SAVANT―月の裏側(番外編)
番外編なので、http://ncode.syosetu.com/n6706cy/
の話前提です。
そちらはBLなので気をつけてください。
「デクスター、どうしたら魅力的になれるのかな」
うちの姫さんから出た言葉は突発的だった。
うちの姫さんは、月の最高位にあられる姫君で、輝夜姫と言われる方。
そんな御方が恋するのは、田舎からひょっこり現れた武士だ。
あろうことか、武士は姫さんより化け物を選び、化け物は恋する気持ちに怯え、三角関係が出来上がっている。
化け物が恋する気持ちに怯える切っ掛けになったのが、うちの姫さんのとある事件であり、その事件以来うちの姫さんは随分可愛らしくなったと思う。
元からお淑やかではあったが、更に上品に振る舞うようになり、昨今では興味なさそうだった婚約者候補達が田舎の武士を警戒している。
「そりゃあ……まずは笑顔ですね、姫様の場合」
「うん、笑顔、ね」
姫様はにっと笑ってみてから、真剣な顔で「どうだ?」と聞いてくる。
――そういう恋に必死な姿を見せていけばいいのに、とも思うけれど、あたしも人のこと言えないから何とも……。
「笑顔は頬が痛くなるね」
「愛想笑いじゃ駄目ですよ」
「? 同じ笑顔じゃないか。どう違うの?」
言葉より行動したほうが姫さんは判りやすそうだな、と思ったので。
「失礼します!」
「え? ふっ、あはははは、あはっ、あははは!」
姫さんをくすぐってみた。
姫さんの笑顔はナチュラルに、年頃の女の子らしい笑みになったので、ほっとする。
「こういう笑顔です」
「な、なる程……笑うというのは、体力がいるんだねっ」
――うちの姫さんはどこか、ずれてるなぁ。
「寿は、応えてくれないんですか?」
「……――ううん、私から言えないよ。あんな追い詰めておいて、好きになってなんて、言えない……私は、大罪を犯したんだよ」
「人を好きになるってきっとそういうもんですよ。周りが見えなくなるんですよ」
あたしも知ってますよ、だってあたしだって野郎を追っかけてる奴を好きなんですから。
あの毒医者で、同胞に、心惹かれてやまないんですから。
胸がどきどきするよね? どうやったら好かれるかとか、必死に考えるよね?
それが最悪の形で露呈はしたけれど、そこまで大罪だとは思えないんだよ、あたしは。
あたしは姫さん側の人間だから、そう思うのかもしれないけれど――。
「デクスター、秋雨やミシェルさんは?」
「秋雨のやつはライアーと一緒ですよ、あいつも同じ毒医者ですもん」
「秋雨を紹介したときのライアーさんは嬉しそうだったね」
「あいつ飲めないってのに、また二人で飲みにいったみたいっすよ」
「ミシェルさんは?」
――秋雨はあたしと同じ、不法滞在の外国人だからいいとして。
同郷じゃないけれど、事情を抱えているっていうのは判るから。
自分から名乗りをあげた、月からの使者の一人だミシェルは。
ミシェルは泉のお父様の秘書であり――暗殺者だ。
姫さんの身を守るために、もしくは誰かと婚姻が決まったら厄介だからと、寿を殺しにいくんじゃないかと気になる。
――暗殺者だと判るのは、あたしも秋雨も同じで、政府に言われて動いてるから。
主人を知っている狗だから、判るんだ、主人が違う匂いが。
「あ、ねぇねぇデクスター、寿くんがうちの屋敷にくるみたいだよ。美味しいお茶を用意して、とびっきり良い奴ね!」
「はい、姫様」
「……ねぇ、デクスター。君だけが安寧秩序で、私に敬語のままなんだよ。そろそろ、どうにかならないかな、それ」
「……――貴方が自分一人で、お洋服を着替えられるようになったら、考えましょう」
今はまだ、平和でいたい。