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作戦の相違と見解の不一致

 灼熱の火球が躰を掠める。

 その火球が放つ膨大な熱量が頬を焦がす。

 ここはアレウス山脈の地下に拡がる坑道。この坑道は一年前に起きたゴブリニア事変以降、ゴブリンの巣窟と化していた。

 暗く細い長い坑道の先に、ロングソードを手にした醜悪な姿のゴブリンが、こちらの出方を伺っていた。


「イザベル! ゴブリンの数は?」

「先程の『火球』を放ったゴブリンメイジが二体とロングソードで武装したゴブリンが一体。ゴブリンがロングソードを装備している事例は初めてです。ミース様、当該個体の識別名称を」

「現時刻を以て当該個体の名称をゴブリンウォーリアします。ルディとイザベルはゴブリンウォーリアの排除を。私は『絶対障壁』により『火球』を無力化、援護します」

「了解した、ミース。宜しく頼む」


 ゴブリンメイジの『火球』による奇襲を受けた僕たち三人は、入り組んだ坑道の壁に隠れて『火球』を遣り過ごしていた。

 数の上では三対三の同数。

 しかし、ゴブリンは遠距離攻撃を得意とするメイジ型が二体。対する僕たちは遠距離攻撃手段は皆無。ゴブリンウォーリアに接近することも満足にできない状況であった。


「イザベル。ゴブリンウォーリアはお前だけでなんとかできそうか?」

「それはどの様な主旨なのでしょうか? 私一人にゴブリンウォーリアを押しつけ、その間にルディがゴブリンメイジを片付けるという作戦を主旨とした発言として理解して宜しいのでしょうか?」


 無表情にイザベルが返答する。


「ルディ。どう考えてもイザベルにウォーリアの相手は無理よ。体格差がありすぎよ。あれでは一太刀でも浴びればイザベルはレイピアごと吹き飛ばされてしまうわ」


 ゴブリンウォーリアの体躯はミースの云うとおりゴブリンというよりオークに近い体躯の大きさである。そして手にしているロングソードは、刃毀れが酷く切れ味は期待できないものの、重量は相当あるように見える。その重量に加速度が加わったロングソードの破壊力は想像に難くなく、間違い無くイザベルをレイピアごと吹き飛ばしてしまうであろう。

 では、やはり僕がゴブリンウォーリアの注意を惹き付け、その隙にイザベルにゴブリンメイジを受け持ってもらうのが最良の選択肢となるであろう。

 幸いなことに僕の愛刀、アンネームドはイズガルド三大聖剣の一つ。物理的に破壊されることはまず有り得ない。ゴブリンウォーリアの一太刀くらいであれば、躰もなんとか持ちこたえることが出来るであろう。

 となると、ミースが『絶対障壁』で『火球』を防ぎきれるか……


「その点については任せて下さい。私も銀十字聖騎士団の聖騎士です。ゴブリンメイジの『火球』なら問題なく防いでみせますとも」

 ミースが僕の心配を察してか、無邪気に笑顔で言う。


「よし。では、僕とイザベルはゴブリンウォーリアに向かって突撃する。その間に飛来する『火球』はミースの『絶対障壁』で防御を。兎に角、ゴブリンウォーリアさえ無力化すれば、さほど問題のある状況ではない。一気に勝負を掛けるぞ!」

「了解」と二人が声を合わせる。

「いいか、イザベル。今から三つ数えたら、飛び出すぞ。準備はいいか?」

「いつでも」とイザベルが素っ気なく答える。

 カウントを開始する。

 僕は二人を信頼し、全力でゴブリンウォーリアに向かって突撃するだけ。


「ゼロッ! 行くぞ!」


 僕は自らの号令に合わせ、通路の物陰からゴブリンウォーリアに向かって駆け出す。

 数歩掛けだしたところで、いつもより躰が軽いことに気がつく。振り向くとミースがウィンクしていた。きっと、ミースが『奇跡の力』によって僕の脚力を短期的に強化してくれたのであろう。しかし、逆に何時もと速度が異なるため、間合いが詰まる速度が速く、戸惑いが生じる。


「ミース、余計なことを……」と思いつつも、僕のことを何時も影ながら支えてくれるミースの存在は矢張り頼もしい。

 思ったとおり、ゴブリンメイジの『火球』が僕らに向かって放たれる。その弾道を予測していたミースによって『絶対障壁』が展開され、次々と『火球』を弾き返す。


「やるじゃないか。ミース」


 完璧に展開されるミースの『絶対障壁』に感動すら憶えた。

 ゴブリンウォーリアとの間に展開された『絶対障壁』は三枚。僕とイザベルは、強化された脚力を生かし凄まじい速度で、一気に間合いを詰める。

 僕は、ゴブリンウォーリアとの間に展開された最後の『絶対障壁』の背後から躍り出る。 そこは、ゴブリンウォーリアのロングソードの間合いである。

 如何に絶大な威力を誇るロングソードと謂えども弱点は存在する。

 その弱点とは「初速の鈍さ」である。

 途轍もない重量から一旦加速してしまうと全てを薙ぎ払う破壊力を誇るロングソードであるが、裏を返せば加速する前のロングソードは単なる鈍重な鉄の塊でしかなく、ショートソードの間合いに入ってしまえば、ロングソードに勝機は無い。

 案の定、ゴブリンウォーリアのロングソードの動き出しは鈍く、充分な加速力を得られていない。

 勝負あり。

 僕が勝利を確信した瞬間であった。

 突然、背中を蹴られたような衝撃が襲う。

 見上げると僕の背中を踏み台に、イザベルがゴブリンウォーリアに向かって跳躍していた。


「護衛、ありがとうございます」


 イザベルはそう言うと、前方宙返りをし、その勢いを利用して空中でレイピアをゴブリンウォーリアに向かい投げつける。

 突然、僕の背後から姿をだしたイザベルに全く反応出来ないゴブリンウォーリアの額にレイピアが突き刺さる。

 そして、着地の瞬間に投げナイフを一閃。

 正確に放たれた投げナイフがゴブリンメイジの額を突き刺さる。


「イザベルちゃん、凄い!」


 僕の後方でミースがイザベルの一連の攻撃に感嘆の声をあげている。


「ったく……」

 僕はそんなミースの驚嘆とは逆に、悪態をつく。

「イザベル! こんな作戦、指示した覚えはないぞ!」

 どうして僕の命令を無視するのか…… 理解不能である。

「あれ? まだ現実を理解されていないのですが?」

 イザベルが悪びれずに僕に言い返す。


「だって、あの作戦はミース様が立てた作戦なのですよ。ミース様がこっそりと私に小石を渡して、作戦の意図を残留思念によって伝えていたのです。でも、よく古来からいうことですよね。敵を騙すにはまず味方からって」

「……」


 全くもって腑に落ちない。

 結局、僕はミースとイザベルに良いように扱われているだけなんじゃないか?

 意味も無く機嫌が悪くなる。

 そうだ。

 思いだしてみれば、この件もそんな感じで始まっていた。

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