表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/2

前編

 どうやら俺、神宮司太郎は異世界に転移したらしい。

 どうして分かったのかというと、先ほどまでアスファルトの道を歩いていたら、気づくと森の中にいたからだ。

 木々の緑いろが美しい歩くにはもってこいの場所である。

 だが俺は先ほどまでごく普通のマンションが立ち並ぶ閑静な住宅街を歩いていたのである。

 桜の季節まではまだまだ遠く、梅の花のつぼみを見て、そろそろ暖かくならないものか……などと思っていたら大雪が降ったのは先日の事。

 それはそれで雪遊びができたので楽しい。

 俺が住んでいるこの場所では雪はあまり振らないのだから物珍しいのだ。

 とはいえ現在、今は大分暖かくなった気がすると、個人的にそれはそれでいいよなと思って歩いていたのだ。

 ちなみに本日は理由もなく、外でも散歩でもしてくるかと歩き始めた日曜日である。

 特に行くあてもなく近所を歩いてアスファルトの道はいつ見ても変わり映えしないよなと思っていたら、こうなった。

 そう、木々の葉が生い茂る森である。

 さて、どうしよう。

 そう考えて俺の脳裏に三つの選択肢が浮かんだ。 

 チュートリアルを召喚するか、女神さまを呼ぶか、ウホ、いい筋肉とぼけてみるか。

 前の二つは今の状況を説明してくれる人が欲しいからだった。

 だがここで俺は女神じゃない! と言い出して機嫌を損ねるかもしれない可能性と、この貴重な瞬間にぼけている場合じゃないと正気に戻る。

 やはり俺は現実逃避したいのかもしれない。

 ラノベなどで学習していたとはいえ、これはおかしい。

 だがそう考えていても現実は変わらないとすぐに俺は考え直す。

 だからこの状況を説明してもらうために……ゲームならまずあるような、チュートリアルを召喚することにした。

「いでよ! チュートリアル!」

 俺は少し大きめな声で叫んだ。

 ………………

 …………

 ……

 何も起こらなかった。

 起こらなかったら起こらなかったで、なんだか恥ずかしい……。

 そこで、どこからともなく、くすくすという笑い声が聞こえた。

 俺の今の黒歴史が何者かに聞かれてしまったらしい。

 今の把握でも一人の部屋だからあほなことが言えたりしてしまうだけで、もしも誰かが俺の前にいたなら絶対に、そう、絶対に言うことはなかった言葉なのだ。

 なのに、今俺は、この……多分異世界の人物に、目撃されてしまったのだ。

 俺はあふれ出る羞恥心から周りを見回して、

「だ、誰だ。今笑ったのは!」

「私だよ!」

 それに、元気よく少女の声がでて、唐突に何もない空間からピンク色の髪に水色の瞳の美少女が現れたのだった。


 突如何もない空間から現れた美少女。

 頭の左右にあるサイドテールが可愛い。

 しかも服も何というか、黒を基調とした服で、所々に金色の金属製の飾りや宝石のようなものが縫い留められていて、白いレースがふんだんにあしらわれたコスプレっぽい感じなのも含めて、今まで見たことが無いくらいの美少女だった。

 これこそ服が飾りというような美少女だ。

 眩しすぎて見ているのが辛い、という程度に綺麗な少女である。

 それが俺のの目の前に現れて、話しかけてきたのだ。

 だが、こんな異世界に連れてこられたとたんに現れるのは、物語で培ってきた俺の知識によると、敵か味方くらいのものである。

 ……ものだよな?

 俺と関係のある人だよね?

 チュートリアルが現れなかった時の羞恥心を思い出し、実は全く関係のない通行人か何かでしたという展開に怯えながら、目の前の笑う美少女に、

「ど、どちら様でしょうか?」

「この世界に貴方を呼んだ女神さまです」

 そう答える。

 つまり俺の関係者であったらしい。

 突然空間から現れたり美少女だったり、呼ばれたばかりの俺に話かけてきたのだからやはり関係者であったようだ。

 どこからどう見ても怪しいが、ここで奇をてらうようにそういった展開がねじ込まれてしまっては……とおもうのだ。

 だって現実で考えれば、怪しいそういった関係者であるよりも、一般の人間の方が多いだろうし。

 でもよかったと俺は思いながら、ふと不安がよぎる。

 そう、この美少女な女神さまは俺を“呼んだ”といったのだ。

 それは勇者を召喚するとかそういったようなものではないのだろうか?

 だから不安を覚えながら俺は、

「な、何のためにでしょうか。まさか世界を救ってくれとか……」

「ないない。漫画家ゲームかラノベの読みすぎだよ~」

 あはは、と朗らかに笑いながら自称女神が笑った。それを見て俺は、

(この女神、事情通オタクの匂いがする)

 そう心の中で思った。すると目の前の女神様がにたりと笑い、

「気づいてしまったようね」

「な! 心を読んだだと!」

「女神様なのでこの程度余裕です(ドヤァ」

 自慢げな女神様。

 心をまさか読まれるとは、と驚愕しつつ……得意げなこの感じは、これはこれで可愛い気もするけれど、

「それでどうして俺を呼んだのですか? 俺、用がないならかえって新作のラノベでも読みたいのですが」

 そう返したのだった。


 俺の答えに女神様が頷き、

「気持ちは分かるわ。私も積み本と積みゲームが何冊と何本かあってね……あ、私の事情はどうでもいいわね。えっと何を聞かれたのかしら」

 そこで(事情通オタクとしか思えない)女神様に聞かれたので、話がそれると前に話していたことを忘れるあたりこの女神、本当に女神なのだろうかと疑惑を持ちつつ俺はもう一度、

「どうして俺はこの世界に呼び出されたのでしょうか」

 それを聞いて女神様は、何を聞かれたのかを思い出したように頷き、 

「そうそう、実は最近はやりの? 異世界転移、チート付きをやってみたくてね。ほら、異世界に人間を連れてきて、その人間には色々とすごい特殊能力チートをつけて、冒険させたり色々するアレ。そしてそういった事をするなら、どうせならそういったものに詳しそうな人を呼びたいなって思って、事情通オタクでありそうな君に決めました」

「つまり今回は俺がハーレム主人公!」

 よくあるものを思い出すと、確か主人公の男性キャラの周りには色々な美少女がいたはずだ。

 そう、つまりハーレム!

 ……などと考えつつ俺は、なんとなく聞いてみると女神様は大きく頷き、

「うん、ハーレムも出来るかもね~」

「ぜひ楽しませてもらいたいです」

「やる気出しているね~。うん、その順応性はよかったわ。特にチュートリアルを召喚しようとする所は最高だったわ」

「……それは見なかったことにして下さい。蒸し返されると恥ずかしいです」

「そうなの? だったら普通に女神様を呼べば私が、『こんにちは~』て出てきただけだったのに。どうしてそれを選ばなかったの?」

「……もしや俺の考えていた三つの選択肢、すべてをご存じなのですか?」

 恐る恐る聞くと女神様が、

「ええ、全部見ていたわよ。いざ連れてきたら性格が変わっちゃって、危険人物になられると困るし? だからこの世界に来たばかりでの思考を読んではいたの。大変な相手だったらそのまま送り返すか別の対応をせざる負えないし」

「それは確かに。……ところでもし俺がボケたならどうなったのでしょう?」

 それは好奇心からの質問だった。

 すると女神さまが楽しそうに微笑んで、

「男しかいない世界に放り込もうかと」

「……俺、これから出来るだけふざけないように頑張ります」

「そうなの? それはそれでつまらないような気もするけれど、まあいいわね。よし、それでまずはどのチートにする? 希望が聞きたいわ」

 そう女神様は俺に聞いてきたのだった。


 どのチートにする?

 そう女神様は俺に聞いてきた。

 どうやら俺はこの世界での特殊能力を自分で選ぶことができるらしい。

 与えられて、外れた能力を渡されたりする危険もあったが、これならばある程度俺の理想となるものを選び出せそうだ。

 その想像力のもとは、俺がこれまで読んでいたものの知識が生かされる。

 チート(特殊能力)、俺だけの特別な能力。

 これは真剣に考えるべき内容だ。

 そう俺は考えていく。

 ハーレムを作るならもちろん、女の子にもてるようなチートが必要だ。

 彼女は二次元から出てきてくれないんだというネタを地で行ってしまった俺だが、この世界では全く違う俺を実現できるかもしれない。

 そう、それこそ現実世界に存在するイケメンチート、ただしイケメンに限るを実践できるかもしれないのである。

 それはそれで魅力的だ。

 だがとここで俺は自分の欲望以外にも目を向ける。

 そう、俺はこの世界でしばらく滞在することになりそうなのだ。

 それならば……友人関係をよくしておくことで、この世界で何とかしていくのであれば、同性と仲良くなれるチートの方がいいか。

 人間関係というものの大変さを俺はよく知っている。

 友達百人出来るかなとは言わないが、人脈は大切だ。

 そして友人というとやはり同性になってしまう。

 それとも……なんか強そうな空間操作系のチートにすべきか!

 俺はそこから考えていき……チート(特殊能力)に詳しいだろう女神様に聞いてみることにした。

「あの、このチートを選んだ場合はどうかとかも聞いていいですか?」

「いいわよ、どんどん聞いて~」

「では、女の子にもてるチートはいかがでしょうか」

 俺はそう問いかけると女神様は困ったような顔になった。そして、

「それ、洗脳系の魔法だけれどいいの?」

「せ、洗脳系……それはちょっと」

「じゃあ別のにしてね」

 女神様は安堵したようだった。

 そして今度は試しに同性で仲良くなれるチートについて聞くと、

「それを選ぶとスローライフどころじゃなくなると思うわよ。男同士で力を合わせてドラゴン退治な展開とかになるんじゃないかな」

「それは……この世界に来たばかりなのに、厄介ごとに自分からまきこまれる体質になると?」

「巻き込まれ主人公だね。嫌なの?」

「……スローライフはどこに」

「あ、忘れていたわ~、じゃあ、他の能力にしてくれる?」

 女神様が笑う。

 結構この女神様、適当だけれど大丈夫なんだろうかと俺は不安を覚えた。

 覚えたもののこれ以上どうにもならない気がしたので、

「では、空間系のチートをください」

 そう俺はお願いしたのだった。


 俺は空間系のチートを選択した。

 これならば、多分、スローライフでも色々使えそうな気がする。

 必要なものを手に入れたりしないといけないので、こういった物があるといいだろう。

 空間系なら、その空間内の物をどうにかするので、きっと役に立つはず。

 そんなふわっとした理由で俺は自分の力を決めた。

 すると俺の言葉に女神様が頷き、

「なんだか強そうなチートね。いいわ、やっぱり主人公最強で無双するのが良いわよね!」

「……スローライフはどこに」

「あ、忘れていたわ。まあ、大丈夫、その辺は適当に頑張れば」

 女神様が気楽に言う。

 適当に頑張ればそれでいいらしい。

 スローライフというもの自体がふわっとしているとはいえ、これってどうなのだろう?

 逆にこんな風に俺が適当に決めてしまってよかったのだろうか?

 もっと熟慮すべきだったのではないのか?

 この女神様、あまり何も考えていない気がする。

 これだと俺の方が不安になってくる。

 大丈夫だろうか、そう俺が思っているとそこで、

「では~、異世界から来た旅人、神宮寺にチートを授けん! ……こうって手を上げると女神っぽいわよね?」

 この人、本当に女神なんだろうかと更に不安に思ったけれどそこで、俺の足元に白い光の魔法陣が浮かび上がる。

 幾何学模様の細かな模様が浮かび上がる。

 中心部に星のようなものが浮かんでいたりと、なかなか凝った作りをしているが、これ自体に意味があるのだろう。

 と、その光はすぐに俺の中に吸い込まれて、消えた。

 そこで女神さまが、

「これでチートは設定されました。チートの名前は“空間支配”です。頑張ってね~」

「は、はあ。それでこれはいったいどうやって使えばいいのですか?」

「使いたいと思えば使えるはず? リンゴ現れろ~、とか?」

 最後の方が疑問形なのはどうだろうと俺は思った。

 そもそもこの世界にリンゴはあるのか? 俺達の世界と同じリンゴなのだろうかと俺は思った。

 だが念じれば使えるらしいのでとりあえず、

「りんご、現れろ~」

 俺は念じてみた。

 するとどこからともなくリンゴが現れる。

 ただこのリンゴはどこから来たのだろうと思うと、悪いことをしているような気になってくる。

 だから女神様に、

「このリンゴ、どこから来たのでしょうか」

「どこから呼び寄せたのか知りたいの?」

「……誰の物か分からないです」

「うーん、だったら見てあげてもいいけれど。ただ私もこの世界に来るときは自分の能力に制限をかけているから、限界があるのだけれどね~」

 そういって女神様は見てくれたらしい。すると、

「森の中のリンゴの木からみたいだね。沢山実っているけれど……うん、自然の恵みをもらっただけのようだよ」

 そう俺は女神様に言われたのだった。 


 どうやらどこかの市場に出回っていたり店頭販売されているリンゴを呼び出したわけではないらしい。

 ただリンゴと言っていたが、

「俺たちの世界のリンゴに見える。この赤くつやつやした色合いや、この丸い形や、においが俺達の世界のリンゴと全く同じだ。こんなに異世界なのに似ているものがあるんですね」

 そういいながら手に入れたリンゴを、上や下や横から覗いてみる。

 細かな模様のようなものまで、俺が良く知っているスーパーに売っている物にしか見えない。

 それとも二つに割ると、紫色やら青色やらの果肉が出てきたりするのだろうか?

 それはそれで食欲がわかないと俺が思っているとそこで女神さまが、

「それはそうよ。ジングウジの世界にゲームやラノベや漫画を参考にしてこの世界を作っているわけだし」

「となると俺が知っているものも結構この世界にあると? それは助かるかな」

 そう俺は答える。

 いきなり訳の分からないものだらけになっていては困るからだ。

 謎の名前の食べ物に道具にとなると意思の疎通も難しくなるだろう。

 それに知っているものが多くなければスローライフをしようとしても、俺の現代知識が役に立つようには思えない。

 そこで女神様がどことなく先ほどのようなドヤ顔で、

「オリジナリティを出すために、私の考えたものも色々入れたわ!」

「……なんだろう、突然不安が」

 俺はそう呟いた。

 このオリジナリティという言葉。

 一見良さそうな言葉だが、現実は得てして残酷なものである。

 普通にレシピ通りに作れば普通に美味しいものができたはずなのに、ここで“個性”を出すという名のオリジナリティのおかげで、様々に付け加えられる色々なものによって……世にも恐ろしい“メシマズ”が誕生するのだ。

 何度も経験させられた俺が言うのだから間違いない!

