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其の四:病み上がりと白装束

 「――で、どうする?」


 目の前の黒服少女、リーラことリーライト・ファルヴィムはさっきまでの畏まった態度を完全に捨て去り俺の前に立っている。


 どうも、レイシャルト・ガウディノルです。

 何か最近厄介事が増えて大変です。

 さて、なんやかんやのどうのこうのあって助けた(?)女の子に《黒の軍》なんて言う胡散臭さ大爆発の組織に突然協力要請されました。

 訳が分からん?うん、俺にも分からん。

 だから俺の答えは勿論――


 「断る」


 「うっわ、言い切りやがったわね」


 当たり前だろう。

 そんな謎組織に協力したって一ミリたりとも俺の得にはならない。寧ろ損しか無いわ。


 「そもそも何だ、そのネーミングセンス。《黒の軍》は無いだろう」


 《黒の軍》と言えばあの『黒白(こくびゃく)大戦役だいせんえき』の連合軍と同名じゃないか、幾らなんでもそれは無い。

 500年も経ってこんな謎組織を作った奴は酔狂を通り越して単なる馬鹿だ。


 「だから、その《黒の軍》なんだってば」


 「寝言は寝てから言え、俺はそんな冗談に付き合ってられる程体力残って無いんだぞ?」


 可能なら今すぐ此処でゴロゴロしたい。

 客の前だから何とか体裁を取り繕ってはいるが、しんどいものはしんどいのだ。

 そんな俺の様子を知ってか知らずかハァ、と溜め息を吐き何やら懐をゴソゴソと探り始めた。

 目当ての物を見つけたのかリーラはソレを俺に見せつける様に構えた。


 「これなら信じて貰えるかしら?」


 「――――っ!?」


 見せられたソレを見て思わず息を呑んだ。

 だってそれは――


 「――《黒の徽章(メダリオン)》じゃないか!」


 《黒の徽章》


 一般には『戦時遺物(レリック)』と呼ばれる物の一種である。

 『戦時遺物』とは大戦役の最中に魔法によって造られた物を指し、それ単体で相当の魔力を有するとされている。

 《黒の徽章》は今から550年前の開戦当初、連合軍発足時に当時の連合軍総司令官であり、歴代二番目の『完全制覇者(フル・コンプリーター)』でもあった大魔術師カルディアノ王国第13代国王フィルフィヌ・ゼノム・カルディアノが《黒の軍》に属する証として全軍に配備したものである。

材料は不明、鉱物とも金属とも言えない黒光りする物体――非常に硬度が高く、如何なる方法でも傷一つ付かないそうだ――を魔法によって精錬して作られるらしいのだが、現在ではその製法も失われている。

 俺でも同じ物は作れないし、材料の判別も出来ない。

 それに《黒の徽章》を含む『戦時遺物』はその全てを王国が管理すり事になっており、個人で所有していた場合問答無用で極刑だ。博物館での展示すら禁止されている。

 そして現存する《黒の徽章》はその全てが回収済みであり――《黒の徽章》からは常に特殊な魔力を発しており、それを頼りに捜索した――、現在大陸には所有者は存在しない筈だ。

 要するに、コレの所有者は一人で国家規模――ランクCの魔術師換算で約1000~1500人規模――の探査魔術を弾くだけの干渉力のある魔術師か、『戦時遺物管理局』と言う部署の局長か、王家の人間位である。

 勿論、俺と同年代――15、6歳程度の女の子がおいそれと所持出来る物では無い。

 国家規模の魔術を弾くなんて俺にも難しいのだし。


 「軍は何してんだよ・・・」


 こんな女の子が『戦時遺物』を所持してるなんて職務怠慢だろう。


 「いや、私たちのトップ軍の人だし」


 ・・・何?


 「それにその人、軍のトップだし」


 「・・・いや、おい待て、それって――」


 「うん、デュノア・ホームラトス総帥だよ?」


 「あいつかよ!?」


 何やってんだ、『正義の剣(ジャスティス・ソード)』。

 国軍のトップをあいつ呼ばわりなのは場合によっては牢屋行きだが俺の場合は自身が『ランクS』である事と、それ以前からのなんやかんやの関わり、更に親父と旧友である事からそうなっている。

 勿論、そんな事は露程も知らないリーラは目を丸くして驚いている。

 事実上、国の第2位の権力者をまるで悪友の様に扱うのだから無理も無いと思うが。


 「――流石は『ランクS』ってとこかしら・・・?」


 「・・・俺のランク、絶対に人に言うなよ、極刑になるぞ。それにあいつとはほんの少し(・・・・・)関わりがあるだけで何でも無いよ」


 「あなたの数倍は生きてる人間相手に――いやまあ確かにそうは見えないけどさ。その上軍のトップよ?そんなの相手取って「あいつ」何て呼び方、何でもない訳無いじゃない・・・いや、うん、この話はもう良いわ。それで、私の話は信じてくれた?」


