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名智達が幹部室で仮面軍などについて説明を受けているその時、南雲隊ではとある問題が起こっていた。
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ネオスの本部は高層ビルで、外向きには雑事代行サービス事業…つまり便利屋という事になっている。
実際、1階から3階までは一般社員を雇い便利屋としてネオスの活動資金も集めている。そんな高層ビルの4階はネオスの事務室。5階はミーティングルーム。6階は幹部室、給湯室、書庫などがあり7階はネオスのリーダーとボスの部屋あり、8階から12階までは仮眠室となっている。そして13階は伊月隊、雨宮隊、14階は夜神隊、リアン隊、15階には明坂隊、16階は有馬隊、17階は時輪隊、18階は種村隊、19階は神波隊、20階は霧雨隊、21階は久梨原隊、22階は南雲隊、夏目隊、そして地下1階には草賀隊の執務室、隊員が親睦を深めるための座談室、隊長副隊長の個室、各隊専用のミーティングルームがある。
時輪隊は考古学を研究している者が多く所属するため専用の資料室、霧雨隊は科学者の集まりのため専用のラボがあり、久梨原隊の特徴は…また後日として、久梨原隊にも研究室があり、唯一地下に位置する草賀隊は戦闘員でありながら医者でもあるため医務室がある。23階には大きな食堂があり、24階には図書館、25階には娯楽施設が存在する。26階には指令室があり27階には客室、28階にはラウンジ、29階、30階は訓練場となっている。
そして22階、南雲隊のミーティングルームでは隊員のほとんどが会議に参加しとある話し合いが行われていた。
「なんで隊長が今回の外世界討伐の責任者になんねーといけねぇんだよ!」
南雲隊とは、隊長である南雲有栖をはじめ隊員全員が大学生以下の学生集団である。有栖は高校3年でありながらネオス内でTOP10に入る程の戦績に、隊長としての威厳も持つため20代以上が半数を占めるネオスのメンバーにも一目置かれている存在である。そしてそんな彼女が今回の外世界の襲撃の責任者に任命された。
本来ならば喜ばしい事だが、今回は素直に喜べない。任命されたのは襲撃後の事で、つまり今回の襲撃について有栖には全く非が無いのだが責任者に任命されたと言う事は今回の襲撃の責任を問われると言う事だ。おそらく記者会見も開かれ、そこに責任者として参加しないといけない。だが彼女は高校生のため記者からは舐められ政府からはまだ信頼はあるもののやはり信頼は薄いだろう。
「未叶、うるさい」
「うるさい言うな! 李奈だって…いや、みんな思ってるだろ!」
彼、空野未叶の言う通りであった。ここにいる全員が今回の決定に不満を抱いており、今すぐにでもボスに責任者の交代を申し出たいと思っている。だが、責任者に選ばれたと一報があった時有栖は顔色一つ変えず了承し、ボスからの呼び出しに応じていた。
このミーティングルームには南雲隊副隊長と第二小隊、第三小隊第四小隊の隊長、隊員全員と第一小隊の隊員が集まっていた。第五小隊は襲撃の被害状況の確認に出ており、第一小隊の小隊長は幹部室に用があるからと先程から姿が見えないでいる。
「…倉斗、お前達の小隊長は何の用があるって?」
「さあ? 俺も美影もナギもなんも聞いてないっすよ。むしろ、副隊長なら知ってるかなって思ってたくらいですし」
「俺も聞いていない。…あいつは有栖が責任者に任命された事を知っているのか?」
「たぶん知らないと思ったのでさっきメールいれときましたぁ」
手のひらサイズの大きいロリポップを舐めながら、第一小隊の近馬夕凪が答える。
第一小隊の小隊長とは北村理央の事で、彼は今頃名智に仮面軍について説明しているところであろう。
「全く…理央のなんでも一人で片付けようという態度はなんとかならないのか」
「多分一生治らないんじゃないんすかね。俺と美影が何回言ってもヘラヘラ笑ってるだけっしたし」
「理央先輩の事より! 今は隊長の事だろ!」