 まれにレシピ自体があまり美味しくないこともあるが、この“個性”の方が断然に危険なのだ。

 そう俺が警戒しているとそこで女神様は、何かに気づいたようだった。

 それも、『あ、やっちゃった』といったような失敗の表情である。

 だがえてしてこういう失敗は、危機に陥る可能性が高い気がする。

 そこで女神様がにこりと笑って、

「え~と、怒らないで聞いてね」

「……なんでしょう」

「この世界で、ジングウジに持たせるお金の設定を、忘れていたの。……てへ?」

 などと女神様が俺にお言ったのだった。

 

 どうやら女神様のミスで、この世界のお金を設定し損ねたらしい。

 確かに先立つものが何もない状態でこの世界に来てもスローライフどころではなくなる。

 まずはこの世界での生活基盤が必要だからだ。

 衣食住のうちの一つ、もしかすると食も購入ができないので困るかもしれない。

 そういった事を考えていくと、

「俺、この世界でお金を稼がないといけないのですが、どうしましょうか。アルバイトを探したほうがいいのですか? スローライフどころではありませんし」

「うーん、どうしよう」

 女神様は困ったよう呟いてから、何かを思いついたらしく手をたたく。

「森や山の中にあるものを採ってきて、売ればいいのよ。魔物がいるかもだけれど」

「……俺、まだチートの使い方がよく分からないのですが」

「大丈夫、きっと何とかなる。さっきだってリンゴが呼び出せたもの。いざとなればその能力で自然の果実などを手に入れたっていいもの」

「それはそうですが……この能力については、女神さまは使い方を教えてくれないのですか?」

 そもそもチートをくれたのはこの女神様なわけで、だから使い方を知っていてもおかしくない。

 そう俺が思っていると女神様がほほ笑み、

「いざという時は根性で」

「そんなふわっとした感じに言われても。それに自然の物を手に入れるって……魔物とかもいるのですよね?」

「いるわよ」

「俺、戦ったことが無いですよ?」

「え~、謎の古流武術みたいなもの習っていないの?」

「……二次元と三次元は分けましょう」

 俺がそう返すと女神様が呻いて、

「でもスローライフをする関係で森に入っていろいろなものを採ってきたりもするわよ? それが今になっただけで……うーん、私もサポートするから、ちょっと素材でも取りに行きましょうか」

「日暮れまでに採ってきてそれを町で換金までできるのですか?」

 こんな何処だか分からない森の中で野宿となるのは俺は嫌だ。

 だから聞いてみると女神様は、

「ここから一時間もしないうちに街に着くし、その街に行く途中に少し入ったところに、いいものがあると思われる洞窟があるから、そこに行ってみるのはどうかしら?」

「いいものってどんなものですか?」

「売れるものかしら」

「……ちなみにこのリンゴ一個で、どれくらいのお値段に?」

「100コールドよ」

「このリンゴを中心に考えると……大体日本円で100~200円くらいかな。それで宿の料金は」

「一日二人部屋で、4000コールドよ。ちなみにうまくいけば三日分くらいの宿代が手に入るかもしれないわ。野宿は嫌なんでしょう?」

 そう言った女神様の言葉を聞いた俺は、とりあえず当座の生活資金を手に入れるために洞窟に向かったのだった。 


 こうして俺は、気軽な異世界生活の予定が、女神様のおかげで微妙になってしまうという事案に遭遇した。

 やはり先立つものがあるのとないのでは、大変さに違いが出てくる。

 ここの設定を忘れるのは確かに大変だ、そう俺は思った。

 事前にゲームでいうカンストしたようなお金があればスローライフしやすかったのにと今更ながら悔やまれる。

 とはいえ、嘆いていてもお金は空から降ってこないし、と俺は考えてから、

「今から再度設定、というわけにはいかないのですか?」

「もう呼んじゃったから無理」

 という事らしい。

 事前確認はしておいて欲しいなと女神様に対して思いながら俺は考える。

 そう、スローライフをするにしても、いくらかのお金はいる。

 素材を手に入れると言っても購入したりすることもあるだろうし、食事のようなものも必要だ。

 この世界で生活をしようとするならお金は必須であり、それは日々消費されていく。

 そうなると換金できるようなものを手に入れなければならない。

 この世界での生活していく手段、そう、遅かれ早かれこうなる運命だったのだ。

 そして一番手っ取り合法的に早く稼げるのが、必要な素材を集める事だそうだ(※女神談)。

 というわけで俺は女神様に連れられて、ダンジョンデビューすることになった。

 町に行く途中にある洞窟、というわけで、近場ではあるその場所に女神様のサポート付きで向かうことになった。

 そして土のむき出しだがよく人が通っているらしい踏み固められた道を歩いていく。

 空はどこまでも青く時折浮かぶ白い雲。

 周りには明るい木々の生い茂る森が広がっている。

 ちょっとしたハイキングに来ているような、整備? と言っていいのかは分からないが、どちらかというと歩きやすい場所だった。

 もっとも歩いてる途中で何かいいものがないか探したが、道に面している場所では撮り尽されているのか、女神様曰く、

「売れそうなものは何もないわね。……ああいった枝の枯れたものは集めて売ろうと思えば売れるけれど、そんなに高いものじゃないしね」

「幾らぐらいなのですか?」

「そうね、ジングウジが両手に一杯抱えて、300コールドくらいかしら」

 それを聞きながらそれは安すぎると俺は思って、諦めて普通に洞窟を目指すことに。

 そういった場所の方が、価値のある素材が生えていやすいそうだ。

 やがて細い獣道のようなものがあり、女神様が言うにはここを行くらしい。

 不安を感じながらその細い道を俺は進んでいく。

 明るい森だったはずが段々と木々がうっそうと茂る森に変わっていくのを見ながら俺は、

「本当にこれ、大丈夫なのですか?」

「私がいるから大丈夫かも?」

「……疑問符をつけられると不安なのですが……あ」

 そこで、木々に隠れるように洞窟が姿を現したのだった。


 木々に隠れるように姿を現した洞窟の入り口。

 うっそうと茂るその葉に隠されているためか、入り口付近も暗く奥の方はよく見えない。

 周りは木々に隠れているが、所何処p路に差し込んだ光が照らされているのを見ると、この穴以外の場所は切り立った崖になっているらしい。

 本当にこんな場所に入るのだろうか?

 今更ながらに公開が俺の中で湧いてくる。

 いまにも何か出てきそうなその洞窟だ。

 少し待っていれば白いお化けが出てきても全く不思議ではない、と思う。

 そんな立ち尽くす俺にそこで女神様が、

「ここの洞窟の持つ魔力が低いから中が暗いのね。もっとも魔力が強い洞窟ともなると、入り口付近で所有者が入場料を取ったりもするから、こういった場所でないと無料では入れないわね」

「そうなのですか。でも中が暗すぎて、よく分かりません」

 そう俺が答えると女神様が頷き、

「そのあたりは私がサポートするわね。まずは、“明かり”と」

 女神様がそう呟くと、女神様と俺の周囲に光の球がいくつもわいてきて、

「前方に五つほど、周囲に五つほど。これで中に入っても何があるかはわかるし魔物が出てきても気づきやすいわ」

「魔物、ですか? 俺、どうやって戦えば? この世界の魔法が俺はよく分からないのですが」

「うーん、色々とジングウジの中に設定……能力を入れたから私もうまく説明できないけれど……この世界の人になじむ形、つまりこの世界の人が使っているような魔法を使いたいのなら、そのうち魔導書を手に入れられるといいわね。その魔導書というのは、魔法の使い方が書いてある方ね」

「なるほど、そこに書いてある魔法を使えばこの世界の人のように……あれ、幾つもの種類があるのですか?」

「ええ、それは後で説明するわ。とりあえずはこの世界の魔法を知りたいなら魔導書かしら」

 といった女神さまの話を聞きながら俺は、

「そのためにはまずお金が必要ですね。魔導書はどれくらいのお値段なのですか?」

「ものによるわ。たまに洞窟の奥深くに隠されたり、誰かが落としていたりすることもあるし」

 そう気楽に言う女神様の話を聞きながらそこで俺は気づいた。

「俺、この世界の文字は読めるのですか?」

「読めるわよ。そして話せるわよ。私と話せているし。そのあたりの設定はぬかりありません。……ラノベとか漫画とかゲームの話もしたかったし」

 その理由を聞きながら俺は、自分の趣味が最優先なのかな? と不安を覚えたのだった。


 こうしてさらに奥の方に行く。

 先の方に明かりを飛ばしているとはいえ、その先は真っ暗なのだ。

 夜と言っても街頭の明かりが道を照らしていた場所に住んでいた俺には経験のない闇だ。

 黒々としたそれは、いつ何が出てくるのだろうかといった不安が付きまとう。

 と、何かが飛んでくる羽の音が聞こえる。

 耳障りな音で、虫のようだ。

 それにしては大きいような気がする……そう思っていると女神様の明りに現れたそれはトンボのような形をしていた。

 だがよく見ると目は赤く輝いていて、目の下にある顔? に当たる部分には大きな口のように裂けており、そこには大きな牙がある。と、

「あれは魔物だから、倒しちゃってね~。一番初めの戦闘だわ~」

 女神様が楽しそうに言うがそこで俺は、

「女神様、戦闘のチュートリアルはどうなっているんですか!?」

「え?」

「俺、戦ったことが無いです」

 そう、本来ゲームならあるはずのチュートリアルのようなものが今はない。

 説明がないのだ。

 そこで女神さまは俺に向かってにこりと微笑み、

「……“空間支配”の特殊能力チートで頑張れ~」

「そんな~(´・ω・`)」

 俺は困った。

 すごく困ったが考えている時間はない。

 とりあえず空間支配でどこからともなくリンゴが呼べたなら、

「火山か何かから熱を少しもらう、これでどうだぁああああ」

 というわけでそれを念じて前方に照射する様にイメージを持ちながら俺は攻撃した。

キシャァアアアア

 そんな音を立てて一瞬のうちに魔物が燃えて灰になり……何かを落とす。

 近づいてみると水色がかった灰色の石だった。

「このパターンだと魔力の塊といった“魔石”でしょうか」

「正解です。これは魔物の核となる魔力の結晶です」

「ちなみに売るといくらくらいになりますか?」

「これは弱くて質もあまりよくないから、3000コールドくらいかな」

「二つで?」

「一つで。だから二つで6000コールドかしら」

「……これを売れば1日の宿代とちょっとした食事代は出そうですね」

「そうね。でも何度も取りに来るのは大変だし、もう少し見てみましょう。それに戦闘は今の要領でやっていけばいいしね」

 という気楽な女神様に俺は、他の技も使える様にしておいた方がいいのではと思い、この世界について少し聞くことにしたのだった。


 “空間支配”の能力の関係で、遠距離にあるこの世界のものを呼び出して攻撃する。

 そこが高熱であればその熱だけでも相手を攻撃できるし、今回の場合ではいっそ溶岩のようなものを投げてもいいかもしれない。

 空間と空間をつなげることによっての攻撃を、魔法の分からない俺は、もらったばかりの出来立てほやほやな特殊能力チートを使って今回行ってみた。

 この結果から見るに、それは可能なようだったが、この世界の地理的なものを知らずに、攻撃として使えるようなものを呼び出して今後使えるのかわからない。

 俺が俺の世界にあると思われるものがこの世界に存在するか分からないからだ。

 だからこの世界について俺が女神様に聞くと、

「確かにこの世界のものを呼び出すなら知っておいた方がいいわね」

「ええ。今回は火山といったものがこの世界にあったので何とかなりましたが、俺があるだろうと思っているものが“無い”と、いざというときに魔法が使えません」

 そんな状態で魔物との戦闘になると困る。

 いざ戦闘となった時に、呼び出しができなければ困るからだ。

 そう俺が思っていると女神様が、

「うーん、でも、私、貴方の世界のラノベやゲームなんかで学習済みよ? それを参考にもしているし」

「……」

 それを聞いて俺は思った。

 海外の忍者が、“超人”か何かになっているように、何か大きな認識の隔たりがあったりしたら嫌だ。

 感じ的には、ゲームで車を走らせているから現実の車も走らせられる! といったような不安がある。

 そういえば以前知人が、時速30kmが怖いと言っているのを思い出した。

 二次元と三次元は区別しましょう。

 そういった話は置いておくとして、この女神さまが俺達の世界に実在するものを作っているかどうかは、現状では“不明”だ。

 それに俺達の世界の物は、本という名の小さな情報量の媒体にまとめきれないような沢山の、それこそ俺達すら知らないような“未知”が詰まっている。

 その小さな媒体から得られた情報で作られていると言われても、俺の望んだものが本当にそこに存在するのだろうかとも考えてしまう。

 そんな更に悩んでいた俺に女神様が、

「この世界を構築するのに必要な情報は、“天球大図書館ゼロ・アーカイブ”に全部入っているからそこからコピーして見せてもいいけれど……どうせならこの世界の地図、といったものを購入してみた方がいいかもしれないわ。余分な情報が膨大な量になって訳が分からなくなるだろうし」

「そうですか……ではせめて、この世界には雪原や氷山のようなものが存在するのか教えてください」

「あるわ」

 女神様はそう答えたのだった。


 どうやらこの世界には、雪原などもあるらしい。

 普通に寒いだけなのか極寒の地なのかによって変わってくるだろうが、そうなるとそこから冷気を取ってくるなどの方法が使える。

 氷などを呼び出して攻撃に使ってもいいかもしれない。

 なんにせよ、氷系という低温と、炎系という高温の二つのベクトルの違う攻撃方法がとりあえずは手に入ったことになる。

 この二つをうまく使えば多少の戦闘は出来る……といいなと俺は思った。

 そこで俺はふと思いついた。

「この世界で食べ物を作って売る方法があります。それで、今の時期はどの季節ですか? というか季節はありますか?」

 そう聞くと女神様が、

「あるわよ。今の時期は初夏といった時期かしら。まだ朝だからそこまで暑くないけれど、これから暑くなるわよ」

「だったらアイスクリームなども売れるのでは?」

「いいわね~。ゲームで見たことはあるわ。あそこまで色とりどりではないけれど、果実を凍らせてアイスにしたものがここではよく売られているわ。後は冷凍を行った果実も売られているわね。あ、でもそういった食べ物を売るならそういった協会に属さないと駄目よ」