 こちらを伺い首を傾げるリーラ。

 話す様子から嘘を吐いていないと言う事は分かった。

 《黒の軍》何て言う組織のトップの座にデュノアの奴が座ってる上に見様によっては軍服にも見える黒装束、今の話には出てこなかったがあの白い男――恐らく《白の軍》なのだろう――に襲われていた事、更に禁忌とせれている『戦時遺物』である《黒の徽章》を持っている事。

 これらが総て真実なら十分過ぎる証拠だ。

 でも俺は敢えてここで――


 「分かった。じゃあ今はそういう事にしておこう」


 ――としか答えなかった。

 そんな俺の答えにあからさまにむくれるリーラ。


 「むぅ、こんだけ証拠出してまだ信じてくれない訳?」


 「事が事だ、場合によっちゃ大陸の歴史がごっそり変わるんだぞ?『アレ』から500年も経ってんだ、そう簡単に受け入れる訳にはいかないよ。――とは言え、デュノアが一枚噛んでるんなら話を聞かない訳にはいかなくなったな・・・」


 小さい声で「呼び捨て、しかもファーストネーム・・・」と聞こえたがこの際無視する。

 それよりも状況の整理の方が先だろう。


 「リーラ、お前達が《黒の軍》だったとして、もしかしなくても《白の軍》もまだ残ってるのか?」


 はぁ、いいわよ、もう・・・何てブツブツ言いながらリーラは話し始めた。


 「勿論。あの時私が相手してた白一色が《白の軍》の一人よ」


 「双方の規模は?」


 「両軍共に1500ってとこかしら。全員がホームラトス総帥によって軍の内外問わず選抜された少数精鋭のトップエリート、《白の軍(むこう)》も似たようなもんね」


 「今も4ヶ国で戦ってるのか?」


 「共和国(ローサス)合衆国(テルティア)は500年前の終戦と同時に手を引いてる、と言うより向こうは《黒の軍》も《白の軍》も今だに残ってるなんて知らないだろうし」


 「王国(カルディアノ)帝国(シルフェニオス)の間ではね、勿論この事を知ってるのは王国でもほんの一握りの人間だけよ」


 「じゃあ最後に、何故俺の質問に全て答えた?俺は協力するなんて一言も言ってないぞ」


 「ホームラトス総帥が『私の名を出した後であれば総てに答えてやれ、彼は私に直接会う迄は決して裏切りはせんよ』って言ってたのよ」


 「・・・・・・・・・・・・」


 デュノアの野郎・・・見透かした様な事言いやがって。

 それにさっきのモノマネがちょっと似てたのが何故か少し腹が立った。

 まぁ、とはいえ――


 「――確かに、奴に会うまでは裏切る事も協力する事も出来ないな・・・言いなりになってるみたいで腹立たしいが――」


 俺が釈然としない思いを胸中でグルグル渦巻かせている間、リーラは何故か俺の方をジッと見つめていた。

 眉間に皺を寄せ、訝しむ様な顔で俺の事を見ている。


 「どうした?」


 思い切って聞いてみるとハッとした様子で我に返った。

 一体何を考え込む事があるのだろうか、いや、物凄く沢山あるんだろうな・・・

 今度はこちらがリーラを訝しんでいると、決まりが悪そうに人差し指で頭を掻きながら答えた。


 「いやぁ、本当にレイって『ランクS』なんでなってね。最初はいきなり現れたと思ったらあっさり斬られちゃうしさっきの魔法圧だって『ランクC』の私からすれば勝ち目は無かったけど『ランクA』にもなればあれくらいなら造作も無いもの。正直『ランクS』だって事総帥に聞いてなきゃまず気付かなかったの思ってね、でも話してみれば『戦時遺物』は一発で分かるし総帥の事は呼び捨てだし馬鹿みたいな体力してるし」


