこれを……大豆に例えると、この大豆からどういった物を作ろうかと考えるよりは、豆乳が飲みたいから作るか、豆腐が作りたいから作るか、といったように欲しいものに合わせて加工する。

 それと同じように、何か目的を置いて、現在のこの俺が持っている特殊能力チートをどうしようかと考えるのは中々良さそうだ。

 この特殊能力チートの新しい使い方を考えた俺はさらに、

「“鑑定スキル”は便利だけれど、欲しいものが見つけられないのは面倒だ。そういえば、“探索”の魔法も使えたな。これと“鑑定スキル”を組み合わせて、欲しいものがどこにあるのかを表示できないか? できればスマホあたりに画像として出せたほうがいいか。何かの魔道具を使っているように見えるから、逆にこの世界に溶け込めるか?」

 俺が真剣に考えているとそこでルナが、

「なんだかすごい話になっているような気が……特殊能力チートだからできるとはいえ、そこまでの工程に幾つの“魔法”の過程が必要か……私も特殊能力チート無しで魔道具関係を駆使して再現してみようかな……ぶつぶつ」

 などと、ルナが真剣に考え始めたのはいいとして。

 早速、“ノラネ鉱石”があるのかどうか、特殊能力チートで再現できるのかに挑戦する。

 周りに人がいないが、魔法なり特殊能力チートなりの使い方は、この世界に馴染むように行動したほうがいいだろうと俺は考えた。

 そして念じて能力が使えるかどうかを試してみる。

 スマホの画面が小さくブレて、白く白濁したかと思うと、以前購入したガイドブックのような地図がそのスマホの画面に現れる。

 しかもここから何百メートルといった表示が……。

「森の中まで探しに行くのは大変そうだよな。見通しも悪いし」

「で、ですが、そういった場所の方が人目につかないので、良いものがあるのでは?」

 ルナが提案する。

 たしかにその“ノラネ鉱石”が取れるといわれている洞窟の周辺には、表示がかなり少ない。

 そのどこにありますよ表示を見ながら俺は、

「この鉱石の質や量、といったものも表示できるか? “鑑定スキル”の要領で……出たな」

 そこでいくつもの表示が数字で表れる。

 どうやら100%が最高値であるらしい。

 特定の体積当たり? 含有量等もここに表示されるようだ。

 一番近くのものだと、25%の品質であるそうだが……そこで。

「すごく高品質で重量のあるものが……ここから数百メートル森に入った所にあるな」

 そう俺は気づいたのだった。


 誰にも知られていない、大きな“ノラネ鉱石”が、ここから森に入った所であるようだ。

 見通しの悪い森の中だから見つからずに放置されていたのかもしれない。

 そちらの方向を見ると草木が生い茂っていて、好き好んでこんな場所に入っていくのは……この辺りをよく知っている地元の人といった程度だろう。

 それにこんな所で転がっているとは思われていないのかもしれない。

 ただここにあるらしいと知っているとはいえ、

「でもこの藪の中に入っていくのか。道なき道を行くのは何が出てくるか分からないし……どうするか」

 そう呟いて俺はルナとミネルヴァの様子を見ると、二人ともスカートである。

 そういえばこういった山登りなのになぜこの格好なのだろうか?

 ゲームなどで見慣れているとはいえ、服の面積が小さく肌が露出をすると怪我をしやすいはずだが。

 一応女の子の柔肌に傷がつくのはその……あまりよろしくないと思うし。

 そう考えた俺は、

「一度戻って長袖の服か何かをとってきた方が良いのでは?」

「ん? それは私やルナに言っているの?」

 ミネルヴァが不思議そうに聞いてくるので俺は頷いた。

 よくよく考えたら布も薄いような気がするし、木の枝なのに服が引っ掛かり、それこそびりびりと破れて……。

 一瞬何かを想像しかけた俺だが、そこでミネルヴァが、

「風の魔法で体を覆うから大丈夫よ。ルナはもちろん使えるわね」

「はい、淑女のたしなみですから」

 とルナが笑顔で答えるのを聞きながら俺は、そういえばここは剣と魔法なファンタジー世界だったと思い出す。

 そうだよなといまさらながら妙な疑問を持って、期待……ではなく、大丈夫かなと思ってしまったのは、杞憂で終わったようだ。

 などと考えているとそこでミネルヴァが、

「それでジングウジはその魔法をうまく使えるか分からないけれど、使ってあげましょうか?」

 と俺に言ってくる。

 確かに俺はまだこの世界初心者だ。

 だからここでミネルヴァにお願いしてしまってもいいかもしれない。でも、

「試しにやって見せてもらって、自分にできるか試したい。少し実でも魔法は使えるようになりたいから」

「いい心がけだわ。それなら早速魔法を見せるわね。……“風の抱擁”」

 ミネルヴァが魔法を使ったらしい。

 よく見るとミネルヴァの周囲がゆらゆらと揺れている。

 風の膜のようなものができているようだ。

 それを見てとりあえず俺も、

「……“風の抱擁”?」

 目の前にある“魔法”と同じものをと考えながら、魔力を使うよう考えてみる。

 カチッと一瞬、“何か”膨大な……絵のようなものが脳裏に浮かんだ気がしたが、すぐに俺の周りにもミネルヴァと同じものが現れる。

 肌にそよ風が吹き付けているように感じるが、二人を見ている屠蘇の様に見えるのでこの魔法はどうやらうまくいったらしい。

 そう思っているとそこでルナが、

「は、初めてなのに見ただけで成功……すごい」

「え、えっと?」

「異世界人はやはり凄いです」

 そうルナが言ったのだった。


 こうして俺たちは森の中に入っていく。

 薄暗い森の中だけれど、スマホの地図に高低差などの情報もつけて立体的に表せるようにし、位置情報なども確認しながら現在俺たちは歩いていた。

 それほど時間はかからない場所で、よくどんな場所にあるのかを見ると、どうやら森の中にある少し開けた場所にそれはあるようだった。

 森の中でも植物が生えにくい場所があるようだ。

 そう思いながら向かっていった俺達だけれど、ようやく明るい日差しが見えてきた……そう感じた、その時だった。

 俺は首をかしげる。

「? 誰かいるな」

 武装した……妙な格好の人物たちが数人。

 そしてそこには、縛られて捕まっている見覚えのある猫耳少女がいたのだった。


 武装した人物たちがいる。

 手に大きな剣のようなものを持ち、体は鎧に覆われている。

 その鎧は皮膚そのものを隠すかのような構造に俺は見えた。

 ここの山に登ろうとしている冒険者たちの服装は、もっと軽装だったので俺は違和感を感じる。

 ほかにも頭に角が生えたりしている、人型の人物達で、こういった人たちを俺は町で見かけていない。

 この世界には、現在彼らにつかまっている猫耳少女のように人間とは違う性質を持っている者たちがいるのかもしれない。

 でもこんな人が入り込まないような所にいるって事は、山賊か何かだろうか?

 結構人が多そうな町に近いこんな場所にいたら、盗賊行為なんてすれば森の中とはいえ討伐されてしまいそうだが……。

 そう俺が思ってみているとそこで、俺は気づいた。

 俺のすぐそばにいたルナとミネルヴァの様子がおかしい。

 やけに静かというか凍り付いているようだ。

 表情も妙だ。

 ルナは顔を真っ青にしていて、それに対してミネルヴァは表情がまるでない。

 どういうことだ?

 そう俺が思っているとルナが、

「な、なんでこんな所に魔族が」

「? 魔族って、あの魔王の部下みたいなものか?」

「そうです。魔族は全員角が生えているんです。だからあそこにいるのは魔族……初めて見ました」

「そうなのか。でも、なんであそこにユキが捕まっているんだ?」

 俺がそう問いかけるようにつぶやく。

 そこには、青い顔でロープでぐるぐる巻きにして座らせられている、捕まった猫耳少女が一人。

 どうしてこんな場所にいるのか。

 そう思ったところで気づいた。

 彼女の足元にあるあの石。

 スマホを確認するとその位置に、先端部分が土から出ていて、まだ大きいものが埋まっていそうに見える石がある。

 その埋まっているあの石が、おそらくはあれが、目的の“ノラネ鉱石”。

 なんてことだと思っているとそこでルナが、

「分かりませんが、そばの私たちの町を偵察に来た時に偶然遭遇したのかもしれません。もしくは私達のいる都市を滅ぼすための何か工作をするため、来たところを目撃したが……運悪く遭遇した、といった所でしょうか」

「こんな辺境にきて? 確か魔王はここから離れた場所にいるんじゃ? だから接触しないという話になっていたはず?」

 俺がこの前聞いたミネルヴァの話を思い出しながら呟く。

 それなのに何で魔族と遭遇という事にと俺が思っているとミネルヴァが、

「そうね。魔王から一番離れた場所ではあるけれど、その分防備が手薄いから……ここは油断もしているだろうし、一番攻撃はしやすいわね」

「……どうするんですか? 女神パワーで何とかあの不幸なユキを助けられませんか?」

「駄目だわ。魔王に関連するものには私は……女神である私は、極力、攻撃といった手助けはできない。ギリギリ出来るのは、間接的なお手伝いまで。武器を渡したりといったね。そうでないと力の均衡が崩れて……魔王側の力が巨大化してしまうのよね」

「そうですか……こんな魔王がいる状況でスローライフなんて連れてきたのはもしや……」

 そう俺が魔王との戦闘も考えていたのかと邪推すると、ミネルヴァが首を振り、

「魔王に関してはこの世界の勇者達にお任せするはずだったのよ。こちらはスローライフによって……魔王を倒した後の、新しい進歩を促すための準備を始める予定だったの。要は役割分担ね」

「そのような意味があったのですか。でもこの状況……俺はどうしたらいいんだ? 魔族ってどんなものか知らないし。どれくらい強いんだ? 全然わからない」

「そうね、あそこにいる彼は、ここ周辺の町一つ消し去れるだけの力を持っているわね。でも全力でやった場合だから、そこまでにはならないと思うわ。全力でやった後に倒されるのは彼らも嫌であるだろうから」

 ミネルヴァが俺にそう答えたのだった。


 町を消し去れる力があるらしい。

 ただ現状ではそこまでの攻撃はしないだろうというミネルヴァの予測だったが。

 とはいえ、破壊以外にもいくらか攻撃をされるだろうと考えるとあの魔族は、

「倒さないとまずい相手ですか?」

「そうね。町を破壊しに来るのは確実で、助けを呼ぶという手もあるけれど……その前にあのユキがどうなるか」

 ミネルヴァの言葉にあそこで捕まっているユキがこれからどうなるのかといった話が出る。

 下手に手出しをしてユキを人質に取られても困る。

 他にも考えられる可能性の中で別の危険がある。

 あそこにいるような魔族たちの性質を俺はよく知らないので、推測をミネルヴァに聞く。

「あの、見つかったら、目撃者は消せ、になるのですか?」

「場合によるわ。何かやろうしているのを目撃したら……」

「俺たちが街に戻って助けを呼ぶ間に殺されるかもしれないですね」

 そこまで言ってから俺は考える。

 現状では俺はまだ魔法初心者ではあるが、多少の攻撃の威力調節はできる。

 いざとなったら戦えばいい。ただ、

「女神パワーで俺たちの命の保証は、どこまでできますか?」

「死にそうになったら転移して治療、くらいまでなら多分出来るわ」

「なるほど……そして、もしユキをあそこからここ周辺に転移させたら、あの魔族たちはどんな行動をとるか」

 まずはユキの保護だが、あそこから連れてくるなら俺の特殊能力チートは最適だ。

 だがユキがいなくなったとすると、と俺が考えているというとルナが蒼い顔で、

「目撃者が町に着く前に倒せ、みたいな展開にはなりかねませんか」

「俺もそう思う。となるとユキをこちら側に連れてきて戦闘になるが……」

「……逃げると町の人たちが全滅、になるんですね。そして私たちの命の保証は……」

 そこでルナがミネルヴァの方を見る。

 ミネルヴァは片眼をつむり、

「そこだけは安心して。私が手を出しても大丈夫な範囲だわ」

「……どうする? ルナ、戦うか?」

 それにルナが蒼い顔をしながら頷く。

 と、そこで魔族側に動きがあった。

 ユキが何かを言われたらしく悲鳴を上げた。

 同時に魔族の一人が手を挙げて、その腕には氷のような剣のようなものが生まれ……嫌な予感がした俺は即座に念じた。と、

「ぎゃあああああああ……あれ? 皆さんどうしてここに?」

 悲鳴を上げていたユキが俺たちに気づいて不思議そうに周りを見回してから、見える範囲に魔族がいるのに気づいて再び凍り付く。

 ガタガタ震えるユキ。

 だが魔族たちは、ユキがいなくなり不思議そうな顔をしていたが、ユキのあげていた悲鳴の声が聞こえたからだろう。

 こちらの存在に気づかれてしまった。

 全員がまっすぐに俺達の方を見ていて……。

 そこで魔族の一人がこちらに手をかざして、

「! 危ない! “風の壁”」

 ルナが即座に何かをした。

 同時に突風が吹き荒れる。

 それこそ周りの木が一瞬にして倒れる程度のものだ。

 けれどルナの魔法で俺たちはどうにかなったらしい。

 さすがは公爵令嬢? ということなのだろうか?

