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其の五:古代龍の片鱗と第一封印

 「お久しぶり、になるのかなぁ?」


 目の前に立つ白尽くめの三人組の先頭、恐らくリーダー格なのであろうあの時の男が俺達に向かって下品な笑みを浮かべていた。

 後ろに控えている二人は腰の剣に手を掛け、既に準備万端と言った様子だ。

 俺達もグリーティア以外は――グリーティアは武器の類を持っていないのだ――それぞれの武器(エモノ)に手を掛けている。


 「嫌だなぁ、そんな風に警戒されちゃあさぁ、傷付いちゃうよねぇ。せぇっかく苦労して見つけたのにさぁ。まぁ、仕様が無いのかなぁ?」


 人の神経を逆撫でする様な間延びした声でニヤニヤと喋る男。

 勿論、俺がこの程度でどうにかなるやっすい精神構造をしている筈もなく、取り敢えず喋らせておく事にした。この手の相手には勤めて冷静に、相手のペースには乗らず要点だけを返すのがポイントだ。

 なのだが――


 「ええい、鬱陶しいわね!()るならさっさと来なさいよ!」


 ――リーラさんはどうやら我慢出来なかったらしい。

 いやいや、気が短過ぎだろう。こっちの考えが台無しじゃねぇか。カルシウムを摂取しろ、カルシウムを。

 良くそんなんで今までやってこれたなぁ。


 「はははっ、そう焦らないで下さいよぉ、後でしっかり相手しますからさぁ。ところでお兄さん、そこの黒服と一緒にいるってことは僕らの事も知ってるって事かなぁ、お名前はなぁんて言うの?この前(・・・)は聞きそびれちゃったからねぇ。それにしても良くいきてたねぇ、どぉやったのかなぁ?」


 「本当に良く喋るな、お前。人に名前を尋ねる時は先ず自分から名乗るのが礼儀じゃないのか?」


 飽くまでも短く、それでいて反撃の意図も込めて返すと男は小さく笑った。


 「あぁ、これはこれは、申し訳ない。僕の名はラディス・サーペンド、これで良いですかねぇ?」


 ニヤけた顔を一切崩さずラディスはスッ、と俺の方へ手を差し出した。

 次はお前が名乗れ、と言う事だろう。


 「レイシャルト・ガウディノルだ」


 俺が名乗るとラディスは大きく目を見張った。

 リアクションが一々大きい。


 「何と、『ランクA』の『完全なる(エンタイア・)魔術師ウィザード』でしたか。僕はトンデモない有名人斬っちゃってたんですねぇ。まぁ、それなら生きてても可笑しく無いのかなぁ?」


 ・・・・・・いかん、落ち着け。

 『通し名』を呼ばれた瞬間思わず剣を抜きかけてしまった。

 ここで反応しては向こうにペースを持って行かれる。

 一つ分かったのはコイツ等は俺の本当のランクは知らないらしい、と言うことだ。

 取り敢えずは一安心だろう。


 「有名人って程じゃないさ、単なる知名度ならお前達《白の軍》の方が高いんじゃないか?」


 ピクリ、とここで初めてラディスの表情に変化があった。

 そして僅かだった表情の変化が徐々に大きくなってゆき、最後には大層邪悪な笑みとなった。

 さっきまでのニヤけ面が可愛く見える。


 「クカカッ、コレで漸く殺す理由が出来たなぁ。何にも知らねぇならまぁちったぁ考えたかもしれねぇが――考えるだけで殺すは殺すがよぉ、事情を知ってんなら遠慮は要らねぇやなぁ?」


