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私の消えた日

作者: Haduki

 私は事故で顔半分に大火傷を負った。

 揚げ物をしている時に地震が起きて、咄嗟に火を消そうとして誤って鍋をひっくり返してしまったのだ。二百度にまで上がった油を、私は頭からもろに浴びた。

 パニックになってたとは言え、自業自得としか言い様がない。顔が焼け爛れる熱さに耐えながら私は119番を押し、病院へと運ばれ手術を受けた。

 担架に乗せられ運ばれた処置室で「ここまで酷いと皮膚を移植するしか無い」という会話が聞こえた。

「これから貴方の顔の皮膚を剥がし、別の人の皮膚を移植します。多少顔の造形が変わってしまうかと思いますが、宜しいですか」

 朦朧としている意識の中、耳元に口を近付けて言った担当医の言葉に、私はにべもなく頷いた。

「構いません、お願いします」

 助かるならどうでもいい。元々顔に執着はない。

 次に目覚めたのは、手術を受けて一夜経った頃だった。

 ドラマ等にあるような家族や恋人の付き添いはなかった。私の両親は田舎に引きこもっていたし、連絡もあまりしていなかった。恋人はいない。根暗な性格だから友達もいない。保険証などの手続きは後日に回してもらうことにした。

 しばらくして看護婦と主治医がやってきた。主治医は手術が成功したこと、丁度私が来る前に脳腫瘍で亡くなった若い女性がいたこと、その女性が全身全ての臓器・器官の提供に同意していた事を話し、私の顔は彼女の顔の皮膚を移植したと説明した。

 拒否反応が出るかもしれないからと、抗生剤を点滴されながら、退院は早くて一ヶ月後位だろうと聞かされた。私の顔はミイラのようにぐるぐる巻きだった。

 一日ごとに顔の包帯は変えられたが、私はまだ変わった自分の顔を知らなかった。看護婦の反応に恐ろし気な様子はないので、見るも無惨な化け物のようにはなっていないのか。少しだけほっとした。

 数日後、身体の拒否反応も無く、全身状態も落ち着いたので、包帯を剥がして顔を見る事にした。ショックを受けるかもしれないからか、鎮静剤を持った看護婦と主治医が同席した。

 ゆっくりと包帯が外される。私は閉じていた目をそっと開け、鏡の中の私を見た。

「怪我の割に綺麗な顔ですよ。良かったですね」

 言葉を無くした私に、医師はそう言って人の良さそうな顔を綻ばせた。私は返事が出来なかった。

 火傷で顔が変わる事は承知していた。しかしここにあるのは、火傷を負った私の顔ではない。私の知っている顔だが、私の顔ではない。

「……私の顔の皮膚は、どなたからもらったのですか?」

 患者のプライバシーは守秘義務との事だが、私がしつこく訊ねるので医者は根負けした。柳沢霞やなぎさわかすみという名を聞き、私は刮目した。彼女は私の知り合いだった。

 霞は私のかつての同級生だった。田舎から大学に通う為に上京して、同じ学生マンションを利用していた。仲は良い訳ではない。彼女は社交的で友達も多かった。よく部屋に友達(男の時もあった)を連れてくるのをエレベーターホールで見た。

 脳腫瘍で亡くなった彼女の皮膚を使って、私は一命を取り留めたのだ。

 私は霞の顔をした自分を暫し見つめ、少しだけ微笑んでみた。彼女は女の私から見ても愛らしい顔立ちをしていた。私の反応を「顔が崩れていなくて安心した」と取ったのか、看護婦は「良かったですね」と話し掛けてきた。私はそれに笑みで答えた。

 幸い他の部位の後遺症はなく、治療とリハビリを続け、一ヶ月後私は退院した。タクシーでマンションに戻り、私はポストを覗いた。長期欠席に対しての大学からの連絡と大量のチラシしか無かった。チラシは全部捨てた。

