3.Magical mystery of human nature
あの惨劇から5分……
僕は重力に身を任せ、地面に平伏す。それに対し先輩は無表情でフェンスに寄りかかり僕を上から見下ろす。
まさに対照的な二人であった。
「あ〜空が青い」
いきなり先輩が呟く。
「空が青いとさぁ……なんか平和な感じしない?」
「まぁ、そうですね。鳩なんかより幾分か、そう感じますかね」
僕は平和の象徴を取らず、先輩の機嫌を取ったのだった。
「でもねぇ、その青い空の下で、どう見ても平和に似つかずな事を言ってた人が居ますけどねぇ〜こ・こ・に!」
先輩は目力と語尾を強くして言った。
「だ、だから冗談ですって」
僕は軽く汗をかく。間違いなく冷や汗だろう。
「へぇ〜初耳だなぁ〜 冗談だったら、思春期真っ盛りな女の子に破廉恥なこと言っていいわけだ。」
そんな解釈をする人だったんだね、君は……
そんな目で僕を見てくる。溜息をつきながら……
と、とても居心地が悪い……
下手をすると教室の方がまだマシだったんじゃないのか、とさえ思えてくる。
まぁ勿論の事、そんなことは天変地異が起こったってあり得るわけがないんだけどね。
つか、さっさと謝ってしまおう。こんな空気は色んな意味で痛い。
「先ぱ「鳩っていうとさ、平和の象徴だよね?」
「…………」
はぁ……まったく……
いつもこれだからなぁ……このキャラの時の先輩は。
「そうっすけど、それが何すか? つか、話を簡単に飛ばさないでくださいよ」
苦笑いをして僕は返答する。ここで苦笑いであっても、とにかく笑えたのは、先輩自身が違う話題に換えてくれたからだった。
「象徴ってさ、どういうものか分かるかい?」
僕は少し考えて、現代文で習った知識を大脳の中から引っ張りだす。
「まぁ、月並みかもしれないですけど、具体的に暗示されたもの、とかですか?」
まぁ正解かな、先輩はそう言いつつ、風に遊ばれている茶色の長い髪を手で梳かす。
「じゃあ、そもそもさ、なんで具体化しなきゃいけないんだと思う?」
「え……それは具体化しなきゃ目に見えないから……?」
多分……と付け加え僕は言う。
「そうだね、正解。昔の人はさ、科学も魔法もないからさ、自分達の力を兎にも角にも誇示したかったんだ」
先輩は、勿論、そんな存在さえ知られてなかっただろうけど、と付け加えシニカルに笑う。
「ふぅん……弱者ほど威張りたがる、ってやつですね」
「そんなところ」
今のは良い例えだ、と このキャラの先輩にしては珍しく僕を褒めた。
だが、この先輩がそれで終わるはずもなく、
「そこから何がわかる? これ分からなかったら幼稚園生と一緒だよ」
と言ってくる。何気に僕が良い例えをしたのが気に触ったのかもしれない。
なんて言ったって、このキャラの時の先輩は、校内で一位の秀才だからだ。
だがしかし、僕も一応高校生。だてに一般教養を積んできたわけではない。
「魔女狩りが起きたのはそのせい!」
とあっさり答えさせてもらった。
「へぇ〜答えられると思ってなかったな。ま、刀狩もあるんだけどね」
ヒヒヒと笑った先輩は、満足そうに僕を見る。
だから僕も先輩を見る。満足そうにではないけれど……
そんな感じにボーっと先輩の顔を眺めていると、先輩の顔に変化が現れ始めた。
そして、あっという間に先輩は感情を一切失くした顔になる。
先輩が顔を無表情に換える時、それは、もう雑談は終わりだ、と言う意味だった。この顔をする時は仕事をこなす時だったからだ。
僕は可愛いキャラ、お姉キャラなど、いっぱい人間性を持ってる先輩を知ってる。
だが、僕はその中でこの無感情キャラの先輩が好ましかった。
それは、この先輩が僕の裏の顔、つまり本質に似ているからだと思う。同属良好ってやつだ。
勿論他の先輩が嫌いな訳じゃない。
僕を救ってくれたお姉キャラだって、すぐ拗ねる可愛いキャラだって。
僕にとって先輩は特別だから、どれが一番とか、どれがタイプとか、そんなことは関係ない。
僕が先輩を嫌うはずがないのだから。
……だけど、先輩を好きになるわけにもいかない。ただ、それだけのことなんだ。
「じゃあ、神崎。早速で悪いけど始めるよ」
僕と先輩の間に少しの空白が流れた時、先輩はいつも通りの言葉を発した。
僕は無言で首を縦に振る。
紀伊宮先輩が近づいてくるのが分かると、僕も歩き始める。紀伊宮先輩に向かって。
互いに向き合い、僕は恥じらいを無くす。
そしてここで、僕と紀伊宮先輩はお互いの唇を重ねる。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
なかなか本題に入れなくて困ってます(笑)
感想などありましたら、宜しくお願いします。
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ではこの辺で失礼します。