「そうなのですか?」

「ええ……。食べ物の量を誤魔化したりする悪い人や、ほかにも色々あってそういった組合のようなものがあるの。でも、ギルドに入ってしまえばそういった販売や作成関係の依頼もあるから、その依頼を受けるって形にした方が初めは面倒がないかも」

「そうですか……そのあたりは、女神パワーで何とかなりませんか?」

「いざというときはそれで認識と記憶を塗り替えるから安心して」

 ニコリと微笑んだ女神様に俺は、記憶の改竄ですかと思いながら俺は、出来る限りその女神パワーは使わないように心がけようと思った。

 なんとなくとんでもない事になりそうだし。

 色々とふわっとした設定すぎなあたりも、気を付けないといけない気がする。

 そう俺が心の中で思っていると女神様が、

「今、すごく失礼なことを考えたのを読みましたよ!」

「うぐ……ですが女神様、一緒にスローライフをするのであれば、俺の心のぷらいばしーは覗かないでほしいです」

「あ~、確かに健全な男子だものね。納得したよ!」

 なんとなく、そっちの納得の仕方はないのではと思ったが、心を読まれないのであればまあいいかと思いそれ以上俺は、何も言わなかったのだった。


 これで心がのぞかれなくなった俺。

 さらに洞窟を進んでいくとネズミのような魔物が現れる。

 俺の膝ほどの大きさはないが、二匹ほど現れたのでそれらの魔物を倒して魔石を手に入れた。

 今回の攻撃に使ったのは、冷気の魔法だ。

 相手を凍らせるような攻撃はどの程度効果があるのだろうかと思ったが、空間をつなげるように考えて攻撃すると、簡単に魔物は凍り付いてひび割れ、砕け散って大気に消えるとともに魔石を落とした。

 冷気系の魔法も意外に使えるようだった。

 そうして進んでいくと、分かれ道がいくつかあり、女神様がこっちの方がよさそうとナビゲーションしてくれるので付いて行くと、草やら何やらが生えている奇妙な場所にたどり着く。

 妙に、洞窟内部の暗がりだがこの場所では、そういった葉や、謎の果実の生る木、そして石が転がっている。

 ここはどういった場所なんだろうと思っていると女神様が、

「ダンジョンの“魔力だまり”ね。魔力が特に集まる場所で、こういった植物がよく育つのよ~。そしてここではそこそこのお値段で売れる素材が採れる」

「それは結構あるものですか?」

「あまりないわね。それに場所もよく変わるし」

「という事はここにあるものは結構貴重だったりしますか?」

「う~ん、ここの洞窟はそこまで強力な魔力を持つ洞窟ではないから……そこまで貴重じゃないけれど、売れるわ」

「十分です。どれが売れそうですか?」

「そうね、まずはそこの石だけれど……」

 女神様が指さしたその先には赤い石がある。

 それを拾おうとすると女神様が、

「あ、すぐそばに“モモ草”があるから気を付けね。触ると女体化するから」

「! 気を付けます」

「まあ、女体化したら私も一緒に服なんかを探したりできて楽しそうだけれどね~」

 俺はそれを聞きながら絶対にお断りだと思った。

 なんで俺がTS(性転換)しないといけないんだと。

 俺は可愛い女の子は好きだが女になりたいわけじゃない!

 そう思いつつ石を拾ったり草を採りつつさらに奥の方に進んでいく俺達。

 女神様が言うには、これでひと月分の宿代と食事代が手に入ったらしい。

 だが回復系の薬草は売ると安いけれど買うと高いので、自分で使った方がいいのではといった話もしているとそこで、

「うう……しくしくしく」

 そのさらに奥の方から女の泣き声が聞こえてきたのだった。


 町の近くとはいえ、暗い魔物が住んでいるダンジョンの奥深く。

 何処からともなく、女の泣き声がする。

 しくしくと、それはそれはとても悲しそうに。

 だが、真面目に考えるならばこんな場所にそんな女が一人、暗がりで泣いているものなのだろうか?

 俺の知っている怪談物では、こういうパターンだと女の幽霊だったりする。

 そしてその後……。

 背筋が総毛立つような物を感じる。

 まだこの世界の季節では肌寒いのと、洞窟内だからかもしれない。

 ひんやりとした空気が俺の肌をなでる。

 不気味な予想が俺の中を駆け巡り、更に寒さが増す気がする。

 そう思って女神様に俺はおそるおそる、

「あの~女神様。この世界に幽霊はいるのですか?」

「いるわよ」

 まるで当然のように“いる”と答えた女神様。

 それに俺は震えながら、

「では、この声は幽霊ですか?」

「違うと思う。魔力を感じないしただの女の子が一人泣いているだけだと思う」

「……何故こんな場所で」

「さあ? もしかしたら悪い冒険者に騙されて、置いてきぼりにされたとか?」

 女神さまがそんな風に、困ったわというように言うものの、そういった事情だとするとと俺は考えて、

「……それだと可哀想なので早く、声をかけておこうと思います」

 その可能性を考えると早めに入り口まで連れて行ってあげた方がいい、そう俺は思って声のした方に近づくと、

「暗いよ……寒いよ……怖いよ……うう」

 といった声が聞こえる。

 寒くて暗くてと嘆いているようだ。

 これで幽霊だったらホラーだなと俺が思いながら向かっていくとそこで、

「あ、明るい……暖かい気がする……ああ、どこかに飛んでいきそう」

「えっと、すみません。もしかして誰かいますか?」

 発言がいよいよ怖い感じになってきたので俺は近づいて(女神様の光が俺の周りにあるので)問いかけると、

「だ、誰かいるのですか? さ、さっきの怖い人たちですか!」

 焦ったような女性の声がする。

 声の雰囲気から、俺と同年代の女の子のようだ。

 だがどうも、あまりよろしくない人物たちと出会い、その人たちではと俺も警戒されているらしい。なので俺は、

「え? いえ、初対面ですが」

「あ、たまたま来た方ですか? よかった、あの、えっと……出口まで案内していただけないでしょうか」

 そこで、俺の目の前に金髪碧眼の美少女が涙目で現れたのだった。


 金髪碧眼の美少女が涙目で現れた。

 こんな美少女二次元でしか見たことが無い。

 言葉では表現しきれない美しさというか……。

 この女神様も綺麗だったけれど、この少女もすごく美人だ。

 白い肌に金色の糖蜜のような髪。

 青い瞳は澄んだガラス玉の様だ。

 明りに輝く金色の髪が、彼女自身が光り輝いているような錯覚を受ける。

 そして青い瞳にうるんでいる涙は、宝石のように光り輝いている。

 異世界に来ていきなり二人の美少女と遭遇してしまった。

 これも女神さまのかごの影響があるのだろうか?

 この子はハーレム要員の一人になるのだろうか?

 と考えつつ、そんなことを考えている場合ではなかったと俺は思う。

 でもそんな美少女が何故このような場所で泣いているのか。

 これだけの美少女なら守ってくれる男の一人や二人はいそうなものだが。

 つまり、ここにいる少女は、

「……やっぱり幽霊か」

「ひいっ! お化け、お化けがいるのですか!?」

「いや、君が幽霊かと」

 焦って幽霊におびえ始めた彼女にそう俺が聞くと、彼女はさらに涙目になった。

「ち、違います。私、幽霊じゃありません。人間です!」

「あ、えっと、はい。女神様……所で女神様はこの世界の人物はすべて把握しているのですか?」

 そこで自分が人間だと主張し始めた彼女に関して、そういえば女神様は誰だかわかるのだろうかと思い俺は聞いてみた。と、

「検索すれば分かるわよ。と言っても最近凄い事になってみていたから、この子が誰だか知っているわ」

「すごい事ですか?」

「婚約者が別の女に走って婚約破棄されて、確か私が見た時は家出する準備をしていたような」

「……いつの話ですか?」

「昨日の話よ」

 ずいぶん最近の話だった。

 するとそこで美少女が女神様の方を見て、

「女神様、女神様なのですか!? 女神様ならなんでこんなひどい目に私は合う事に!」

「ごめんなさいね。あまりこの世界の事にはよっぽどのことが無い限り干渉しないことにしているの。でも、家出した時誰も気づかれないように手助けしたでしょ? それにここまで逃げてこれるように、色々と特殊な道具も持って逃げれれるようにしたし。……それはもう使えないけれど。でも様子を見ている範囲では、あのままだと貴女、無実の罪で軟禁されそうだったのもあって、ちょっとだけ、ね」

 などと女神様が言い出したのだった。


 この美少女は、無実の罪で軟禁されそうだったらしい。

 それを女神さまはいろいろと手助けをした、といった話だそうだ。

 しかし、昼ドラかというようなドロドロ展開だなと俺が思っていると、

「私、私、何も悪くないのに……酷い目にばっかり合う……今日だって、お金は落としちゃったし。しかもお金が足りなくなりそうだから冒険者の人にここに連れてきて貰って何かを手に入れて、少しでも生活費の足しにしようと思ったら、いきなり襲われて……だから返り討ちにしたら、ここに置いてきぼり……うう」

 ぶつぶつ、自分のこれまで、おそらくは昨日今日の間にそういったこともあったらしい。

 ものすごい美少女ではあるが、その分、薄幸属性も兼ねそろえているようだ。

 気の毒にと思いながら、ふと気づく。

 つまり俺の能力は、“空間支配”能力である。

 しかも持ち主が分かっているのであれば、“盗む”事にならない。

 きっとこの使い方は、正しいだろう。

 というわけで俺はその目の前の少女に、

「えっと、その落としたお金は、財布に入っていたのか?」

「はい、お財布に入っています。財布は水色の縞模様に、黄色い花が刺繍とビーズでつけられたものです。……私が作りました」

「手先が器用なんだな。一点もの?」

「はい」

 どうやら小物を作ったりするのは得意であるらしい。

 その能力を生かして生活していけたりしないのか? と思いつつも俺はさらに、

「ほかに何か特徴は?」

「財布の中に、髪を止めるピンが一つ入っています。青い鳥をかたどった宝石が一つついています」

「なるほど、よし、挑戦だな」

 俺はそう呟いて念じてみる。

 先ほどのリンゴを呼び寄せた時と同様、特殊能力チートを使う。

 イメージしたのは、彼女の言うような水色の縞模様に、黄色い花が刺繍とビーズでつけられたもので、中には青い鳥をかたどったピン……。

 ぼんやりとイメージが形になっていく。

 まるで目の前にそれがあるように感じる。

 そんな奇妙な感覚を俺は覚える。

 目の前の不幸な少女は不思議そうな顔で、そんな俺を見ている。

 女神様も面白そうにこちらを見ている。

 そして俺は特殊能力チートを使おうと強く思った。

ポトン

 目の前に先ほど少女が言っていた財布が落ちてくる。

 少女はしばらく凍り付いたように動かなかったがすぐに、

「わ、私のお財布ぅうううう」

 嬉しそうにそれに飛びつき、中を確認したのだった。


 とりあえず少女とお財布を再会させた俺。

 こんな簡単に目の前に呼び寄せられるのかと思う。

 それに上手く特殊能力チートを使えたようだ。

 そして目の前の美少女は一転笑顔になっている。

 美少女の笑顔という破壊力満点な攻撃を目撃した俺の話は置いておいて。

 彼女はすごく喜んでいて、すぐに彼女は中を確認すると、

「青い鳥のピンもあります。よかった……これ、お気に入りなんですよ。よかった……ありがとうございます」

「いえいえ」

「でも今の、どうやったんですか?」

 そう聞かれた俺だが、自分の能力をそんなに簡単に話していいものなのかと思ってつい黙ってしまう。

 こういった能力はそう簡単に話すべきものではなかったり……するのかな? と俺が考え込んでいると女神様が、

「ふふふふふ、あれは私がジングウジに与えた特殊能力チートなのです」

「! そうなのですか!? 私にもください!」

 そこで女神様は少女に困ったように、

「あら、でも貴方、もうすでに持っているじゃない」

「でももっと良いものが欲しいです」

「隣の芝生は青く見えるものよ。その能力で頑張ってね」

「そんな~」

 少女ががっかりしたように言う。

 どうやらこれ以上特殊能力チートを彼女に渡すつもりはないらしい。

 だが、とりあえず元気を取り戻したみたいなのと、色々採取できたので、

「そろそろ入り口に戻りましょう。必要なものは集まりましたから」

「そうね、一か月分の生活費にはなりそうだし」

 といった話をしているとそこで少女が俺の方をじっと見た。

 俺の身長差からでは、彼女が下から何かを訴えかけるように見上げる構図になっている。

 その、雨の中に段ボール箱の中にいる子猫のようなものを見てしまっている感覚に陥った俺は、少し黙って考えてから女神様に、

「ここでは俺は好きにしていいのか?」

「大体のことはそうよ」

「……えっと、それじゃあ、一緒に来る?」

 俺が目の前の少女にそう声をかけて手を伸ばすと、少女は俺の手を両手でつかみ、

「王子様……」

「え? いや、俺はただの……」

「一生、付いて行きます」

 俺は何かを早まったような気がしたのだった。


 こうして薄幸な美少女が一緒に来ることになった。

 ようやく笑顔を見せ始めた彼女。

 だが彼女のここ数日の出来事は不幸極まりない。

 そこまで考えて俺はだ今更ながら気づく。

「逃げてきたなら、変装をした方がいいのか? かつらだったりサングラスだったり服装だったり。それとこの近くの町にはいかない方がいいのか?」

「あ、近くの町にはいっても大丈夫です。逃げるために幾つもの、転送陣をくぐって、途中追ってこれないように魔法で攪乱したり色々したから大丈夫なはずです。その転送陣自体も結構遠距離にあるのを移動して、使ったりしましたから」

「そうなのか。もしかして……ここに来た時も、襲われて撃退していたというから魔法なんかは結構得意なのか?」

「はい! 普通の魔法であれば! 攻撃から治療系まで一通り。こう見えても公爵令嬢ですから!」

 そういってドヤ顔になった少女だが、俺はここでどうやら偉い貴族のお姫様らしい? と気づいた。

 そんな子だったとはと俺が思っているとそこで、

「あ、えっと、そういえば自己紹介がまだでしたね。私の名前は、ル……」

 と自己紹介を始めようとした所で女神様が、

「ルナ・バイオレット、公爵令嬢。ただし現在、その地位の剥奪がなされかけているかも~。美人だけれど色々と抜けているのでミスが多く、誤解されやすい性格~。根は良い子だから問題なし」

「……女神様は、本当に女神様なのですね。私の性格まで全部言い当てました」

「そうよ。ただ今の情報は、検索を行ったけれどね」

「けんさく? よく分かりませんが、そうなのですか」

「そうそう」

 頷く女神様だが、この公爵令嬢のルナは検索がよく分からないらしい。

 この世界では珍しい概念なのかもしれない。

 この女神様の場合は、ゲームから仕入れているので知っているだけかもしれないが。

 そう思っているとそこでルナが、

「私も幾らか薬草を摘んでいきますね」

「あ、そこにあるのは、毒草よ」

 女神様が指摘してルナが焦ったように、

「え、ええ! で、でもこれ……」

「うーん、よく似ているけれど区別しないと。ほら、後ろの方の葉が白いから……」

「あ、本当だ。触ったらうさ耳が生えちゃいますね」

 ルナが一人頷くのを見ながら、うさ耳が生える毒草があるのかとこの世界の新たな情報について俺は知ったのだった。


 異世界ではうさ耳の生える毒草があるらしい。

 さすが異世界と俺は思う。

 だが果たしてそれは毒草と言っていいのだろうか?