 だが見通しのよくなった場所に立つ俺たちは、ここにいる魔族たちにも俺たちがよく見える、ということだ。

 必然的に魔族との戦闘は避けられないものらしい。

 スローライフ予定が突然こんな災難が降ってくるものだな、と思っているとそこで……魔族の一人が嗤った。

「おや、女神様がこんな場所で人間を連れて……どうされたのですか?」

 そう問いかけてきたのだった。


 魔族の一人は、ミネルヴァが誰だか分かっているらしい。

 それにミネルヴァがいつもとは違う、仮面の張り付いたような笑みで、

「あら、私の事をご存じですの?」

「ええ。我々の世界の女神ですからね。もっとも、われわれが世界を手に入れたなら新たな神を据え置く予定ですが」

「……あらあら」

「そう余裕でいられるのも今のうちですよ。今度こそは魔王様も復活し、我々の勝利を……」

「私の“勇者”がそんなに“弱い”と思っていると痛い目に合うわよ」

 饒舌に語り魔族に向かってミネルヴァがそう言い放った。

 それを聞いて魔族は機嫌を悪くしたらしい。

 次も負けるわよ、魔族側がと暗に言っているのだから、機嫌が悪くなるのは当然だろう。

 そう俺が思っていると魔族の視線が俺に向かった。

 八つ当たりする相手にでも選んだのだろうかと思っていると……その通りだった。

「その“勇者”とやらにすべてを任せて、そこにいるひ弱そうな人間の男と一緒とは……女神様も、ご盛んですな」

「……俺?」

 そう話を振られて俺は不思議な気持ちになった。

 よくよく考えると現在まで美少女数名とかかわりあう機会に恵まれたが、ラノベや漫画の展開では何か一つくらい“ラッキースケベ”のようなものがあっておかしくない気がする。

 “事情通オタク”であるからこそ気づいたこの不自然な展開。

 そう、俺に怒るべきハーレム展開が今の所……ない気がする。

 それってハーレム主人公と言えないのでは。

 と俺が思っているとそこでミネルヴァが、

「? 誰と?」

「そこにいる人間の、オス、ですね」

「あ~、うん、なるほど~。ジングウジ、どう思う?」

 不思議そうに聞き返してきたミネルヴァがその答えに頷き、なぜか俺に話を振ってきた。

 どうして俺に聞くのだろうと思っているとそこで魔族の一人が、

「女神の寵愛を受けているとはな」

 などと言われるが俺としては今一そういった事に思い当たらない。

 ここに連れてこられて、でもお金の設定を忘れていたのでお金を稼ぐ羽目になり、そのための材料をとりに来たらこの魔族と遭遇した。

 その間の出来事でも、女の子とのラッキースケベ的な展開は記憶の中にはない。

 おかしい、おかしいぞ、だがハーレムものとは“事情通オタク”からすれば一部のジャンルに過ぎないのではないのか?

 俺が真剣に悩もうかどうしようかと思っているとそこで、にたっ、とミネルヴァが嗤った。

 嫌な予感がする、そう俺が思っているとそこでミネルヴァが、

「ええそうよ。私はジングウジと一緒に寝起きをしているわ」

 などと言い出した。

 今の発言には、同じ家で、といった言葉が入るはず、と俺が思っていると今度は更にルナを指さし、

「この子も、ジングウジと同じところで寝起きをしたわよね」

「え、えっとそれは、その……間違っていないです」

 ルナが突然指名されて、恥ずかしそうに答えた。

 ……そこは恥ずかしがらなくてもいい所なのではと俺は思いはしたが、ルナは人見知りがあるのでそうなってしまったのだろう。

 更にミネルヴァはユキを連れてきて、

「最近この子もうちの家に出入りしているのよね。食事を提供する代わりにお話をしてもらうってジングウジが言っていたのよね」

「え、えっと、そういえばそんな話でしたが……」

 ユキも困惑したようにそう答えている。

 そういった話をつなげていくと、なんとなくだが、こう、俺がこう、女の子をこう……好き放題口説いているような優男というか、もっと大人な意味でのハーレム状態になっているような気がしないでもなく。

 もっとも誤解されたところで人間と魔族、それに違いがあるので関係はな……。

「……許さんぞ」

「……」

「お前のような、女を一人占めするような男は……人間の中でも、更に、“敵”だ!」

「「「そうだ!」」」

 などと言い出し、俺に向けて集中的に攻撃を開始しようとしたのだった。

 

 何故ここでこの俺が、彼女いない歴=年齢の俺が攻撃を受けそうになっているのか!

 ルナは慌てたような顔をして、ミネルヴァが楽しそうで、ユキは今後の状況の推移を見守ります、といった顔で俺を見ている。

 “魔族”らしい人たち全員が俺の事を、“親の仇”でも見るかのように憤怒の表情で見ており、俺は震えがはしる。

 身に覚えのない怒りをぶつけられてしまっている。

 俺は何も悪くないのに。

 どんな展開だというか、ミネルヴァが色々と酷い。

 あんな誤解を招く言い方をしなくてもいいのではないだろうか?

 一気に女性不信になりそうな事案ではあるが、さりとて女の子なんてもういらない、男の方がイイトオモウヨ……などといって男に走るつもりは毛頭ない。

 もうちょっとラノベ的な意味でヒロイン力が高い女の子の出現を望みながら俺は、今まさに攻撃を仕掛けようと……それも先ほどユキにしたものとは違うような、宙に巨大な炎の塊がいくつも浮かんでいる、それを俺に投げつけようとしているようだった。

 本気で抹殺しようとしているな、と俺は思うと同時に、水分の多い生の木であるとはいえ、俺の周りは燃えやすい。

 しかもここは沢山の木が生える森。

 一気に回りに燃え広がるかもしれない。

 そうなると受け止めるか消去するしかないが、あれだけの火力を完全に消せる程度の魔法……その魔法は、どこに……。

 俺が心の中で念じるとそこで、一瞬目の前で数字のようなものがあの魔族たちと魔法の周囲にぶれるようにしてちらつく。

 見間違えだろうかと思うも、それはすでに俺の視界内にない。

 奇妙な現象だが、彼らをまず倒すにはどうすれば、という俺の“意思”は変わらない。

 と、再び先ほど森の中に入るために風の魔法を使った時のような、何かの図柄を合わせたような幾何学的な“絵”が脳裏に映る。

 同時に俺の目の前で複数の小さな金色に輝く光の魔法陣が横一列に並ぶ。

 これから壁か何かを作るのだろうかと思っているとそこで、その小さな魔法陣から光が伸びて、そこから俺の眼前に大きな光の魔法陣が宙に浮かぶ。

 俺、こんなものをイメージしたか?

 自分の想像外の事象が起こって俺は混乱するけれどそこでルナが、

「“氷の闇灯”……」

「そうみたいね。……これは……」

 ルナの言葉にミネルヴァも、言葉を失ったかのように呟いているが、どうやらそういった名前の魔法であるらしい。

 けれどそれがどういった効果があるのか全く分からない。

 俺は何とかしたいと思ったがそれ以外に……。

 この発動しようとしている魔法は何だろう?

 何を俺はしようとしているのだろう?

 だが、よく理解できないのに魔法は勝手に発動しようとしているようだ。

 魔族の人たちもぎょっとしているように見えるが、そこで魔法陣がひときわ大きく輝いた。

 その魔法陣の中心部に青い光が集まり、数回輝く。

 だがすぐに甲高い音……ガラスが割れるように青い粒が周囲に広がり、敵に向かって飛んでいく。

 粉々に砕けた青い光は次々と巨大な鋭い氷となって、魔族隊の方に飛んで行った。

じゅっ

 火炎の魔法と氷の魔法がぶつかったときの音が聞こえる。

 爆発するような音がすると同時に、白い蒸気があたりに充満して見えなくなる。

 なのに現れた氷はどこに向かっていけばいのか分かっているがごとく飛んでいく。

 そしてパキンと何かが割れる音がして、小さなうめき声が聞こえた。

 それだけだけだった。

 水蒸気が晴れるとそこには誰もたっておらず、代わりに石のようなものがいくつか落ちている。

 なんだろうと思っていると、ミネルヴァがそちらのほうに歩いていきそれを拾い上げて、

「本来この世界に生まれるはずだったものが、“魔族化”してしまったものが、元に戻ったわ。ここから先は私の“女神”としての本来の仕事」

 そして何かを呟くとその石は、白い光に包まれて、空高く飛んで行ったのだった。


 こうして突然接触してしまった魔族を、いとも簡単に俺は倒してしまった。

 しかも攻撃魔法ごとの消滅である。

 流石は女神様がくれた特殊能力チート

 この威力はたぶんすごいのではないだろうか?

 ルナもなんだか技名を知っていたし、そもそもあの魔族自体を見てあのルナが怯えていた。

 そんなルナよりも強い相手に向かって俺は、強力な魔法で何とかしてしまったのだろう。

 たぶん。

 でも、この強力な魔法は一体どの程度のレベルなのだろうか?

 よく分からないうちに魔法が発動して、よく分からないうちに敵が倒されていた、といったような印象を俺は持っていた。

 だからこの魔法の凄さがいまいちわからない。

 気になるな、と俺が思っているとそこで、

「で、でもすごい魔法でしたよね。あの魔法をあんなあっさり使えるなんて」

 ルナがそう、引きつりながら言うが……その表現ではさっぱり分からないので俺としては、

「今の魔法はそんなすごいものなのか?」

「凄いです! 私だってあれが使えた時は、“バケモノ”扱いでしたよ!? 伝説級ですよ!?」

「え~と、ルナが使えるようなものなら、使える人間が二人以上はいることになるからそこまですごいものなのか?」

「それは……伝説級が二人いるわけで、えっと、え~えっと……」

 ルナが悩みだした。

 いまさら冗談でしたと言えない雰囲気になってしまったが、ミネルヴァが、

「でも力の制御と魔法の効果が“異常”だわ。まさかこんな事が出来るなんて」

「何が“異常”なのですか?」

 俺は聞いてみる。

 俺自身がこういうことをしたいな~、程度の認識で引き起こしてしまった事態だけに、女神様側、つまり異世界側から見るとどういった事をしたのかが分からない。

 だから聞いてみたのだが、そこでミネルヴァは深くため息をついて、

「あの魔法の威力や制御、魔力量などを換算すると……抵抗や損失が全てなくて、理想的な状態で最大限発現した場合の威力になるのよね」

「……俺たちの世界で言うと、電気の変換効率が100%のようなもの、ですか?」

「……ちょっと異界の知識にアクセスしたけれど、多分そんな感じかしらね」

「……凄くないですか?」

「すごいわよ。“空間支配”の特殊能力チートをこんな風に簡単に操れるなんて。やっぱり異世界人は連れてくると予想外の事をするわね。“変化”を取り入れるには本当にいいわ」

 ミネルヴァは、そう言って嬉しそうに頷いている。

 “変化”って、と俺が思っていると更にミネルヴァが、

「しかもあの“氷の闇灯”でしょう? その魔法は一度も私達はジングウジに見せていない。なのにジングウジはそれを使って見せた。その魔法の情報はどこから来たのかしら」

「? ミネルヴァの“設定”では? 何となく脳裏に図形のようなものが見えたりした記憶はあるけれど、俺が見たことがないものでしたし」

「……この世界の全ては“天球図書館ゼロ・アーカイブ”に収まっているの。それこそすべての情報が」

「? つまり?」

「そこから、必要な魔法を“検索”し“読み取り”、そして“構築”していたとしか思えないの。だって私はジングウジにそんな“設定”をしていないもの。だとしたら……“天球図書館ゼロ・アーカイブ”にジングウジが、そうと認識しない間に特殊能力チートで接続して、それを引き起こしたのかもしれない」

 と、ミネルヴァが真剣な表情で俺に言い出したのだった。


 どうやら俺は、“天球図書館ゼロ・アーカイブ”という世界の構成するそのものから? 魔法を引っ張り出したらしい。

 だがそれを考えると、

「この世界の魔法全てが、理論上俺は使えるといったことに?」

「そうなるわね。あとはやり方によっては欲しい魔法を瞬時に生成することも可能かもしれない」

 そうミネルヴァが答えた瞬間、ユキの猫耳がピクリと反応した。

 何か意味があるのだろうかと思ってみてみるも特に変化はない。

 そこでミネルヴァがさらに、

「これはすごい事だわ。だって私の想定しない魔法を生み出す可能性があるのですもの。これは予想外だわ」

「でも日常生活やそういうものもほぼ同じなので、そこまで危険なものは呼び出さないような」

「そうね。一応はそういった、人間性も考慮して読んだけれど……思いの外、この世界にジングウジの影響は強いのかしら」

「え、えっと、強いとどうなるのでしょう」

 そう俺が聞くとミネルヴァが少し考えて、にこりと笑った。

「いざとなったらジングウジに責任取ってもらうしいいわよ」

「え? せ、責任て」

「そうね、“肉体的”な意味で、かしら」

 楽しそうに笑うミネルヴァ。

 ルナは微妙に涙目になって震えているのは、やはり俺と同じものを想像しているのだろうか。

 だから、それを聞いて俺は血の気が引くような気持になって、

「それは、どこかの戦隊もののように改造されてしまうと?」

「うーん、もう少しエロい方の意味で考えてね」

「……冗談?」

「冗談です」

 どうやら冗談であったらしい。

 全く面白くなかったが。

 そう思っているとそこでユキが、

「本物の女神様なんて……それに、新しい魔法が……」

「あ、そういえば助けたんだった。だが、どうして魔族につかまったんだ?」

 とりあえず俺は聞いてみた。

 すると、ユキが遠い目をして、

「ちょっと食料の調達に森に入ったら偶然、魔族が何かを設置しているのを目撃しまして。慌てて逃げようとしたら捕まって、それで先ほどのように。……助けて頂きありがとうございました」