 「キャラが変わり過ぎだろ、そんでもって何勝手に俺達を殺す方向で話進めてんだよ?」


 絵に描いた様な悪党だな、楽しそうで何よりだ。

 三下オーラプンプンの――斬られた俺が言っても格好がつかないが――ラディスだがその割に相当場慣れしているらしく大袈裟な立ち振る舞いの癖に案外隙が無い。

 それは前回かなり追い詰められていたリーラも理解しているらしく今にも噛み付きそうな顔で取り敢えずは大人しくしている。


 「ククッ、流石に飛び込んで来る程馬鹿じゃぁねぇか。特にそっちの嬢ちゃんは前に痛い目見てるもんなぁ?」


 クッ、と後ろでリーラが小さく声を出した。そろそろ我慢の限界か――


 「グリーティア、下がっててくれ」


 いよいよ張り詰めた空気となって来た為グリーティアは下がらせる。

 魔法(アーツ)の腕はかなりのものだろうが丸腰では正直足手纏いだし何より体調も昨日の今日では万全とは言い難い。俺もそうなのではあるが。


 「――分かりました」


 そう言ってグリーティアは数歩後ろに下がった、もう少し何か言うかと思ったが意外とアッサリしたものだった。

 その代わりという様にリーラが一歩前に出に俺の横に並び立つ。


 「私は()るわよ。レイだって本調子じゃないでしょう?大丈夫、足は引っ張らないわ」


 そう言うとシャラン、と音を響かせながら細剣(レイピア)を引き抜いた。

 そんな宣言をしなくとも最初から手伝わす気だったのだが。

 病み上がりな上に魔力(マナ)を制限して1対3というのは幾ら俺でもそこそこしんどい。

 体調的に魔法は殆ど使えないだろうから腰に差した2本のロングソードで戦うしかないし、更に正直なところ戦闘に耐えられる体調じゃない。今だって医者に診せれば絶対安静間違いなしだ。

 まあここでそんな事言って士気が下がってもアレなので絶対に言わないが。


 「ま、よろしく頼むぜ」


 リーラは任せろとと言った風に僅かに笑った。

 俺もそれに答える代わりに腰に差した二本の剣を一息に抜いた。

 辺りにシュリィィン、と甲高い音が響き渡る。


 「イイねぇイイねぇ、そうこなくっちゃなぁ。イイぜぇ、タップリ可愛がってやんよぉ!」


 ギャリィィン、という音と共に大振りな洋剣(サーベル)を引き抜いた。

 いよいよだ、と思うとほぼ同時に俺は思いっ切り足を踏み切った。

 リーラやラディス達も全くの同タイミングで駆け始める。


 喧嘩の鉄則。

 まずは雑魚から片付けるべし。


 向かって左側、『ラディスの愉快な仲間達(こしぎんちゃく)』の一人に俺は狙いを付けた。

 ここは一撃で仕留める他ない、ハッキリ言って長期戦は無理だ。

 幾ら格下とは言っても向こうも相当の手練れだ。比べてコッチは病み上がりの半病人、戦闘の長期化は死に直結する。


 シンプル且つそれでいて結構な業物だと分かる細身の両手剣を振り下ろす白装束の男A懐まで一気に潜り込む。

 これで少しは怯んで隙が出来れば――何て益体もない事を考えていたのだが流石にその程度の腕な筈も無く、ほんの少し背後に下がりながら剣を袈裟に振り下ろして来る。

 フォン、という風切音についこの前の状況が思わず逆行再現(フラッシュバック)し、うなじの辺りがチリッと焦げる様に感じた。

 逸る鼓動を感じ、こんな時にも関わらず自分にもまだ人間らしいとこが残ってるな、何て事を頭の片隅で呑気に考えていた。

 思考とは裏腹に身体は半分自動的に素早く動く。

 こちらの命を刈り取らんと為るべく迫り来る刃。

 相当修練を積んだ迷いの無い渾身の一太刀だが、俺にはその太刀筋がハッキリと見えた。

 左上から降りて来る刃の腹に向かって右下、詰まりは真反対の方向から左手に持った剣を思いっ切り打ち付ける。

 俺としては完全に折る気でいったのだが病み上がりの身体ではそんな事は望むべくも無く、金属同士がぶつかった瞬間ガキィィィイイン!!!と物凄い音と火花が散り俺の剣も男も剣も来た道を帰る様に大きく反対方向に弾かれた。


 ここで衝撃に抗えば硬直は必至だ。


 左手に懸るベクトルに身を任せ、それと同時に同方向へ身体を翻し右手の剣の切先を回転の勢いそのままに男の顎の下から斜めに突き上げた。

 ズシュリ、と生き物を殺した時特有の湿った音と生々しい感触が手に伝わる。

 こぷっ、と言う(こえ)が肩越しに聞こえ、酷く耳に付いた。

 今更人間一人殺めた所でどうにかなる程ヌルい生活してきた訳でもない為何とも思いはしないのだが。

 それにしても――剣が重い!