 二次元限定で女の子に獣耳が生えるイベントを目撃しており、それが可愛いという事を経験的に知っていた俺は、

「コスプレイベントみたいなのに使えないか? それ」

「使えるわね。その内、そういった何かに使えるかもしれないけれど……素手で触ると、それだけで生えてくるのよね。だから回収するのも難しい草だったはずよ。そんなに手軽には使えないから放置な所もあるのではなかったかしら」

 女神様が困ったように俺に言うが、確かに触ったら生えてくるのであれば触れない。

 だがそれは素手の話だ。

 そうなってくると、

「ハンカチでつかんで回収しておくのはどうでしょう。そういえば乾燥させても同じ効果が?」

「得られたはずよ。ただ弱くはなった気がするけれど……うんうん、それであっているわ。素手でさえ触らなければその効果は得られない。でも摘み取った時点で効果は減ってきて……乾燥しても使用期限は三か月程度であるらしいわ」

「そうなのですか。でも三か月もあればイベントに使えそうだ」

 そういいながら俺はハンカチを取り出す。

 どうやら女神様は検索を行ってくれたらしい。

 詳しい情報が手に入ったのはよかった。

 というわけでとりあえず、うさ耳が生える草を俺は手に入れた。

 だがうさ耳が生えるとなると、

「もしや猫耳が生えたりする草も?」

「あるわよ。それに女体化する草も」

「いえ、女体化する草は結構です」

「でも以外にジングウジ、可愛くなそうな気がするけれど」

 その一言に俺は頭痛がしつつ遠慮した。

 先ほどそういったものに触りそうになって焦ったことを思い出したのだ。

 そう、俺は女の子が好きなのであって女の子になりたいわけではない……以下略。

 そしてそれらのものを一通り集めて、ルナにも売れそうな石をいくつか集めてもらい、

「さて、そろそろ町に言って手に入れた品を売ろう」

 という事で出口に向かう。

 女神様が出口はたぶんこっち、というので付いて行くと……先ほどとは違う出口に出た。

 ただ綺麗な泉がすぐに沸いていて、それを見た女神様が、

「この水、妙な効果と回復効果があるわね。持っていけないかしら」

「でも俺は何も持っていないですよ?」

 そういうと女神様が、

特殊能力チートを使いましょうよ」

「……いえ、それはちょっと」

 といった話をしているとルナが、

「あの、これ、どうぞ」

 小さな小瓶を差し出したのだった。


 ルナの持っていた小瓶を借りてその水を採取した。

 綺麗な透明で新鮮な水。

 これは回復効果があるらしいが、

「女神様、これは売ってしまった方がいい類のものですか?」

「そうね……これから戦闘になることもそこそこあるだろうし、回復系は取っておいた方がいいかもしれないわね。……変わった効果もあるし」

「変わった効果?」

「ええ」

「ふぎゃあああ!」

 そこで女神様が何の効果があるのか説明しようとした所で、ルナが悲鳴を上げた。

 よく見るとそこにはネズミの様な魔物がいて、それを見てるルナは半狂乱と言っていいような状態になったらしい。

 そしてそのままルナは震えながら何か呪文を唱えると、

「“業火の球”!」

 そう叫ぶとともに炎の球が五十個以上現れて、一斉にそのネズミの魔物……一匹に飛んでいく。

ゴガガガガガ

 炎の球が連続してそのネズミのいた周辺に当たって大きな音を立てる。

 炸裂していく大量の炎の球。

 赤い大きなキャンプファイヤーでも見ているような錯覚を覚える。 

 それくらいに炎が赤く大きく燃え上がっていた。

 それを見ながら俺は女神様に、

「こんな攻撃をしないと倒せないような敵なのですか?」

「いいえ、もっと低級の魔法……“炎の花弁”くらいで十分倒せるのだけれど、ほら、ルナはこう……怖がりな所もあって。現れた魔物が怖くなって少し本気を出してしまったのかしらね」

「……なるほど」

 俺はルナの様子を理解した。

 魔物が出てきて怖さに混乱してあんな派手で強力な魔法を使ったのだろう。

 臆病だが思いっきりがいい性格なのだろうか?

 それに戦闘になれていない部分があるのかもしれない。

 そもそも公爵令嬢が戦闘になれている状況の方がおかしいのだ。

 貴族の令嬢が率先して戦闘に参加するのは……俺の世界の二次元くらいになるのだろうか?

 もっとも世界は広いので、そういった話があるかもしれないが。

 とはいえそういった事情を鑑みるに、当然の反応なのかもしれないと俺が思っているとそこでルナが、

「うう、またやっちゃった」

「また?」

「はい。魔物と出会うとこんな風になっちゃって。もっと落ち着け、って言われるんですけれど……無理」

「……あ~えっと、これから少しずつ頑張っていけばいいんじゃないかな」

 俺はそうフォローするとルナが俺を見上げて、微笑み、

「優しいんですね」

 そう言ったのだった。


 こうして何かのフラグを立ててしまったような気がしつつ俺は、その水を手に入れた。

 この世界がゲームのように魔法があるからと言って、そんなものがありのお約束のように手に入れたものが必要になるなんてことはない……と思いたい。

 とはいえ、あれば便利なのでそういった意味で使うことになるようにと俺は思った。

 だって戦闘などには俺はなれていないのだから。

 そう俺は思いつつ更に泉の周りを進んでいくと外の明かりが見えた。

 ここが出口だろうかと思い すぐそばに入り口のような場所がありそこを出ると、そこは出口ではなかった。だが、

「あ、ここからだと町が一望できるな。俺が今まで歩いていた所は、空と森と山しか見えなかったのに」

「そういえばそうね。ジングウジ、あそこに細い道があるからそこから街道に出られそうね」

 女神様がそういうので、俺たちはその細い道に向かって歩き、しばらく暗い森の中を歩くと目の前が開けるように明るくなり、街道に出た。

 そこそこ人が行きかっているのが見えるが……。

「なんだか知らないがお腹が空いてきた」

「それは当然の反応ね。この世界の人間と同じようなものになっているから」

「そうなのか? これが女神様の設定?」

「そうです。今はお昼時かしら……これを換金して、町で美味しいものを食べましょう!」

 機嫌がよさそうな女神様だけれど、そこで俺は気づいた。

「美味しいものって、どこのお店が美味しいか女神様は分かっているのですか?」

「もちろんよ! 今日この日、グルメツアーをするために調べておいたんですから!」

「そ、そうですか……」

 俺はそう答えながら、スローライフって何だろうと思いつつも、美味しいものの誘惑には勝てなかったので付いて行くことに。

 まずは換金をする場所だけれどそこで女神様が、

「ギルドに登録しないとあっちの換金場所は使えなかったから、普通の場所でいいわね」

 とのことで、女神様に案内されつつまずは持っていた石などを売って、現金が手に入る場所に俺たちは向かったのだった。


 手に入れた石などを女神様に案内された換金場所に持っていくとそこそこのお値段になった。

 女神様のお願いもあってか、いいお値段で買い取ってもらえたらしい。

 女神様が言うにはあそこの監禁場所の主人はどちらかというと善良な方だそうだ。

 こうしてダンジョンで手に入れたそれらを売ると、三人でひと月程度宿に泊まれるまとまったお金を手に入れた。

 意外にもこの世界では高価なものもあったようだ。

 とりあえず自己のお金は自分で管理という事で、三等分して分けるとルナが、

「あの~、私もこんなに貰っていいのですか?」

「手伝ってもらったしそれくらいになるんじゃないのか? 山分けすると」

「……ありがとうございます」

 そういって嬉しそうに微笑むルナを見ながら、特に俺は間違えていないよなと思う。

 三人だから三等分で自己のお金の管理。

 やはりおかしなところは何もない、はず。

 だからルナの様子が変な気がしたのは気のせいだろうと俺は片づけた。

 それから俺達はまずは何か食べようか、といった話になり、女神様がやけに張り切って、

「任せて! 今日という日のために私は沢山のお店を調べてきたの!」

「そ、そうですか。では女神様、よろしく」

「ええ。……それと女神様と呼ぶのは止めてもらおうかしら。目立ちすぎるわ」

「確かに街中で女神様と呼ぶのは……そういえば女神様の像があったりするのですか? もしそうなら姿でもバレますが、隠したりしているのですか?」

「そうね……でもいらぬ混乱は必要ないから隠しておきましょうか。それと名前はこの世界での私の名前で十分ね。みんな使っているし。結構沢山いたはずよ」

 そう女神様は笑う。

 この世界には女神様の名前を持つ女性……女性? が沢山いるらしい。

 どうやら女神様は自分の名前が使われても平気な性質であるらしい。

「どんな名前なのですか?」

「ミネルヴァよ。そう呼ばれているわ」

「そうなのですか。そういえば、名前を教えてくれるなら、もう少し早くてもいいのでは?」

「そういえばそうかも。ジングウジの様子をしばらく見ていたから、初めてあった気がしなくてね~。つい全部忘れていたわ」

 そこで俺は、この女神様にしばらく観察されていたらしいという驚きの事実を聞く。

 だから俺は焦って、

「え! い、一体いつから俺のことを見ていたのですか?」

「そこそこ前からだよ~。だから、ジングウジがエッチな本を部屋のどこに隠しているのかすらも、私は知っているのよ~」

「……」

 俺は沈黙した。

 それは知らなくてもよかった話のような気もする。

 何が楽しくてこんな女神様とは言え美少女に、隠していたいものを目撃されなければいけないのか。

 そう思っているとルナが不思議そうな顔で、

「あの~、ジングウジさんは、その……」

「ジングウジでいいよ」

「で、では私もルナと名前の呼び捨てでお願いします。そ、それでですね、ジングウジは、どうしてこの世界でだれもが知っている女神様の名前を知らなかったのですか?」

「ああ、それは……女神様……ではなくて、ミネルヴァ、話してもいいか?」

 とりあえず俺を呼んだ女神様にそう聞くと、頷くので、

「俺は異世界から、女神様に呼ばれてきたんだ」

「……本当ですか?」

「あ、ああ……」

 そう答えるとそこでルナが真っ青い顔になり、

「これから魔王復活とか天変地異が!?」

「いや、スローライフを楽しんでみたいとか、異世界人を呼んでみたいといった理由らしい」

「そう、なのですか?」

「だと俺は思っていたけれど……ミネルヴァは違うのか?」

 そう俺が聞くとミネルヴァは笑って、

「ジングウジの言う通りの予定よ。しばらくゆるゆる過ごす、そう思って彼を呼んだの」

「そうですか……よかった……いえ、最近魔王が復活したって妙な噂があるのですよね」

「ああ、そちらは勇者たちにお任せしているから大丈夫なはずよ」

「……それはひょっとして魔王が復活している?」

「しているわよ?」

 ミネルヴァは、ルナの疑問にあっさり答えたのだった。


 どうやらこの世界では魔王が復活しているらしい。

 それはおそらく、世界の危機的なものだろう。

 ファンタジーにありそうなネタである。

 王道と言っていいかもしれないがそうなってくると、

「俺、魔王を倒しに行ったりしなくていいんですか?」

「すごく強いうちの勇者様達が頑張ってくれるはずよ。あの子達にはそれだけの力があるようにしておいたはずだし。ちなみに以前の選択肢で男同士で仲良くなるを選択すると、ついていくことになって、魔王を倒しに行く別の物語が始まるけれど……」

「スローライフ、いいですよね!」

 俺は即座にそう答えた。

 やはり経験もないので戦闘はしたくない。

 それに痛いのも嫌なので、今の子の緩い感じがいいと俺は思った。

 そう俺が一人納得しているとそこでルナが焦ったように顔を蒼白にさせながらミネルヴァに、

「ま、待ってください。魔王が復活していたって大ごとじゃないですか! この世界の存亡の危機なのでは!」

「うーん、でもそれを頑張ってもらうのが勇者の子たちだし、まだまだここは遠いから影響はないと思うわ」

「で、でもなんで魔王なんて……」

「世界を作る時の構造上の“欠陥”のようなものかしら。ちなみに魔王が世界を支配して人間が死滅すると、そちらの魔族の方が人間と入れ替わってまた別の魔王が生まれる仕組みになっているの。正確には属性反転が関わってくるのだけれど……というわけで頑張ってもらいましょう」

