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Re:cord

作者: 鷺沢祥子


 朝起きて、学校に行って、家に帰って、寝る。多少の違いはあれど、ふと過去を思い返してみると毎日毎日、同じようなことを繰り返してばかりの退屈な日々。

 人々は窮屈な日常に少しでもスリルを感じたいと、先達たちがわざわざ遠ざけてきた危険に歩み寄ろうとする。


 危険なら日常にゴロゴロと転がっている。ただ自分の身に起こらなければ、どんな事件にも無関心なだけだ。

 ある意味では仕方ないのかもしれない。関心を持ったところでできることなんて何もない。「もしも」なんて可能性ならどこでも付き纏う。自分に関係のないことまで覚えていられない。だって、人は忘れる生き物だから。

 そうして、残酷な取捨選択をしながら日々を過ごす。



『こちらは、Re:cord Co.,Ltd.でございます。


 戦後制定された日本国憲法の三柱「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」、これらを自己中心的な解釈で悪用し、公共の利益に反する行動、言動をとる害悪どもの増加に我々は大変大きな危機感を抱き、この現状を憂いておりました。


 しかし、現状を憂いてばかりでは何も変わらない。

 そこで、再び人々の絆を結ぶ、そのような願いを込めた社名を掲げ、代表取締役であるわたくしゆがみを中心に発足した我が社は「日本再生」をスローガンに、ある活動を開始することをここに宣言いたします。


 公共の利益に反する悪行を行った人間へ天誅を与えること。

 罪には罰を。小さな歪みが走りつつあるこの法治国家をあるべき形へと確変していくことを公に誓います。


 もう少し具体的に申し上げますと、毎月十人の社会のゴミを殺害いたします。

 クズが受けるのは物理的な死でないことを確約いたします。ですが、死に方は罪人それぞれであることをご承知ください。


 選考の基準はたった一つ「公共の利益に反した行動、言動を過去に取り、その報いを未だ受けていない者」です。

 勿論善良な国民である皆様方には何の被害も及びませんのでご安心ください。


 最後に勘違いをしている馬鹿もいるかもしれないので、一つご忠告を。

 証拠や心当たりのあるなしに関わらず選考の基準を満たした者は全て我々の標的です。

 そして、いくらボディーガードに身辺警護を依頼しても、警察に駆け込んだとしても無意味であることもお伝えいたします。


 それでもよく分からない方や、自分は大丈夫とタカをくくっている方もいらっしゃるかと思います。

 我々は毎月殺害した罪人、そしてその罪状とその後を活動報告として皆様に公表する予定です。


 よく分からない方や信じていない方、日頃の行いや運が良ければ来月全てが明らかになります。


 それでは来月この時間、十人の罪人と共にお会いしましょう。』




 忘れもしない、第二金曜日、午後七時。夜になるとまだ肌寒さが若干残る四月にそれは起こった。


 テレビ、ラジオの電波をジャックして始まった怪しい集団のわずか三分足らずの犯行声明。花金七時のバラエティを楽しみにテレビの前で待機していた私、加藤コマチはその犯行声明をただぼーっと見ていることしかできなかった。

 犯行声明が終わったと同時に切り替わったテレビでは本来放送されているはずのバラエティの冒頭が既に終わっていた。


(今日のゲスト、名前なんていうんだろう)


 流行には過ぎ去ってから乗る派の私は、新進気鋭の若手俳優の名前なんて分からない。

 本来、普通に放送をしていたら最初に紹介されていたはずなのに、それを遮って行われた謎の音声放送へ内心不満を燻らせる。


 犯行声明を間に受けていなかった、というより、それに興味がなかった。

 生きて十六年、今まで大きな不幸に見舞われることもなければ宝くじの一等が当たったこともない私たちに、普通では起こりえないであろう悲劇が既に起こっていたから。これ以上悪いことが起こるものなら起こってみろと、不幸という見えない存在に対して何故か分からないが挑発的な心持ちでさえあった。


 その時の私は知らなかった。

 私が挑発した不幸はまだ序章に過ぎず、本当の姿を現していなかったなんて。

 それを知るまで、あと一年。宣言通り「Re:cord」が毎月十人、計百二十人の犠牲者を出した頃。



後味悪くてすみません。楽しかったです。ありがとうございました。

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