 最後のは余計だろう。

 何だ馬鹿みたいな体力って。


 「魔力(マナ)に関してはこいつで抑えてるんだよ」


 そう言って俺は右の手首に填めた銀色の腕輪(ブレスレット)を指さした。

 純銀製の装飾が一切施されていないシンプル過ぎるデザインの腕輪である。

 特別な魔法が懸けてあり俺でも解術(ディスペル)不可能――懸けたのは俺なのだが――で、段階的に魔力を封印している。

 任意に解除は可能だがそれも俺にしか出来ない。

 この腕輪を付けている間は最大で3割程度まで魔力を抑えられる。いつもはそのレベルで生活している。

 その事――魔力を抑えていると言う事実だけ――を告げると物凄い顔をされた 。

 割に傷付く。

 体調さえよければ3割でも十二分にやっていける――ランクB~Aの下位程度はある――し、俺が魔力を全開にすればチョットじゃきかない様な被害が出る。それに今は魔力を完全に制御し切る自信も無い。

 しかしここまで驚かれると本当の事が言い辛い。

 よし、黙っとこう。

 それにしても――


 「ぶはぁ、しんどっ、身体中バキバキだわ」


 ――そろそろ体力が限界だった。

 リーラに「馬鹿」と称された我が体力ではあるがもうきっつい。

 俺がだらしなく背凭れに寄り掛かって身体の力を抜いていると、スッ――とリーラの顔にかげが差したのが伺えた。


 「あの、私からも良い?質問」


 「・・・・・・内容による」


 酷く逡巡した様子だったが一度グッと力を込めて両目を瞑り、何かを決意する様に目を見開いた。

 先程よりも幾許か力の込もった眼差しではあるが不安の色は抜け切っていない。


 「あの・・・聞いて良いのか分かんないんだけど・・・その、看病の時にさ、レイの体を見て・・・」


 俯き気味にポツポツと話すリーラ。

 俺はそれをただ黙って聞いていた。


 「何をしたらあんな事(・・・・)になるの・・・?」


 ゆっくりと顔を上げ俺の目をみつめた。


 「私だって相当な実践経験があるし大きな怪我だって何度もした、女にしてはお世辞にも綺麗とは言えない古傷だらけの身体だけど・・・どんなにしたってそう(・・)はならないわ。いえ、軍の中でもそこまでのは見た事がない」


 リーラに言われて自分の身体に目を落とす。

 今は服に隠れて見えないが俺の身体にはびっしりと傷跡が刻まれている。


 小さな切り傷等の跡なんてもう数えられるものじゃない。

 あの時バッサリ斬られた傷はグリーティアのトンデモ古代魔法で綺麗サッパリ消えているがそれにしたって酷いと自分でも思う。


 同年代の平均よりは高い身長に成長期な為そこまででは無いとは言えかなり鍛えられた肉体。そこには全身を走り回る様な幾筋もの裂傷の跡、大きく抉られ今でも一段凹んでいる三本の背中の傷跡、大小様々な蟹足腫(ケロイド)