 とのことだった。

 ミネルヴァにとってはこの世界のシステム? のようなものであるらしい。

 だがそれは勇者たちがすることであって俺がするのは別のことのようだ。

 それにルナは、顔を真っ青にさせつつ、それって婚約破棄とかしている場合じゃないんじゃとブツブツつぶやいていた。

 やがて大きな人の歩いている道をしばらく歩いていくと、鍋をモチーフにした看板のお店にたどり着く。

 その店の前にやってきてミネルヴァが、

「今日はここでお鍋を食べようと思うの。四人前からだけれどいいわよね。そんなに高くないし。男の子もいるからきっと食べられるはず」

 そんなミネルヴァの話を聞きながら俺は、

「何の鍋なのですか?」

「白身魚よ~。この近くの海でとれる魚で“白マグロ”という魚があるのよ」

 ミネルヴァが嬉しそうに話しているがそれを聞いていた俺は、マグロが白身魚になったようなものなのか? と思ったのだった。


 こうしてお店で四人掛けの席に座り、お昼から鍋を食べることに。

 俺と向かいあうようにして、ミネルヴァとルナが座っている。

 女の子に隣に座れと言えない俺は、普通だと思う。

 そしてぐつぐつと煮立っている鍋に白身魚と、野菜が幾つも入っている。

 ニンジンのようなものや白菜のようなものなど、俺にとっても見覚えのあるようなものばかりでよかったと思う。

 魔法のコンロのようなものがあり、俺達の目の前で美味しそうに煮えていて……においもたまらない。

 店員さんがそろそろ食べていいですよと声をかけてくれたので、それらを小皿に取りながら、俺はまず、その魚を食べていると、

「こ、これは、生臭みが全然ない。やわらかい魚を一口噛み締めれば、ジワリとうまみがあふれ出し口いっぱいに広がる……うまい」

「でしょう。ここの地域のお魚はおいしいですよね」

「そうなのか? それは知らなかった。ここに来るのが初めてだから」

「他に“バラサバ”とか美味しいものがありますよ。お魚が美味しいのは良いですね」

「そうだな……所で一つ聞きたいんだが」

「? なんでしょう?」

 そこで俺は自分の隣にいつの間にか座って俺たちの鍋を食べていた猫耳少女に、

「誰だお前」

「! な、なんで、私の特殊能力チートが効いていないのですか!?」

 当たり前のように鍋をよそって食べていた謎の猫耳少女は、そう言ったのだった。 


 いつの間にか俺の隣に座って、俺たちと一緒に鍋を食べていた猫耳少女。

 この鍋料理自体が盛がいいのと、俺以外が女の子なので食べる量が少ないからこれを全部食べ切れるのだろうか? 大丈夫かと思っていたが、一人増えて食べている量もこれくらいなら丁度いい。

 これなら残さずにこの鍋を食べ切ることができそうだ。

 といった理由から、顔を青くして、取り皿をもって固まっている猫耳少女の皿に俺は魚を一切れ鍋から取り出して入れてから、

「ちょうど四人前だったから、これなら残さずに食べられそうだ」

「え? あの……よろしいのですか?」

「食べる速度を考えると、ミネルヴァもルナも、あと一人分は食べられないだろうし。……そもそも一人前がここ、多すぎる気がするからな……。残すのももったいないし」

 そういって俺が二人を見るとミネルヴァが、

「そうね。確かにこの人数でちょうどいいわ」

「私も……一人前でも大沖くらいで他の人の分まではちょっと。そう考えると、人数的にも丁度良いかもしれませんね」

 ルナもそう答える。

 ミネルヴァもルナも納得しているようだった。

 そこで猫耳少女は困った顔をした。

「変な人たちですね。ですが、お腹が空いているのでありがたく頂戴いたしますが」

「うんうん、あ、そうだ。せっかくだからここの町で美味しい魚や食べ物について教えてくれ。しばらくここに滞在するからお買い得情報とか」

 どうせなら、ここ一帯に詳しい……かもしれない現地の少女にここの町についての、実際の話を聞けた方がいいだろうと俺は思ったのだ。

 もしかしたなら現地の人しか知らないような、お買い得情報があるかもしれない。

 そう俺が思って聞いてみると猫耳少女が、

「それなら構いませんよ。食べ物の情報ですか? それとも武器とか……就職関係ならギルドに行ってしまった方が早いですよ。他には何かあるかな……」

「家賃が少なくていい部屋とか、宿代が安くていい宿がまずは知りたいかな」

「あ、それなら幾つか知っていますが……四人部屋ですか? 三人部屋は知っている範囲でないですからね。大体、一日当たり3500コールドが一部屋当たりの相場でしょうか」

「そうなっちゃうか。ちなみに一人部屋だと幾らだ」

「2500コールドが最低のお値段です」

「男女別の部屋にしたいが、節約を考えるとどうだ……」

 そう真剣に考えているとそこで、猫耳少女がうめいた。

「これは、もし、本当にそういったことが気にならないのでしたら……なのですが、値段という利点だけで考えるならば、ひと月当たり3000コールドで住める宿があります」

「……安すぎるんじゃないか? それ。一日当たりの宿代と同じ……」

「はい。それには理由がありまして。その……その家には“幽霊”が住んでいるのです。それもずっと昔から」

 猫耳少女がそう呟くとそこでミネルヴァが思い出したように手を打ち、

「そういえば、“お化け屋敷要素”も入れたわ」

「え?」

 ミネルヴァの言葉に猫耳少女が変な顔をするが、そうなるとこのミネルヴァにお願いすればお化け屋敷は何とかなりそうな気がするので、

「それでその屋敷はどこにあるんだ?」

「お化け屋敷ですか? ……ギルドに言えば紹介してもらえると思います」

「そうなのか。いい物件が手に入ったな」

 俺は一人頷いているとそこで、

「お化け屋敷ですよ?」

「俺、幽霊は信じない主義なんだ」

「はあ、そうですか。ではそろそろいただいていいですか」

「ああ。あ、せっかくだからこの地域の美味しい魚なども教えてくれ。できればお薦めの物がいい」

「そうですね……では、魚とそしてお店のおすすめをしましょうか」

 というわけで猫耳少女のおすすめの魚やお店などの情報を大量に仕入れつつ食事を終えて、

「それではまた食べに来ますね」

「ああ」

 というわけで俺は見送ったのだがそこでルナが、

「あの、また、あの子はたかりに来るつもりの様ですが」

「あ……その時はバーゲンセールの情報でも聞くか。そういった情報があると便利だし」

「……それもそうですね」

 といった話をしたのだった。


 こうして謎の猫耳少女が俺達の中に紛れ込み食事をしていったわけだが。

「結局あの猫耳少女の名前と能力は聞きそびれてしまった。初めは隣に座られたことなんて全然気づかなかったからな」

「紛れ込んで食べているんだし、自分で言ったりしないと思うわよ」

 ミネルヴァにそう言われて俺は、確かにそうだなと思いつつも、俺自身にも特殊能力チートがあるので、親近感がわいたためか、

特殊能力チートと言っていましたが、どんな能力だったのかは知りたかったかもしれない」

「そうなの? 普通の特殊能力チートだったわよ」

「……特殊能力チートなのに普通なんだ」

 俺は別の意味で突っ込みを入れると、特殊能力チートにも種類があるのよと付け加えてからミネルヴァが、

「でもジングウジの能力の方がレア中のレアというか、すごい能力だと思うけれど」

「そうなのですか? 今一どう使おうか迷う感じではあるのですが」

「色々と応用が利く分、選択が必要かもしれないからね。アイデア次第で面白いことができそう。頑張ってね」

「そのアイデアを出すのが一番大変なんだけれどな……それであの猫耳少女の能力とは?」

 そこで俺が聞くとミネルヴァが笑う。

「“その他のスキル・モブ”。相手の認識を操作して仲間に入り込んでしまえる能力よ。それで自然とジングウジ貴方の隣に入れたのね」

「なるほど。でも俺、すぐに気づきましたよ?」

「それは貴方のレベルが高いからじゃないかしら。結構能力は、盛って、盛って、盛って、盛りまくったはずだから。これで、俺つえええええ、が出来るわよ?」

 それを聞きながら俺、今どうなっているのかなと思いはした。

 だがすでに漫画、ラノベ、ゲームで最強主人公について学習済みの俺は、その知識を生かすべく行動しようと決めた。

 そこでミネルヴァの行き先についていった俺は、

「そういえば今、どこに向かっているんですか?」

「ん? そういえば言っていなかったわね、ギルドよ。まずは身分証明カード代わりのギルドカードが必要だし。でもそういえばルナはどうする?」

 ミネルヴァがルナに聞く。

 そういえばルナは逃げてきたのだと思い出したけれど、そこでルナが、

「ギルドカードは持っていませんが、本当の内容を記すと故郷の人に知られてしまうので、無理ですね。だから私は登録できません」

 そういって悲しそうにうつむいたルナだが、そこで女神様が思い出したかのように、

「……そういえばジングウジもこの世界の人間ではないし私も女神だし、本籍地がないわね。……どこを本籍地にするのがいいかしら。最果ての地の村といって適当にでっちあげようかしら」

「そういった嘘を書くと、ギルドカードを作る時の用紙が爆発するのでは」

 ルナがさらっと怖いことを言ったがミネルヴァが、

「実は抜け道は結構あるのよね~。それにこの私、女神ミネルヴァの名にかけて、人間ごときにばれないようにすることなんて造作もないわ。余裕、余裕~♪」

「……何をなさるつもりなのでしょうか」

「書くときにちょっとした“偽情報”を投入すればいいの。大丈夫よ、私は女神ですもの。いくらでも書類を偽造ねつ造、できるわ! 大抵のことは“力技”で何とかするから安心して」

 そうドヤ顔で告げた女神様だが、そこは自信満々に言っていいところなのだろうかと俺は思った。

 だが俺はこの世界の人間ではないので、そういった本拠地も何もないので……ギルドカードは作れないだろうから、女神であるミネルヴァの力が必要だった。

 そもそもこの世界を作った女神様が保証してくれるのだから、何の問題もない。

 だからそれ以上俺は何も言わず、ミネルヴァに案内されてこの世界、この町のギルドにやってきたのだった。


 やってきたギルドは、木組みの家に見えた。

 木を骨組みにして、その間にレンガなどを敷き詰めるなどをしているらしい。

 そのレンガ部分は見えないように白い漆喰のようなものが塗られているが、所々はがれていたり、一部修理中の看板が掲げられていた。

 ちなみにこの建物は四階建ての結構大きな建物だ。

 そしてこの一帯は繁華街であるらしく、どこもそれぐらいの高さがある。

 見上げると家の大きな壁と窓が周りを覆っていて、人の沢山いる場所のように空が小さく切り取られているように見える。

 そんな人の気配を感じながら俺は再び目の前の建物に目を移した所でミネルヴァが、

「ここがギルド。さあ、登録しましょう」

「ミネルヴァ、そ入れで俺はどうすればいいんだ?」

「そうね……とりあえず一枚ずつ紙をもらってきて、それから名前を書いてもらえばあとは私が細工するわ」

 ミネルヴァがあっさり言い切ったが、俺としては、

「俺、この世界の人間の名前が書けないのですが」

「かけるわよ。読み書き両方翻訳出力機能を付けておいたし」

「……ありがとうございます」

 そのあたりの設定? はやってもらえたらしい。

 だが翻訳機能というと、まるで自分が“ロボット”か何かになったような気がして便利な反面なんとなく嫌だなと、贅沢な気持ちになった。

 とはいえ方針は決まったので、まずはギルド内に入る。

 現在の状況では、この初心者がと絡んでくる冒険者はいなそうだ。

 ……そもそも物語の中では、そういった冒険者はいるが現実にこの世界に存在するかは不明だ。

 二次元と三次元を一緒にしてはいけない。

 いくら俺が二次元マスターであるからと言って、現実と空想を一緒にすることはないのだ。

 そう思いながら、一階の初心者受付に並ぶ。

 お昼時を少し過ぎたとはいえ、結構混んでいるようだった。

 ただ紙を渡すのと、その紙を受け取り別の紙をもらって上の階に行く人が並んでいて、しかも一つしか窓口がないから若干混んでいるように見えるだけかもしれなかった。

 他にも窓口があるが現在は締まっている。

 まだお昼休みなのかもしれない。

 そして俺たちの番が来て紙をもらい、備え付けの書き込みスペースまでやってきて、

「ジングウジタロウ……よくわからない文字が書かれたが、読める、読めるぞ!」

「これが女神様の加護です。凄いでしょう~」

 ミネルヴァがドヤ顔だ。

 それを見ながら俺は、確かにすごい能力だと思ったので頷いた。

 だがそこでルナが眉を寄せて、

「どうしましょう、私の名前は名前自体で、どこの誰か分かるようになってしまっています」

「公爵令嬢だから仕方がないわね。適当にルナ以外の名前は考えなさい。それでも通るから」

 とのことでルナは、名前を考えるのに数分を要すことになった。

 そしてそれらを書いた後ミネルヴァが、

「まずは認識疎外の結界を使って、紙が貰えるかしら」

 というわけで紙を渡すと何やら文字を書き込んで、

「これで大丈夫なはずよ。行きましょう」

 結構簡単にできてしまった。

 こんなで大丈夫なのかと俺が不安に思っていつつも並んで紙を渡す。

 特に何かを聞かれることもなく、何の問題もなく素通りした。

 そして受付の人に上の階で、魔力などのデータを測定してくださいと紙を渡される。

 見ているとミネルヴァとルナもそうだった。

 こんなに簡単でいいのか、それともこれが女神パワーなのか。

 ただここまで上手く進んでいくと、

「スローライフの道は結構近そうなのかな」

「そうよ、この私が全力サポートしているわけだし」

「お金……」

「女神様にもミスはあるわ。さあ、上の階へ行って測定してきましょう。そうすればギルドカードが手に入って仕事だって家だって借りれるわよ」

 そうミネルヴァが楽しそうに言っていて、今のところはそこまで大変な事態になっていないなと俺は思ったのだった。


 こうして俺たちはギルドで魔力等を測定してもらうことになった。

 ギルドで魔力の測定と聞くと、やはり心が躍るものがある。

 いったいどんなふうになるのだろう?