 ユキがそう言ってお辞儀をする。

 それに俺はたまたま遭遇したから、と答えようとして、

「……装置?」

「はい。でも今見た所、消えていますね。先ほどの攻撃で焼失したのではないでしょうか」

「……いつの間に」

 どうやら魔族と魔法だけではなく、何かをしようとしていた装置すらも消し飛ばしてしまったらしい。

 俺の想定を越える事態。

 とはいえ魔族も倒したことだし、

「とりあえず必要なものだけ取って家に帰ろう。なんだかいろいろありすぎて俺もつかれた」

「そういえばどうしてこちらに?」

 ユキが不思議そうに聞いてきたので、

「鉱石が採れるからここに来ただけだ。まさかこんな目に合うとは思わなかった」

「どうしてそれがあると分かったのですか?」

「魔法で」

 そう答えるとユキは沈黙する。

 でもこれは俺の特殊能力チートによるものなのでそこは微妙に違うかもしれない。

 そう俺が思っているとユキが俺の手を握り、

「しばらく、私も一緒に住まわせてください」

 などと言い出したのだった。


 ユキが俺の家に住まわせてくださいと言ってきた。

 だが、いくつかの点で気がかりな部分がある。つまり、

「ん~、部屋は余っているからいいが、“幽霊屋敷”だぞ? いいのか?」

「……」

 ユキが一瞬黙った。

 実際にこの世界の人間はあの屋敷にやってくると、数日たたずに悲鳴を上げて出ていくらしい。

 俺はそこまではならないし、ルナも一応は大丈夫なようだ。

 だがこのユキの場合はどうだろう? そう思って俺は聞くと、

「……大丈夫です。幽霊の一匹や二匹現れたなら成仏させてやります!」

「いや、させなくていい。結構親切だし」

「え?」

「え?」

 そこで会話は止まった。

 どうやら行きと俺との間には大きな認識の差があるらしい。

 そう俺が思ってお断りしようとするとユキが、

「分かりました。いないものとして扱う方法もありますし、幽霊に仲間だと思わせる方法だって、多分ありますし」

「そ、そうか。それで、住んでいる家の家賃はもったいなかったりしないか?」

「その点は大丈夫です。何しろ今は色々のお家に入り込んで家族のふりしていますから!」

「……わかった。空いているから家に住むといい」

「わーい。自分の部屋~」

 とよろこんでいるのを聞きながら俺は、なんという生活をしているんだと思った。

 そこでミネルヴァが俺の肩をたたく。

 そういえば勝手に決めてしまったと思いながら、

「その、ごめん、勝手に決めてしまった」

「別にいいわ。これでハーレム要員二人目が手に入ったわね!」

 どや顔でミネルヴァに言われ、ではハーレム要員の一人目は誰なのか? とは怖くて聞けなかった。

 だってルナがこっちをじーっと見ているから。

 女の子の前で『お前はハーレム要員だ!』などと言えるわけもないし、言っている主人公などこの方見た事がない。

 なのにこの女神ミネルヴァはなぜ聞いたと俺が思って、とりあえず仕返しとして、

「……ミネルヴァもハーレム要員に入るので三人です」

「面白いわ、それでいきましょう」

 などとミネルヴァは言い出した。

 さすが女神の余裕だと俺は思っているとそこでユキが、

「私もハーレム要員になるのですか?」

「ミネルヴァが冗談で言っているだけだから」

「でもまあ、寄生するのでハーレム要員といえば要員?」

「いえ、そういう扱いをするわけではないので真剣に考えないで欲しいです」

 そう俺は返して、異様な脱力感を覚えながら、もっとこう……上手く言えないけれど“モテる”形にしてほしいと思う。

 それから、目的の鉱石を彫り上げようと思ったがスコップをもって来なかったため、

「空間を繋ぐか。自宅と」

 といった話になり空間を繋いで、セバスチャンを呼ぶ。

 ユキが空間を繋いだことと幽霊に驚いて、折角なので新しい住人として紹介する。

 セバスチャンはすぐに快く頷いて、それからスコップを持ってきてくれた。

 また、机の上に突然果実が出てきて驚いたといった話を聞いたりしつつ、俺は借りたスコップで鉱石を掘り進める。そして、

「よし、結構大きな塊が……これは家の外に転送だな。安全性を確かめて、転送」

 幽霊などがいないのを確認し、俺は自分の特殊能力チートを使ったのだった。


 俺達が手に入れたかった鉱物の類は、一通り集まった。

 そして魔王関連の魔族との初戦闘を経験した俺たちは、そういった精神的な疲れもある。

 更に新しい仲間? が増えたため、俺たちはそのまま屋敷に帰ることにした。

「さて、まずは“空間支配チート”を使って、というかもう少し広くてもいいか」

 そう言って目の前の空間を人が越えやすいようにする。

 設定は屋敷の内側にある庭。

 靴の泥などを屋敷に持ってこない配慮だ。

 後はここを一歩入り込めば、

「屋敷に到着と。……行きは大変だったのに帰りは楽なのはゲームっぽいな。よし、全員戻ってこれたようだから空間を閉めるぞ」

 そう俺は返して、空間を閉じる。

 後はいつもの屋敷という穏やかな光景だ。

 力が抜けそうになりながら、とりあえず色々と今回は特殊能力チートの新たな使い方を知ることができた。

 それはいいとして、

「こうやって特殊能力チートを使い放題使っているが、魔力の量は大丈夫なのか? 使いすぎると俺、どうなるんだ?」

「この程度なら問題ないと思うけれど」

 ミネルヴァがそういうが、俺としては気になる。

 こうやってどんどん使って言って倒れたり最悪、“死”……。

 そう想像した俺は、何かいい方法はないかと真剣に考えた。

 考えて俺はそこで、空間の情報を読み取ることも俺の特殊能力チートがあるのを思い出した。

 それならば俺自身の能力を調べて、文字のような形でステータスを表示させることも可能ではないのか?

 そう、“ステータス・オープン”だ。

 早速だがやってみようと、自分の特殊能力チートを使ってみることにした。つまり、

「“ステータス・オープン”!」

 俺は使うよう特殊能力チートを意識しながら、そう叫ぶ。

 すると小さな低重音がして、目の前にブレるように緑色の光の板のようなものが現れる。

 そしてそこには俺の能力などが描かれていた。

 まさしく“ステータス・オープン”、など思いつつ見ていくと、

「魔力は……これを呼び出しているだけではそれほど減らないのか。もしかしたなら“効率よく”魔法が使われているのかもしれない。でもこれくらいなら問題ないな。回復量も考えるとさっき使ったあの魔法程度は、少なくとも……ゼロの桁数が多くていうのが面倒だが魔力に関しては、好きに使えそうだ」

 そう俺が確認していると、呆然としたようにルナやユキは見ている。

 試しにルナに俺は聞くと、

「? どうしたんだ?」

「いえ、能力がそこそこな精度で出されていて……運って何ですか? すごくいいですね」

「本当だ。……ルナも見てみようか?」

「! わ、私は……お願いします」

 ルナは真剣な表情で俺に聞いてきて、俺は見ることに。だが、

「! 凄い、実は私、運がいいのでは!」

「だから逃げてこれたとか?」

 そう俺が返すとルナは真剣に何か考え始めたがすぐに腑に落ちない、と小さく呟いている。

 また、そこでミネルヴァが、

「でもこのような使い方があるのね。能力表示……上手く使えば効率的にギルドの運営ができるわね」

 などと言っていたのだった。


 こうして能力表示が出来る事が発覚した。

 そしてこの力を使えば、魔力の増減なども分かる。

 しかも他の人の能力もこれで分かるようだ。

 これは逆に敵に使用して、敵の能力を丸裸にして攻撃、といった事にも使えるかもしれない。

 とはいえ、戦闘をしないに越したことはない……そう俺が思いつつ、ふと気づく。

 今回魔王の配下の敵を俺が倒してしまったが、配下が倒されただと? といったように何者かがさらに追加の敵でやってくることはありうるのでは。

 嫌な想像が俺の頭に浮かぶ。

 だが今回はたまたま、という事になればここにはもう敵は来ないかもしれない。

 さてどうだろう、と俺は考えつつもこの世界に詳しいミネルヴァに、

「今回敵を倒したが、〇〇が倒されただと? 新たな刺客を送り込んでやる、といった展開にはなるのでしょうか」

「あるかもしれないしならないかもしれないわ。私は女神だけれど、彼らの志向プロセス全てがわかるわけではないの。それにそこまで手出しできないから」

「そうですか……まずは今のうちに装備を整えたり、俺もこの世界の魔法について知っておいた方がいいのか? いざという時にどう対応すればいいのかもわかるから」

「それでもいいけれど、私はジングウジの自由な発想が欲しいわね」

「俺、ゲームや漫画くらいでしか魔法について知らないのですが」

「でもその魔法や何やらをその特殊能力チートでは上手くいけば発動できるし、欲しい効果の魔法だって何でも使えるでしょう?」

「戦闘時にそんなすぐ思いつけないですよ。……やはり魔法関係の本か何かを読むか教えてもらうかしよう」

 そう俺は決めて、ようやく屋敷の中に入る。

 手に入れた果実はさっそく、ルナが嬉しそうに加工をしていた。

 そして俺は今後の予定を立てつつ、

「当初の目的である、とりあえず何か材料を拾ってくるはクリアした。後は手に入れたこの鉱石をどうするか。……何ができるんだろう? 金属というと、武器の他に農具関係があるか? だがこれからの事を考えると武器の方が良いのか。これだとどんな武器が作れるんだろう」

 そう思って今回採ってきた金属の鉱石を見ていると、そこでユキが手を上げた。

「武器関係の魔道具に関してなら私が分かります。ぜひお手伝いさせてください」

「本当か!」

「はい、私達の一族は手先が器用ですからね~」

「そうなのか。でも武器……俺が使えるような武器関連はどんなものだろうな」

 そう呟いて考えてみるが、やはりよく分からない。

 実物を見たほうがいいのか、それともそういった本のようなものを見たほうがいいのか。

 そう考えているとそこでユキが、

「では図書館に行って資料なのを見てみるのはいかがですか? 高度で専門的なものは分かりませんが簡単な物や武器の種類といったものならば、図書館に本があるはずです。それを参考にしてどんなものを作りたいか決めてはいかがでしょうか」

「図書館の本か。もしかして初心者用の魔法関連の本もあるのか?」

「あります」

「だったら明日早速行ってみよう」

 そういった話になったのだった。


 明日この世界の図書館に行くことになった。

 何か適当に作って、というふあっとした設定はある程度その分野に従事しないと気づかないようなものにも思えると俺は思った。

 そういった話はいいとして、本日の夕食は、先程とってきた木の実のジャムとチーズを乗せた鳥のソテーだった。

 ルナが嬉しそうにジャムを作りつつ、鳥もスパイスなどをかけてこんがりと美味しく焼き、その上にはとろけるチーズが乗っている。

 他にも野菜のスープ、パンなどがある。

 本日のデザートはヨーグルトのようなものだった。

 それらを人数分つくり食べていると、ユキという新しい住人が気になるらしく幽霊たちが様子見をしていた。

 ユキは初めこそ怯えたような目でそれらを見ていたが、幽霊たちが変顔? をしたりして笑わせようとしているのを見て、警戒を解いているようだった。

 そしてルナの美味しい食事を食べてから俺たちは、ユキの部屋を決めることに。

 どの部屋がいいのかといった話をしてから、その部屋に案内する幽霊のセバスチャン。

 そしてその部屋では焦ったように幽霊たちがウェルカムフルーツらしきものや、部屋の掃除をしていた。

 それを見ながらユキは、

「……幽霊ってこういうものでしたっけ」

「こういうものよ。ただ、漂っているだけだと暇だから色々やっているの」

「……そうですか」

 ユキはミネルヴァの説明にそれ以上考えるのを止めたようだった。

 また、“幽霊の実”を食べて味がしないと眉を寄せたりしていたものの、他の果実は美味しかったらしく喜んで食べていた。

 そんなこんなで新たな住人を迎えたこの“幽霊屋敷”は新たな賑わいを手に入れて、俺達も戦闘の疲れがあった制がすぐに部屋で眠り、本日も静かに一夜が過ぎていったのだった。


