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神様と1500年修行したので最強です  作者: 迷小屋エンキド
第一章 王都陥落決死戦
4/21

アップロード・マイワールド 4 

たぶんここまでの話と2~3分のプロローグくっ付けたらアニメ一話分くらい

「で? そいつぁ一体何処のどいつなんだ」


 昼の営業を終え、夕方の仕込みに入り一時閉店した“小さな羽毛亭”の厨房。

 経営者兼料理長である“小さな羽毛亭”の主人、ナザリ・ホックニーは重々しく腕を組んだ。

 視線の先には口を尖らせたまま髪の毛を弄るメアリと、愛想笑いをして姿勢を正した男が居る。


「さっきから言ってるでしょ。お使いから戻ってた時、あいつらの一人に絡まれたの。そのとき助けて貰ったから、お礼しただけよ」

「いえいえ、こちらこそ美味しい食事を頂けて助かりました」

「てめえは黙ってろ」

「アッハイ」


 人が殺せそうなナザリの一睨みに、男は降参して黙り込む。

 年頃の少女が事情があるとはいえ異性を連れ込んだのだ。あらぬ誤解をされるのも致し方ないこと。

 傭兵達に対処したのも言わば身から出た錆である。


 自ら呼び込んだ厄介ごとの始末をつけたに過ぎない。

 減点にはならなくとも、加点されることもないのだ。

 むしろ誤解の分マイナスを大きく下回っていると言える。


 物言わぬ石像やくだたずを尻目に、親娘の言い争いが続く。


「おめえ色気付くにしたってなあ! 素性も知れねえ男をポンポン家にあげんじゃねえよ!」

「仕方ないでしょ! あのまま放って置いたら牢屋行きだったのよコイツ!」

「怪しい男なんだから当然だろうが! なんだったら今すぐ警邏隊に突き出せ!」


「お父さんも見たでしょ! 悪い奴じゃないわ! 私だけじゃなくてリリーも助けてくれたのよ!」

「黙って飲み込むにだって限度があらあ! おめえコイツの名前も知らねえんだろうが!」

「あ、これは失礼しました。クロイと申し」


「てめえは黙ってろ!」

「すいません!」


 今にも刃物を取り出しそうな気迫を受け、クロイと名乗った男は押し黙った。

 これ以上余計なことは言うまいと、努めて口を結ぶ。


「へえ、アンタ、クロイっていうんだ、ふーん」

「…………」


 メアリはクロイに向けニコリと笑った。

 嫌な予感がしたがクロイは喋れない。

 沈黙を続けることで固い決意を示したが、メアリはそんなクロイにすら笑みを崩さず、身体を擦りつけるように寄りかかり話し掛ける。


「ねえクロイ」

「…………」

「ねえったら、お父さんのことなんか気にしなくていいから、お喋りしましょう?」

「…………」


 平均的な男性に比べて小柄なクロイと、スラリと身長の高いメアリが並ぶと、年の近い兄妹にも見えた。

 男心をくすぐるような甘えた声は、流石宿屋の看板娘と言ったところだろう。

 固い決意が揺るがぬように、クロイはマントの下で拳を強く握った。


「おい! 話はまだ終わってねえぞ!」

「仕込みでもしてれば? 私クロイお喋りするのに忙しいから」

「はあっ!? ふざけてんのか!」


「ふざけてないわよ。クロイが怪しい奴じゃないって解ればいいんでしょ? それならクロイの言い分を聞いてあげなきゃ公平じゃないわ。ねえ、クロイ?」

「…………」


 クロイはナザリの殺気にも匹敵する凄味をメアリから感じた。

 親娘の性は絶やすことなく受け継がれたのだ。

 性格が父親似なら、容姿は母親似なのだろうか。


 いや、看板娘としての手管はむしろ母親から教わったのかもしれない。女性であることを武器にした口上は、傭兵相手に啖呵を切った同一人物とは思えなかった。

 そんな現実逃避を続けようにも、メアリは許す気はないようだ。

 ひたりと頬を両手で包んだメアリは、微笑みを一瞬で消した。


「クロイ、無視すんな」

「はい、すいませんでした」


 固く結んだ決意はアッサリと解けた。自分の意志薄弱さがここ数時間顕著だとクロイは思った。


「アンタは良い奴よね?」

「ええと、少なくとも積極的に人を害そうとはしないと誓います」

「牢屋に入れられるようなことはしてないわね?」

「この国の法律について詳しくないのでハッキリとは断言できませんが、後ろ暗いことは何もしていません」


「血塗れだった理由とか聞いていい?」

「話せません」

「絶対に?」

「絶対にです」


「ならなんで私やリリーを助けてくれたの?」

「それは……」


 言い澱んだクロイに、メアリは再びニヤリと笑う。

 悪気を含んだそれは少女らしい快活さが溢れていた。

 妖艶さとのギャップが、無邪気な表情をより際立たせる。


 知らず、クロイはゴクリと息を呑んだ。


「当ててあげましょうか」

「え、ええ、お聞かせ願えますか」


 頬から手を離したメアリは、首元を引っ張り頭を下げさせる。

 同時に自らも顔を近づけると、小さく耳に囁いた。


「放っておけなかったんでしょ」

「ッ!」

「やっぱり」


 思わず身を引き逃れようとした時には、メアリは数歩離れていた。

 まるで気紛れな風のように、懐に飛び込んできては、捕まえる間もなく過ぎていく。

 すっかり翻弄されていたことを自覚し、クロイは内心感嘆した。


「ね、コイツ良い奴でしょ。悪い奴じゃないでしょ、お父さん」

「……おー、そうだな。てか、おめえ母さんに似てきたな。出会った翌日に既成事実作らされたこと思い出しちまったぜおらぁ……」