 驚きの鈍りっぷりだ、さっきの二動作で既に半ば息が上がっている。

 そもそも剣を弾かれた事自体何時ぶりだろうか、体力筋力共にかなり落ちてしまっている。

 これは鍛え直さないと駄目だ。


 男の顎の下から入り後頭部に抜けている剣を引き抜くと、そのタイミングに背後から斬りかかられた。

 慌てて両手の剣を交差(クロス)させて受け止める。

 ズン、と上から掛かる重圧に全身の筋肉を総動員して耐える。

 突然の事に内心――飽くまでも内心だ――ドッと冷や汗をかいた。

 身長体重で劣るせいもあり、全身の関節が軋み筋が悲鳴をあげる。


 一旦戦闘が止まったのを機に辺りの様子をざっと見渡した。

 リーラは激しくラディスと斬り結び、絶え間ない剣戟を辺りに響かせている。

 人の悪い笑みを顔に貼り付けたラディスと若干表情の堅いリーラ、予想はしていたがやっぱり一発目から大将首()りにいったのな。

 将を射らずんば何とやら――って諺を知らんのか。

 とは言え彼方も長くは保たなそうだ、純粋な体力勝負となると男女の差は大きい。

 それ故ラディスも魔法は使わずリーラにもその隙を与えていないのだろう。

 さてどうしたもんか、俺も結構しんどいし――


 「――っぅお!?」


 突然、上からの重圧が増した。咄嗟に跪きそうになるのを何とか堪える。

 どうやら男はこのまま押し切る腹積もりらしい。

 だが、そんな事――


 「――させるかっての!」


 交差させた剣の右側だけを離し、左側の剣先を地面の方向へ傾けた。

 剣は俺の左の剣の腹を滑り、バランスを崩して前傾姿勢となった男の懐に滑り込んだ俺は右の剣の柄を鳩尾へぶち込んだ。


 「――っぐぅ!?」


 男は呻き声を上げながら後方に飛びすさり俺との間に距離が空く。

 かなり効いたのか肩で息をしている。

 俺は自らの右肩へ視線を向ける、それとほぼ同時にカラァンという音と共に手から剣が滑り落ちた。

 肩口から指先へ血が滴り落ち、服を赤く染め、小さな血溜まりを地面に作っている。

 相当深くヤったせいか握力がほぼ消失していた。

 いやはや全く、儘なら無いなぁ――

 一発の代償にしては大き過ぎだろ、自己責任だがな。

 いよいよ腹を括るしか無いな、利き腕潰れて足腰にもキテいる。

 落ちた剣を拾い鞘に戻した、正直身体中ガッタガタだ。

 腰を落とし、左の剣を目一杯引絞る。

 体内の「力」の流れに意識を集中し、その流れの一部に左手に持った剣も取り込む。

 酷い出血や体力の消耗等々のせいでコントロールし難い、が、これで()めよう。

 器に水を満たす様に全身へ魔力を充実させる。

 構えを始めてからここまで約1秒、普段からすれば驚きの遅さだ。きっとデュノアに笑われる。

 男も俺が魔力を練っているのに気付いたのだろう、構え、魔力を練っているのが分かる。

 構えから察するに十中八九受けだ、こちらを迎撃する気なのか。

 良いぜ、だったらお望み通り正面からぶち抜いてやる――!


