2.Aimed at the grand finale!
「なぁんだ、やっぱりバレてたか」
ヒヒヒと気味の悪い、そしてどこか可愛らしい笑い方をしながら、紀伊宮皐は颯爽と姿を現し、僕に、やぁと声をかけてくる。
僕もそれとなくお辞儀で対応する。
その僕の最初の態度が不満だったらしい。先輩は顔をすぐに顰めた。
いきなりかよ、と思ってしまうが、それが紀伊宮先輩だからな……
なんとか機嫌をとろうと思った僕は先輩に向かって、軽く微笑んだ。
だが僕は、一度不機嫌にさせた先輩の機嫌を回復させてしまうような微笑は会得できていなかったようで、
「なんだよなんだよなんだよ!もう少し仲良さそうにしてくれたっていいじゃないかぁ」
僕に背を向けながら紀伊宮先輩は叫んだ。
んな無茶苦茶な……
「でも、そんなこと言われたってですね……仲良さそうにする理由もないですし……」
それに、仲良くできる資格なんて僕にないし……ね。
もちろんこっちは心の中に留めておく。
「えぇ〜 神崎は理由がないとあたしと仲良くしてくれないの?」
紀伊宮先輩は僕に対して目をウルウルさせながら僕に尋ねてくる。
だから、僕はここで堂々と答える。
「え……はい」
「即答!?」
「え……はい」
「なんでだよぉおぉおおお!」
「え……はい」
「だからなんで?」
「え……はい」
「…………」
「え……はい」
「………………」
「え…「もういいもういいもういい!」
先輩はふんっ、勢いよくそっぽを向いてしまった。
少しからかい過ぎたかな?僕は自分の顔が少し和らぐのを感じた。
やっぱり先輩をからかうのは楽しいんだな。自分自身が証拠の僕にとって、今顔の筋肉が自然に動いたのが何よりの物的証拠だった。
と言うか、先輩はもっと仲良くしろなんて無粋なこと言うけど、僕的に十分仲良くしてるつもりなんだよな……
もっと仲良くする方法があるならこっちが聞きたいもんだよ。
ふぅ……軽く体内の空気を外に押し出し、思う。
紀伊宮皐、あなたはホントに不思議な人だ……
僕はあなたを勿論好きにはなれないだろう。だけど、嫌うことも恐らく無理だろう。
だって、男らしいと思ったら女らしく。我儘と思ったら、我儘になっていたのは僕だったり。
そして、正でもなく負でもなく、ただそこに居るのが当たり前であるかのような……そんな存在。
再度僕は体内の空気を吐き出し、空を見上げる。
そして少し思い出す。先輩について。
僕が今よりも色んな意味で終わっていた時、最初に声をかけてくれたのは間違いようもなくこの先輩だった。
勿論のこと、上司に1つのミッションとして、僕へ組織への勧誘をしてくるようにと命じられていたのだろう。
ただ、あの時先輩以外の人間が僕を勧誘していたらどうなっていただろう。
先輩が僕を必死に説得してくれなかったらどうなっていただろう。
答えを出すのは赤子の手を捻るよか簡単だ。
自殺していただろう……手段は何でもいい。とにかく死ぬ以外、僕が救われる方法はないと思っていたから。
しかし、先輩はそうはさせてくれなかった。
自分だけ救われればいいのか?あいつはどうなる?
その言葉をかけられてから、僕はアイツも助けようと決めた。自分の手を汚そうとも……
「なぁ神崎」
いきなり呼ばれたので、すぐに振り返り先輩の顔を見る。
そこには以外にも真面目な顔をした先輩がいた。
「いっぱいありそうなもんじゃないか?」
「何がです? つか、なんのことです?」
「はぁ? 君が言ったんだろ? あたしと君が仲良くする理由さ」
「あぁ。気にしないでくださいよ。ノリで言ったんすから」
その事か、と思い、僕は慌てて両手を胸の前で振る。
「そっちこそ気にすんなよ。あたしがふと考えてみたくなっただけなんだから。それにその手の振り方キモいぞ」
「いや、でも……」
「おいおい、そんな暗い顔すんなって。別に恩を忘れたのか? とかそういうことを言いたいわけじゃないんだからさ」
「はあ……じゃあ例えばなんです?」
僕はすかさず聞く。僕は遠慮を知らなかった。
「んん〜同じ仕事だし、同じチームだし、同じ学校じゃないか」
これは十分な理由だろ? と僕に向かってピースをしながら笑った。僕は、いつの時代の人間だよ、と笑いたくなったが何とか堪えた。
「異論は?」
異論かどうか分かりませんけど、と前置きをして僕は思ったことを述べる。
「でも、そんな奴腐るほどいるんじゃないすか? いわばバイトが一緒のようなものだし」
そして自覚する。
僕は遠慮を知らない上に配慮というものも知らなかった……
「そうかそうかそうか! 欲張り屋さんの神埼店長はそれだけじゃもの足りないと……」
先輩はじゃあ、これでどうだっ!と奇声にしか聞こえない声を発した。
まだ諦めないらしい。僕はふぅ、と溜息をつきながら、思う。まぁ、いくら先輩でも余程の理由じゃないと奇声を発したりはしないだろう。と。
だから、僕は期待をしないふりをして、期待をして先輩の言葉を待つと、なんと先輩は僕に対し上目使いなるものをしてきた。
不意に可愛いと思ってしまうのは男の性だろうか……我ながら、だらしない。
そして、紀伊宮皐は放つ。僕に向かって。
「ズバリ、恋人だから?」
「…………」
しっかりピース入れてやがる…………
そこで、僕はこの調子に乗った先輩を懲らしめる作戦に出ることにした。
「…………」
「……あれ? 聞こえてなかったかな?」
先輩はじゃあもう一度と言って
「婚約者だから?」
又もやピース。
「……………」
「フィアンセだから?」
少し頼りないピースになった。しかも、婚約者とフィアンセは一緒だし……
「……………………」
「あ、あの……か、神……崎さん?」
もうピースじゃなくなった。
「………………………………………………」
「悪かったよう。機嫌直してよう、神崎ぃいぃぃぃ」
先輩が僕を揺さぶり始めるので、仕方なく妥協案を考える。
「…………直して、欲しいですか?」
僕は超上から目線で言う。
「うんうんうん!」
先輩は首がとれるんじゃないかってくらい首をブンブン振った。
これから何をされるかも知らないで。
「ならば仕方ありません。僕は人間じゃないですが、鬼でもないので」
僕は人差し指を突き出すと、
「では、僕から先輩に1つ命令を出します。それをクリアしたら、同時に僕の機嫌が回復して大団円。どうでしょう?」
すごく簡単でしょ?と出来るだけ優しい笑みを浮かべて先輩を説得する。
「う、うん…… たぶん大丈夫だよ。たぶんね……」
先輩の了承を得た僕は、では、と軽くゴホッと咳をして声を微妙に低くするようにし、先輩にミッションを言い渡す。
「ちょっくら服……脱いでみてください」
「…………」
……先輩の顔が突如変貌を遂げた……
「や、やだな……じょ、冗談ですよ? 紀伊宮先輩?」
「……………………」
「い、いつもの可愛い先輩は何処ですかぁ?」
「……………………………………………」
あれ? これってもしかして……これが立場逆転ってやつなのか?
い、いや……絶体絶命かもしれない……
それから僕が悲鳴をあげるのに、そう時間はかからなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございました
今回は少し明るめな感じになったのですが、いかがだったでしょうか?
その辺りも含め、感想、ご意見、お待ちしております。