はじめに
私は馬鹿な男です。
私を心から愛してくれる人を亡くしてしまったのですから、誰でもない、私の所為で。
私は彼を愛していましたが、それに気付いたのは彼が死んだ時でした。
彼から溢れんばかりの貢物と愛を受けてきたというのに、彼の思いは嫌というほど感じることができたのに、自分のそれには気付けなかったのです。気付いた時には遅かったのです。
彼は死ぬ直前まで笑っていました。満面の笑みでした。当然です、だって彼はその直後に自分がこの世から切り離されるだなんて思ってもいなかったでしょうから。私だって思ってもいませんでした。刺しても焼けても死なぬような男とさえ思っていました。だから余計ショックだったのです。
もし私が彼と会った時にまで遡れるのならば、私はどのようなことに身を挺してでも彼を救うでしょう。たとえ、それにより私がこの世から切り離されようとも。しかし私とて死にたくないので、できることなら彼と永く愛し合い、平和に暮らすという甘いハッピーエンドを迎えさせたいものです。
彼と共に爽やかな朝を迎え、食を共にし、街で買い物をし、他愛もないことで喧嘩をし、仲直りをし互いの愛情を深め、その愛を忘れぬうちに遠吠えの聞こえる夜に更に愛を確かめ合いたい。彼の綺麗な笑顔に、私も笑顔で返したい。
有り得ない、くだらない願望に駆られるような、私の人生に於いて最幸のひとときが私の人生に於いての最大の汚点になるまでの一年間を今から語りたいと思います。




