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1-1.

 きっとこの世に平等なんてないんだ。だから人は戦う。

 私は戦う事が好きだ。勝てばこの手で“偽物”だとしても、平等を掴む事が出来るのだから。そして、偽物の平等が崩れ、また平等が無くなったとしても、戦えば……戦って勝てば手に入る。だから戦いが好きだ。そんな私を世界は認めない。世界は偽物の平等を、平和を、いつまでもそれを守ろうとする。出来る訳がないのに。平等は自分の手で作らなくてはいけない。そして、もし全てに勝つことが出来たら初めて完全な平等が手に入る。そう思う。


「今更だけど…巻き込んでごめんな」


「…本当に今更だね。この世界に平等なんてない。けど、ひと時の休息を得られるならそれが一番。だから私は戦う事を選んだ。今更貴方に謝ってもらう必要なんかない」


「…そうか、ありがとう」


 ただ無意味な争いをしたい訳じゃない。ただ本当に戦いを無くしたくて戦う事を選んだ。

 戦う事が私の存在たった一つの理由。










episode1.

仮面軍(シル・クレセス)


1-1.











 私立、紅華(こうか)高校1年B組。クラスの雰囲気は良くも悪くも普通で、多少の陰口は囁かれるものの、虐めとまではいかないようないたって平穏なこのクラス。9月にある文化祭準備のため夏休みにも何人かの生徒が学校に手伝いに来ており、蒼井名智(あおいなち)伊野尾聖(いのおひじり)伊丹瑠璃(いたみるり)運賀宗助(うんがそうすけ)雛橋茜雫(しいばしせんな)の五人はあみだくじで見事当たりを引いてしまい買い出しへと出かけていた。


「っもー疲れたぁ、休もうよぉ」


 7月のわりには今日は気温が低く涼しい。だがそれでも前日の雨の影響でじんわりとした暑さは五人の体力を奪う。日傘を差して比較的涼しそうな格好をした伊丹が本日何度目かの弱音を吐く。それに対しシャツの胸元を大きく開け風が入るようにと工夫をした雛橋が暑さのせいか少しイラついた口調で伊丹に言う。


「伊丹さん、そればっかり。さっき休んだんだからまだ歩けるでしょ」


「もう歩けませぇーん」


 ぴたりと歩を止めて地面にしゃがみこむ伊丹に雛橋のイライラは更に増す。伊丹がかたくなに歩こうとしないにはともに行動する名智に構ってほしいから、と雛橋は予想しその様子を見ていた運賀もそう予想した。

 伊丹が名智を狙っているのはクラス全員(名智除く)が知っている周知の事実だった。少し子どもっぽい顔つきだがどこか大人びて見える表情を持ち、性格も明るく誰に対しても態度を変えない裏表のない性格。時折アホっぽい発言をする所もありそれがまた愛嬌があると誰からも愛される存在だった。その上、驚くほど理数脳で理数系のテストはほぼ満点。だがその他は赤点ばかり取るような面もある。

 一方伊丹は育ちのいいお嬢様でほしいと言えば何でも与えられてきたせいか、膨よかな体系に大きいサイズを着るのが恥と考えているのか無駄な肉が目立つぴっちりとしたサイズの制服に自分に合った髪色を探すため何度も髪染めを繰り返し、痛んで無造作に跳ねた髪。性格は一言でいえば“わがままな子ども”に近しいものだった。名智以外の人間は必要としないと言っているかの様に名智以外とは必要以上に話さないし、態度も上から見下したような態度をとるため雛橋をはじめ、クラスの女子にはあまり好かれてはいなかった。


「名智ぃー、疲れたぁ」


「え、いや……俺に言われてもなぁ……んー、もうちょっと頑張ろうぜ、瑠璃」


「むぅ…名智に言われたら、仕方ないなぁ…」


 困ったように眉を下げ苦笑する名智に伊丹は頬を染めて立ち上がる。そんな様子に雛橋はイライラした表情で睨みつけ、それを見てけらけらと運賀は笑う。そんな様子を伊野尾は呆れたように小さくため息を漏らし上を向く。真っ青な空に灰色の分厚い雲が泳いでいる。


「よし、んじゃさっさと買い出し終えて涼しいとこでアイスでも食おうぜ」


 紳士らしく伊丹の手荷物を少し持ち、また歩き始める名智を伊野尾は冷めた目でじっと見つめていた。そして、しばらく見つめてからふいと視線を逸らしまた上を見上げて少し、頬を緩めさせる。


