鴉
――私は、鴉。
大きな黒い翼を広げ、真っ赤な眼で獲物を探す。
人の人生と言う名のゴミ袋を漁る。大きな、大きな八咫鴉。
気まぐれに袋を破り、散らかし、食い荒らし、滅茶苦茶にして去ってゆく。
私はそんな、鴉だった。
人間は皆、私のことを不幸をもたらす悪魔と呼び、
けれどあの人だけは、幸せを呼ぶ黒鳥と呼んでくれた。
私は今日も、飛び立つ。
あの人に、会うために。
飛んで、飛んで、辿り着いた白い場所には、非力な人間が居る。
彼はきっと今日も居る。けほけほと咳き込みながら、白い場所に寝ているはずだ。
人に化けて、服を整え扉を開ける。
彼は今日もそこに居た。思わず頬が緩んでしまう。
「あぁ……よく来たね。僕は今日もツイてないや……」
私が訪ねると、彼はいつも私を撫でてくれる。
その日も彼は私を優しく撫でてくれた。
いつも、いつも、彼は「ツイてない」と言って寂しい表情をする。
私に理由は教えてくれなかったけれど……
私は、訪ねるたびに彼が痩せていき、咳き込む勢いが増しているのを知っていた。
心の底では分かっている。私は、不幸を呼ぶ悪魔だから……
けれどその手は大きくて、温かくて……とても、とても優しい気持ちになれた。
ずっと彼の傍に居たい。
つい、毎日来てしまう。
そして今日も、私は尋ねてみる
『今日のあなたは、ツイてますか?』
……彼は、「ツイてるよ」と笑ってくれた。
「最期に、君が来てくれたから」