 次の日の、ルナの朝食を食べた俺たちは図書館に行くことになったのだが。

「図書館に入るには入場料がかかります。この町の出身者ではない人達が主になりますが」

 といったユキの説明を聞いて、図書館の入館料とこれからの出費を考えると、

「また近いうちに資金が底をつきそうだ。何かいい方法はないか」

「採取する? それとも何かを作る?」

 ミネルヴァがそう問いかけてくるが、また採取をしに行ったら、

「あの魔王の候補に遭遇といったものがあると俺は嫌なのですが」

「あの時はたまたまよ。それにこの町になって警備の人間はいるわよ」

「その人たちにお任せしたいです、はい。俺はスローライフ予定なので」

 そう返しながらも金銭的なものはどうにかしないといけない。

 スローライフのためには先立つものも必要だ。

 そうなってくると、

「……原材料よりも加工したものの方が高く売れるはず。というかこの世界でもそうですか?」

「そうね。そのあたりは同じよ」

「……とりあえずはそこそこの値段で売れそうなものを作った方がいいか。そういったものに心当たりは、ユキやルナにはあるか?」

 そう聞いた所、公爵令嬢のルナには値段がよく分からず、結局ユキが、

「手に入れた鉱石の一部を使って、小型のナイフを作ってみてはいかがでしょうか? 戦闘に使ってもいいし料理に使ってもいい。そういった理由でそこそこ需要もあって売れるはず」

「ナイフか……まずはそれを作ることにしよう。どんなナイフがいいのかも図書館でまずは調べるか……入場料分の利益は出るか?」

「一本でも作れば、一人分は出来るかと。あの鉱石は人気のあるナイフに使われる金属なので、いい値段で売れます」

 そういった話をして図書館で調べてまずはナイフづくりをすることに。

 俺達の装備にもなる、といった事も考えた。

 また、俺の特殊能力チートでどの程度効率化できるだろうかと思いつつ、俺たちはさっそく、紙と鉛筆を用意して図書館に向かって言ったのだった。


 こうして俺達は図書館に向かうことに。

 “幽霊屋敷”からそれほど離れていなかった。

 徒歩十分以内にある場所とは思わなかったと俺は思う。

 しかも近くには公園のようなものもあって、心地よい。

 そのうちここに遊びに来てもいいかもしれない。

 その近くには映画館のようなものがあるらしい。

 そんな宣伝の看板を見ながら、俺達は進とレンガ造りの三階建ての大きな建物に辿り着く。

 そこが図書館であるらしい。

 中に入るとすぐそばにある入り口の白いカウンターで料金を払い俺たちは中に入る。

 ルナがやけにキラキラした目で回りを見ていたので、

「ルナは好きな本を見てきていいよ」

「で、でも……」

「できれば美味しい料理を一品追加で」

「! 料理本も見てきます」

 とのことで、ルナは探しに行った。

 こうして俺は、ミネルヴァとユキと一緒に作れそうな物を探すことに。

 だが一体この図書館のどこにその本はあるのだろうか?

 とりあえず案内板を参考に武器関連の本のある棚に向かう。

 そこには様々な武器関係の本があったが、

「折角だから装備も整えたいよな。今日はガイドブックも持ってきたし……この周辺に詳しいユキがいるから、話を聞いてそれから必要な素材を探しても良いか」

 と俺は考えていたのだがそこでユキが、

「ここ周辺にある素材だけで作ろうとするのはきついです。全ての素材が魔力から存在しているとはいえ、性質が違いますからね」

「そうなのか……原子……星……核融合……いやいや、まさか……エネルギー……それの応用で創造……いやまさか」

 そこで俺はある事に気づき、そして考えるのはやめた。

 何となくとてつもない事が出来てしまう気がしたがさすがにそれは……空間支配とはいえ、うん、と俺は心の中で乾いた笑い声を上げながらちらりとミネルヴァの方を見た。と、

「どうしたのかしら?」

「いえ、何でもないです」

「心を読んでいいかしら」

「……いえ、やめてください」

「でも今の発言の断片は気になるのよね。やっぱり異界の知識や概念は参考にしたいもの。駄目かしら」

「俺の妄想のような物なのでそちらは後でに」

「そう」

 それ以上ミネルヴァは俺に何も言わなかったので安堵する。

 そこまで行ってしまうとなんだか“怖い”気がするのだ。

 とりあえずは現状でこの世界にあるものを中心に使って作っていこうと決める。

 ただ今後の予定も考えてどんな武器があるといいのかのめどはつけておいた方がいいだろうといった話になった。

 それから俺たちはようやくナイフについて調べていくが……。

「ここに載っているのは合金が多いな」

 俺がそれらを見ながら呟く。

 昨日手に入れた鉱石は、“ノラネ鉱石”。

 これだけでは魔力属性がど~のこ~ので、微量に含まれる別の鉱石の影響ガー、しかし純度が高ければ―、などといった細かな説明が書いてある。

 一言でまとめると、“ノラネ鉱石”に入っている不純物を取り除くのが大変といった話や、加工や別の効果のために合金にするのが主流であるらしい。だが、

「“ノラネ鉱石”の品質が良いものであると強力な魔法を付加させる効果が発現する?」

「そうじゃの。だがこの純度の高い“ノラネ鉱石”をまず手に入れる事から始めないといけないから難しいのじゃ」

 そこで、一人の幼女がこちらに来て、俺の本を覗きながらそう言って次に、

「女神様、お久しぶりなのじゃ」

「あら、フィルロッテちゃん、お久しぶり」

 そう、ミネルヴァが幼女の名前を呼んだのだった。


 フィルロッテちゃんと目の前の幼女をミネルヴァが呼んだ。

 その名前に俺は聞き覚えがある。

 確か俺の住んでいる“幽霊屋敷”の持ち主だった気がする。

 そう思ってこの幼女を見る。

 よく二次元にいるような、ロリババアや合法ロリの名前でよく知られるタイプの幼女がそこにいた。

 髪の色は薄い水色で髪の両サイドを白いリボンでサイドテールにしている。

 瞳は真紅の赤い色。

 肌は白く、人形のようだ。

 美しすぎる幼女がフィルロッテであるらしい。

 そういえば彼女の事は女神であるミネルヴァも知っているようだった。

 そこでフィルロッテが、

「それで、昨日魔族らしきものがわらわのいる町を攻撃しようとしていたが、ちょうどゲームの区切りが良くて、久しぶりの運動がてら倒しに行こうと思ったら存在が消えていたから“便利な人間”が来たようだからしばらく遊んでいていいかなと思ったところじゃったが……だが、女神様はそういった干渉は出来ないのでは?」

「ええそうよ。私ではなくて……今回は異世界人のジングウジが頑張ってくれたわ」

「異世界人? この男か?」

「そうよ。彼はこれからハーレムマスターになるらしいわよ」

 さらっとミネルヴァがそんな事を言い出した。

 確かに俺はハーレム主人公なのはいいですねといったが、こういった紹介のされ方は嫌だ。

 さりげなく俺は、ミネルヴァに何か仕返しをされているのだろうかと疑惑を持つも、それを聞いたフィルロッテが、

「何じゃ、おぬしハーレムを作りたいのか」

「……それを聞いて口で答えさせるのはどういうプレイなのかが俺はすごく気になるのですが」

「? 妾もハーレム要員なのか?」

「いえ、さすがに合法ロリでも幼女はちょっと」

「大人になればいいのかえ?」

「いえ、ならなくていいです」

「そうなのか? 若い男を美女の体でからかうのは楽しいんじゃが」

 などと危険な発言を始めたこの幼女。

 そして危うく俺は弄ばれる所だったわけだがそこで、

「そういえば“幽霊屋敷”を女神様方が借りたらしい話を聞きましたが、ここを拠点に何をなさるおつもりですか?」

「特に。ジングウジにスローライフをしてもらおうと思って。次のこの世界の変化を模索する形かしら」

「なるほど……ですが折角、安くして逃げてく住人からお金を巻き上げるのに使っていたのに……あいつら、全員肝試し代わりにあの屋敷を使っていたからのぅ。まぁ、女神様方が住んでいれば、あそこの幽霊たちもやりがいがあっていいじゃろう」

 そうフィルロッテはそんな事を言う。

 それから俺の本を見て、俺にフィルロッテは、

「それで何をやっておるのじゃ?」

「スローライフをするために先立つものが必要でして」

「女神様に御呼ばれしたのにお金を持っていないのか?」

「設定を忘れてしまったそうで」

「それは大変じゃ。だからこういったものを作って売って、お金を稼ごうと」

「そうです」

「して、異世界人であるジングウジは何か特殊能力チートを持っていたのか?」

「はい……“空間支配チート”があります」

 この幼女になら話して大丈夫だろうと思い俺はそう答えたのだった。


 “空間支配チート”が俺の特殊能力チートですとお伝えすると幼女kフィルロッテが、

「“空間支配チート”じゃと? また妙な能力を……異世界人は“変態”か何かか?」

「え? いえ、どうしてそうなるのですか?」

 そこでフィルロッテに、“変態”と言われつつ冷たい目をされて俺は言われた。

 今俺はそんな変なことを言っただろうか?

 気になってミネルヴァやユキの様子を見てみるがそれは違うようだ。

 よかった、変なことを俺は言っていなかったと安堵しつつ俺は、

「おそらくは何か誤解をされているのではないかと。別にそんな“変態”ではないですよ? 俺は」

「そうなのか? じゃが“空間の支配”というのは、その近くにいる女子の空間を支配して、服を破いて裸にする能力じゃろ?」

 フィルロッテが不思議そうにそのようなことを言って、俺にそう言って来た。

 どうしてエロ方面の話になった、と俺が思っているとミネルヴァが、

「あれは風の能力を持つ異世界人の子が、一緒にいた女の子と喧嘩をして、お前の空間を支配してやる~、と言ってやりすぎちゃった時の話ね」

「そうじゃったか? でもそれと同じようなものでは?」

「違うわよ~、今回の子は凄くて、ジングウジ自身にも特殊能力チートとの親和性もいいからなのか“概念”にまで作用して、私の“天球図書館ゼロ・アーカイブ”にまで接続して魔法を引き出したわよ?」

「! そんな所まで“見た”じゃと!? それもここに来て一体どれくらいでじゃ?」

「一週間はかかっていないと思うわ」

「なんと……これだから異世界人は。“変態”以外の何物でもないな」

 などと再び別な意味で幼女に“変態”扱いされてしまった。

 これってどうなんだろうと俺が思っているとフィルロッテが、

「だがそんな特殊能力チートならば一度、妾も見てみたいな。……そこそこ売れるものを作るための情報を渡すから、その能力を見せてもらってもかまわないか?」

 などと言ってくる。

 俺の能力に興味があるらしいが、手っ取り早く稼げる物が作れるのならば、能力を見せても問題ないだろうとは思う。なので、

「はい。ただその代わり手っ取り早く売れるものや使い勝手のいい武器などの作り方を教えてください」

「それは構わぬが、まずはその“空間支配チート”とやらがどんなものか見ないことにはのぅ。何を作るにしても、何ができるか分からない」

「俺の方もよく分からないんですよね……どんなことができるか、か」

 そう呟いて俺は、何がやりたいかで考えて、使ってみようかと思う。

 そこで目の前にある本に目を移す。

 空間内のものを支配できるのなら、

「ここにある本の画像を、このインクで黒白コピーみたいなことはできないのか。情報を読み取って同じものを再現する?」

「いっそ本を複製したらどう?」

 ミネルヴァがそんな風に言ってくるが、そうなると空気やら何やらから紙を合成する事になりかねない。

 つまり核ゆ……それはちょっとまだ怖い気がするので俺は、インクの瓶とノートを取り出して、

「ここにいる本の情報を、ノートに“転写”」

 そう、特殊能力チートを使ってみたのだった。


 ノートにコピーできれば、いちいち書き写さなくても済むし、読み漏らしもなくなる。

 といった発想から挑戦してみたのだが……。

「……黒白コピーが出来たな。この調子で何枚かやっておいて後で吟味してもいいか。資料は沢山あるからな」

 俺はそう頷いているとそこで、ユキとフィルロッテは唖然とした表情で俺を見ていた。

 そしてすぐにフィルロッテは、

「なるほど、資料をこうやってコピーするのか。確かに情報がそのままそっくり手に入るが……これに似たものがおぬしの異世界にはあるのか?」

 そう聞かれたので俺は頷いて、

「図書館では大抵コピー機が設置されています。後は今は映像を映してそれを見たりしていますね」

「コピー……この発想はなかったな。活版印刷はあるが、まだまだこういったものは値段が高いし手で書き写すのが主であったが、なるほど。ふむ、魔法でそういった機会が作れないか後ほど研究しよう。これでまた新しい暇つぶしが出来たわ」

 などとフィルロッテは楽しそうに笑う。

 そこでルナが戻ってきた。

「今日は美味しそうな魚料理と揚げ物を見つけたので、早速作りたいですね~。……あれ、こちらの可愛らしいお客さんはどちら様ですか?」

「む、お主、公爵令嬢のルナではないか。どうしてここに?」

「! ど、どうして私の名前を……まさか新たなる刺客が……」

「刺客のう……そんな物をよこしている余裕があちらにあるのかのう」

 そこでフィルロッテが困ったように、そういう。

 それを聞いてルナが、

「どういうことですか?」

「ん? お主知らんのか? 今お主の故郷が魔王の……というか魔王の配下の人物たちに猛攻撃を受けているぞ」

「……え?」

「しかも王家……お主の寝取られた王子様方は、すでに逃走して、公爵家などが頑張っているらしい」

「……え?」

「まあ、そうはいうものの“勇者”の連中が頑張ってもいるようじゃから、何とかなるのでは?」

 そうフィルロッテに言われたルナは黙ってしまう。

 本当は今すぐ実家に戻りたいのか?