 女神様が色々と設定を盛っていてくれているのである意味で楽しみな部分でもある。

 果たして、俺の能力は測定されてどうで……とそこまで考えて、女神様はとお六の時にある程度の事はしてくれるだろうから……そのままの値では出ないかもしれないと気づく。

 そもそもこの世界の人間でない俺は目立たない方がいいだろうから。

 それでも測定されるのは初体験なので、楽しみだと頭を切り替える。

 まずは一番初めに各々の魔力の登録があるらしい。

 という事で、俺もさっそく登録してもらうことになったのだが、

「こ、これは!」

「な、何か問題が……」

「いえ、あまりにも無個性すぎて、魔力はきれいなのですが……影が薄い?」

「……そうですか」

 なんとなくうれしくないような評価をもらった俺だが、その無個性さが逆に個性になる? という逆説的な理由で登録は出来るらしい。

 また更に無個性な魔力は女神様であるミネルヴァだそうだ。

 純粋な魔力二に近いのは女神だからよと後で自慢げだった。

 逆にルナの方はというと、

「すごく個性的です」

「は、はあ」

「これは以前、サンプルとして見せてもらった公爵家の方のものによく似ていますね」

「……」

「まあ、こんな所にいるはずがないので似ているなっというだけですよ。でも個性的ですね……これだけ個性的なら登録ができますね」

「は、はい……よろしくお願いします」

 ルナがそうひきつったような笑顔で答えていた。

 やはり親戚などだと似てしまうのかもしれない。

 けれどうまく登録はできるようだった。

 そして魔力や体力などを測りにいくことに。

 魔力測定は一番最後だそうだ。

 先ほどのものは登録なのでまた違うらしい。

 それぞれ一回で幾つも能力が図れるという事はないようだ。

 というわけで次に行く。

 体力測定は、謎の四角い箱を持ち上げて、それでわかるらしい。

「よいしょっと。これでいいのかな」

「……」

 測定のおじさんが無言で俺を見ている。

 それがアレな感じのような気もしたが、ミネルヴァとルナの時も同様だった。

 だから俺の考えすぎかとその時は思っていた。

 次に回避の能力などを見てもらう。

 ボールを投げられてよけることで能力を測定するそうだ。

 なんとなくボールが止まって見えたが、そんな漫画みたいなことはないだろうと俺は思った。

 だが、体は軽くて動きやすくはなっている気がした。

 それをやると、俺と女神様はまたも沈黙されてしまったがルナが次々とボールに当たっていき、なぜか審査の人が笑顔で頷いている。

 うんうん、言わなくていい、分かっているんだというかのような……。

「私、よく物にぶつかるんです」

「そ、そうか……」

 ちょっとドジっ子な所があるようだった。

 大変だなと思う。

 それからカードを引くような検査も数回あって、またも変な顔をされる。

 ただ今回もルナの場合は、優しげな眼で審査員に見られていた。

 やがて最終的な魔力検査が行われる。

 初めに簡易的なものだと言って腕につけられたが、すぐに煙が出てしまう。

 それから、一瞬だけ手を触れてくれと言われた大きな機械があるも、少し爪の先が当たっただけで異音がする。

 ガタゴトガタゴト。

 すぐに手を放すよう言われた。

 それはミネルヴァもルナもそうだった。

 と、そこでギルド長と呼ばれる人がやってきて、

「貴方達は何者ですか」

 と聞いてくる。

 しかも武装した人というか冒険者も沢山いて……。

 この状況は非常にまずい。

 なのでここは、

「ミネルヴァ、おねがいします」

「わかったわ! え~い!」

 そうミネルヴァ答えて何かをやった。と、

「あれ? 俺たちは何をしているんだ?」

 そう冒険者の人達が言い始めたのだった。


 なんでこんな所にいるんだというようなギルド長たち。

 それに問い詰められた俺達は、別な意味で色々とバレそうで危険としか思えなかった。

 というわけで、女神様の力技でどうにかしてもらうことになったのだが……。

 さすがはミネルヴァの女神パワー、と俺は称賛しながらも、こんなに簡単に人間の意識というか記憶改変が可能なら、あまり使っていい能力じゃないよなとも思った。

 とりあえず普通に使えるギルドカードさえ手に入れば、俺たちは目的が達成されるし特に悪いことをするつもりもないので、そのあたりは目をつむってもらおうと思う。

 早くボロが出ない内にここから逃げよう、遠俺は思う。

 そして一通り測定をしてもらった俺は、ミネルヴァに、

「もう少し近くにいる普通の人っぽい能力に数値を改竄しておきましょうか」

 とのことで、ミネルヴァが何かをやった。

 俺にはよく分からないが、何かをやった。

 そして下の方に戻り紙を提出し、そばにある酒場のような場所で待つことになった。

 ギルドカードが先ほどの測定で出た数値を入力する関係で、作るのに少し時間がかかるらしい。

 だからここ周辺で待つのだそうだ。

 そういった理由で一階の酒場で待つことになった俺達。

 何も注文しないで座っているのもアレなので、

「俺はここにある“ドドリリの実”のジュースにしてみるか。見たことも聞いたこともないし」

「あ、それは果肉がうっすらと黄色果実のジュースです。こう、丸い木の実でして、それを絞ったものです。この地方の特産だった気がします」

 ルナがそう説明してくれて、俺はお礼を言ってそのジュースを購入することにした。

 ルナとミネルヴァもそれにするらしい。

 というわけでそれらを購入して席に持ってくると、スキンヘッドのおじさん二人がやってきた。

 ガタイのいいおじさん冒険者といった感じだがそこで、

「なんでそんな子供が飲みそうな“ドドリリの実”のジュースなんざ飲んでいるんだ?」

 などと言ってくる。

 これはこう言った酒場などでからまれる、“お約束イベント”なのだろうかと俺は思ったが、物語の主人公のように張り倒したりはできない。

 俺の“特殊能力チート”に関するものだと怪しい力で倒すかどこか知らない場所に吹っ飛ばすしかなさそうだ。

 これらの選択は非常にまずい。

 もう少し普通の能力っぽく“特殊能力チート”を使えるよう考えねばと俺は思いながら、

「これはこの地方のもので、ぜひここの地方に来たら飲むといいと言われた美味しいものだそうですが」

「……男なら酒だろう? ここにいる奴らはみんな飲んでいる」

 そういわれたので周りを見まわしていると、確かに俺よりも年齢の低い男性も酒を飲んでいるようだった。

 ただ人は見かけによらないので、

「俺の年齢ではまだお酒が飲めないんですよ」

「? そうなのか? 確かにどちらというと童顔……何歳だ?」

「十六歳です」

「……この地域では、十三歳から酒が飲めるぞ。でもそういえば場所によっては、二十歳からといった場所もあると聞いたな……そちらの地域から来たのか?」

 なので頷くと、

「まあ男なら酒を選ぶべきだ!」

「ですがこれから泊まるところなども探さないといけなくて、お酒はちょっと……」

「ん? 少しなら大丈夫だぞ?」

「というか酒をどうしてそこまで進めてくるのでしょうか」

「な~に、酒を飲んだ時の喧嘩は喧嘩両成敗だからな。……新人の実力が知りたいだけさ。間違っても美少女二人を連れて気に入らねえといったわけじゃないぜ」

 などとそのおじさんは言ったのだった。


 どうやらお酒を飲んでの喧嘩は、喧嘩両成敗で処理されるらしい。

 そんな慣例があるとはと俺は思いつつも、それこそが彼らの狙いだとするならば、お酒を飲むのはよろしくない。

 未開の地にここにいる人たちを吹き飛ばすのは、女神パワーで記憶消去ができるとしても俺の良心が痛む。

 いきなり目の前の人間がぐしゃぐしゃになるといったエロくない意味でのR18禁展開はお断りしたい。

 俺、グロ系は好きではない。

 二次元ならば必要に応じて、展開の関係上なら許せるが……三次元的なものは無理だ。

 だからどうしようかと俺が考えて、すぐに思いついた。

「これから宿を借りるか、家を借りるかする関係で、それ他の物件を見て回らないといけないのです。ですので今はお酒はちょっと……」

「なんだ、この町を拠点にするのか?」

「はい、その予定です。ちょうどいい物件も、たまたま食事をした時に、隣に座った方から教えていただきまして」

 そう返した。

 今はほかに用事があるので無理なんですアピール。

 どうだ! 俺のコミュニケーション能力は! と心の中でドやっていると、その冒険者らしいおじさんが興味を持ったらしく、

「どこがいいと聞いたんだ?」

「なんでも安くて部屋も広いというこの町にある“お化け屋敷”を借りれたらと思っていますが……どうされたのでしょうか」

 そこで冒険者のおじさんの動きが止まった。

 凍り付いたように動かなくなっている。

 そこはかとなく顔色も悪いような気がする。

 どうしたのだろうと俺が思っているとおじさんが、

「やめておけ、悪いことは言わないからやめておけ」

「そ、そんなに危険な場所なのですか?」

「……幽霊が昼間から現れるのも怖いが、あいつらは悪戯好きだし何を考えているのか分からないんだ。あんな恐ろしい場所に行こうとしているとは思わなかった」

「そうなのですか。悪戯好き?」

「そうだ。俺だって、気が付いたら以前の冒険者おいていったらしいワンピースに、俺の服が入れ替えられていて……たまたまちょっと大変な冒険に出たが、戻ってくるとそれ以外服がなくてな……」

「は、はあ」

 それは別な意味での大惨事にしかならないと思ったが、俺はその言葉を飲み込む。

 それにそういった内容に何が怖いのだろうと俺は思う。

 服が変えられた程度なら、俺だって出来る。

 俺がそんな風に困惑していると目の前の冒険者のおじさんが更にわなわなと震えて、

「それに、仲間にならないかなというかのように、時折その幽霊が俺たちの寝ているところを覗きに来るんだ」

 そう怯えるようにつぶやく。

 だがこのおじさんたちの話を聞くと、以前この屋敷に住んでいたようあった。

 とはいえその程度であれば、

「お金もあまりありませんし、とりあえずは泊まってみます」

「そうなのか? 大抵あの屋敷に最長で住めたのは一週間らしいからな。なのに、借りた代金は三か月分からなんだよな……前は一月からだったのに……」

 どうやら長い期間の契約にして、中の人が音を上げる事で儲けるためにそのようなお値段らしい。

 黒い設定だ、そう俺は思いつつも、いざとなれば幽霊さんたちは女神パワーで何とかしてもらおうと思いつつ俺は、

「色々とお話しいただきありがとうございました」

「あ~……まあ、それでも行くっていうなら止めねぇ。実際に俺たちも、行ってみたらこのザマで三日しか持たなかったからな。今日のところは喧嘩を売らないでおいてやる。だが、そのうち力試しはさせてもらうぞ。新入りの能力を知るのが俺の一番の趣味だからな」

 そういって冒険者のおじさんは去っていった。

 どうやら新入りに挑戦するのが趣味らしい。

 どんな趣味かと俺は思いつつも、

「これって問題の先送りなのでは」

 という事に今更ながら俺は気づかされてしまったのだった。


 こうしてそのうちあの冒険者のおじさんたちと戦う羽目になりそうな俺は、その危機をどうやって乗り越えるかについて考えたが、全力で彼らと顔を合わせたら逃げるのが最適だと理解した。

 彼らと鉢合わせたが最後、戦闘になってしまう。

 そう、目撃した瞬間全力逃走だ。

 それが一番俺が大変な思いをしなくて済む。

「よし、それで行こう。うん」

「心は読まなくても大体わかったわ。……さっきの人達から逃げるのね」

 ミネルヴァがそういって当ててきたが俺は、そ知らぬふりをした。

 まだ彼らが近くにいるかもしれないからだ。

 もしくは仲間が告げ口をするかもしれない。

 その両方の可能性を考慮して俺は、特に答えない。

 決して、そう決して、格好が悪いから言わなかったわけではない!

 などと言い訳をしてから、それからこの謎の果実のジュースを飲む。

 味は桃とパイナップルを足したような味で甘みも程よく、美味しかった。

 これはまた来たら飲みたい味だ、そう思いながら俺は、ギルドの屋敷などを借りる、物件紹介窓口の方に向かう。

 すぐそばに今募集中の物件があるが、そのうちの一つにすぐに目が行く。

 掲示板にたくさんの物件が文字で書かれて貼られているが、その中でお化けのような白い物体のイラストが描かれているのはこれだけだったので、すぐに見つけられた。

 多分これだろう。

 周りの人たちがそれに俺が目を止めていると、うわっというような顔で見ている気がするが……気にしないようにしてそこに書かれた記述を見る。

「“フィルロッテの幽霊屋敷”、これか。フィルロッテって人の所に直接行かないといけないのか? ミネルヴァはこの人をご存じだったりするのですか?」

「もちろんよ。ちなみに、フィルロッテちゃんは、不老不死の幼女よ」

「……」

「私という女神の高みに上りつめようとするなんてね……結局失敗して、幼女のまま不老不死になっちゃったのよね」

「……そうですか。でも幼女のままなのは大変なのでは」

「優秀な魔法使いだから、イケメンの人形を作って大抵のことはやらせているから大丈夫なのよね。しかも好みのイケメンに囲まれて楽しいらしいわよ」

「そうですか……。でも不老不死の力を狙ってといった物語がありそうな気が」

「それがね~、彼女の資質と偶然のあわせだから唯一の成功例で他の人だと“消滅”しちゃうのよね。あの子、10000年に一人の天才な方だったし。あ、でも多分、ジングウジの方が強いわよ」

 そこは自信をもっていいわとミネルヴァが言うが……俺は、どれだけ俺の設定は盛られているんだろうという気がしなくもなかったのだった。

 そんな不老不死の幼女よりもすごいことになるなんて実感がわかない。

 そういった雑談をしながらも、ルナもここでいいと言っていたので俺は、その紙を掲示板からとる。

 周りから悲鳴が聞こえた気がしたが無視をして、その紙をもってギルドの窓口に来て幽霊屋敷を借りたいというと、

「ここの町は初めてですか? あまりおススメはできませんよ」

「ですが料金が安いのは魅力的で。お願いできませんでしょうか」

「……ちょうど住人が逃げだしてきて、先ほども詐欺だの家賃返せだの煩かったので、またいつものようにフィルロッテさんの家の住所をお渡ししてそちらに向かってもらったばかりなのに……本当によく引っ掛かりますね」

「え、えっと」

「それでもそこに住みたいのであれば、止めません。いい授業料になったとお考えください。先ほどの人にもそう説明したのに……」

 といった愚痴に適当に相槌を打ちつつ、今日付でその屋敷に俺は住む事になった。

 それから地図を書いてもらいその場所に向かう最中、ミネルヴァが、

「女の子二人と一緒。これから一つ屋根の下でくらすのよ~」

「……」

 俺は無言でミネルヴァやルナの様子を見た。

 ミネルヴァは楽しそうで、ルナは頬を染めてもじもじしている。

 どうしようか、と思っているうちに……俺たちはある大きな屋敷にたどり着いたのだった。


 やってきた屋敷は、意外に手入れをされているらしかった。

 屋敷の塀といっても結構隙間があり、金属製のものだ。

 幾何学模様が描かれたその屋敷の木々は、ほどほどに無造作に枝を伸ばしている物から、綺麗に成形された低木、満開の花まで手入れがなされているように外から見える。

 また、果実の実ル果樹も外から見える位置にあるようだった。

 しかも、俺たちがいる門から見ても、高い塀がかなりの距離に渡って連なっている。

 大きな屋敷。

 お化け屋敷だの、名前に幽霊屋敷だのがついているからさぞ手入れのされていない不気味な屋敷かと思ったがそんなことはなかった。

 俺のイメージでは昼でも薄暗く、時折どこからともなく謎の生き物や鳥の声がして、そんな暗闇から何者かの視線が……くらいの怪奇現象があるかと思ったが、そんなことはなかった。