 廊下を歩いていると自分のもの以外に一つの表札が目に入った。「405号室 柳沢」。自宅で保険証を探しながら、ふとあることを思い付いたので、私は管理人室に向かった。

 インターホンを押すと、管理人室の小窓を開けて顔を出した初老の婦人が嬉しそうに声を上げた。

「おや、柳沢さんじゃない。どうしたの、最近見なかったわね」

 そうか。この人は私を霞だと思っているのか。

「事故で入院していたんです。鍵を無くしてしまったから、合鍵をお願いします」

 疑うこともなく、管理人はいくつかの労りの言葉と共に合鍵を差し出した。それを受け取った私は霞の部屋へと入る。

 ビビッドカラーの物で溢れた、女の子らしい部屋だ。私は黒や灰色などのモノトーンが好きなので、何だか落ち着かない。靴を脱ぎ、兎の顔がついたスリッパを履いて上がった。

 ワンルームのリビングで留守電が光っている。再生ボタンを押すと、彼女の女友達や彼氏らしき人物からのメッセージが立て続けに流れた。皆なぜ霞が死んだことを知らないのかと疑問に思って、すぐに納得した。そうだ、この子は身寄りがいないんだっけ。

 霞の両親は幼い頃に亡くなって、彼女は祖父母に育てられた。けれど彼女が高校に進学する年に、二人も揃って天国へと旅立った。彼女は奨学金制度を利用して大学へ進んだ。不幸な境遇や愛想の良い性格から、近所に住む私や他の子は「霞ちゃんのようになりなさい」と怒られるのが常だった。

 部屋を見渡した私はぼんやりとソファに座り、暫くしてからまたポストへと向かった。霞の部屋のポスト番号は知らなかったが、またもお人好しの管理人に協力してもらって中を開けた。ポストの中には、外にはみ出すくらいの郵便物が入っていて、開けた途端いくつか床に落ちた。チラシも多かったが、友達からの頼りも沢山あった。


 私は霞の部屋に戻り、彼女の携帯や学生証、保険証や免許証を探し始めた。病院で聞いた話によると、彼女の身元は運ばれた際に唯一所持していたスケジュール手帳で発覚したらしい。だったら大学に連絡はいっていないだろう。

 部屋の端から端まで物をひっくり返す私の視界に、霞が集めたぬいぐるみが映る。でも気にも留めない。テーブルの下にあった普段遣いらしい鞄の中に、私は探し物を見つけた。

 私は本当の自分の部屋に戻り、近くに転がしてあった箱に荷物を詰めた。台所用品はいらない。いるのは現金や通帳、文房具や音楽プレイヤーだ。

 免許証の写真を見て、私はぼさぼさの頭を梳かし服を変えた。写真の彼女はパーマをかけているようだが、私は元々癖が強いのでパーマの必要はないだろう。

 私は霞になりすますことにした。

 人付き合いをしない私に、身寄りの無い霞。しかも霞が死んでいる事にはまだ誰も気付いていない。入れ替わっても、私と病院の人間以外はこの事実を知らない。

 何故このような大胆なことを実行しようと思ったのか。自分でも不思議だった。でも彼女への山の様な手紙が束になってポストから落ちた時、何かが弾けた。

 私は羨ましかったのだ。自分と何もかも違うあの子が。私が入院している時は誰も見舞いに来なかった。でも彼女が入院していたら、きっと多くの人が見舞いに訪れた。早く良くなってという言葉と共に。

 小さい頃から、私は彼女の影で過ごしていた。お手伝いをしなけれな彼女と比較される。成績が良くても彼女と比較される。皆霞が好きだった。でも私は嫌いだった。

 私が彼女の振りをした所で、どうせ死んでいるのだから罰は当たらないだろう。私のせいで彼女は死んだ訳ではないし。寧ろ彼女の「顔」の所為で、私の「顔」はこの世に存在しなくなってしまったのだ。だったらこれくらい許してくれるだろう。…最後は筋違いだと自分でもわかっていたが、とにかく私は自分が霞に化けることを肯定した。

 次の日、彼女の服を纏い彼女の鞄を持って、私は「柳沢霞」として大学へ向かった。知らないキャンパスだったので少し早めに家を出た。時間割は彼女のバッグのファイルを見て確認しておいた。