 全力で地面を踏み抜いた。

 ズドン、という音と共に身体が銃弾の様に打ち出される。

 今までも十分本気で()っていたが、それとは既に別次元の動きだ。

 魔力とは即ち生命力であり、魔力を練るという事は生命力をより純粋なエネルギーに変換するという事。

 充実した魔力はそれだけで魔法を発動せずとも身体能力を向上させてくれる。だだし、消耗は激しいのだが。

 よって全力の踏み込みによって蹴った地面は直径50cm程のクレーターとなり、10mはあった距離も一瞬の内に見る見る詰められていった。

 並の魔術師なら目で追う事すら出来ない筈だがそこは流石のトップエリート、俺の動きに対応してくる。


 「――守れ!《鋼鉄の壁(アイアン・ウォール)》!!」


 ズォアッ!と地面から巨大な黒鉄の壁が迫り出してきた。

 〈土〉の上位派生〈鋼〉の障壁魔法《鋼鉄の壁》。

 非常に優秀な防御力を誇り、対物理防御としてはかなりの上位魔法だ。

 制御の難しい上位派生属性の魔法をあれだけの短い詠唱――即詠唱(ワンスペル)とはいかないにしても――で完璧に発動しきるとは流石である。

 だがしかし、


 「甘いんだよっ!」


 左手に一層の力を込める、同時に剣に流されていた魔力が一気に増大し、光を放ち始めた。

 光は紅蓮の炎となり剣を左手諸共染め上げる――


 「《――獄炎爆撃(インフェルノバースト)》!!」


 全力で左手を前方へ突き出す。

 切先が《鋼鉄の壁》に触れた瞬間、鼓膜が破れんばかりの爆音と共に《鋼鉄の壁》は粉々に砕け散った。

 自身の魔法に絶対の自信があったのか、男は茫然と立ち尽くしている。

 だが、俺はもう――止まらない。

 《鋼鉄の壁》をぶち抜いて尚一切の勢いも衰えない神速の突きを男の腹にぶち込んだ。

 再びの爆音、大気をも焦がす紅蓮の炎が極太の火柱を巻き起こし男を包み込んだ。

 暫く猛り狂った炎の嵐が収まると男が立っていた場所には僅かな煤以外何も残っていなかった。

 灰すら残っていない。

 うん、少しやり過ぎたかもしれない・・・

 軽い後悔に苛まれていると背後でズダァン!と物凄い音がして何かが飛んでき、俺の足下に滑ってきた。

 て言うかリーラだった。

 あ痛ててて、とか言いながら俺の横に立つ。


 「苦戦してるみたいだな」


 チラ、とこちらを伺いムスッとした。


 「こっからが本番なの、レイこそボロボロじゃないの」


 右肩から先が血塗れな上に満身創痍と言って差し支え無い風体の俺と、服や身体問わず切傷だらけのリーラ。

 確かに俺の方が重傷だがこの際五十歩百歩だろ。


 「あーあーあー、なぁに殺られちゃってんだよアイツ等ぁ」


 気怠そうに洋剣を肩に担いだラディスが歩いて来る。

 無傷とは言わないがリーラと比べて明らかに傷も消耗も少ない。


 「それにしても流石は『ランクA』だなぁ、俺より弱いっつっても結構ヤれる方なんだぜぇ?まさか病み上がりでそこまでヤるたぁなぁ、まぁボロボロみたいだがなぁ」


 相変わらず悪役オーラ全開だな。


 「1対2になったってのに随分と余裕ね」


 「カカッ、別に余裕なんざねぇさ。

 そっちの兄ちゃんなら分かんだろぉ?実力もつけすぎちゃぁ中々本気でヤれる機会がねぇんでなぁ、久々に本気でヤれそうだからなぁ、嬉しいのさ」


 刹那、ラディスを包む雰囲気が異質なモノに変化(かわ)った。

 ただでさえ異常な雰囲気がより一層に澱む。

 ゾクリと悪寒が走り、全身の肌が粟立った。

 これは、マズイ――それだけが脳内で激しく警報をならしている。


 「クカカッ、俺はなぁ――金も女も酒も煙草も薬も権力も要らねぇ。要るのは力、それだけだぁ。

 誰よりも強く、速く、巧く、それ以外はなぁんにも要らねぇ。だから、試させてもらうぜぇ『完全制覇者(フル・コンプリーター)』!!」


 轟ッ!!!と突風が巻き起こった。

 大きな魔力を一度に開放した為の反動現象だ。

 風圧に押し倒されそうになるのを必死に堪える。リーラは堪えきれずに尻餅をついていた。


 「な、何、なのよ・・・アレ・・・」


 リーラと俺の視線の先、そこに居たのは最早ラディス――いや、人では無かった。

禍々しい二本の角に蝙蝠(コウモリ)の様な翼――


 「あの野郎――『禁呪』かっ!?」


 『禁呪』


一部の肉体強化魔法の総称だ。

 詠唱を必要とせず身体に刻んだ魔法陣に一定魔力を送り込む事で発動する非常に扱い易い代物である。

 魔法陣の構成によっては肉体の強化、魔力の絶対量の底上げ、思考力の高速化等の効果が一度に受けられるやや反則じみた効果から一時期爆発的に広まった。

 しかし、この魔法を使用した魔術師は精神崩壊、最低でも人格破綻等を引き起こし、当時相当数の魔術師が死に至った為大陸全土で禁止魔法指定されたのだった。

 原因は未だに解明されておらず、今でもその高過ぎる効果に目が眩み使用する魔術師が少数存在する。


 「あいつ・・・命が惜しく無いのか!?」


 正気の沙汰とは思えない。

 幾ら何でもここまで行ったら二度と戻って来れなくなるぞ。


 「『常識ナんざァとウの昔に捨テテんだヨぉ!俺ァ力ノ為なラ何だッテヤルぜェ!』」


 もう人間の声では無かった。

 ひび割れ、不自然にハウリングしている。


 「『いクゼェ!おラぁ!!』」


 翼を一つ打ち、フワリと――その容姿とは正反対に――優雅に舞い上がり、次の一打ちによって恐ろしい速度で迫り来る――!