未叶の言葉に一同が改めて副隊長、斗条有我の方に向き直りそれぞれの意見を言い合う。上からの命令は絶対で、それを隊長である有栖は受けたので普通ならどうする事もできない。だが隊員全員で意義を唱えれば、責任者を変えてくれるのではないかという希望を持って皆集まっていた。
「…こんな事して、いいのかな…?」
南雲隊第三小隊の天津綟がぼそりと呟く。彼女はネオスの戦闘員最年少の11歳で実力もまだあまりないが、頭がよく切れる。そのため幼い乍もよく考え、皆を導いている。
「どういう事だ?」
「副隊長、これって命令違反ってことになりますよね…? そんな事私達がしたら隊長…怒られちゃうんじゃ…?」
彼女の言っている事は最もだった。ボスからの命令に違反すれば何らかの罰が与えられる。そして、隊員全員が違反などすれば隊長である有栖も間違いなく処分が降されるだろう。
「けど、これは隊長のためだし…っ!」
「綟の言う通りだこのバカ共」
「いってえええ!!!?」
ここにはいないはずの声がした瞬間、未叶の悲鳴があがる。名智への説明を終えた理央は名智と共に南雲隊に戻るが談話室には誰もおらず、どこに行こうかと端末を開けたら夕凪からのメールが受信されており、もしかしてと思ってミーティングルームを覗いてみれば皆集まって有栖をどうやって責任者から降ろすかという話をしていた所だった。
ちなみに未叶はただ殴られたのではなく、書類などが入ったファイルの端で思いっきり殴られたためのたうちまわっている。
「ったく…揃いも揃って阿呆らしい事考えやがって…てか有我さんまで何やってるんすか」
「すまない…だが、いてもたっても居られなくてな…」
「あれぇ〜? 理央の後ろにいる子、見たことないねぇ?」
夕凪の言葉に皆が一斉に理央の後ろにいる子…つまり名智に目を向けた。
仮面軍についてある程度説明し終えた所で名智をどうするかと言う話になった。聖曰く名智も体内に鬼を飼っている可能性が高く、更にエレベーターでの一件でほぼ確実に鬼を飼っているといえる事になった。そのため名智もネオスに所属し何かあった時に対処できるようになっておいた方が良いという結論になった。そうなると名智はどこかの隊に仮所属しないといけなくなるのだが、聖の所属する隊は“少人数精鋭”の部隊でとても名智が入れるような場所ではなく、蓮の所属する隊も少し特徴的な隊なので合わないかもしれないという事で理央が所属する南雲隊に仮所属する、という事になり現在に至る。
「えっと、初めまして…蒼井名智っていいます」
「よろしくねぇ~、あたしは近馬夕凪。理央が連れてきたってことはうちの小隊に仮所属するのかなぁ?」
「おう、そういう事になる。…まあ名智の事はひとまず置いといて…」
空いている椅子に名智を座らせると理央はマジックボードというホワイトボードみたいなボードの前に立ち皆を見回した。一通り見てから大きくため息を吐き、彼は「お前達は俺の予想以上に馬鹿で能無しだな」と呆れた声でつぶやく。それに反論したのが先ほどのたうち回っていた未叶だ。自分達の敬愛する隊長が世間から忌み嫌われるかもしれないのに黙っているわけにはいかないと。だがそれに対して理央はそんな状況になるわけが無いと言う。
「そんな状況になるのなら南雲さんだって流石に降りてるさ。あの人はびっくりするほど頭がいいからな。けど降りなかったって事はそうならないって事だろ」
「そんなのわかんねぇじゃん! 隊長としてのプライドがあって断れなかったのかもしんねぇし」
未叶を始めその場にいる半数以上が彼の言った通りだと思い怒ったような表情を見せるがその中でも落ち着いて物事を考えるのが得意な者達は理央の考えている事を理解する。怒った表情な仲間達に理央は少し口端を持ち上げながらこう言う。
「流石にボス達の心理を全部わかるってわけじゃねぇけど、責任者を高校生にしたら日本中に動揺が生まれるなんてことはガキでもわかる。けどあえてそうしたって事はなんか理由があるんだろ」
「理由?」
「あー…大きい口叩いてるワリけど、悪いがそこまではわかんねぇ。けど、多分大丈夫だろうから。南雲さんを信じてやれ」
自分の言葉に渋々全員が頷いたのを確認してから理央は名智を見る。
「んじゃ、名智に俺ら南雲隊の自己紹介でもしますか」
次回、南雲隊のほとんどのメンバーの名前が出てきてごちゃごちゃすると思いますがご了承ください……