 大学のある駅に降りた瞬間、すぐに声をかけられた

「あ、霞じゃない!どうしたの? 一ヶ月も学校休んで」

 私は私の身の上に起こった事を説明した。勿論「柳沢霞」としてだ。事故で一ヶ月入院していたと聞いて、友人はすぐに心配そうな顔付きになった。

「そうだったの…じゃあ休学中のノートは私のを貸してあげる。あんまり無理しちゃ駄目だよ」

 礼を言って、私は彼女と一緒に授業を受けた。どうやらこの友人と霞は殆ど同じ授業を受けているらしい。彼女に付いていけばいいので、教室移動は楽だった。

 会話の端々で、さりげなく霞の情報を拾っていく。サークルの話題になると、友人はこれから部室に行こうと誘った。皆心配してたよと言葉を添えて。私はその提案に同意した。

 放課後、部室に向かい扉を開けた瞬間に、私は大勢の人に出迎えられた。隣の友人が事前に、サークルの人間達に連絡していたらしい。私は口々に「退院おめでとう」やら「元気になって良かった!」という言葉を貰った。

 皆の優しさが心地よかった。人と関わる事はこんなにも楽しい事なのか。退院祝いだと連れて行かれた居酒屋で、私は初めてビールを煽った。しかしそんな行為は霞にとっては普通らしく、「相変わらずいい飲みっぷりだね!」と賞賛された。

 解散して、駅に向かおうとしていると一人の青年が近付いて来た。「久しぶり」という言葉と一緒に熱のこもった視線を向けられて、私はこの人が霞の彼氏なのだと分かった。

「入院してたんだね、知らなかった」

「顔を怪我して、声が出せなかったから」

 暗に連絡が出来なかったのだと言い訳すると、彼は承知しきったように笑った。

「でも何の後遺症もないみたいで良かった」

 私は微笑んだ。例え霞に向けられたものだとわかっていても、彼の言葉や態度が嬉しかった。私が黙って彼の肩に頭を寄せると、彼は私の肩に腕を回し頭を近付けた。体温が近かった。

 男の人とこんなにも密着したのは、生まれて初めてのことだった。しかし私はそうしたことが何度もあるかのように、彼の手に自分の指を絡ませ、彼の指の感触を楽しんだ。

 「柳沢」の表札のかかった自宅まで送ってもらう。去り際、彼の額にキスをすると、彼は私の唇にキスをした。「いつもはここだろう?」と言った彼に、私は「そうだったね」と返した。私は幸福感に満ちあふれていた。

 霞の部屋に戻り、私は今日一日の出来事を振り返って笑顔になった。霞として暮らすのは楽しい。皆私のことを気にかけてくれるし、自由に振る舞える。

 人間には身分相応な振る舞いというものがある。私が私だった頃には出来ない事が、霞の姿では沢山出来る。私はこの先も霞として過ごすことを決意した。


 部屋を物色し、私は日記を発見した。華やかな性格の割に几帳面らしく、細かい事まで記録が綴られていた。中には脳腫瘍の片鱗らしき事柄が見受けられる文もあった。

 最後のページは私が火傷をした日で、「これからコンビニで夜食を買ってくる」と書いてあった。料理はあまりしない方だったようだ。

 私は隣の白いページに今日の日付を書き込んだ。今日、学校に復帰して授業を受けたこと、サークルに顔を出したこと、彼と久しぶりに会ってキスをしたことを鮮明に書き記した。他のページと違和感がないように、筆跡も彼女の真似をした。書きながら、私は一つの大事な事に思い至っていた。

 彼女として暮らす上で、私は彼女の周りの人に違和感を覚えられてはいけない。私と彼女の関係は、病院に尋ねればわかってしまう。自分しかいない家の中はともかく、外でかつての彼女とあまりに差異があったら、誰かに気付かれてしまう。

 私は日記を隅から隅まで目を通し、そこから読み取れる彼女の性格、癖、記録を調べ、徹底的に頭に叩き込んだ。社交的で明るく、少し我が儘だが思いやりのある「柳沢霞」として生きる事にした。

