1-5.
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第一小隊、ネオスの古株である理央が小隊長を務める小隊。倉斗修也と美影の近距離攻撃を主軸にした戦闘スタイルで中衛を小隊長である理央、後衛を夕凪が担当して前衛二人をカバーしている。とは言いつつも理央も夕凪も元は前衛タイプの戦闘スタイルが得意なため一応中衛後衛にいるが二人とも隙あらば前衛に移動してくる超攻撃的な隊。
第二小隊、前任がとある事情で隊を抜けたため最近新しく小隊長になった久波華園を中衛の司令塔に置き、前衛である村岡李奈を鹿倉陽雲、西沢早季の二人の後衛がサポートする第一小隊とは反対に守備的な隊。
第三小隊、小隊長である皆川凌空と志村未叶、朝霧襅の三人で前衛に立ち中衛は最年少である綟と灯南光明が担当する後衛がいない攻撃的な隊。隊長である凌空が主に指示を出すが最近は綟に指示を任せる事もある。
第四小隊、小学生である細谷雄聖、若松作楽を前衛に置き中衛を小隊長の千田駆が担当。後衛に玉井由多加を置いたバランス型の隊。
第五小隊、小隊長の寺島奈菜、辻本美晴を前衛に置き中衛を真鍋梨生奈、後衛を森岡一颯が担当する第四小隊と同じくバランス型の隊。奈菜と美晴の連携はネオスでも有名でこの二人の連携と並ぶ者はいないと言われている。
「……とりあえず南雲隊の簡単な紹介はこれで終わりだが…付いて来れてるか? 名智」
「全然…人多すぎて…」
「はは、だろうな。まあゆっくり覚えたらいい」
各小隊の自己紹介が終わると理央は第一小隊以外の人を部屋から追い出し自分の部下に何故名智を預かる事になったのかを説明し始めた。
今後必ず外世界の民達はまた襲撃してくる。その時に守ってもらってばかりなのは嫌だと名智が言い、ならばネオスに仮所属し名智に才華が目覚める様に訓練しようという事になり話合いは区切りがついた。本来なら紹介者である聖に訓練をしてもらうのが普通だが彼女の所属している隊は精鋭部隊で仮所属の才華に目覚めるかもわからない人材に手を回している暇がないのだという。蓮も戦闘員でありながら他に仕事が沢山ある隊に所属しているため名智の面倒を見れないという事になり、小隊長で忙しい時は部下に面倒を見させる事ができる理央に名智を託されたのだった。
「てことでとりあえず俺は仮所属を受け入れる書類とか持ってくるからその間に自己紹介と名智に才華についてとか教えてやってくれ」
そう言い終えると美影が止めたにも関わらず理央は部屋を出て行ってしまう。そして残された修也、美影、夕凪、名智は少し微妙な雰囲気を漂わせながら無言になってしまう。修也や美影、名智は人付き合いが苦手というわけでもないがお互いが無言を貫く状態でどう自己紹介に話を切り出せばいいのかと考え、普通に「じゃあ自己紹介するか」と言えばいいのだろうが雰囲気的に口が重く開かなかった。
「…自己紹介しないのぉ?」
重たい雰囲気の中夕凪が本日三本目のロリポップを口に含みながらゆったりした口調でそう言う。彼女は天然で空気があまり読めないため普段から問題発言をしたりと何かと面倒をかけられていた修也と美影だが今回ばかりは「良くやった」と褒めてやりたい気分だった。
「そ、そうだな、するか…倉斗、お前からしろ」
「なんで俺から…まあいいけどさ。 んーと、俺は倉斗修也。高1で翠鳳高校に通ってる。趣味は折り紙。地味とかいうなよ。好きな食べ物は果物、嫌いな食べ物は特になし、以上。次美影な」
「えっと…俺は美影。苗字は悪いが家の都合で言えない。倉斗と同じく高1で翠鳳高校に通っている。趣味…は、特にないが熱帯魚を飼っていてアクアリウムに興味がある。好きな食べ物は…林檎、嫌いではないが生き物の姿形が残ってる食べ物は苦手だ。…よろしく」
名智の目の前に手が差し出される。握手の意味だと理解するのにそう時間はかからなかったためすぐにその手を握り返す。男の手にしては細くて小さいひんやりした手。だが指の先にはマメが沢山できており、少しゴツゴツしている。きっと、今日のために練習してきた証なのだろうと思い少し彼の手を握る力を強める。
手を離し他の人に見られない位置で自分の指を触る。つるつるしたマメもタコもできていない自分の指。勉強熱心な友人にペンダコを触らせてもらったことがあったがそれの非でない硬さ。毎日血のにじむような努力をしているのだという事を手に触れただけで理解し、そしてそれ程過酷な訓練を重ねてきた人達の中に自分は身を投じているのだと思い「頑張らないと」と自分の指を摘みながら喝を入れる。
「じゃあ次はあたしねぇ。近馬夕凪、去年怪我で半年学校行かなかったから留年しちゃって高1だけど年齢は理央と一緒だよぉ。んーと、修也とか美影とかと同じ翠鳳高校に通ってて、趣味はお菓子作りで好きな食べ物はお菓子。嫌いな食べ物は…とくにないかなぁ。よろしくねぇ」
「俺は蒼井名智。紅華高校の1年で趣味は海行って砂で遊ぶこと。好きな食べ物は魚介類で嫌いな食べ物は肉系、仮面軍の事はまだ全然わかってない状態だから迷惑かけるけどもし良かったら仲良くしてくれ」
にひ、と笑うその笑顔に3人は少なからず衝撃を受けた。ネオスのメンバーは他の仮面軍のチームよりよく笑う。他のチームは仲間の死、裏切り、差別などを受け心を閉ざしきってる者達が多いからだ。だがしかし、ネオスは違う。他のチームが嫌っている“普通”の才華に目覚めていない人間と共に行動する事をネオスは選んだ。そのおかげで人間から差別される事も少なく平和に暮らしていける。だがそれでも仮面軍は、ネオスは外世界の民と戦わなければならない。そして戦いには死が付き物だ。だから笑うと言ってもどこか寂しそうに、心の底からは皆笑っていなかった。
だがこの少年、名智が見せた笑顔はネオスに所属する誰よりも素敵で裏のない、寂しさなんて微塵も感じられない笑顔を見せた。まだこちらの世界について、残酷な世界について詳しくはない彼だからこそ見せる事の出来る笑顔。
「…壊さない様にしないとな」
思わず呟かれた美影の言葉に2人は心の中で激しくうなずく。この笑顔を壊してはならない、壊したくない、汚してくない汚してはならない。才華に目覚めこちら側の人間になったとしても、この笑顔を守ってやりたい。
「ん?」
「…いや、なんでもないよ。さあ、まずは才華について教えよう」
こちら側の人間になっても、ならなくても、この笑顔だけは絶対に守る。そう3人は心に決めた。もう、2度と彼らの大切な人みたいに素敵な笑顔を奪ってはいけない。