 だが事情があって逃げてきた半面戻れないのかもあるのかもしれない。

 青い顔のまま黙ってしまったルナに俺はどう声をかけるか迷っているとミネルヴァが、

「後で手助けするにしろしないにしろ、強力な能力を持つ杖はあった方がいいだろうから、探してきたらどうかしら」

「……はい、そうですね」

 ルナがミネルヴァに言われて頷き、杖の本がある棚を探しに行く。

 それを見ながらユキが、

「武器ですか。羨ましいです」

「? ユキの分も作るぞ。そういえばユキはどういう目的があって俺達の方に来たんだ?」

「……いえ、まだ話すわけには……」

「それは取りに行かないといけないものだったりするのか?」

「そうですね、ものではあります」

「そうか……どんなものなんだ?」

「“コカットの実”です」

 ユキが観念したように呟くと、そこでルナが戻ってきた。

 それから不思議そうにユキを見て、

「“コカットの実”ですか? うちの実家の温室にありましたが、それがどうかしたのですか?」

 そう聞いたのだった。


 “コカットの実”というものがユキは欲しいらしい。

 そして、その果実? はルナの実家にあるらしい。

 突然そんな話が始まってしまったのだが、俺はどうしようかお思っているとルナが、

「でも実家ですので。それに、今は魔王軍の部下が……」

「その話は分かりました!でもどうしてあなたの実家に!?」

「私の兄が植物を育てる系の魔法が得意でして。それで貴重な植物を温室に育てていたらしく、その“コカットの実”というものを以前食べたことがあります。結構さっぱりとしたお味でしたね」

「その味はどうでもいいです。 “コカットの実”は、我々の“耳なし病”という不治の病に効果があるとされている果実で……私はそれを手に入れるべく旅をしてここまで来ていたのに! しかもここの山の近くにはその“コカットの実”が自生しているといううわさを聞いてここに来て探していたのに……」

「そ、そうだったのですか」

 ルナは困ったようにそう答える。

 現状では、故郷に戻れないが、しかもそこでは魔王の配下との戦いが始まっている。

 そんな状況の場所に行くには難しいだろう。

 そこでルナが、

「ですが魔王軍が来たのならその温室もどうなっていることか」

「それは……」

「ですが武器などを用意して自分の身を守れるようにして……ジングウジにそちらに連れて行ってもらうのはどうでしょうか」

 と、ルナが俺に話を振る。

 確かにルナの言うように武器などを装備して、空間を繋げて魔王軍を倒す手伝いをしてもいいが……と俺が思っているとそこでフィルロッテが手を上げた。

 どうしたのだろうと思っていると、

「ジングウジに連れて行ってもらうというのは、どういう意味じゃ? 聞いている範囲ではすぐにでも遠方に移動できる手段があるように聞こえるが」

 そう聞かれたので俺は、

「空間と空間をつなげて、別の場所に移動もできます。……“空間支配チート”なので」

「……」

 無言でフィルロッテが、変なものを見るように俺の方を見た。

 だがそういった事が出来るのはまぎれもない事実なのだ。

 そう俺が思っているとフィルロッテは深々とため息をついて、

「異世界人の考えはようわからん。じゃが、とりあえずは先立つものや武器をそろえる……そうせねば手助けするにしても取りに行くにしても、現在は危険な場所じゃ。それらがあるに越したことはないじゃろう。……それでお手伝いをする代わりに妾の武器も見繕ってくれぬか? お主の特殊能力チートの類がすごすぎて、今を逃すと素晴らしい武器などを手に入れ損ねるような気がするのじゃ」

 などと俺はフィルロッテに言われてしまう。

 そしてそれから先立つもののための費用をねん出するための道具として良さそうなナイフなどを探したり、後は武器関連を探すことに。ただ、

「俺、武器なんて使った事がないのですが」

 それにミネルヴァが肩をすくめて、

特殊能力チートの関係でジングウジにはそんなものが必要ないものね。本来であれば多重魔法とも呼ばれるレベルの高度な“魔導書”と同じようなものを一瞬で臨んだ時に再現もできるから」

「? そうなのですか? なんだか凄そうですね」

「そうよ、私の選んだ異世界人はとっても優秀で凄いのよ?」

 と、ミネルヴァが得意げに俺に言ったのだった。


 そんなこんなで俺達は、自宅である“幽霊屋敷”に戻ってくることになった。

 また、この屋敷の主であるフィルロッテもやってくると、幽霊たちがざわめきあって挨拶にきたりと大変なことになった。

 一応お客様が来たので、何かお菓子を用意しようかといった話になり、

「では、クリームとジャムを添えたワッフルはいかがでしょう?」

 ルナがそう言うと、ミネルヴァもユキも嬉しそうでフィルロッテも、

「手作りのお菓子は久しぶりじゃな。ふむ、ここに来たかいがあった」

 などと話し始めた。

 また、それからミネルヴァがフィルロッテに最近異世界から手に入れたゲームの話を聞いて盛り上がっていた。

 俺はというと、コピーした武器の類を読んで、ついでに鉱石からの金属の取り出し方などを見ていたのだが……。

「俺の“空間支配チート”で何とかならないか……確か熱を加えるとその温度で不純物となる金属が出てきたり、後は溶液に溶かしておいて電気を通して金属を取り出したりというかメッキをしたり、酸化還元が……だがそのあたりを魔法というふわっとした能力でどうこうできないか」

 俺はその鉱石からの魔法金属の取り出し方や性質などを見ていてそう思った。

 俺たちの世界と似たようなもので、その金属の取り出し方や魔法的性質を減らさないようにするためには、といった細かい方法などまで書いてあるが……これを俺の特殊能力チートだけでどうにかなるのだろうかと思う。

 思いはしたが、考えていてもどうにもなりそうにならなかったので、まずはやってみることにした。

 初めてするのはお試しだから失敗してもいいだろうと思い俺は、周りを見る。

 ルナのお手伝いをユキはしていて、ミネルヴァはフィルロッテと俺たちの世界のゲームの話に熱中している。

 誰かに手伝ってもらうほどのものでもないだろうと俺は思い、この前拾ってきた鉱石のうち、小さいものを他の部屋に行ってとってくる。

 その鉱物の置いてある部屋で魔法を使ってもよかったが、一人で黙々とやるのも何となく嫌だったのと、何かあった時に周りに人がいた方が対応が早いだろうと俺は思ったのだ。

 というわけで俺はみんなのいる調理場のある部屋に向かう。

 相変わらず全員がおのおの、自分たちの会話を楽しんでいるようだった。

 そこで俺は気づいてしまう。

 屋敷の幽霊たち(モブ)が憐憫に満ちたまなざしで俺の方を見ているのを。

 べ、別に一人なのは特にさみしくないのだと返そうと思っていると、もう何も言うな、分かっているからとでもいうがごとく幽霊たち(モブ)がすうっとその場から立ち去っていく。

 俺は幽霊に気を使われた気がした。

 それが俺の屈辱感をあおる。

 真の事情通オタクとは、孤独なものなのだ……などと俺は自分を慰めながら、早速その鉱石に向かって自身の特殊能力チートを試してみることに。

 まずはふわっとしたような設定で、

「主成分とその他の二つに分かれてください……というイメージで良いのか?」

 そう口に出してみながら目の前の鉱物を見ているとそこで、石からどろりと銀色の金属のような液体が溶け出した。

 水銀のようなプルプルとしたそれは、鉱石の所からずるずると流れ出したかと思うと立方体の形に変形した。

 つやつやと白銀に輝くそれを見ながら俺は、一応は主成分と違うものに別れたのか? と考える。

 となるとこの金属は不純物の入っていない金属になり、これを加工してみるとどうなるのだろうかと俺が思っているとそこで、俺は気づいた。

 フィルロッテが目を丸くしたようにして、俺を見ている。

 正確には俺の作り上げた金属を、だが。

 何か俺は間違えただろうか? そう俺が思っているとそこでフィルロッテが、

「……今、お主、何をした?」

「え~と、特殊能力チートを使ったのですが、何か間違っていたでしょうか?」

 そう俺は返したのだった。


 合法魔法少女? フィルロッテが驚いたようにその金属を見ている。

 俺はまた何かをしてしまったのだろうか?

 流石だ、俺!

 と思いつつ、俺は何がそんなに凄いんだろうなと思って黙っていると、

「この金属は、不純物の全くないレベルに生成された、“ノラネ鉱”……なんて素晴らしい輝き……この魔法付加属性と……ぐぬぬ」

 呻いているのを聞きながら俺はとりあえず、

「これからこの金属で、ナイフを作ろうと思いますが、まずは果物ナイフからかな……」

「……待て、この金属でそのまま果物ナイフを?」

「ええそうですが、何か問題が?」

「……魔力伝導性がよく果物をむけるナイフ……実は意外に調理に適したり……いや、こんな素晴らしい純度のもの、本体に塗布するように表面に軽く覆うだけでも魔力伝導性がよくなり……だがそうなるとそれこそ棒のようなものでも……いや、それに耐えられる柄のようなものが……」

 などとひとしきりに真剣に考えているらしい言葉がこぼれている。

 だが俺としてはどうなんだろうと思いつつも、とりあえず小さな果物用のナイフを作ってみることにした。

 なんでも丁度、ワッフルが焼きあがる間、生の果物でも切ろうかとルナが話していたからだ。

 では早速短めの果物ナイフを。

 そう俺が念じて金属からそのナイフが作れるかをやってみる。

 それはすぐに俺の目の前に姿を現した。

 四角い金属がトロリと溶けて、それがそのままナイフが現れる。

 これで完成だがどうだろうと思いつつ俺は、

「ルナ、試しに果物を剥く用のナイフを作ったから使ってみてくれないか?」

「え? そうですか、分かりました。わぁ、銀色で綺麗ですね」

 そう言って嬉しそうにルナはナイフを持って行った。

 まずは洗剤できれいに洗う。

 そして、果物にそのナイフが触れた瞬間、それは起こった。

プチン

 何かが破裂するかのような音がして気づくと果物の皮が、割れた風船のように果物のそばで垂れている。

「え?」

「わ、分かりません。刃を向けたらこんな風に……」

 焦ったようなルナだがそこであることを思いつく。つまり、

「皮を剥こうと思ってナイフを淹れたらその時に魔力が流れてそう言った事象が起きた、とか?」

「まさか。……では次は賽の目切りになって凍ると思って切ってみます」

 ルナがそう言ってナイフを入れると、その果実は賽の目切りになって、凍ってしまう。

 ルナは凍り付いた。

 そして俺はそれを見ながら、

「これ、売るには危険だよな」

「そ、そうですね」

「普通に武器として、もう少し威力を落として使える形にした方がいいか」

 そう俺が呟くとそこでフィルロッテが、

「何という恐ろしい金属……じゃがこれなら、普通の剣などの表面に塗布する程度に付けても……いや、それで中身が耐えられるのか?」

「そうなるとこの金属だけで剣やら何やらを作った方がいいと」

 俺がそう返すとフィルロッテが呻いて、

「そうなってくるが、ここまで性能がいいと逆に販売は出来ないから資金が……」

「……とりあえず俺達の分の武器は、そこそこ作れそうなのでまずは販売などは考えずに、武器を作ろうと思います」

「……そうじゃな」

 とフィルロッテと話した所でルナが、

「果物を凍らせたのでシャーベットにして添えてみました!」

 そう笑顔で、ワッフルを取り出したのだった。


 ここで、あの作り出した金属の凄さに関しての検討会は、ルナの作り出したワッフルによって消え失せた。

 二枚ほど焼かれた網目状のワッフルという名のケーキに、クリームとジャム、そしてアイスが添えられている。

 売り物としてそん色ないと思えるようなきれいな飾りつけだった。

 いかにも女の子が好きそうで、一瞬手出しするのをためらわれたものの、

「お、美味しい。特にこのシャーベットをクリームと一緒に添えて食べると……」

 ユキがそう言って猫耳をプルプルさせながら食べていると、ミネルヴァも、

「こんな美味しいものがあるなんて。女神様としては、ルナちゃんを連れてこれたのは正解だわ。……ルナちゃんのコピー人間を何人か作ろうかしら」

「や、やめでくださいお願いします!」

 ルナがミネルヴァの真剣さを感じ取ったらしく必死で止めている。

 何となくクローンというと、自分が本物になるために相手を抹殺したりしないだろうかという不安が俺の中に浮かぶも、すぐにルナとクローン同士で愚痴大会をしてお互い慰めあったりしていそうだなと気づいた。

 どの道、ルナが必至で止めているので特に何もなさそうだ。

 そこでフィルロッテが手を上げる。

「お変わりが欲しいのじゃ」

「! もう食べてしまったのですか! ……じゃあ、また他作りますね。幾つ欲しいですか?」

「そうじゃの、4つほどか」

「分かりました、他の方はどうしますか?」

 ルナの問いかけにそこでミネルヴァがきりっとした顔になり、

「きょう、どこかに行くような運動をする機会はあるかしら」

「今日は武器を作る予定なので無理になるのではないかと」

「そう、残念だわ。私はなしで」

 そう、残念そうにミネルヴァが返す。

 ユキも食べるのを止めてしまったようだ。

 そして俺は美味しいので、追加で二枚ほど作ってもらったのだった。


 そんなこんなでワッフルを楽しんだ俺達はさっそく、武器を作ることにしたが……。

「この金属の強度はどれくらいなんだろうな。そしてその魔法を使った時の影響を柄の所には持ってこないようにはしたいから……魔力の影響のない金属で持ち手の部分は作りたいのですが、何かいい方法はないでしょうが、フィルロッテ」