 買い出しも終わりご褒美のアイスも食べ終わり、さて帰ろうと帰路に着いた所で伊丹があ、と声を漏らす。聞けばアイスを食べた店に忘れ物をしたとのこと。また名智の気を引くための口実かと雛橋は疑ったがどうやら本当に忘れたらしく、取りに戻るから先に帰っておいてと言われる。お言葉に甘えて伊丹と別れ4人で歩いていると名智は何やら違和感を覚え立ち止まる。


「どうした? 蒼井」


「……なんか、変な感じ…寒気に似たような…」


「何、それ? 風邪の予兆じゃないの?」


「そんな感じじゃなくて…なんか、こう……危機感を感じるってか…」


 それを聞くと今までずっと無表情で黙っていた伊野尾がふうん、と呟いた。そんな彼女の様子に名智が首を傾げると視線に気付いた伊野尾が名智を見る。そして意味深に微笑んでから目を逸らす。


「まあ……とにかくさっさと帰ろ」


 雛橋がそう言い、運賀が頷く。名智はやはり伊野尾を気にしながらも頷き4人で夏の割には涼しい帰り道を歩く。今日涼しいのは分厚い灰色の雲に太陽が覆われているせいだろう。


「……にはぴったりの空」


 伊野尾が何か呟いたが名智には後半部分しか聞こえなかった。なんて言ったのかと聞いた時、それは起こった。



 耳が痛い程の大きさの音。それが爆音だという事を理解するのにそう時間はかからなかった。自分たちが通ってきた道沿いのビルが炎上しており、あたりに黒い煙が立ち込める。そして空を見上げると十機以上ものヘリが飛び中から続々と人が飛び出てくる。その光景には目を見張るものがあった。飛んできた人達はどう見ても空を飛んでいる様にしか見えない。両の手を大きく広げ人が落ちてくるにはゆっくりすぎるスピードで降りてくる。降りてくる途中で肩に担いでいた重火器(だと思われるもの)を発射させ、瞬きを2回する間に辺りは火の海になっていた。


「なんだよ、これ……」


 思わず声を漏らす名智の耳に雛橋の小さな悲鳴が聞こえた。

 ビルの壁が壊れ、その破片が飛んできて雛橋の真横を通り過ぎた。ここは危険だ。名智達は慌ててこの場を去ろうとするがふと、名智の頭に伊丹の事が過る。彼女は火が更に回っているであろう街中へ向かっていた。


「……運賀、他二人連れて先逃げろ。俺、瑠璃の様子見てくる」


「はあ!? 何言ってんだ!」


 街中へ向かおうとする名智を運賀と雛橋が身体を使って引き止める。見た限り、街中はかなり火の手が回っていて近付くのも危険な状態だ。それでも、と行こうとする名智にその様子をずっと見ていた伊野尾がじっと見つめながら言う。


「行っても、もう手遅れだと思うけど」


「そんなのわかんねぇだろ、それに、助けを待ってるかも知れない」


 引き止める二人を振り払い、街中に行こうとした瞬間目の前に黒いローブを着た人が現れた。先程空から飛んできた連中だ。そいつは刀を抜き名智に襲い掛かる。間一髪で避け後退するがすかさず第二撃を繰り出してくる。こんな戦い慣れていそうな戦士が第一撃だけで攻撃をやめるとは名智も思っていなかったが、素人が避けれるはずもなく刀身が名智の顔に向かっていく。思わず目を瞑り衝撃に備えるがいつまで経っても痛みは訪れない。不思議そうに目を開けるとそこには想像もしていなかった景色が広がっていた。


「雑兵が……私のツレに手を出そうなんていい度胸だな」


 名智とそいつの間には刀だけでなく、人影があった。艶のある黒髪。運賀や雛橋ではない。運賀は金髪、雛橋は栗色に髪を染めている。そしてふわりと香る金木犀(きんもくせい)の香り。この香りを知っている。




『なんの匂い?』


『は…?』


『香水。いっつもさ、プリント回す時にいい匂いするんだよな』


『……金木犀。匂いキツいから苦手な男多いって聞いたけど』


『そ? 俺は好きだけどなあ、その匂い』




 入学して二、三週間が経った時の話。プリントを後ろに回すため後ろを向くとふわりと香った甘い香り。それが印象的である程度慣れてきた四月下旬に数学のプリントを後ろに回すついでに聞いた。


 ふわりと香る金木犀と艶のある綺麗な黒髪に頭がくらくらしそうになる。そいつの攻撃を間に入って攻撃を受けていた聖はどこかに隠し持っていた短刀で受け流し、相手を蹴り飛ばす。その姿が不謹慎乍も美しいと感じた。

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