1-2.
「……貴方は?」
「んー…、あえて言うなら地球を守る戦士、かな」
へらり、と微笑むその人に惹かれた。好意を抱いたわけではない。だが、惹かれたと感じた。幼心にこの人の役に立ちたい、とそう思った。そうして私はこの人のためだけに戦士になった。この選択が間違っているのかどうかなんてわからない。けど、きっと正しいのだと思えた。なぜだかわからないけど。
「なあ、お前の力を見込んで頼みがある。世界を守る戦士になれとは言わない。ただ、俺たちと戦う戦士になってくれ」
真っ直ぐな目。この瞳に惹かれた。私は“忌々しい”この力を持った事に初めて感謝した。この人の力になる。そのためならこの力、存分に奮ってやる。
「それが、貴方のためになるのなら。私は貴方のためになりたい」
1-2.
「雑魚ばっかり。私が今日ここに現れるってのは調べられてたはずだけど……? お前らの指揮を執ってるのは伊賀のクソ野郎じゃないのか…随分と舐められたものだ」
短刀を片手に次々と敵を斬っていく聖に、宙に浮かぶ“水の球”。半径5センチ程の水の球が無数に浮いき、彼女が指でその球を動かす様な仕草をするとその球は敵に向って飛んでいき、ぶつかる直前に形を変えて円盤のようになる。そしてその水の円盤がそいつららの体を真っ二つにする。
「クッ……仮面軍か!」
「……今更気付いたって遅い。“ネオス”の雨宮隊第五使、伊野尾聖…。いくら雑魚でも聞いたことはあるだろう?」
名智や運賀、雛橋は全く別世界の話題だと思った。仮面軍?ネオス?聞きなれないワードに一体なんなのだと叫びたくなる衝動に駆られるがギリギリの所で抑える。
「い、伊野尾さん……?」
雛橋がこわごわと聖を呼ぶ。それを聖は冷たい目で見遣り彼女と同じく信じられないといった名智達にさっさと避難すれば、と声をかける。
それは三人の身を案じてというより邪魔だから消えろという意が込められているように感じる。詳しい事情はわからないが、とにかく彼女の邪魔をしてはいけないと理解し三人は大人しく鉛のように重たい足を引きずり後退する。そんな三人を背に聖は戦闘を再開する。
首を落とそうと刀を振りかざしてきた相手の攻撃をよけながらその首を掴み喉元に短刀を突き刺す。その隙を見て殺そうとしてきた者には水の円盤で真っ二つにする。二人を囮にして三人程斬りかかっていくが真ん中の一人は斬撃を躱され斬りかかった勢いでそのまま聖の元へ飛び込んでいきそれを利用して胸元に短刀を差し込む。そしてその短刀を上に振り上げ胸元を抉る。残り二人は挟み撃ちしようとするが右の者は脇腹を、左の者は首を刺され同じく振り上げられ傷を抉られる。
味方のやられっぷりに呆れた敵のリーダーらしき者が聖の前に現れる。その名をビショップという。ビショップは巨躯に似合わず繊細な動きをして相手を翻弄する。だが、彼女はバックステップで少し距離を取り辺りを見回し面倒だな、と呟く。
「貴様も見ればわかるだろう。辺りには百人を越える我が兵。対するお前は残り弾数も少なくあるのはその切れ味が落ちた短刀。勝ち目はあるまい」
離れた場所から見ていた名智にもそう感じた。弾数というのは水の球の事。彼女の回りにある水の球は残り五つ。それで百人を越える者を倒せるわけがないということは子どもでもわかる。だが、聖はビショップを一笑すると短刀を彼に向け声を張り上げる。
「見せてやるよ。本来はお前みたいな雑魚に見せるものじゃないけど…、今回は特別だ」
短刀を振り下ろすと彼女の回りが眩い光で覆われる。あまりにもその光が強く、周りにいたものは思わず目を瞑り、ビショップも目は瞑らぬものの薄目にして彼女を見ていた。
