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偽りの因果と応報

「あら、随分と遅かったわねえ」


 聞き覚えのある妖艶な声。

 数秒前に何があっても驚かないと心に決めたことをすでに後悔していた。

『猫』を追いかけて扉を開けた先に待っていたのは、猫を探して欲しいと依頼してきたマダム・マーガレットの姿であった。

 しかも、その腕には先程まで探し求めていた筈の猫が抱かれていた。

 その現実離れした現実に頭が混乱する。


「どうしてマダムがここに?」

 やっとの思いで言葉を搾り出す。

「どうしてかしらね? ルディさんは理解されていないようですけど、そっちのお嬢さんは、もう既に理解されているようですよ?」


 突然、マダムに指名されたイザベルであったが、動揺する素振りも見せずに言う。


「薄々勘づいていました。しかし、果たして敵対勢力のど真ん中に堂々と単身で乗り込んでくることがあるのだろうかと疑問を感じていましたが、今思えば、実に貴女らしいやり方だと思うことが出来ます、マダム・マーガレット。いえ、こうお呼びした方が宜しいのでしょうね。灰色の魔女、カイラ。しかし、領主の間で『魅惑』を使ってルディを射精させたのは、流石にやりすぎのように感じますが」

 イザベルの唐突な話に、まだ頭の整理が出来ずにいる。

 そして、領主の間で出来事がイザベルに気づかれていたことに恥ずかしさを覚える。


「あら? あの悪戯までバレていたのね。でも、あれは仕方なくてよ。私は彼の欲求の解消を少し手伝ってあげただけ。だって、彼ったら私の姿を見て欲情していたのよ」

 ウフフと意味ありげ表情で僕をみつめる。

 あの状況を躰が憶えているのか、躰の一部が熱くなるのを感じる。


「常に行動をともにする従騎士として、ちゃんと彼の欲求を処理して差し上げないと。それも従騎士の役目ではなくて?」

 カイラがイザベルを罵る。そして、次第に躰が細くなり、顔の皺も無くなると、見覚えのある姿になる。


「灰色の魔女、カイラ。あなたがルディをどんな目的で射精させたか興味はありません。しかし、本来の目的は偽の捜索依頼は私たちをここに誘き寄せて、ここで始末することだったようですね」

 ミースがマダムから元の姿に戻ったカイラに言う。

「あら、その点は、勘違いなさっているいるのね。私たちは脇役よ。主役はこちら」

 抱えられていた猫が「ミャア」と緊張感の無い声で啼く。

 その声に呼ばれるかのように、カイラの背後から一体のゴブリンが現れる。

 躰の大きさは、通常のゴブリンより一回り大きいくらいだが、その躰から滲み出る圧力はゴブリンエリートとは比較にならない圧倒的なものを感じた。


「ワタシノナマエハ ゴブリンロード。ゴブリニアノオウデアル」


 ゴブリニア事変においてゴブリニアの建国宣言をしたゴブリンの王、ゴブリンロード。

 しかし、それはイズガルド転覆を狙ったノルガルドの諜報機関「黒衣の集団」の策略による偽りの存在で、実在はしていなかったはず。

 まさか、本当にゴブリンロードは存在し、ゴブリニアも存在していたというのか?


「なるほど。ゴブリンロードまで用意していたとは。差し詰め、その『猫』はあなたの『使い魔』なのでしょう。そう考えると、全ての出来事に納得できます」

「あら、流石はイザベルさん。アソコも敏感だと頭の回転も早いのかしらね」

 カイラが自らの中指を見つめながらイザベルを挑発する。

「でもね。一つだけ教えて上げるわ。この『猫』は『使い魔』などという存在ではないのよ。まあ、これは今のあなたがたでは理解できないことでしょうから、説明はいたしませんけどね」


「いえ、もう理解しています。その『使い魔』の正体は『天界からの使い』です。あなたは、その『天界からの使い』を利用し、この坑道に巣くうゴブリンたちに力を与えていました。

 ゴブリンメイジ、ゴブリンウォーリア、ゴブリンアークメイジ、ゴブリンエリート。

 そして、今、目の前にいるゴブリンロードも例外ではありません。

 あなたは、ゴブリン達に力を与え、本当にゴブリニアを建国させ、イズガルドの崩壊を企てているのです。そして、その障害となるのが私たち。だから、私たちをここに誘き寄せ、抹殺しようと考えたのです」


「ご名答ですわ。でも、自分達を買いかぶりすぎよ。私たちはあなた達の存在自体は脅威と感じておりませんわ。ここに誘き寄せたのは、力を与えたゴブリン達を実戦で評価するため。一種のデモンストレーションですわ。まあ、デモンストレーションは自体は失敗ですけどね」


 カイラが自虐的に言う。

 灰色の魔女、カイラは、イズガルド転覆を狙いゴブリニアの再興を計画していた。そして、その目的のために強化されたゴブリンの実戦での評価を行うために僕らをここまで誘き寄せた。『猫』は恐らくその特別な力によってゴブリンの能力を飛躍的に向上させる役割を担っていたと。

 この陰謀はここで止めなければゴブリニア事変の二の舞となってしまう。

 ふと、背後に人影が動く気配を感じる。

 その気配に振り向くとオクスレイがミースを捉えて、既に胸元に手を忍ばせていた。


「ヘヘヘ。これが本当の役得ってやつだな。おやおや。こちらのお嬢さんはまだ男を知らないな。立派に発育しているのに勿体ない」

 オクスレイに乳房を揉み拉かれ、ミースが顔は紅潮させている。

「お願いできるんなら、やっぱり褐色のネーチャンのほうが愉しめそうだ。おい。ゴブリンロード。いつまで突っ立っていんるんだ。さっさとやっちまいな」


「オオセノママニ」


 オクスレイの命令にゴブリンロードが答える。

 次の瞬間、姿が消えたかと思うと、突如、眼前に現れ、薙ぎ払うように太刀を浴びせる。

 咄嗟にその太刀に反応し、アンネームドで弾き返すが、その衝撃で躰を弾き飛ばされる。

 速い――

 事前動作から太刀を浴びせる動作が全く異次元の速度であった。

 この太刀を躱し続けられる保証はない。

 ミースはオクスレイに捕らえられ、イザベルはカイラを対峙している。

 この状況では連携することは不可能。一人でこの難敵を倒さなければならない。

 間髪入れずに、ゴブリンロードが大技、フレイムストライクを詠唱する。

 足許から突如、フレイムストライクの火柱が立ち上り、躰を捩りその火柱を間一髪で躱す。

 まさに絶対絶命とはこのことであった。

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