「ふむ、確かにそうじゃの。……この純金属の強度は……残念ながら、これまでに存在していないので、これそのものの強度は分からないが、この“ノラネ鉱”は不純物が少なくなるにつれて比較的固くなる傾向にある金属じゃ」

「となるとそこそこ細い杖や剣にしても、壊れにくいと」

「そうじゃな。後は一部だけをこの金属を使って他は魔力の影響を受けにくく熱などを遮断できる素材……しかし指令用の最初の魔力は通したいから、その場合ははじめにこの“ノラネ鉱”に触れて指令を出せば……否、それでは魔力の供給と終わりがいつになるのかの調節が……」

 どうやら電気を通したり切り替えができるスイッチのようなものが必要らしい。

 そして、その魔力などを通さないような、電気を通さない絶縁体のようなものが必要であるらしい。

 そうなってくると……とそこで俺は、静電気を思い出した。

 静電気は電圧が高いものの極端に電流が少ないため、あの程度で済んでいる。だから、

「その、魔力を通さない金属の持ち手に、一つだけ限りなく細い線のような、直接指令を出せるような部分をつけてみてはどうでしょう。極端に細ければ、本体の方の影響は俺達が持っている部分にはほとんど影響しない」

 そう提案したのだった。


 要するにその引き起こされた効果が極端にこちらに少なければ問題ない。

 そう考えて告げるとフィルロッテが、

「なるほど。だが、そんな細い状態で効率的に魔力を送り込み指示できるのか。……ある程度離れていても魔力は放出されて形成されるから……可能といえば可能か? こればかりはやってみないことには分からないか……ふむ」

 呻きながらぶつぶつと呟いている。

 さてどうなるのかと思っていると、フィルロッテが小さく頷いた。

「その魔力を通さないであろう金属、それが取れる場所はしっている。これから場所を教えるから、そこに行く準備をしよう。取りに行くのは明日以降になるが……構わないか?」

「場所はここから遠いのですか?」

「一週間以上かかるのぅ」

「ここから空間をつなげるので場所さえわかれば、瞬時に移動ができますが」

「……」

 そこで俺が提案すると変なものを見るかのようにフィルロッテが俺を見た。

 そして深々とため息をついて、

「やはり異世界人は頭がおかしい“変態”じゃな。まさかそんな力が使えるとは。場所は……そうじゃな、セバスチャン」

 と、そこでフィルロッテがセバスチャンを呼んだ。

 すると、天井から透けるように、にゅるりと顔を出してフィルロッテの目の前にやってきた。

 それから古いもので良いからこの世界の地図はないか、と聞くと、

「確か倉庫の奥の方に入っていたような気がしますから、探してきます」

 と答えてどこかに行ってしまった。

 まだしばらく見つけてくるのに時間がかかりそうだ。

 そう俺が思っているとミネルヴァが真剣な表情で、

「ルナ、私の分のワッフル追加で」

「は、はい……運動するから私も一個追加しようかな」

 といった話をして、ワッフルがいくつか追加されてしまうことが決定したのだった。


 それから大量のワッフルをフィルロッテが全て食べ終わったころ、ふわふわとセバスチャンが窓からそこを通りぬけるように入ってくる。

 こんな昼間から幽霊がうろうろしているのも何となく変な感じがするが、気にしたら駄目だろう。

 そう俺は自分に言い聞かせているとそこで、

「古い地図ですが紙製のものですね。これでよろしいですか?」

 そう言って机の上に開いたのは、この世界の地図だった。

 正確には俺達のいる都市のある大陸が描かれたものであるらしい。そこでフィルロッテが机にしがみつくようにしてどこかを指さそうとしていた。

 だが、フィルロッテの身長では届かないらしい。

 そこでルナが手を上げて、

「では地図が大きいので、私とユキで言った場所を指さしますから、行ってください。ユキ、いいですか?」

「そうですね、立っている場所だと丁度いいかな。女神様にさせるのもあれだし」

 そういうとミネルヴァが気にしなくてもいいわよ~、と言っていた。

 けれどそういうわけにはいかなかったらしく、結局、ルナとユキにお願いすることに。

 そして、フィルロッテが俺達の町と、その必要な鉱石のある場所を言う、

 ルナとユキがその場所を指さす。

 こことそを繋げばいいのかと俺は思いながら、ルナに、ルナの実家の場所やユキの実家の場所を聞く。

 ルナは戸惑ったようにそこを指さし、ユキも自分の故郷を指さした。

 あのあたりなのかといった場所の確認をしておいて俺は、

「さて、これから、まずは鉱石を探しに行こうか!」

 そう言って、空間を繋げるよう念じたのだった。


 地図から推定した場所で、道から少し外れた場所の上空から、まずは場所を確認することにした。

 とりあえずその場所を繋げて様子を見ると、特に危険な兆候は見えない。

 正確には魔王軍のようなものは特に見当たらない。

 ああいった物に再び遭遇しては嫌だったがそうはならなかったらしい。

 よかったと思いながら見回すと、眼下には森が広がっている。

 少し離れた場所に土の道があり、二人の男女が急ぐように移動しているのが見える。

 その程度で済むので良かった。

 ただこの広がる森がどこか青くかすみがかかっているように見える。

 これは一体何だろうと思っているとそこでフィルロッテが顔を出し、

「む、むむ、本当に空間を繋げてしまえるようじゃな。これが一週間、普通に移動すれば時間がかかるのじゃが、く……やはり異世界の人間は能力がおかしい。何をどうしてこんな事を思いつくのか……これが知識や物語の蓄積によるものなのか……ぶつぶつ」

 そう悩んでいるのを聞きながら俺は俺で、

「それで場所はここで間違いでしょうか? もしくはもっととりやすい場所があるのであればそちらに移動しますが」

「いや、この場所に来て後は地道に鉱石の散策となるだけだ。……じゃが、あれほどの“ノラネ鉱石”を見つけられる能力があるのじゃ。すぐに見つけられるじゃろう」

「……必要なものはどんなものでしょうか“エリ鉱”という金属で、それ自体が能力を無効にする効果がある。その鉱石の影響でここ周辺の森は青い霧が周りに散らばっているのじゃ」

 とのことだった。

 とりあえずは現地に向かって、その鉱石を探すことになったが、

「とりあえずもしも何かがあった時のために装備だけは持っていこう」

 そう俺が提案して、皆で準備をすることになったのだった。

 

 こうしてリュックサックに荷物を入れていく。

 フィルロッテはどうするのかと聞くと、

「妾はお前たちの“荷物”の一部じゃ!」

 とのことでこの幼女は俺達の荷物の一つになるらしく、正確には寄生をするらしい。

 それってどうなんだろうなと俺は思ったが、ここは突っ込んでも仕方がないので深く考えるの止めて準備をする。

 ここの幽霊執事のセバスチャンも手伝ってくれた。

 それから家の庭に出て、その先ほど見た土の道の部分に入り口を作る。

 ここをくぐればあっという間に目的の場所に辿り着けるはずだった。

 実際につないだ空間を一歩踏み込めば、そこは森の中にある土の道である。

 後はみんなが来るのを待ってここに来てから目的の“エリ鉱”を探せばいい。 その鉱石からとれる金属のみでこちらも、魔力などの影響を無効化できるらしい。

 鉱石自体はそんなに難易度の高いものではなく、また、無効か鉱石の使いようは攻撃に使うには難しいためあまり需要がない。

 そのせいでここには手つかずの鉱石が比較的簡単に手に入るそうだ。

 といった説明を俺は先程フィルロッテに聞いた。

 そぅいった情報を基にここ周囲に検索をかけようと思った俺だがそこで、

「「ひいいいいいいっ」」

 男女の悲鳴が聞こえたのだった。 


 悲鳴をあげる男女が近くにいたようだ。

 そういえば先程上空から様子を見た時、男女が道を歩いている人間が見えたが、まだ近くにいたらしい。

 さて、どうしよう。

 こういう場合、特別な能力を目撃されてしまった場合は、目撃者を消すという選択肢も存在する。

 のだが、この能力を知られたところでどうにかなるのだろうか?

 というよりは、失礼しましたと言ってこの繋いだ空間を消し去って、何か厳格でも見ていたのかもしれないという落ちに持っていくのも正解なのではないかと俺は気づいた。

 なので俺は何事もなかったかのように部屋に戻り、この空間と空間が繋がっているのを消そうとした所で……ルナが悲鳴を上げた。

「な、なんでこんな所にいるのですか!」

 その声に二人の男女がその声の主であるルナを見た。そして、

「ど、どうしてお前がそんな所に」

「そ、そうよ……さては、魔王軍が私達の国に攻めてきたのもルナ、貴方のせいね! この、“悪役令嬢”が!」

 などとののしっている。

 そしてルナが涙目になっているのと、この目の前の人物たちが今にもルナにとびかかりそうだったので、

「え~、失礼しました~」

 俺はそう呟いて、接続を一旦、消し去ろうと思ったがそこで男の方がこちらに向かって手を伸ばす。

 これ、完全に空間が断絶した場合どうなるのだろうかと俺は思ってから、とっ歳にその手の部分周辺は空間を接続したままにしておく。

 なんて恐ろしい事をするんだと俺が思っていると、そこで手川多和田と動き出す。

 これだけ見ると突然空間から手が生えたように見えて何かの階段のようだ。

 そこで俺は顔を蒼白にしているルナに、

「ルナ、知り合いか? ……ルナ?」

「……」

 けれどルナは凍り付いたまま動かないし何もはなさいない。

 一体どういうことかと思って、そこで俺は思い出した。

 ここには事情通オタクの女神、ミネルヴァがいる。

 心配そうにルナの様子を見ているミネルヴァに俺は、

「ミネルヴァ、今そこにいた男女は誰なんだ? ルナの知り合いのようだったが」

「ああ、あの子たち? ルナに婚約破棄を突きつけた駄目王子と寝取り女よ。ちなみに今は魔王軍の猛攻撃で……わが身可愛さに真っ先に逃げ出したみたいね。国民を置いて」

 といった説明を聞いた俺だが……そうなるとこの手をどうしようかと俺が思っているとそこで、

「この、気持ちの悪い能力を使いやがって、ルナ、お前の仕業か! はやく何とかしろ、このノロマ女が!」

 などと叫んでいる。

 こいつ、このまま放っておいてもいいのではと俺は思いかけたがそこで、

「へぇ、この手が、“女の敵”の男の手なのじゃのう」

 フィルロッテが何やらそう呟いて不気味な笑い声をあげる。

 そしてすっと何か……俺の世界の“油性マジック”のようなものが何本も取り出されて、

「これは異世界の仕返しの方法の一つなのじゃが、このペンで皮膚に文字を書くとなかなか消えにくくて大変なのだそうじゃ。もっともこの世界の“コール液”を使えばすぐに消えるから何の問題もない。さて、どうする?」

 それに俺以外の女性陣が微笑み、そのペンを受け取ったのだった。


 それから起こった展開については省略する。

 恐ろしや、恐ろしやと俺はしばらく呟いていたが、

「な、何をしている。俺を誰だと思っているんだ!」

「……え~と、アホ王子っと」

 ルナがそのような文字を書いていた。

 それはもう、満面の笑みを浮かべて。

 ルナもルナで色々思うところがあるのかもしれないが、そこでその文字を書き終わった所でルナが、

「どうしてこんな場所に寝取り女と一緒にいるのですか?」

「ま、魔族が攻め込んできたんだ!」

「それで貴方のお父様とお母様はそこで何をしているのですか」

「それ……は……」

「あの場で指揮を執っているのでは? 私の親兄弟もきっとそうでしょうが」

「! お、お前だって逃げたじゃないか!」

 そう言われてルナは一度黙ってから、深く息を吐いて、

「そうですね、私は逃げました。でも状況は違いますよ? あなた方は私にぬれぎぬを着せて……場合によっては私は殺されてしまっていたのかもしれませんし」

「そ、そこまでするつもりは……」

「……嘘です。私、全部聞いていましたから。……嘘つき」

 ルナがそこで冷たい声でそう告げた。

 そして更にルナは、

「私、本当は婚約者であった貴方を少しは好きだったんです。でもこんな目にあって、そして貴方に投げかけられたその言葉などを聞いて私、完全に踏ん切りがつきました。……すでについていたのかもしれません。さようなら」