 持って来た荷物の中から出した自分の免許証と、彼女のそれを並べた。写真付きのそれに載っているのは、もうこの世にない私の顔だ。私はそれをぐにゃりとへし曲げ、台所の生ゴミ入れに放り込んだ。

 翌日から、柳沢霞としての本当の毎日が始まった。霞は授業には真面目に出るが学業よりもサークル重視で、映像製作サークルの書記を担当している。過去と今の違いがわからぬよう、恐る恐る黒板に会議内容を記す私は、他人に己の筆跡を曝す職務を選んだ過去の霞を少し恨んだ。

 サークルの活動を終えた後は、大抵飲み会に参加する。酒はかなり嗜む方で、酔うとおしゃべりが止まらなくなる。酒自体あまり飲んだ事のない私は、最初は吐いてしまわないようにすることで精一杯だったが、次第に耐性が付いたのか慣れてきた。

 恋人は同い年の文学部の青年。馴れ初めは彼の作った短編映画に主演したこと。霞は他の部員の映画にもよく出ており、可憐な容姿と相まって演技が上手かったらしい。

 休日はサークルの友達と出掛けたり、部屋の掃除をする。たまに彼氏が遊びに来て、その時だけは料理をする。もっとも、私は料理が趣味の一つだったので、彼が来ない日も自分で食事を作っていた。ただ昼食の弁当だけは、霞が作って持って行くのは不自然だったので買って済ませていた。

 全ては順調に上手く進んでいた。誰も私を霞でないとは疑わないし、実際私は霞の姿をしているのだ。体型もそう変わらないし、声質も彼女が少々高いだけでさほど違いはない。どこに違いを見つけられるだろうか。

 二ヶ月も経ったある日、私は友人と本屋に寄った。友人の買い物に付き合うためだった。意識してファッション誌のコーナーに入り浸っていたが、彼女の会計が終わった様なので出入り口へと向かった。そこで新刊本として積まれていたある本が目に入った。

 それは物心ついた時から読んでいる、推理小説の最新刊だった。私は思わずそれを手に取ろうとした。

「どうしたの、霞。それに興味あるの?」

「え?」

「あんた、それ一巻読んで『よくわからないからつまんない』って言ってたじゃない」

「そ…そうだっけ?」

 私は慌てて指を引っ込めた。霞が興味を持たない本を買うのは不自然だ。でもどうしても読みたい。後でこっそり買いにこよう。

 誤摩化し笑いをして本屋を出た私は、彼女の唐突な言葉に息を止めそうになった。

「あんた、少し変わったよね」

「そ、そう?」

「事故にあった所為かしら? 前と趣味が違うって言うか、ちょっと変わった気がする」

「……どこが?」

 慎重に訊ねる。すると友人は「そこよ、そこ」と苦笑して言った。

「前は少し人の話聞かない所があったのに、今はそうやってよく聞くじゃない?あと慎重になったっていうか」

「……大人になったんだよ」

 そう些か強引に結ぶと、「そうなのかもね」と彼女は同意し

「でも前のあんたも、そんな嫌いじゃなかったけどね」

 と続けた。私は何も答えなかった。

 私は一度霞の家に戻り、荷物を置いてすぐに本当の家に行った。埃っぽい部屋を歩いてタンスまで行き、地味な服を引っ張り出す。それから帽子を被って財布を持ち、また本屋へと出掛けた。

 今度は迷わず本を手に取る。レジに並び、お釣りを受け取った私は早足でマンションへと向かった。そして、霞の部屋と同じ四階にある自分の部屋へと向かう。

 すると、部屋の前に誰かが立っていた。私の部屋ではない、霞の部屋だ。背が高い男の人。彼だった。


「ごめん、急に来て」

 私は驚いて声が出なかった。霞らしからぬ地味な服装を見られてしまった。すぐに帽子を外し本を後ろに隠すと、私は彼に中へ入るよう促した。しかし彼は玄関に立ったままだった。