 痛々しいを通り越して最早グロテスクなまでの惨事だ。

 幸い顔には目立った外傷が無かった為何時もは袖の長い服を着る等して誤魔化している。

 余り触れて欲しく無い話題に触れられてバツの悪い顔をしていると俺を傷付けた、はたまた俺の気に触ったとでも思ったのか、リーラはワタワタと慌て始めてしまった。


 「あ、ああああの!あれ、えっと、ごめんなさい!今の、今の忘れて!もう聞かない、聞かないからっ!」


 グルグルと目を回し「まさにパニック」と言った様相のリーラ。

本当に、本当に申し訳ないと思いながらも俺が腹の底から湧き上がる笑の衝動を抑えることが出来なかった。

 せめてもの抵抗として手で口を抑え、もう片方の手で腹を抱え、身体を折り曲げて肩を震わせるだけに何とか留める。

 絶対に声を上げて笑っては駄目だ。

 そんな俺の様子を見てか、前から「あ、あれぇ?」と大層間の抜けた声が聞こえてきた。

 下を向いていた為にリーラの顔が見れないのが非常に残念だ。今までに見た事がない位の間抜け面に違いない。

 思わず笑が閾値を掠めたが最大限の意志力で捩れる腹筋を抑え付ける。

 時間にして大凡一分、感覚的には恐ろしく長い一分ではあったが何とか笑を収め顔を上げた。

 するとそこには今だに状況が把握出来ていない様子のリーラが口をポカンと開けて突っ立っていた。

 思わず口角が釣り上がりそうになるのを抑え、表情筋へ力の限り命令する。

 結果として微笑んでしまったが何とか誤魔化せた様だ。


 「あ、あの――」


 パニックの中で何とか言葉を紡ぎ出そうとするリーラが何かを言う前に俺は立ち上がり右手をそっと頭の上に乗せてやった。

 ひうっ、と言う可愛らしい悲鳴を上げてビクッと身体を縮め、ギュッと目を瞑る。

 そんな状態もまるっきり無視して俺はゆっくりと、出来るだけ優しくその頭を撫でた。


 「心配してくれたんだろ?」


 「えっ――」


 パッと目を見開き驚いた、というよりも呆気に取られたという風の顔をしている。

 本当に色んな顔するよなぁ。

 自分よりも背の低い女の子にしゃがんで目線を合わせ、今度は自分の意思で微笑んだ。


 「――ありがとな」


 ボフッ、と音が出そうな勢いで一瞬の内に真っ赤になる瞬間湯沸かし器リーラ。

 状況が理解し切れていないのか口をパクパクさせて微に震えている。

 もう一度、今度は苦笑の色を混ぜながら微笑み、俺は手を離した。


 クレノにボロッカス言われたが俺だってこのリーラの状態が何を意味するか位は理解(わか)る。勿論普段から俺の周りに集まって来る女の子の感情も理解している。そしてそれに応えない事で彼女達がどんな思いをしているのかも十全に理解している。

 格好だけの、必死で自分に言い聞かせる『鈍感』。

 何がそうさせるのかはハッキリとは分からない。でも何となく自分が臆病なせいだろうと思う。

 きっと怖いのだ、大き過ぎる力を持ち、他人とは決して同じ「人間」では無いという事実が。

 だから俺は人の想いに踏み込まない。

 本当の醜い自分が、化物の様な力が恐ろしいから。

 だから俺は人の想いに必要以上に応えない。

 そこまで理解した上での『鈍感』。

 ただ一人になりたく無い、という思いが何処かにある為にこんな演技を続けているのであろう自分が非道く滑稽に思えて仕様が無い。

 そんな事をしなくても俺の側に居てくれる人はいる。本当の俺を受け入れてくれる人はいる。

 そんな事は分かっているけどどう仕様も無く怖くなるのだろう。

 孤独、というものが。


 「どうしたの・・・?」


 リーラの声が聞こえて俺は我に返った。

 とてみ心配そうな瞳と目が合う。


 「顔色が悪いけど・・・大丈夫?」


 今の俺はどんな顔をしているのだろう。

 きっと酷い顔だ。


 「大丈夫だよ、心配すんな」


 ポンとリーラの頭に手を置き、多少無理矢理微笑んで俺はその場を去った。

 ん?何処に行くのかって?

 トイレだよ、トイレ。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 翌日。

 俺はソファの上での目を覚ました。

 昨晩はあれからグリーティアに声を掛けるも一向に目を覚まさず、仕方無く俺とリーラだけで夕食を摂る事にした。

 リーラ特製の鳥肉と豆のスープにサラダとパン。どれも美味かった。

 ところで俺は寝込んでいる間どうやって食事を摂っていたのだろう?

 ・・・・・・うん、考えるのはよしとこう。

 その後、リーラと世間話的な事をした後リーラは空き部屋で――この部屋は本来3人部屋なのだ――、俺は何かあった時の為にグリーティアの寝ている自室のソファで寝たのだった。

 背伸びをして大きく首を回す。

 関節がパキポキと小気味良い音をたて、漸く意識が覚醒してきた。


 「・・・う・・・ん、にゅう・・・」


 ベッドの方から声が聞こえる。

 見るとグリーティアが寝返りをうった様だった。

 ここからでは顔を確認する事が出来ないが昨晩微動だにしなかったのに今朝はあの様子と言うことは体調もある程度戻っているのだろう。

 様子を見る為に立ち上がる。まだまだ本調子とは言えないがもう殆ど歩く分には支障は無い様だ。何時もならもっと引き摺るのだがこれも半分ドラゴンになった影響か。

 最早人間ですら無い自分をこんなにも早く受け入れてしまっている自分がいることにすらもう何とも思わない。

 どう考えたって異常だ。グリーティアの事となると自分は何かおかしくなっている様に感じる。しかしその事すら俺は何処か心地良いものに感じてしまっているのだった。

 何て事を考えていた俺だったが、グリーティアの姿を見た瞬間グルグル回る思考は綺麗に吹っ飛んだ。

 俺が宛ら銅像の様に動作を完全停止していると人の気配でも感じたのかグリーティアが目を覚ました。


 「んむぅ・・・あぁ、おはようございますお父様」


 「お、おはよう・・・」


 目を擦りながら朝の挨拶をしてくるグリーティアだったが俺は未だ身動き一つ取れないでいた。


 「どうかしました?」


 「いや、その髪と目・・・どうしたの・・・?」


 俺が驚いた理由(わけ)、それは昨晩までは確かに銀色だった髪が墨を流した様な黒に、瞳は水色に変わっていた。

 俺が寝ている間に一体何があった?