「何か言った?」


「仕込みの邪魔だから出て行け!」

「はーい」


 行こっか、と手を取って厨房から出る二人。

 そんな二人の後ろ姿を見て、ナザリは過去を思い出して大きく溜息をついた。


「これだから女って奴は恐ろしい……」

「やだわ。女から生まれたっていうのにずいぶんな言い草ね、あ・な・た」

「マリアノッ!? いつからそこにッ!?」


 背筋を凍らせながら振り向くと、たおやかに微笑む女性が立っていた。

 ナザリの妻、“小さな羽毛亭”のもう一人の女主人、マリアノ・ホックニーだ。


「最初からよ。それにしても、私から手を出したことを引き合いに出すなんて、ちょっと恥ずかしかったわ」

「お、おう、でも別に秘密ってわけでもねえだろ? しかも事実だしよ……」

「あなた」

「……おう」


 すっと姿勢を正したナザリ。最早諦めの表情で妻を見つめていた。慣れの為せる対応速度であった。


「ちょっと、寝室に行きましょう?」

「おう……」


 すごすごと二階へと連行されていくナザリを、厨房の料理人達は一瞥して見送った。

 特に反応が無いことが、“小さな羽毛亭”の力関係と、これがよくあるイベントであることを証明するのだった。


   ●


 一時閉店した食堂のホールは閑散としている。

 二階の宿泊客も日中は外で活動している。夕方までの数時間だけ、賑わう王都の喧騒も届かない。

 居るのは掃除を終えて卓を囲んでお喋りに興じる給仕の少女達。


 そしてメアリとクロイだ。

 突如現れた謎の男と、その知り合いらしき給仕の中心人物であるメアリ。

 給仕達はかなり気になっていた。お喋りにしてる振りをしつつも、二人の会話に耳を傾けている。

 

 メアリとクロイの二人は一つの机に座って向かい合っていた。


「というわけで、これから面接を始めます」

「え、はい、よろしくお願いします」


 脈絡もなく始まった面接に、クロイはとりあえず首肯した。

 逆らうという思考は湧いてこなかった。無駄だからだ。


「お名前とご職業は」

「クロイ、職業は……剣客、とかです、かね」

「そこは嘘でも断言しなさいよ。まあいいわ、刃物の扱いには慣れてるのね」


 何だろうこれ、と思いつつも、素直に質問に答えていく。


「ええ、まあ、それなりには」

「包丁もいける?」

「一応は」


「料理の経験は?」

「相当やり込んだ記憶はあります。一人暮らしが長かったので」

「なら問題無いわね!」


 メアリは断言した。

 全く訳が分からない。クロイは、彼女の断言を疑問せずにはいられなかった。

 そろそろ状況に流され続けるのも限界だった。


 恐る恐る挙手する。


「あの、結局、これは一体どういう話なんでしょうか」

「アンタをうちで雇うかどうかって話」

「えっ」


「あ、因みに合格ね。明日からうちの料理人見習いよ」

「えっえっ」

「お金困ってるんでしょ? 何か文句でもあるの?」


「アッハイヨロシクオネガイシマス」

「うん、よろしい」


 そう言って満足そうに頷くメアリの様子に、給仕達の憶測が加熱した。


「一体誰なのかしらあの人」

「パッとしない顔よね、強かったけど。ああいう人がメアリさんの好みかしら」

「それより、メアリさんが変な置物以外であんな顔をするなんて初めて見たわ」


「わ、私は良い人そうだなって、思いますけど」

「リリーは助けて貰ったからでしょ。かっこよかったもんねー」

「うう、からかわないで下さいよぅ」


「でもメアリさんが強引に雇うくらいだし、前からの知り合いかしら?」

「違うわよきっと、お客様として見たことないし。顔立ちも見慣れないもの」

「変な置物買いに行ったときに知り合ったのかもしれないわね」


「それで、今日会ってたってことは買い出しのときに一緒になって……」

「お店の危機に飛び出そうとするメアリさんを彼が止めて」

「俺に任せろ、なんて!」


 きゃー! と盛り上がる少女達に、リリーは慌てたように言い募った。


「あ、あの、みんな、もうその辺に」

「何よ、リリーだって気になるんでしょ? 愛しの王子様のことが」

「それはそうだけど、ね? そろそろやめないと、大変だ、よ?」


「メアリさんの事気にしてるの? 恋に略奪はつきもの! その方が面白いし!」

「そうそう! 楽しいわよきっと! 私達が!」

「それはそれは楽しそうねえ」


 冷たい声が、ピタリと熱狂を止めた。少女達はそろりと声がした方を見た。


「楽しそうついでに厨房を手伝いましょうか? お母さんがお父さん連れて行っちゃったし」

「はい! かしこまりました!」

「後で馴れ初め聞かせてくださいね!」


「し、失礼します……!」


 そう言って厨房へ退散する少女達に、メアリは鼻を鳴らして見送る。

 そして、未だ椅子に座っているクロイを一瞥する。

 何も言えずに佇んでいるクロイを見て、メアリは柔らかく笑う。


「それじゃ、また明日」

「また明日……」


 そのまま給仕達を追って、メアリも厨房へ入っていった。

 クロイは一つ呟く。


「俺、1500年で一番翻弄されてた気がする……」


 その呟きを聞く者は、今度こそ無人となった食堂のホールには居なかった。

メアリ「勝った……!」

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