 ラディスの動作はとても単純だった。

 腕を振り下ろす、ただそれだけ――

 それだけで巻き起こされる暴虐の限りを尽くした破壊の嵐。

 ラディスの動作もそれによって起こされた結果も理解するまでにたっぷり10秒も必要だった。

 見えな、かった――気付いた時には20mは吹き飛ばされ、地面に這いつくばっていた。

 隣ではリーラが気を失っている。


 「お父様!」


 頭上からグリーティアの声が聞こえた。

 かなり遠くまで下がってた筈だがぶっ飛ばされてそこまで来てしまった様だ。

 立ち上がろうとすると腹の底が灼ける様な感覚に襲われ生温かいモノを吐き出した。

 足下に大きな血溜まりが出来上がる。

 内蔵を幾らか痛めているらしい。

 とんだ血塗れマーライオンだぜ。

 うん、こんな状態でもくだらない事考えてる俺、ちゃんと平常運転(いつもどうり)だな。

 震える膝に鞭打って死に物狂いで立ち上がる。どうやら骨折なんかはしてないな、肋骨とかは知らんけど。


 「《――癒しの光よ(ヒーリアス)》」


 グリーティアがリーラに回復魔法を使用した様だった。

 小さな呻き声を上げてリーラの意識が覚醒する。


 「・・・う、ん・・・一体、何が・・・?」


 目を覚ましてすぐでは状況が把握し切れていない様だ。まあ、当然だな。

 辺りを見回し、記憶が結び付き始めたのか徐々に顔色が悪くなっていく。

 これはもう無理そうだ、精神的なダメージに回復魔法による干渉疲労で真面に戦えないだろう。

 あーあ、こうなりゃ『奥の手その1』出すっきゃないかなぁ・・・

 ま、しょうがないわな。


 「グリーティア、リーラの事看といてくれ」


 俺の言葉に素直に頷くグリーティア。

 俺の考えでも察したのだろう、「魂」が繋がってるのってホント便利だわ。


 「ちょ、ちょっとレイ!アンタ正気!?そんな成りでどうする気よ!?」


 全身血塗れで片腕潰してさっきまで吐血(ゲロ)ってた奴が単騎で敵と殺り合おうって言うんだからそりゃあ心配だわな。

 だけどまあ、ここで引き下がれる訳ない。


 「決まってる、あの野郎に引導渡してくんだよ」


 トンデモないものを見る目で見られた。

 よし、傷付いた。


 「心配すんな、絶対戻って来るよ。知ってるか、俺って本気出せば王国で一番強い魔術師なんだぜ?」


 態と戯けた風に話す。

 本当はもうギリギリだ。体力も次の一合が限界、それ以上はない。

 要するに『禁呪』で馬鹿みたいに強化されたほぼノーダメージの――恐らく『ランクA』は軽く超えちゃってる化物を一撃で仕留めなくてはならないのだ。

 だけど俺が殺らなきゃいけない、力を欲する気持ちは誰よりも分かるから――俺とラディスの想いは全く違うのだろうけど。

 最悪通り越していっそ愉快な戦況だ――『普段』の俺にはな。

 だから――


 「二人はそこで安心して観てろ、とびっきりのショーを魅せてやるよ」


 そう言って歩き出す。

 もう後ろから声は掛からなかった。


 「『クかカッ、やッパ生き残っタかァ。ソう来ナくっちャ面白く無ねェヨナぁ』」


 ラディスは滞空しながら俺に言った。

 翼が動いていないから何か魔法的な仕掛けがあるんだろう。興味ないがな。


 「『ダァガそんナぼロボろで何が出来ルよ?』」


 相変わらずのひび割れハウリングヴォイスでニタニタ笑っている。


 「心配要らねーよ、次の一発で終いだ。折角テメエが全力出してんだ、俺も『ちょっとだけ』力出すぜ」


 ラディスの顔が不機嫌そうに歪んだ。