「…今日はお別れを言いに来たんだ」

 最初、私は思考が止まり理解出来なかった。どうしてと掠れそうな声で訊ねたら、彼は静かにこう答えた。

「最近の君は、僕に合わせすぎている。前はもっと自由奔放だった。ちょっと我が儘だなって思う時もあったけど、一生懸命で、僕の映画の中で演技している時の楽しそうな顔が好きだった。…でも今は違う。何もかも上手くやろうとして、他人に全てを合わせている。仕草も態度も計算している」

 私は動揺した。手から本が落ちて重い音を立てた。彼は私の驚愕している表情を見て、申し訳なさそうに、しかしきっぱりとした口調で言った。

「僕は、僕に全て合わせてくれる女の子が欲しい訳じゃないんだ。ごめん」

 私は彼を引き留められなかった。前の霞と今の私の差異を的確に示した彼。このまま付き合っていてもボロが出るだけだった。でもあんなに完璧に真似したのに。私は霞の顔なのに。何が違うと言うの。

 長い間放心して突っ立っていた私は、やがてのろのろと体を動かした。本を拾い、重い足どりで本当の私の部屋に向かう。すると先程はなかった留守電の赤いランプが点滅していた。

「もしもし……お隣の榊原です。○○ちゃん、最近こっちに帰ってこないけど元気?いきなり電話してごめんね。用件だけ伝えるけど………今日、貴女のご両親が亡くなったの。交通事故で。それでお葬式をするから、大学は休んでこっちに帰ってらっしゃい。貴女のとこは子供が一人しかいないから、喪主は貴女よ。急な話だけどお願いね。連絡待ってるわ」

 お父さんとお母さんが、死んだ。突然知った悲しい事実は、衝撃となって私を打ちのめす。膝から力が抜けて、私はフローリングの床の上に崩れ落ちた。

 すぐにでも連絡をしようと受話器を持ち、震える指でボタンを押す。けど今の現状を思い出して手が止まった。私の顔は霞だ。近所でも有名な彼女の姿では、誰も本当の私には気付かない。霞が里帰りしたと思うだけだ。

 例え事情を説明しても、そうしたら今度は霞として私が暮らしている事がばれてしまう。いや、こんな偶然が招いた嘘みたいな話、口下手な私が話して信じてくれる人がいる訳ない。唯一信じてくれる人達はさっきまでいたけど、もういない。

 私は霞の顔で泣いた。大声で泣いた。真似ずとも泣き声は彼女のように高かった。涙でメイクが流れていく。でも偽の顔は崩れない。私の本当の顔は見えないままだ。

 私を私と証明するものは、あの日全てゴミ箱に捨ててしまった。私は死んでいない。でも私の顔はここにはない。死んだのは霞だ。でも霞はここにいる。霞の顔はここにある。でも霞は私ではない。それを証明してくれる人はどこにもいない。

 霞が死んだ日に、私もこの世から消えてしまった。

 数時間して、私は泣く事にも疲れ、何となく床に放り出したままの小説の表紙を開いた。涙にピンク色のアイシャドウが混じり、ぽつんと紙に薄赤い染みを残した。



END


 大概ドッペルゲンガーが出る話は、影が本体とすり替わり本物となってしまうパターンが多いので、影を主人公に設定し、影も本体自身も姿を無くしてしまうと言う結末にしました。本体である女性の名前の「霞」は、存在があやふやということから、名字の「柳」は、日本でよく幽霊の影と見間違えられていた事から付けました。影である女性の名前は、呼ばれる回数も殆どないのであえて決めていません。

 皮膚移植は本来、患者本人の体の一部(臀部など)から移植するもので、また他人の物を移植すると激しい拒絶反応が起こるのが普通です。しかしこれはフィクションですので、この話の中では可能と言う設定にしておきます。ちょっと近未来なのだと思って頂けたら。


拙い所ばかり目立ちますが、ご拝読下さり有り難うございました!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 短いながらも起承転結がしっかりしていて、一人称ならではの緊張感がはっきり出ていました。女性ならではの視点で描かれる等身大の主人公像も大きな魅力だと思います。 [気になる点] 題材が題材だけ…
2014/07/02 22:57 退会済み
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