光が取り払われると、そこには先程と一風かわった伊野尾聖が立っていた。白をベースにした彼女が操る水と同じ色の淡い綺麗な水色の模様の仮面。水をイメージしてるのかふわりとした模様で、女性らしく少し可愛らしいデザインのその仮面を、聖はつけていた。
「ぬう……っ!これが仮面…!」
「そうだ。さあ、雑魚共…、本当の才華を見せてやるよ」
短刀を左上から右下に向かって振りかざすと残り少なかった水の球がどんどん増えていく。10や20どころじゃない。100個以上はある。その球は先ほどよりもサイズが増しておりこれが人を真っ二つにできるような物になると思うと恐ろしい。
ビショップの合図で黒いローブ達が一斉に襲いかかる。だが焦った様子を見せず聖は短刀を鞘に納め、いつの間にか手に水で作った短刀を持ち、それを使いと次々と敵を倒していく。先程の切れ味の悪い短刀とは違い水圧を利用して切れ味が格段に上がった水の短刀は敵の刀を折り体を切り刻む。そして宙に浮かぶ水の球も同時に操り百人以上いた兵はあっという間にビショップだけになった。
恐れのせいかまともな思考が出来なくなったビショップは雄叫びを上げて聖に突っ込んでいく。それをため息と共に彼の刀の刃を折り水の短刀で腹部を刺す。
「お前は殺さない。悪いけど捕虜になってもらう」
腹部を刺されてもなお意識があったので頚椎を殴り気絶させる。爆音はまだどこかで続いているがここの戦いが終わっただけで辺りはしんと静まる。今までぼーっと見ていた三人がハッとして聖を見ると仮面はもう着けていなかった。
「伊野尾……」
最初に声をかけたのは運賀だった。だが聖は運賀の声には答えず三人に怪我が無い事を確認するとビショップを肩に担ぎそのまま背を向ける。それを名智が待ってと呼び止めたので歩き出さずピタリと動きを止めた。名智自身、何故引き止めたのか自分でもよくわからなかったが、ここで引き止めないと二度と会うことが出来ないような気がしてならなかった。えーっと、と言いたい事を考えとりあえず今どういう状況なのかと問う。
「……近々、政府から発表があると思うからそれ聞いたら? ……っていうのは流石に可哀想か」
くるりと体をこちらに向けじっと名智を見つめる。色素が抜けて黒に少し茶色がかかった髪、綺麗な茶色い瞳。対する聖は日本人らしい真っ黒な髪に真っ黒な瞳。だが席が前後だった名智は目を見て会話する機会が多かったため知っていた。その真っ黒な瞳は偽物だと。
「……今の奴らは遠い世界…“異世界”って所からこの“地球”を自分達の世界にしようとしに現れた刺客」
異世界、と名智の視界の端で雛橋が呟いている。運賀がそれはつまり自分達が言う宇宙人という奴なのか、と問うが聖は首を横に振る。宇宙人ではなく、どちらかというとアニメなどの世界に近いと言う。
「どういう事?」
「ああいう世界って本当にあるわけない、けどあったらいいなって思うでしょ? そんな感じ。宇宙人は本当に存在するとわりと大勢の人が思ってる。けど、漫画やアニメの世界ってよほど頭のオカシイ人じゃない限りないってわかってる」
こんな異世界があったらいいな、という異世界が本当にあってそこに住んでいる人が今攻撃してきてると聖が説明する。本来は行き来出来ないようにお互いの世界に壁みたいな物が存在するがとある事情でその壁が崩壊し行き来出来るようになったという。
詳しい説明は今日の夕方には防衛省が公表すると言い聖は三人を食い入るようにじっと見つめる。
「何…?」
「……蒼井名智、運賀宗助、椎橋茜雫。どうしても気になるなら…着いて来る?」