 「『あ"ア"?今マでのが本気ジゃ無かッたてのカァ?そんなはッタり信用スるワキャねぇだロ!!』」


 「本気だったさ、ただ全力じゃなかっただけだ」


 「『がキがァ――!』」


 ラディスの罵声ももう聞かない。

 俺はただ右手の腕輪(ブレスレット)にだけ意識を集中させる。


 「――主より腕輪に告ぐ、魔力制限機構第一領域における結界を解除する――第一封印、解除」


 バキィィイイン!!!と硝子が砕ける様な音と共に全身から力が噴き出した。

 ラディスの時とは比べ物にならない爆風が吹き荒れる。

 第一封印の解除、これによって何時もは3割まで抑えてある魔力が5割まで解放された。

 腕輪の色が銀から金に変わった以外特に外見上の変化もない。

 だが、身体に満たされた魔力の量は桁違いだ。

 ラディスも完全に呑まれている事が手に取る様に分かる。


 「こいよ、そんでもって教えてやる。これが格の違いだ」


 「『コォんノ、くそがキガァ!!!』」


 叫ぶと同時にラディスから膨大な魔力が発せられた。

 『禁呪』によって底上げされた魔力で最大の一撃をブチ込む積りらしい。


 「『こレで消しトバしテやらァ!!

 ――大いなる激流よ、総てを無に帰せ!

 《無限(アルティメット・)極大トレント・オブ・瀑布インフィニティア》!!!』」


 莫大な水量の激流が何もかも押し流し――いや、喰い尽くしながら俺に迫り来る。

 水流の合間から勝利を確信したラディス笑みが見えた。

 確かに大したモンだよ、これだけの魔法を使える魔術師何て大陸中探したって極一部だろ。

 が、これじゃヌルい、ヌル過ぎる。

 俺は左手に握っていた剣を鞘に戻し、そのまま前に翳した。


 「まだまだ力不足だな、《――聖なる一条の光(ホーリー・レイ)》」


 キンッと言う甲高い音が響き、左手から純白の光の柱が放たれた。

 それは激流に巨大な穴を穿ち、総て打ち消した。

 何が起きたのか理解出来ていないラディスの元に莫大なエネルギーを秘めた光の柱が殺到する――

 最期まで何も言えず、爆発は巨大な十字架となり、跡には何も残らなかった。


 「終わったか――」


 先程までの戦闘が嘘の様に静まり返った市場通りで俺は立ち尽くした。

 口に出して漸く実感する事が出来た。

 いや、マジでしんどかったぜ。

 厄介事はもう当分来ないで欲しい。


 だが、そんな俺の切なる願いを嘲笑うかの様に厄介事は降りかかる。


 汗を拭おうと左手を持ち上げた時、俺は違和感を感じた。

 そしてその正体はすぐに分かった。

 鱗だ、手の甲から――服に隠れて今は見えないが恐らく肘の近くまでが銀色の鱗に覆われていた。

 余りに突然の出来事だった為数瞬固まった。

 何も出来ずに固まっていると、鱗は次第に薄くなり元の皮膚に戻ってしまった。


 「・・・・・・・・・・・・」


 思わず絶句した。

 突然過ぎて頭の中が真っ白になった。

 今のは一体――


 そう考え様とした瞬間パキンという軽い音が鳴り、腕輪の色が銀に戻ったと思ったら一気に全身から力が抜けた。

 又も襲っってきた突然の出来事に為す術無く、俺はその場に崩れ落ち、意識を暗転させたのだった――――
















巻き返しを誓いながら頑張りましたが如何だったでしょ?

また当分激しい運動は控えめになるかもしれません。

そんな事言いながらすぐにバトったりもしそうですが・・・

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