4.Summer winds and distress……
僕と先輩こと、紀伊宮皐の影は1つになっていた。
僕等しかいない屋上で。
僕と先輩は恋人同士。
学校ではそういうことになっている。勿論本来は違う。
何故そうしているのか……それはそうでもしないと堂々とキスできないからであった。
人間の固定概念というものは、僕の管見から言わせてもらえば、とても面倒くさいもので、
恋人でなければ異性といつも一緒に居るのはおかしい。
恋人でなければキスをするのはおかしい。
恋人でなければ…………
などと、勝手にいくつもいくつも、決めてかかる。
そんなのおかしいだろ? と反論したいのだが、それも結局固定概念。
反論してしまったら奴等と同じになる。そうなるくらいなら存在を消滅させた方が全然マシなので、
仕方なく、頭の柔らかい僕等が頭の固い奴等に合わせて、お付き合いをしている、という形式を取ったのだ。
風を感じた。
そのせいか、唐突に先輩の唇から柑橘系の匂いがした。
爽やかな、今の先輩に似合った匂いだった。
その時、一応、僕のこと気にしてくれてるんだな……そう思った僕がいた。理想主義者の僕である。
しかし、そう思う脳の裏側で、女の子は、こういうことに気を使うだけなんだ。
こう考えている僕もいた。現実主義者の僕だ。
そして、そんなどっちでも良いことを考える僕を笑ってしまいそうになる僕がいた。
これは、日和見主義者の僕。
どれが、本物の人格かは分からないが、たぶん全部僕の人格なんだと本能的に感じる。
つまり、僕の中の人格は一つじゃないってこと。
紀伊宮皐先輩は多重人格者として組織にスカウトされた。
しかし、人というものは、先輩程激しくはないだろうが、今の僕のように人格を多々持っているのではないか、と僕は思う。
勿論、先輩の場合は僕とは次元が違う。各人格ごとに、専門が違うスペシャリストになれるという特殊性がある。
それに、僕の人格達は心の中で変化するだけで、雰囲気や口調は変わらない。
だから、僕のは多重人格とは言わないのかもしれない。いや、たぶん言わない。
まぁ、結局何が言いたかったのかと言うと、『一人に一つの人格しかない』とか、固定概念は怖いよねって話。
どのくらいキスをしているんだろう……
太陽が僕等を照りつける。ジリジリと。
もう季節は夏。
つまり、あれが起こってから、もう半年も経っているということになる。
こんな単純な計算は小学生、いや、幼稚園生でもできるかもしれない。
だが、僕はそれが信じられなかった。いくら、信じる対象がこの世で絶対的な力を持つ 時 だったとしても、だ。
僕は未だにあれが起こった昨日のように感じられてしまう。
あの忌々しい事件から半年経ったなんてとてもじゃないが思えない。
今繋がっている僕等の微妙な隙間から薫風が洩れる。
決して僕には届かない……そして、また何もできない。そう言われてるようだった。
「うぅうぁあああぁあああぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
突然頭の中が痛む。何も考えられない。頭の中が真っ白になる。
消しゴムで脳を消されてるんじゃないか、そう思いたくなる程だ。
「っ……ぐあぁあっあああああああああああああああああああ!」
ただ僕は痛みを感じる。それしかできなかった。
「ぐううううううううううっ」
痛みのあまり這いずり回りたかったが、紀伊宮皐はそうはさせてくれなかった。
僕の頭を両手でしっかり掴み、足も僕の足に絡み付ける。
もし周りの一般人がこの状況をみたら、先輩は間違いなく淫乱の称号を与えられる事になるだろう。
「あぁあああああぁああ! せ、先ぱ……」
何とか話そうとして先輩を離そうとすると、先輩は逆にもっと絡みを強くしてきた。
「うわ……っぷ……」
ま、マジでヤバい気がしてきた。色んな意味で。
「うぁあああああああああああ!はぁ、はあ、くそっ」
さらに痛みが激しくなる。脳本体を金槌で打たれてるかのようだった。
僕は限界に近づく脳の痛みに我慢できず叫ぶ。もちろん心の中で。
早く、早く出て来い!クソ野郎っ!
こっちはもう限界を超してんだよ!
ーー神崎、聞こえるかぁ?
ふん、やっとご登場か……僕は怒りと安堵のこもった言葉を心の中で呟く。
いかがでしたでしょうか?
ようやく本題に入ることが……できたのかな?(笑)
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