「な、何をする気だ! やめろおおおお」

「? 別に私は何もしませんけれど」

「へ?」

 間の抜けた声が聞こえたが、そこでルナが、

「抜けるくらいまで空間を広げていただけますか?」

 そう俺に言うのでとりあえずこの状態にしておくのもあまり気持ちがいいものではなかったので少し広げると、慌てたように手が引っ込む。

 そしてすぐにののしる言葉が聞こえてきたが、あまり精神衛生上によろしくないため、すぐに俺は接続を閉じた。

「ふう、まさかこんな所で遭遇するとは思わなかった」

「そうですね、私も驚きました。でも……アホ王子と書けて満足です。……うん、アキラに武器を作ってもらって、私、皆を助けに行きます」

「……俺達もできる限り手伝うよ」

 そう返すと、ルナは嬉しそうに微笑んで頷いたのだった。


 それから再度周囲を見回せる高さに空間を繋いで、回りを見て、人がいないことを確認してから道をつなげる。

 そして、全員が道に出てからすぐに俺は依然と同じように、“エリ鉱”がどこにあるのかを検索した。

 フィルロッテがその魔法を見て、また妙な魔法をと騒いでいたが、その地図からは再び森の中に埋まっていると気付く。

 それを見ながら俺は、

「また魔族に遭遇しないだろうな」

「そんなにそこら中に魔族はいないわよ。さっきの子たちだっていた方から安全な法に逃げているだろうし」

 そうミネルヴァに言われて、俺はなるほどと思った。

 そんな話をしてから森の方に入っていき、目的の大きい石を見つける。

 そこでフィルロッテが、

「こんな簡単に高品質の鉱石が見つかるとは……しかも無力化の効果があるはずなのに……やはり異世界人はおかしい」

 などと頭を抱えているが、少しでも早く武器を手に入れたかったので俺は、その見つけた大きな鉱石を掘り出す。

 スコップ類は空間を繋げてセバスチャンに持ってきてもらい、石を彫り上げて家の庭先に転がす。

 また、大きめとはいえまだこれだけで足りるかは分からなかったので、更にいくつか鉱石を探す。

 場所が分かっていても埋もれていると見つからないので周辺をみんなで探したりと、そこそこ宝探し感も味わえたような気がする。

 そして、幾つかの鉱石を俺達は持ち帰り、武器は明日作ってみることにした。

 だからその前の下準備として、目的の鉱石からその金属を取り出す。

 特に力を使って純度を高めたそれは、かすかに青い光沢をもっている銀色で、そのままアクセサリーにしたいなどとルナたちが騒いでいた。

 また、魔法攻撃をされた時にこれを使えば防御用の何かが上手く作れないか、といった俺の提案に、こちらが攻撃できなくていいのであれば可能とフィルロッテに俺が諭されたり色々した。

 そういった話をしつつ、その日は、フィルロッテがあ朝一で武器が見たいのとルナの料理が食べたいとのことで、この屋敷に泊まる以外、特に何事もなく終了したのだった。


 次の日、俺達はルナの朝食を食べる。

 ようやく色々吹っ切れたらしく、ルナは以前よりも明るくなったようだった。

 そしてその食事をとってから、各々の欲しい武器のようなものを選んでもらい、その武器の取っ手となる部分に赤く線で丸をする。

 とりあえずは握った時に反応するよう、持つ部分は円柱の形になるため、側面を四等分するように細い線をいれると決める。

 後はその円柱部分の太さだが、ものと武器事態を中が空洞の鉄パイプのような形にした杖にするかといった案も出たりした。

 その分金属の量も少なく、強度が弱くなるものの軽くなるといった利点もある。

 実は以前作ったあのナイフは、結構重かったため、軽さも重視された。

 また、俺が使う剣も細身の方が重さが軽いだろうといった話にもなる。

 そして早速作り始めた俺だが、描かれている絵を参考に特殊能力チートを使う。

 何かあっては嫌なので、加工は庭に出て行うことに。

 以前コピーしたその絵を片手に二つほど金属を置いて、そんな風な構造になるよう念じてみる。

 それらが瞬時に変形して目的のものの形になる。

 どれもが大きさがやや小ぶりだが、それは持ってきた金属の量に依存するのかもしれない。

 こうして、念願の武器を手に入れた。

 そして俺はここで、そういった物を持てる体を強化する魔法などを教えてもらうことにする。

 フィルロッテとルナ、ユキの三人に教えてもらい、一時間後、どうにか物に出来た。

 魔法が使えるのならば真っ先に覚えるのがこの技だと言われ、それでもこんなに早く習得できるものではないとフィルロッテやユキがいい、ルナが、え? という顔をしていた。

 ルナも一見頼りなさそうだが、魔法の才能は優れているのかもしれなかった。

 また、その時にミネルヴァが、そういった魔法を受け取りやすい才能がある人物も選んだのよと、自信満々だったりした。

 それからあとは各々の武器を持ってみて、違和感があるかどうかを確認する。

 しっくりと手に馴染むような武器だと俺は言われて、上手くいってよかったと俺は思う。

 そして無効化できる“エリ鉱石”から作った金属が幾らか余ったため、それを花のような形にしてルナ達に渡した。

 無効化の効果が出ないようにする謎の布をフィルロッテからもらい、それぞれが嬉しそうにポケットにしまう。

 武器関係の作成はこうしてすべてうまくいった。

 後はこの威力がどの程度か、上手く作動するのかを様子見することに。

 おそらく威力が高くなるだろうと事前にフィルロッテが言っていたために、人里離れた山奥に移動して試し打ちをすることに。

 そちらの方もフィルロッテに選んでもらい、良さそうなため仕打ちの場所を選んでそこで練習しに行ったが……大変なことになった。

 そのためしばらく魔法をうって、威力がどの程度になるのかの感覚を掴もうと、その日は暗くなるまで練習した。

 なんでも、ミネルヴァが明日までに魔力を回復させておいてくれるらしい。

 だが俺は剣を使うよりも、特殊能力チートを使った方がいいのではといった話になる。

 そんなこんなで明日二はルナの実家に行けそうだという話になり、その準備をして、ミネルヴァに追加サービスで体力を回復してもらい、その日は眠ったのだった。


 次の日。

 朝に食事をとりつつユキと、能力について話していた。

 つまり、ユキの能力で俺達を敵として認識させずに、目的の場所に潜入できるかどうか。

 そう俺が聞くとユキが頷き、

「ある程度は効きます。ただ……魔族には効果が無いらしく、使えません」

「そういえば捕まっていたな。なるほど……とりあえず味方との接触に使うか。突然現れたら警戒されるだろうし」

「分かりました。遭遇しそうになったら、力を使います。そして……ルナの実家にまずは向かうのですね?」

「その予定だが、そこが魔族の支配地域になっていた時にどうするか、といった話だが……」

「まずは様子見からですね」

「そうだな。上空の空間を接続して、周りを見渡せばどうにかなるだろう」

 といった話をして俺達は、まずは上空からそのルナのいた都市周辺を見ることに。

 あまり大きくつなげると危険なので二人程度見える空間をつなげることにした。

 久しぶりの故郷だが、事情が事情なだけにルナの表情は暗い。それに俺は、

「俺達もいるから、大丈夫だ。この前も魔族を簡単に倒せたしな」

「……はい、そうですね。ジングウジは強いですから……私も、頑張ります」

 そこでようやくルナが笑顔になる。

 そして俺は、地図に示されたルナのいた故郷の場所を示してもらい、その場所と二人がのぞける程度の大きさに空間をつなげる。

 上空部分にそれを設定したが丁度良かったようだ。

 遠くの方すらも見渡せる高さにそれは出来て、周りを見渡せる。

 密集した家々や城や屋敷が見えるが、その奥は壊れたりしているようで、そして……。

「遠くの方で火の手が上がっています。まだ町の方には着ていないようですがすぐそばまで迫っているのかも。……何か炎のようなものが町まで少し飛んできているようです……ああ」

 衝撃を受けたようにそう呟くルナ。

 そして初めて見るその臨場感に俺も凍り付いてしまう。

 こんなもの俺は……。

 けれどいつまでも衝撃を受けて凍り付いてもいられない。

 まずはルナの両親たちとの接触だ。

 細かな場所までは実際に見ないと上手く俺も定義できないようだったので、ルナにお願いして、ルナの屋敷を探す。

 今見える範囲からは、ルナの屋敷は見えないとのことだった。

 どうやら反対方向であるらしく、戦闘している場所とは比較的離れた場所が屋敷のようだった。とはいえ、

「屋敷の方に人がいなかったら、何処で作戦会議をしていると思う?」

「……城の方だと思います。もしくはすでに魔族との戦闘の指揮を執っているかもしれません。とはいえ、それでも人が完全に城からいなくなるという事はないでしょうから……」

「そうなるとまずはルナの屋敷に接続をして、そのうち何処の部屋でやっていそうかルナに聞いた方がいいか」

「はい、作戦会議となるとそこそこ大きな部屋でしょうから限られています」

 そうルナに聞いて今度は別の方向からつなげる。

 すると大きな庭付きの邸宅が見える。

 音質も遠めからわかる。

 そこがルナの実家と聞いて俺はそこの部屋の一角にまずは小さく接続する。

 天井当たりで良いだろうか、と思って接続してみたのだが……。

「! ルナ!」

「お兄様!」

 そこにはルナの兄らしき人や、他にも偉そうな人、そして剣を持った冒険者のような人といった何人も集まっていたのだった。


 偉そうな人たちが何かを話し合っているようなそんな場所を一発で俺は引き当てた俺は凄いと思う。

 そしてルナの名前を呼んだ男が兄であるらしいのもよかったように思う。

 いきなり現れた怪人物として、攻撃される可能性もあるからだ。

 とりあえずルナの知り合いがいたこともあり、ルナを通して話をすることに。

 まずは、何処に空間をつなげるかだが、

「……そこの壁と繋げてください」

 ルナの兄と呼ばれた人が壁を指さす。

 とりあえずそこに等身大の空間接続を行うことにした。

 まずは今あるものを消して、先程の場所に……。

「出来た」

 目の前に人が一人通れるドアのような形で接続すると、誰かが駆け込んできた。

「ルナ!」

「お兄様!」

「無事だったか。良かった……家を抜け出したからどうしたかと……」

「え、えっと、逃げ出した先で、ジングウジと女神様に助けられまして」

「……え?」

 そこで不思議そうな声を上げたルナの兄と俺は目が合う。

 とりあえず俺は軽く会釈をして、

「初めまして。女神であるミネルヴァに連れられてこの世界にやってきた異世界人です。ただ……戦闘能力はほぼありません」

「……そうですか。妹を助けて頂いてありがとうございます。そしてそちらにいるのが女神ミネルヴァ様ですか?」

 そこでミネルヴァがそうよと答える。

 とりあえずは、これで自己紹介が終わった。そこでルナの兄が、

「それでどうしてこちらに?」

 そう聞かれるとルナが、

「お兄ちゃんの温室にある果実が欲しくて、でもここが魔族に襲われているからお手伝いをしに……」

「ここは危険だからルナは安全な場所にいればいい」

 ルナの兄がそう言い切った。そして更に、

「父も母も……他の兄弟も負傷して今は、どうにか動けるのは俺だけだ。そんな危険な場所にルナは……悪いが足手まといだ」

「そんな……」

「それに今は勇者様方がいる。彼らの力を借りれば……」

「で、でもすごく強い武器もありますし、それを使えば……」

 そう返すもルナの兄は首を振らない。と、そこで、

「その強い武器とやらは、俺がここを救ってもらったお礼にもらう“双竜の剣”よりも強いのか?」

 冒険者のうちの一人がそういう。

 それに仲間の一人が、また剣マニアの病気が始まったと話している。

 見るとその人物は剣を持っていて、なんとなく……。

「“勇者”?」

「そうだが、よく分かったな。勇者ライ、そう俺は呼ばれている」

「いえ、それっぽい格好だったので」

「それっぽい?」

「いえ、何でもないです。それでもしも剣を貴方に渡したら、こちらからもお手伝いできますか?」

「それはその剣次第だな」

 そういった勇者ライ。

 丁度作ってはみたものの、使い道がなかった剣があったのでとりあえず渡してみる。と、

「……魔力のノリが非常にいい。これは何だ? こんなもの、今まで手にしたことがない」

特殊能力チートを使って調整した剣ですから。いかがでしょうか」

「いいだろう、戦闘に参加させてやる。その代わりこの剣をもらう」

「はい」

 とりあえずはお手伝いができる様になった。

 ルナの兄は相変わらずルナを返したがっているようだったが、別の偉そうな人が、今回の戦いの話などをすればおじけづくだろうと宥めてくれたおかげで、俺達はその戦闘会議に参加できることになったのだった。


 こうして作戦会議に参加させてもらうことになったが、魔王軍の数が異常に多いと気付く。

 ここにいる集団と現在は戦っているといった話を聞く。

 そして下手に攻撃すると仲間にも攻撃が当たってしまうといった話もそれとなくされてしまう。

 これでは素人が手出しできない。

 また現在住民は集団で避難しているらしく、一か所に集められて強靭な結界が張られているそうだ。

 そんな状況下なので、もし何かあればそこにいる住人を俺達の町に退避できないかといった話もされる。

 確かにその話を聞いてことわれなかった。

 他にはどうやって攻めるかといった話をして勇者一行と、一部の人達……ルナの兄がその場に待機することになる。

 結局の所、俺達は特に何もできそうになかった。

 そこで、こんな状況なのにお茶が振舞われた。

 申し訳ないような気持になっているとルナの兄が、

「それで温室の方に欲しいものがあると聞きましたが」

「それはこのユキが……」

 といった話をすると、目的のものがある温室に案内してくれるらしい。

 ユキも非常に申し訳なさそうな顔になるも、ルナの兄はルナの保護をしてくれただけでも十分ですという。

 そう言われるとますますこう……と思っているとそこでそれまで黙っていたフィルロッテが、

「ジングウジは異世界の人間じゃ。その異世界の知識でこの窮地を何か打開できないか?」

「でも今までの話を聞いて手伝えそうなことは何もありませんでしたよ?」

 俺がフィルロッテにそう返すと、フィルロッテは呻く。

 そこでミネルヴァが、

「切り口を変えてみてはどうかしら。もともと、次の時代、魔族を倒した後にどうまた進歩していくのか、そのために連れてきたのだもの。……折角だから温室を案内してもらいながら、話をしてもらうのはどうかしら」

