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その数分後、理央がある人物を連れて戻ってきた。
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理央が連れてきたのは身長は170センチくらいの細身でとても美しく優しげな雰囲気を漂わせた人物、先ほどの話題でも出てきた霧雨廣美。名智は廣美を見て困惑する。その容姿はとても美しく一見女性らしいが男性にも見える。
「名智、この人はネオスの幹部で科学部と開発部のリーダーで霧雨隊の隊長でもある霧雨廣美隊長。名智の才華を開花させる手伝いをしてくれるらしい」
「霧雨だ。よろしく、蒼井名智クン?」
「よ、宜しくお願いします…」
声はやや低めだが声が低い女性と言われれば納得がいく高さだし男性としてもおかしくない高さ。名智が困惑しているのを見て、夕凪が「霧雨隊長はボス…つまりネオスで一番偉い人ね、その人以外に性別教えない人なんだあ。だからあたし達も霧雨隊長の性別わからないから安心していいよぉ」と助け舟を出す。
本人曰く、隠すつもりはなかったがネオス創設初期メンバー(特に理央)があまりにも不思議がるからいっその事隠した方が面白いと思い隠す事にしたとの事。トイレやシャワー室は自分の研究室のものを使うため確認する事もできず気が付けばネオスの七不思議と学生達の間で言われるようになっている。
「霧雨隊長が自ら来るって珍しいっすね。どうかしたんすか?」
「ちょっと蒼井クンに手伝ってほしい事があってな」
「はい…?」
「私が新しく開発した才華の開花装置を試させてくれないか?」
薬での才華の開花は何の副作用も無く、一番安全な方法だと言われた。だが廣美は自分の薬で才華を開花させた者のネオスでの戦績が悪いと気付き詳しく調べてみると、薬で才華を開花させると鬼の力が緩やかに目覚める事がわかった。つまり、100の力を出すのに自然に目覚めた場合は一年かかるとして、薬で目覚めた者はおよそ二倍…つまり二年近くかかる事になってしまう。
もうじき外世界の民が襲撃してくるという情報を掴み、悠長な事はしていられないと思い半年前から新しく才華を目覚めさせるための装置を開発していた。そして一か月前にようやく試作品が完成した。だがネオスにいる者は皆、才華を開花させた者かできなかった者かの二つに分かれるため実験をする事が出来ずどうしようかと悩んでいた所に名智が現れた、という。
「安全性は?」
「とりあえず金が欲しくてたまらないといった者達に募集をかけてみたがその中に鬼を飼っている者はいなくてな。仕方なく何も意味を成さないとわかった上で装置を使ってみたが」
「ちょちょちょ、廣美さん!? 無関係者への実験は禁止されてたはずですよね!?」
さらりと問題発言をした廣美に理央が口をはさむ。
以前、無関係の人間を実験台にして開発中の装置を起動させた結果実験は失敗、その一般人は半身不随になってしまいそれ以来無関係者への実験は禁止されていた。
「前のはネットで死にたいと言っていた奴を口説いて無償で実験にしたから無関係者という事になったが今回は違う。ちゃんとバイト代を払った上で行った。開発室のアルバイトという形になるのだから無関係ではない」
「なんつー屁理屈を…」
「兎に角、その時に何も悪い出来事は起こらなかったから50%の確率で安全と言えるだろう」
「言えないでしょ。鬼が体内に住む人間と普通の人間は体の創りが違う。安全性を問われたら多くてもその半分、25%程しか安全だと言えないと思いますよ」
勿論、その事を廣美もわかっていたが拒否されるのを拒み理央が言った事は言わなかった。余計な事を…と悪態吐きそんな様子に名智達は苦笑を漏らす。蓮が霧雨さんは気を付けろ、と言っていたのはこういう事かと思い廣美に進言する。
「えっと…霧雨隊長、俺その実験やってもいいです」
「は?」
修也が驚きの声をあげる。美影も夕凪も、声にこそ出さなかったが同じ事を思っている。名智は何を考えているんだと。廣美の開発したものはどれも重要でとても優秀なものばかりだが、そのかわり試作品は酷いものばかりだった。
以前、外世界の民のみに害を与える毒ガスを試作した時は才華を持たない者にも効いてしまうものだったようでネオスに所属する才華を持たない者達の多くが医務室に運ばれ三日三晩三途の川を渡りそうになったり、クローンを作るという実験では実験体(その時は理央が実験体をしていた)の子どものクローン100体程生み出し、生まれた時から才華を仕えた理央のクローンは本部で才華をぶっ放し壊滅の危機に陥ったりととにかくロクな思い出がなかった。
「やめといた方がいいぞー? 霧雨隊長の試作品の実験って俺の知る限りゼロだ」
「失礼な事を言うな倉斗。確かに失敗が多いのは認めるが成功もちゃんとしている」
「嘘だぁ。俺、試作品が失敗しなかった例知らないんすけど」
「最近は難易度の高いものばかり開発していたからな。だが今回のものは一度作った薬の応用だし何の問題もない」
いくら名智を心配して修也が口出ししても決めるのは名智だ。その事を美影が修也に言いようやく言い合いらしきものは終わった。
力が開花しても、すぐに実戦で使えるようにならなきゃ意味がない。それが名智の考えだった。ビショップと聖が戦っている所を見て、自分もあれくらい強くなりたい、ならなければと強く感じた。女性に守られるなんてという男としてのプライドもあるが名智の頭には行方不明の伊丹の事がちらついていた。もし、自分に力があったらこんな不安になる事もなかっただろう。そう考えると一刻も早く戦える力が欲しかった。
「俺は、伊野尾の戦いを見て自分もあんな風に戦える力が欲しいと強く思った。だから、多少危険でも早く力が手に入れられるならそっちの方がいい」
「……なるほど、伊野尾の戦いを見たのか。彼女はネオスの戦闘員の中でも上位の実力者だからな。彼女に追いつきたいのであれば薬では不十分だな。よし、では早速私の研究室に行くぞ。付いて来い」
「はい」
踵を返しさっさと部屋を出て行く廣美を名智は追いかけ、その名智を理央、美影、夕凪が追いかける。修也は「多少危険って…多少じゃねえんだけどなあ。ホントに大丈夫か…?」と呟きながら五人の背を追う。