 その屋敷の様子を見ていたルナが、

「随分と綺麗ですね。これだけの状態を維持するのには、庭師なども含めて結構な人数が必要な気がするのですが、そこまで維持管理をされているのでしょうか? いくらすぐに逃げ出すからといっても、屋敷を借りる値段が安すぎる気がします」

「さすがは公爵令嬢。言われてみるとそんな風な気はしなくもないが、でもそうなるといったい誰がそれをやっているんだろう。まさか幽霊がやっているわけがないだろし」

 俺がなにげなく呟くと、そこで、窓が開いて白い霧にも見えるようなお化けがふわふわと外に出てくる。

 お化け、幽霊としか言いようがない、俺がゲームや漫画といったもので見たことのあるあれだ。

 ちなみに手は三角形の形をしていて両手があり、手には籠がある。

 昼間の光の中、特に成仏するわけでもなくふわふわと幽霊はどこかに飛んでいき屋敷の陰に隠れて見えなくなった。

 あまりにも間抜けな心霊体験に俺は、どう反応したらいいのか迷っているとそこでミネルヴァが、

「ここの幽霊たちは温厚で、屋敷の管理もしてくれているのよ」

「……そうですか。ところで憑りついたりするのですか?」

「出来るわね。あまりしたくないみたいだけれど」

「そうなのですか?」

「ええ、魔力を消費しちゃうからね」

 どうやら憑りつくと幽霊は魔力を消費するらしい。

 となるとあの幽霊は魔力の塊なのか? と疑問がわくと、そこで目の前の屋敷の入り口の扉が開く。

 現れたのは、またも白い幽霊だったが、幽霊はここまで飛んでくると、

「あなた方が新しいここの住人ですか。そしてそちらは女神様のように見えますが、私の気のせいでしょうか」

 幽霊の目と口が動いて声を出している。

 そして女神様だと知っているようだ。

 するとミネルヴァが、

「そうよ女神よ。そしてこちらの男性は私の異世界から読んだ客人だから丁重にもてなしてもらえると嬉しいわ」

「そうなのですか。もしやこちらにしばらく泊まるのですか?」

「ええ、ここを拠点にして今回は挑戦してみようと思って」

「わかりました。フィルロッテ様にはお伝えしておきますか?」

「伝えなくてもここに来れば様子見に来るのでは?」

「いえ……それが最近、異世界のゲームとやらにハマってしまい、屋敷の方にほとんど来ないんですよ。まったく困ったものです。わざわざ伝えに行っても、ちゃんと聞いているんだか聞いていないんだか……」

 幽霊が困ったものですと嘆息する。

 何かシュールな光景を見ているというか自然に会話が成り立っているのが少し奇妙な感じがすると俺が思ってみていると、

「ゲーム? ゲームってどんなゲーム?」

「さあ。異世界に行って、なんでもフクビキでカデンリョウハンテンで当たったから買えたとかなんとか」

「……後で遊びに行きましょう、ジングウジ」

 ミネルヴァがやけに真剣な表情で言い切ったのだった。

 

 何かを察したらしいミネルヴァが、俺にそう進めてくるのを聞きながら俺は、もしやあの手に入りにくいゲーム機ではと思った。

 それは確かに興味がある。

 二人以上のプレイで楽しいのもあるしと俺が思っているとルナが、

「げーむ、ですか。楽しそうですね。でも異界のものですか? どんなものなんでしょう、まったく私達には想像がつかないようなものでしょうか? 謎です」

「異界の物といっても、多分俺達の世界の玩具じゃないかな。もしそうなら、映像と音楽が流れるもので、色々な魔物を特定の業で戦ったりといったことができるな。職業もいろいろ選べたり。他にも車……馬車に乗ってどの人が一番早くゴールをできるか競ったりできるものもあるかな」

「そんなものが……ぜひ、経験してみたいです」

「そうだな、そのうちその人に案内してもらってもいいかな俺も興味があるし。多分アレだよな?」

 そう思って俺がミネルヴァに目配せすると、ミネルヴァは頷き、

「多分あれだと思うの。後で遊びに行きたいわね」

「でももぢここに住むのであれば、必要なものは買い揃えないといけないし、お金も必要です。まずは生活のめどを立てないと。衣食住が整って初めて、心の余裕が生まれるような気が」

「う~ん、確かにそうね。それにスローライフ予定だし」

「てっきり俺、ログハウスか何か作らされるのかと思いましたよ」

「……作ってみる?」

「レベルが高そうなので、もう少し楽なものからお願いします」

 俺はそう返しているとそこで、先ほど家から出てきた幽霊さんが、

「ではそろそろこんな場所で立ち話もなんですから家に案内しましょう」

「ありがとうございます。……所で幽霊の貴方にもお名前があるのでしょうか」

「ありますよ。私はセバスチャン、管理をしております。執事として仕えておりますので」

「そうですか……誰に仕えているのですか?」

「私はこの“屋敷”に仕えていますね。しかし……随分と堂々とした方ですね、貴方は」

 そこで幽霊セバスチャンが俺の方を見て頷いている。

 そんなに堂々としていたか? と俺は思っていると、

「いえ、案内をしに出てきたら悲鳴を上げられて攻撃されるのもちょっと……。浄化されそうになったこともありましたしね……。しかもこの屋敷に一度でも入ったら二度と出てこられないんだとか、出てくるとまるで別人のようになっていて幽霊と入れ替わって、入った人間はその屋敷の幽霊にされるだの異次元に飛ばされるだの……よくもまあ想像力豊かに言ってくれますよね」

「は、はあ……それで、そういった事が出来るんですか?」

 俺は何となく気になって聞いてみるとその幽霊が首を振り、

「どうやってそんな事が出来るのですか。よっぽどな特殊能力チートがなければそもそも異界にはつなげませんしね」

「そ、そうなんですか」

 それを聞きながら俺は良かったと安どする。

 やはりよく分からない異世界の事情なので、そうだったら怖いと思ったがそれはなさそうだ。

 などと俺が思っているとそこでミネルヴァが笑顔で、

「でもジングウジの特殊能力チートなら出来るわよ」

「……え?」

「噂話が本当にできるわよ」

「……いえ、そういった事は特にしたくありませんので」

 冷や汗を垂らしながら俺はミネルヴァに答える。

 何が楽しくて、そんな怪談物のラスボスのようなことをしなければならないのかと。

 というか倒される側になるのはごめんこうむりたかった。

 そう答えるとミネルヴァが楽しそうに、

「やっぱりジングウジを選んでよかったわ。さあ行きましょう。幽霊のセバスチャンが壁抜けで中に入ってカギを開けてくれたわけだし」

「……幽霊ってどうやって持ったりすり抜けたりしているのでしょうか」

「存在が消えない程度に密度を薄くして、そこにある物体の分子と分子の間を通って中に入って再構築をしているのよ」

「……高等技能のような気が」

「そうなのよ。実は幽霊ってああ見えて選ばれた存在なのよね……本人が分かってなくて暴走をよくしているけれどね」

 などとミネルヴァが言っていたのだった。


 そういった話を聞きながら中に入る。

 掃除の行き届いているきれいな屋敷だった。

 窓ガラスには埃が積もっておらず、よく掃除がされているのが分かる。

 幽霊たちは意外にも働き者のようだった。

 そう思って俺が見ていると幽霊の執事のセバスチャンが、

「どうかされましたか?」

「いえ、掃除が行き届いているなと思っただけです」

「……幽霊になるとやりたいことを見つけるのも大変で、こういった掃除も生きがいなのです」

「そ、そうですか」

「やることが何もないというのはきついですね。ですがここにいる分には何かこうかすることがありますから。この屋敷の維持管理は意外にやりごたえがあります。合う幽霊にはとても住み心地がいいんですよ。それに庭では、我々の好物である“お化けの実”がありますしね」

「“お化けの実”ですか?」

「ええ、幽霊になると特に美味しく感じられる果実です。天然物は特に美味しいのですが、そういった場所は“怨霊”と呼ばれる特に危険な幽霊が一人占めしていることが多く、手に入らないんですよ」

「そうなのか。その“お化けの実”は俺達でも食べられるのか?」

「食べられますが、それほどは美味しくないですね。ただ……」

 そこで一度幽霊執事のセバスチャンは一度言葉を切ってから、

「まあ、ごく稀にね。自分が死んだことを“忘れて”しまった幽霊がいるのですが、その実を食べさせて自覚を促すといった方法にも使えますね。……挑戦しますか?」

「いえ、結構です」

 今の話を聞いて食べるのは嫌になったので俺はそう答えた。

 だが“お化けの実”が好物というのは重要な情報だ。

 その好物というものはゲーム内では後々必要になることが多い。

 後でどんなものなのか見ておくのは良いかもしれない。

 そう思っているとそこで、ある場所に案内される。

 そこは調理場の様だった。

 コンロのようなものやオーブンのようなもの、冷蔵庫のようなものまで一通りそろっている。

 しかもそこそこ大人数で食事が出来そうな机と椅子までそろっていて、なかなかいい。

 これからここで食事を作ってもいいかもしれない、などと俺が思っているとそこで、

「キッチンは一通り手入れとメンテナンスはしております。そういった事が好きな幽霊がおりますので、すぐに使えますよ。ただ材料は買ってこないといけませんが……家庭菜園や果樹もありますので、それを使っていただいてもかまいません。そういった事が好きな幽霊がいますので」

「そうですか。……というか今まで逃げて行った方々は使わなかったのですか?」

「説明する前に逃げて行ってしまいましてね。ここの屋敷だって好き勝手に使われたら、壊れてしまったり、その方たちが怪我をしてしまうかもしれないのに。だから我々も説明をしようとしていたのですが……すぐに逃げてしまわれまして。仕方がないので、『どうなっても知りませんよ……』と恨めしく思いながら告げたら、大抵次の日にはこの屋敷そのものから逃げて行ってしまうのです」

 酷い話ですよというセバスチャンだが、普通の人間から見ると脅しに聞こえるなと思った。

 だがそれは俺は言わない。

 また、ルナが嬉しそうにそれらの調理場を見ているので、使いたいのかもしれない。

 もしかしたらそういったものが趣味なのだろうかと思いながら俺は嬉しそうなルナに、

「ルナ、料理がしたいのか?」

「はい! 料理やお菓子作りって楽しいですよね。つい作りすぎちゃうんですが」

「そうなのか……そのうち食べさせてほしいな」

「! は、はい、頑張ります!」

 元気よく答えたルナが嬉しそうにほほ笑んだのだった。


 それから後で食材を買ってこようといった話になり、またその時にこの周辺の本屋でこの周辺の地図を手に入れることに。

 自分で足を運んで周囲を散策してもいいが、それよりも地図などでここ周囲のにどのような店があるかといった物を把握しておいた方がいい。

 これからスローライフのための入用の物があった時、購入しに行くにもそういったものがあると都合がいい。

 他にも観光ガイドのようなものが手に入るといいといった話をしつつ、

「ここでスマホが使えたら便利だけれど、さすがにそれは無理か」

「は! ゲームならではのマップ設定……いいわ。凄くいいわ。……でもそれ、この世界の人全員に渡すのはまだ早すぎるかな……」

 などとミネルヴァが考え始めたのを聞きながら俺は、ふと思う。

 俺の特殊能力チートを使って、

「ミネルヴァ。俺の特殊能力チートで、特定内の空間内の状態の……解析は出来るのか?」

「出来るわよ。空間に作用する力だから……でも情報の取捨選択をしないと膨大な量になるはず。だから条件付けをしないと大変なことになるけれど」

「その条件付けはどうやるんだ?」

「ジングウジがこうしたいと想像すればいいわ。そうすれば基本的に設定はされるはずだけれど……イメージを固定するために口に出した方が、より精度は高くなるかも」

 とのことだった。

 そうなるとこの周辺も解析出来るらしい。

 “空間支配”の能力はその空間内の情報を“引き出す”ことにもなるようだ。

 そして解析と一緒に必要になってくるのが、“出力”。

 得られた情報データを分かりやすく目の前に表す。

 地図であったりゲーム上のマップであったり、そういった形で出せるといい。

 そこで俺は気づいた。

「俺が今まで経験したことがるような形だと、その特殊能力チートを実現しやすかったりするのですか?」

「そうね。というか、出来ればジングウジの経験や知識によるものをこの世界で、その特殊能力チートで発現して欲しいわ。何が足りないのか、といったことも参考になるから」

「なるほど、分かりました。でも俺たちの世界で実現していない技術のものも混ざるような気が」

「それはそれで構わないわ。私たちの世界で実現可能なものが欲しいわけだし。それにジングウジ達の世界でもそのうち実現するかもしれないしね」

 そうミネルヴァは言う。

 スローライフをして欲しいとは言っていたが、それを介してこの世界をよりよくするヒントがミネルヴァという女神様は欲しいのかもしれない。

 俺がそう考えつつも、まずは既存のよく見たことのある形でそれを現すことにした。

 まずはその知りたい範囲をこの屋敷に設定して……と思いながらスマホを取り出す。

 ゲームのようなやや透けたような地図がよく、立体構造が分かった方がいいのか?

 それともそれぞれの階層を、上から見るタイプの、見取り図のような地図の方がいいのか? 