 そう提案する。

 そして俺達は、ルナの兄に連れられて、温室に向かったのだった。


 ガラス張りの温室内には様々な、木々が生い茂っていた。

 大きな葉やヤシの葉のようなものが幾つもついた植物、蔓、アケビのような果実、そういった物が幾つも生えている。

 俺達の住んでいる場所ではあまり見かけない植物たちがその温室内に生えている。

 その内の一角に案内してくれて、ユキは果実をもらっていた。

「あ、あの、ありがとうございます」

「いえいえ。これからも妹の事をよろしくお願いします」

 微笑んだルナの兄を見て、なんか変なフラグが立っていないよなと俺は思った。

 そもそもここは戦場にほど近く、危険な場所なのだ。

 とはいえ、フィルロッテやミネルヴァの言うように、話を聞いてみる。

 食料などの増援や、武器などをこちらに投入はやろうと思えばできるといった程度で、そういった補給関係の手伝いしか、その後話を聞いていても思い当たらない。

 いざという時に次々とアイデアが浮かぶようなラノベの主人公は逆に凄いのかもしれないと俺は思う。

 結局は線上の大変さなどを聞いていくことになったがそこでルナの兄が、

「せめて敵の魔族がどんな攻撃をするとか、弱点は何かが分かれば楽だがそうは……」

「あ、それは出来ます」

 ルナの兄の言葉に、俺はそう答えたのだった。 


 敵の魔族がどんな攻撃をするとか、弱点は何かが分かる方法、それは俺の特殊能力チートで再現できる。

 そう答えるとルナの兄は不思議そうな顔をして、

「どうやって?」

「俺の特殊能力チートを使って、敵の能力を空間に表示をするのです。見せたほうが早いですね。……失礼します」

 俺はルナの兄にそう話して、特殊能力チートを使った。

 そこで小さな音を出して水色の光の板のようなものが現れて、そこに能力の値などが記載されている。

 この数値が一般の人間と比べてどの程度なのかは分からないが、これで納得してもらえただろうかと思っていると、ルナの兄がそれを食い入るように見ている。

 何かが間違っているだろうかと俺が思っているとそこで、

「体力などまですべて数値が……しかも弱点なども……苦手な部分が正確に描かれている」

「これを魔族側に仕掛ければ戦いやすいのではないかと」

「……この魔法は、どの程度の範囲まで可能なんだ?」

「……それはやってみないことには無理かと」

「……それは、その魔族だけを狙ってできるのか?」

「……やったことはありませんが、おそらくは可能かと」

 そう返すとルナの兄がしばし黙る。

 そこでフィルロッテが俺の服を引っ張って、

「まるでゲームに出てくるような能力じゃの」

「確かにゲーム内では登場人物の説明に、能力などが書いてありますからね」

「……その空間転移や空間を操る能力系の魔法で、お主の世界のゲームや漫画などの物語で、どのように使われていたか、記憶にあるか?」

 フィルロッテの言葉に俺は考えてみる。

 空間を操る系……時間を止めたり、ではなく……転送……。

「攻撃を目的の場所に転送捨て攻撃する。そうすれば遠距離でも、そこまでの距離は関係なく、攻撃できる」

「だが、それでは味方まで巻き添えにならないか?」

 ルナの兄の言葉を聞きながら俺は更に考える。

「敵だけを選別して攻撃する……もしもこの能力を呼び出せるのが、敵だけに上手く出来たなら攻撃もある程度制御できるか?」

「なるほど、確かにそれは魅力的だ。……試してもらえるか? 他の人達は説得するから」

 ルナの兄は俺にそう言ったのだった。


 早速、部屋に戻り敵の能力を空間にあらわせるか挑戦する。

 地図ではこの辺りと言われたので大まかにその辺に、といったふわっとした条件で能力を使う。

 そして全線で観測している人との通信を行う。

『て、敵の頭上に能力値のようなものが……』 

「それは見方には表れているか?」

『現れていません。しかも攻撃するごとにどんどん体力が減少していきます。弱点も書いてあって攻撃しやすい』

「分かった。……だそうです」

 ルナの兄がそう通信をして俺達に言う。

 どうやらうまくいったようだ。

 となると今度は次の手を打つことになる。つまり、

「攻撃の転送が上手くいくかどうか。もしそれが上手くいくようであれば、俺自身の魔法もあちらに転送して特定の相手だけを攻撃できるはず」

「ジングウジの魔法は強力だからね。魔族関係に関しては私はお手伝いは出来ないけれど、教えることはできるわ。……ぜひ“双極の刃”という魔法を使うのをお勧めするわ」

 そうミネルヴァに聞くと、どんな魔法かは使ってからのお楽しみだと言われた。

 それに不安を覚えた俺だがそこで、魔法を転送しようといった話になり、建物の外で行うことに。

 上手くいったと連絡が入ったら、ベランダに出た、多分偉いおじさんが大きく手を振ってくれるらしい。

 失敗したなら、腕を組むそうだ。

 そういった話を聞きながら俺達は武器を手に、一度戻った部屋から、また外に向かったのだった。


 魔法を集めて転送をすることになった。

 ただ攻撃といっても時間差があると上手くつなげられないかもしれないので、

「俺が号令をかけるので、3、2、1の順で魔法を用意していただけますか」

「「「分かったわ」」」

 ルナとユキ、フィルロッテがそう答えた。

 ちなみにミネルヴァは応援する係らしい。

 魔族を攻撃できない制約のためこのような状況になっている。

 そして各々が……俺でも感じ取れるくらい、物騒な気配を醸し出している。

 本気で“殺る”気のようだ。

 俺の背に冷や汗が垂れるも、それは努めて出さないようにして、

「3、2、1……今だ!」

 それと同時に、

「“紅蓮の輪舞”」

「“悪逆の凍土”」

「“人知無き雷”」

 次々と魔法が放出されるもいずこかに消えていく。

 どんな魔法なのだろうと思っていると、遠くの方……正確には、戦場の方で雷やら炎やら氷の柱やらが吹き荒れているのが、目で見える。

 遠いのに。

 どんな威力だったのかすごく気になったが、すっきりしたような女性陣を見ていて俺はそれ以上怖くて聞けなかった。

 そこで偉そうな人がベランダに急いで出て、大きく手を振る。そして、

「今ので魔族だけを攻撃できたようです。また能力値が分かるので攻撃しやすいとのこと。そして、勇者ライたちも敵を倒すのにこの剣は使いやすいといった話をしています。この調子でよろしくお願いします、だそうです!」

「分かりました。皆、すぐに続きはお願いできそうか?」

「「「もちろんです」」」

 元気よく答えた三人に俺も何かすべきか考えたが、転送に集中するべきとルナに諭されて俺は転送に集中することに。

 なんだか地味だなと思いながら俺はそれから二回ほど、魔法を転送する。

 これでどれくらい敵を削れただろうか?

 そう思っていると再びベランダに出てきた偉い人が焦ったように手を振り、

「弱めの魔王軍は今の魔法で大量に倒されたようなのですが、一体、凄く強い魔族が現れたらしく、勇者たちが苦戦しています!」

 そう俺は聞いたのだった。


 一体危険な魔族が現れて苦戦しているらしい。

 状況はどうなっているのだろうか。

「……近くまで行って接続は危険だし……遠距離を見れればいいんだ。そうか、光の屈折を利用して遠方の光景を見ればよかったんだ」

 いまさらながら俺は気づいた。

 いざ魔法があってもどう使おうかとなると気付かないものである。

 早速、遠方の光景を目の前に映し出すように特殊能力チートを使ってみる。

 現れたのは、四角い窓のようなものに先程の勇者たちや疲弊した人、そして……黒い怪獣のような勇者たちよりも身長が三倍はあるかのような生物がいる。

 赤くぎょろぎょろとした目が体に幾つもついていて、一つは勇者を、もう一人はその仲間達、もう一つは周りの状況といったようにそれぞれの行動を見つめているらしかった。

 その凄惨な光景と恐るべき敵の姿に俺は凍り付いた。

 けれどすぐのそれに向かって、俺の渡した剣で立ち向かっていく勇者たちの姿が見える。

 そこそこに切り傷は与えているようだが、決定打にはならない。

 俺にも何かできることはないか。

 敵はおそらくはこれ一体。

 だったら目標が一つなら、精度よく、俺の魔法でも転送して攻撃が出来るのではないか?

 だが、下手に攻撃をして戦っている彼らを巻き添えにしてしまってはどうにもならない。

 どうする……俺はそう考えているとそこでミネルヴァが、

「ジングウジ、ごめんなさいね。思考を読んでしまったわ。……意外に真面目なのね」

「……」

「でもさっき教えた魔法があるでしょう? それなら……戦っている彼らにすらも恩恵を与える魔法」

「そう、なのですか?」

「ええ。……あまり私が介入するのはよろしくないから、ここまでしか言えないけれど、後はジングウジにお願いするわ」

 ミネルヴァにそう言われて俺は、その魔法を使うことにする。

 使いたいと願うと、体から魔力がほんの少しちりっと減ったのを感じる。

 ちくっと、小さなとげが刺さったような変な感覚。

 今まででは全くなかったそれを感じながら、脳内で再び図形のようなものがやけに複雑に絡みついて一瞬浮かぶが、ここでゆっくりそれを見ているわけにはいかない。

 次に転送するよう特殊能力チートを使う。

「“双極の刃”」

 俺は呟いた。

 それは転送されて発動するはずだったが、遠距離を見るその画像では、その魔族である黒い怪物の頭上に光の球が一つ落ちてくる。

 一見弱々しいそれは、次の瞬間大きな光の柱になっていた。

 轟音が聞こえる。

 ここから遠めでも分かるような大きな光の柱が空高く伸びて破裂音を立てて消える。

 一瞬の出来事だった。

 あの黒い怪物が跡形もなく消滅している。

 何が起きたと思っている内に今度は金色と小さな光の粒が降り注ぎ、あの線上にいる人達に降り注ぐ。

 見ていると、その光が触れた場所から傷口のようなものが治っている。

 回復効果のある魔法であるらしい。

 攻撃と回復、両方の効果のある魔法であったようだ。

 そう思っているとそこでフィルロッテは、

「こ、これは、まさか古代魔法王国シアルの強力な魔法使いたち数百人が命懸けで引き起こしたという魔法の……完成版!」

「え? そうなのですか?」

「起こった事象が一致している。お主、なんともないのか?」

「……特に変化はありません」

「……これだから異世界人は」

 そう俺はフィルロッテに言われてしまったのだった。


 こうして俺達はルナの故郷での魔族のからの襲撃は何とかなった。

 お礼を言われて援護の手伝いをした俺達は表彰されるらしい。

 また、ルナはしばらく俺達とまだ一緒にいるようだった。

 ただ、俺の能力でこまめに里帰りすることになるが。

 他には、ここの国の婚約者だった王子は適性がないという事で廃摘されることになったといった騒動もあったが、他に特に大きな問題はなく、さいふぉここに魔族が襲い来ることはなかった。

 だが、魔族の襲撃を受けている場所は他にもあるため勇者ライたちはそちらに向かうらしい。

 ただ俺の能力や武器が気に入ったらしく、仲間になるお誘いを受けてしまった俺だが、やはり戦闘をやるのは性分ではないためお断りする。そもそも、

「俺が女神様に呼び出されたのは、この世界でスローライフをするためだったはず」

「そうね~」

「そしてそのためにもまずは資金を調達しないと」

 といった説明をすると、相変わらず異世界人は色々とおかしいと言われてしまう。

 俺としてはそんなにおかしい事は言っていないはずだが。

 そして帰りにユキの故郷に立ち寄り、貰った果実を渡す。

 その果実などのお礼としてユキもしばらく俺と一緒にスローライフをすることに。

 そして屋敷に戻ってくると、面白いからフィルロッテもこれから時々遊びに来るそうだ。

 なんだか女の子ばかり増えている気がするなと思っているとそこでミネルヴァに、

「ハーレム主人公の気分は味わえたかしら」

「……これ、女の子と一緒にいるだけのような気がするのですが」

「そう? ジングウジへの好感度でも見てみる?」

「いえ、遠慮しておきます」

 人の心はあまり見るべきではないし、これで好感度が低かったらそれはそれで……といった理由から俺はお断りした。

 ミネルヴァはそんな俺を笑いながら見ている。

 そして魔族との戦いといった、スローライフどころではない事態に遭遇した俺だが、これからはゆっくりするぞと思って、言葉にして宣言する。

「そう、俺のスローライフはこれから始まる!」

 その宣言した俺は、スローライフに夢をはせる。

 大変な事態がどうにか回避できたのだからあとはゆっくりできるはずなのだから。

 そして数日後、再び厄介ごとが舞い込んでくるのはまた、別の話である。

 









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