 だがどうせならゲームのように一部壁が透き通ったりした地図の方が全体が見通せていいだろう、そう俺は思って念じてみる。

 たまたま電源を切っていたスマホが小さく音を立てて、真っ黒な画面に地図のようなものが現れる。

 見た範囲では俺たちが今いる階の様で、ちょうど、調理場であるここが起点として設定されているようだった。

 だから俺は指を滑らせて、スマホ画面を拡大したり移動させる要領でそれらをみて、ここ周辺の部屋を確認し、

「ここの隣が工具などが置かれた場所、その隣が更衣室のような場所、その隣にソファーのある客室のような場所……」

 見ながら何があるのかを口に出す。

 そしてスマホ内で屋敷をぐるりと一周して調理場まで戻ってこれたので俺は、

「これでどうでしょう」

「すべて正解でございます」

 セバスチャンがそう答えたのだった。


 そう答えた俺だが、そのおかげで一階を案内したりするのは無しになったらしい。

 代わりに上の階の客室に案内するそうだ。

「この部屋の主人用の部屋もあるのですがいかがされますか?」

 とセバスチャン(幽霊)に言われた俺だが、

「そうなると女神様であるミネルヴァがその部屋な方がいいのか?」

「あら、ジングウジがその部屋でいいんじゃない?」

「いや、でもこの世界の女神様を差し置いては……」

 俺はそう思ったのでそう答えるとミネルヴァが、

「遠慮なんてしなくていいのに。私とジングウジの“仲”でしょう?」

「く、意味深なセリフを……」

「ふふふ、楽しい……」

 ミネルヴァが妙に楽しそうで、ルナがどことなく不安そうだ。

 そう思っているとそこでセバスチャンは、

「ちなみに主人の寝室は夫婦を想定しまして、また、妻は二人以上寝れるように大きめのサイズをご用意しました」

「俺、客室でお願いします」

 即座に善良な一般市民かつ普通の高校生な俺はそちらを選択した。

 ふう、よかったよかった。

 この歳でエロいほうのR18展開になる所だった、と俺が思っているとそこでミネルヴァがルナに、

「ルナ、提案があるの」

「何でしょうか?」

「ジングウジを二人でその寝室に連れ込まない?」

「……」

 ルナは慌てる風でもなく、無言で俺の方を見た。

 俺の童貞が危険で危ないような気がした。

 だから俺は幽霊のセバスチャンに、

「は、早く俺を鍵がかかる客室に連れて行ってくれ」

「……これがアレですか。近頃はやりの草食系……」

「草食動物のキリンは、肉食動物のライオンをも殺せるのですが」

「きりんにらいおんですか? あの三本首のと、羽の生えた……」

「いえ、なんでもありません」

 俺はそう言って誤魔化した。

 どうやらこの世界のキリンとライオンは、そういった風になっているらしい。

 恐ろしいものを聞いてしまった。

 そう思いながら客室に案内して貰うと、その部屋に入るとそこで、幽霊の一人が籠から何やら出して皿においている。

 どうやらホテルなどにある、ウェルカムフルーツのようなものらしい。

 白い真ん丸の果実。

 これが世にも珍しい、“お化けの実”だそうだ。

 なんでも新しい人が来ると毎回提供しているらしいが、不気味すぎて手に取らなかったり、知っていても恐ろしがって誰も食べてくれなかったそうだ。

 というわけで俺たちが初めてその実を食べてくれるかもしれない人間だそうだ。

 ちなみに“お化けの実”は、人間には味がしない水のような固形物だという。

 水のゼリーのようなもののようだ。

 先ほど聞いた怪談話を思い出すと、あまり食べたくないが普通にこの世界の人も食べると説明された。

 だから話を聞いた範囲で、きな粉と黒蜜をかけて食べたい……俺はそう思って皮ごとかぶりつくと、

「あれ? 美味しい……」

「え? ジングウジ、幽霊だったのかしら」

「……」

 ミネルヴァの言葉に顔から血の気が引きそうな俺だが、すぐに異世界人だからだろうと言われてしまう。

 この世界の物から逸脱しているからこの美味しさが感じられるそうだ。

 ちなみにミネルヴァもおいしさを感じるらしいが、

「うう、何の味もしない」

 ルナだけが、その味を楽しめないでいるようだったのだった。


 こうしてこの世界では希少だが味に関しては人による……うん、人による“お化けの実”を手に入れた俺達。

 別に俺が幽霊になっているわけではない。

 そうミネルヴァに言われたのはよかったが、やはりおいしく感じられたとしても気分はあまりよくない。

 というわけでこれはとりあえず気持ちだけはもえらっておくことにした。

 それからミネルヴァやルナの部屋を決めてそこに滞在することに。

 ルナは洋服などは、逃げだすときに幾らか持ってきたらしい。

 それでも生活するとなると持ってきた分だけでは足りなくなりそうではあるらしい。

 そしてミネルヴァはというと、

「魔法の力ですべて解決よ!」

「そうですか、となると今の所俺だけが着替えを持っていないことになりますね」

特殊能力チートを使えばいいんじゃないかしら」

「……人のものを盗るのはちょっと。それに、この世界の服装がよく分からないというか、今の俺の服とは違いますよね」

「そうね、もっとファンタジーっぽいかしら」

 ミネルヴァの言葉は微妙に違和感はあるもの、俺たちの世界ではその通りだったので頷く。

 さすがにこの服をずっと着たままなのも目立つし衛生上よろしくない。

 そこでルナが、

「あ、あの……よろしければジングウジの服を私が選びたいのですが」

「え? いいのか? 助かる。服ってどんなのがいいのかそこまでこだわりはないから……」

「こだわりましょう」

「え? いや、普通にそこそこの……」

「私が予算内で最高のコーディネートをいします」

「あ、はい、よろしく……」

 どこかで何かのスイッチが入ってしまったように勧めてくるルナに俺は断り切れず頷いた。

 そこでミネルヴァが楽しそうに、

「ねえねえ、ジングウジ」

「何でしょう」

「女の子の好感度が表示されるような設定つけちゃう?」

「……そういった恋愛シミュレーションゲームは今回はなしの方向で」

 俺はそう返した。

 二次元であったらそういったものが見えるのを他人ごとのように楽しめるが、こうやって実際に顔を見合わせながらそれを見るのは……なんというかドキドキしっぱなしで困る。

 これから一緒に生活するのだから更にそんなものがあっても困る。

 スローライフどころではない。

 するとミネルヴァは、

「あら? ハーレムは作らないの?」

「……俺の求めているハーレムと少し違う気が」

「そう? う~ん、でもあまり沢山要素があるとどう楽しめばいいのか考えるのも大変だし、まずはそれで行きましょうか。では、好感度表示は無しの方向で」

「お願いします」

 というわけで俺は、普通のハーレムを目指すべく頑張ることにして、これから町に買い出しに行くことになったのだった。


 まず町に出るといっても周辺にどんなものがあるかを知らないといけない。

 とりあえずスマホにこの周辺の地図を浮かび上がらせてみて、その地図を検索しながら服を見に行くことになった。

 まずは俺の服をルナに選んでもらったが、

「こ、これは派手すぎないか? 全身金色だぞ?」

「輝いていて素敵だと思います」

「ミネルヴァ、お手伝いをお願いします」

 ルナが、そんな~、といっていたが、これはない。

 俺はもっとこの世界の人間のような溶け込む服が欲しいのだ。

 ただのその辺にいるモブ、のようになりたい。

 あえて目立つ行動をする必要などないのだ!

 そしてお金に余裕があったら防具や剣なども欲しい。

 やはりファンタジーな世界なのだから!

 そう俺が思っているとそこでミネルヴァが、

「じゃあルナの選んだ服の色違いで、これとかどう?」

「黒と白。うん、いい感じです。確かに服の形は良いみたいだ。ルナ、ミネルヴァ、ありがとう」

 そういって俺はそれを買うことにした。

 これで俺はこの世界のモブの様になれたはず。

 ルナは不満そうだが。

 そう思っているとミネルヴァに、

「じゃあ私達がジングウジの服を選んだから、私たちの服も選んでね」

「……え?」

 俺は小さく声を上げたのだった。


 これから、ミネルヴァとルナの服を選ばさせてしまうらしい。

 女の子の服を選ぶというイベント。

 一緒に生活をする女の子なのだから特におかしい所は何もない。

 そしてどんな服を選んでくれるのかと、二人は楽しそうに話している。

 期待されているというよりは……ルナは普通に楽しそうだが、ミネルヴァはどことなくにやにやしながら俺の方を見ている。

 その余裕は何なのかと思い俺は脳内で考え始める。

 俺が読んだ二次元知識内では、疑似的な彼女のデート風な感じになっているときにこのようなイベントも発生していたような気がする。 

 そういった事を思い出しながらも、ここで俺は事情通オタクとしての血が騒ぐのを感じる。

 つまり、これまで二次元限定で数多の美少女達(水着も含む)を見ていた俺の“審美眼”が試される時が来たのだ。

 しかもゲームなどではファンタジー系が大好きでもあった俺である。

「なるほど、この俺に服を選んでほしいと申すか」

「え、えっと、ジングウジ?」

 ルナが不思議そうに俺に聞いてきたが、俺は止まるつもりはなかった。

 そう、この俺の手で二人の美少女達を、最高のアイド……にプロデュースする!

 おれはそう、心に決めたのだった。


 それから約二時間後。

 ミネルヴァが疲れたように、

「おかしい、おかしいわ。こういったイベントは、服を着た私達の可愛さにジングウジが顔を赤くするのが通常のイベントのはず。なのに、なのに値段をすべて計算し予算内に収まるコーディネート、そしてポーズや服の色がといった組み合わせの細かい指摘……なんでこんな本格的なの!?」

 そう、何か衝撃的なものを目撃させられてしまったかのようにミネルヴァがつぶやく。

 そしてそれにこたえるようにルナも、

「はい、どこからともなくこんな服があったんですかというような店員顔負けのコーディネートを私たちに要求して……気づいたら観客が沢山いるファッションショーみたいになっているし。試着室の周りに集まってきちゃって……それともそういったショーだと本当にそう思っているのか、観客の人が拍手をしてから同じような服を買っていくし……訳が分からないよ」

 そう呟くルナ。

 ちなみに俺のコーディネートが気いったのか、それらの服やほかにもいくつか服を手にした客によって、レジには先ほどまで長い列ができていたが、今は大分落ち着いている。

 それでも数人は待っている状態だが。

 そして大量に試着した中で今のものが一番いいといった話をして、俺はそれを二人に購入してもらえることになった。

 なんだかんだ言って、この服が気に入ってもらえたらしい。

 時間をかけて、最適なコーディネートをしたかいがあった。

 美少女達という素体であれば、どんなものでも美しくなる、服は飾りですなんてものは素人の考えだ。

 事情通オタクとして言わせてもらえば、美少女達を更に最高の形で輝かせる、そういった服もあるのである。

 などとミネルヴァとルナがそこはかとなくげっそりしている側で、全てをやり遂げた俺は心の中で高笑いした。

 そこで、このお店の店長らしき男性がニコニコしながらやってきて、

「今日はありがとうございました。いい宣伝になりました」

「あ、そういえば……」

「お礼にその服は差し上げます。もしまたいらっしゃるようでしたら割引させていただきますよ」

 と言われ、無料でミネルヴァとルナの服が手に入った。

 店員さんらしき人がミネルヴァとルナのそばにやってきて、その服を回収して紙袋に入れてくれている。

 とりあえず服は手に入ったなと思っていると、ルナが、

「ようやく終わりました……次はどこにいるのですか?」

「本屋かな。この地域のガイドブックもよくよく考えたら範囲が広いから購入しておいた方がよさそうだ」

 そう俺は答えたのだった。

  

 こうして本屋に行った俺達。

 たくさんの本が並んでいるのは印刷出版技術が発達しているからなのだろう。

 しかもそこまで値段は高くないのを見ると、量産されている物であるらしい。

 かなりこういった本の類は一般的のようだ。

 場合によっては、いちいち手書きでないといけない、という事になっていたりするのではという……“写本”のようなものしかないという状況も考えたが、そういった事はなさそうだ。

 そう思いつつまずは、

「現在の予算だと……またお金を稼いでおかないとそろそろまずいか」

「そのための地図とガイドブックのはずよ、ジングウジ」

 ミネルヴァがそういって一冊の本を渡してくる。

 そこには町周辺冒険ガイド、ランク表示付きと書かれている。

「……ここ周辺で冒険者で日銭が稼げそうな場所……もしくは普通に飲食店でのアルバイトも考慮して……とりあえずアルバイトの本も見ておくか。でもまずはここ周辺のガイドだよな。……この薄い本の中身を見て、購入するかどうかか」

 という事でその薄い本を見ていく。

 本自体が厚くないので、中身の情報はそれほどないのだろうと思っていたが、そこにいる主要な魔物や、採れるものがイラスト付きで表示され、どれくらいの値段で今は取引されているのか、おすすめの時期などが載っていた。

 また初心者駆け出しの行くのにおススメの場所を中心に載せているらしい。

 俺たちはまだ駆け出し……のはずなのでこういったもので慣れる方がいいのかもしれない。

 まだ俺自身、特殊能力チートをどう扱うべきか考えている最中なのだ。

 そう思いながら購入する本はこれにして、他には求人関係の本も見ようかと思ったが、

「そちらはギルドにいって直接どんな仕事があるのか見に行った方がいいわよ? 依頼から状況が分かるというのもあるし」

 とミネルヴァが言ったのでギルドに一回、依頼について確認していくことになった。

 その後、冒険者用の道具屋に向かうも、中古の剣だけで大分お金が減ってしまうと気づく。

 するとミネルヴァが、あの“お化け屋敷”を探せば短剣くらいあるかもしれないといった話になって戻って一回探してみることに。

 節約型の状況だが、ゲームでこのような展開はなれている。

 大抵後の方でお金がたまりやすくなっていくのだ! だから今は大変でも後の方で使いきれないくらいお金がたまるはずなのである!

 といったような希望を持ちながら俺は、次の場所に向かう。

 そこはギルドだった。

 中に入りお仕事募集の紙などがあるが……。

「……ここのお仕事依頼以外にも、フリーマーケットのようなものがあるのか。そういった情報もここに張り出されるのか。このフリーマーケットで何かを作って売れないか?」

「それもアリかもしれないわね。そうそう、ジングウジの世界の食事は変わっているから、それを出すとどうなのかしら」

 といったミネルヴァの提案にそれもいいかもしれないと思う。

 ただどういった食材などがあるのか分からないので、今日の夕食はルナが頑張るとのことで、食材のマーケットに行くことに。

 なんでもいろいろなものがそろう総合店がこの町にはあるそうだ。

 ただ八百屋は安かったり、変わったものを置くことで生き延びてはいるらしい。

 そしてそれらを見てみると一通り、見覚えのあるものが沢山あった。

 だから日本の料理も作れそうではある。

 とはいうものの、乾いたうどんといったものは、まるで見当たらなかったので小麦粉から作るしかないが。

 他にも大豆のような豆や麹のようなものはあるのに、しょうゆやみそはここに置かれていない。

 この地域では食べられていないものなのかもしれないし、この世界には存在しないものなのかもしれない。

「そこも要検討だ」

 そう俺はつぶやいたのだった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