 グリーティアは自分の髪を手で摘まんで確認すると小さくああ、と呟いた。


 「本当だ、色が変わってますね・・・どうしたんです?これはお父様と同じ色でしょう?」


 「・・・へ?」


 そう言われて初めて気が付いた。確かに俺と同じ色なのだ、髪も瞳も。

 て言うか気付けよ、テンパり過ぎだろ俺。


 「それも『同調(リンク)』の影響なのか?」


 「そうでしょうね、古代龍の本質は『魔力そのもの』ですが人間は『魔力を生み出す』存在ですからどちらの存在が強い影響力を持っているかは明白でしょう。年齢が引っ張られたんですからこの位の変化があっても不思議じゃないです」


 指で髪を弄びながら言うグリーティア。確かにそうもしれないが――


 「何か勿体無いな、折角綺麗な銀色だったのに」


 「ふふっ、そんな事ないですよ?私はこの色が好きですし」


 本当に喜んでいるのが良く分かった。

 声や表情、理屈等全て抜きで分かる。

 感情を「魂」が教えてくれる。

 その事実が俺を堪らなく温かい気持ちにしてくれる。

 こんな感情は初めてだ。どう言葉で表せばいいのかまるで分からない。


 「ところで身体はもう大丈夫なのですか?」


 「それはグリーティアが一番良く分かってるだろう?」


 なんたって「魂」が繋がっているんだから。


 「そうですね」


 2人で小さく笑い合う。

 俺は何時かこの感情の名前を知る事が出来るのだろうか。


 「おはよー、ってグリーティア!?あなたどうしたの!?」


 開口一番、素っ頓狂な声を上げるリーラ。

 寝癖でぴょいんと跳ねた前髪に大きく開かれた口と瞳。

 俺とグリーティアはもう一度目を見合わせ、一拍置いてどちらともなく声を上げて笑い始めた。


 「え、えぇ?なに、なに?どうしたって言うのよ!?」


 ――何だか、賑やかな朝だな。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 「さて、今日は司令部に行きます」


 朝食を摂り終え、暫くした所で今日の予定の発表。

 俺の目の前でソファに座っている二人はキョトンとしていた。


 「え、もう出歩くの?」


 「昨日の今日ですよ?お父様」


 俄に信じられないと言った様子のお嬢様方。

 よせ、そんな目で見るな。

 それにこういう事は早いに越した事はないだろう。


 「それはそうかもしれませんが・・・」


 因みにグリーティアには昨日の事は朝食の時に話し終えてある。


 「まあ、話ししに行くだけさ、歩く分にはもう問題無いよ」


 「レイがそう言うなら私は構わないけどね。それに私としても早いに越した事は無いしね」


 ウンウンと頷くリーラとは対象的に納得し切らないグリーティア。まあ、堪えて貰おう。


 「と、言う訳で準備して下さい」


 俺は既に準備を終えている。

 何時ものラフな格好では無くキッチリと学校の制服を着て普段は護身用に1本しか差さない剣も今日は戦闘時と同様に2本差してある。靴も頑丈な鉄板を仕込んだ革製のブーツだ。


 「今日はエライキッチリした格好なのね、あの様子だから気にして無いんだと思った」


 俺の様子を見て心底感心しているリーラ。

 失敬な。


 「デュノアは魔法学校の校長もしてんだよ、流石にラフな普段着はマズイわ」


 私用ならともかく今回は飽くまで公用だ、それなりってものがある。


 「良いからサッサと用意しろ、成りはあれでもアイツ結構忙しんだから」


 はーい、と二人は気の抜けた返事を返してくる。

 うん、何んだろうね。

 手の掛かる子ども相手にしてる見たいだ。

 俺だってまだ15歳なのに・・・


 んで、何時もの市場通り。

 相も変わらず尋常じゃない人だが――よく考えたら一年間のお祭り騒ぎってかなり無茶じゃないか?――いい加減慣れたので特に抵抗も無く目的地を目指す。


 道中これと言ったトラブルも起こらず他愛も無いお喋りをしながら散歩気分で歩いていた。

 でもまあ、ここ最近の厄介事遭遇率が馬鹿高いせいか、日頃の行いが悪いのか――全くもって心当たりは無いが――そんなのんびり雰囲気(ムード)も長くは続かなかった。


 気付いた時には通りからアレだけいた人間が俺達3人を残して綺麗に消えたいた。

 代わりに一帯をネットリとへばり付く様な陰湿な殺気に満ち満ちている。

 俺は半ば無意識に腰の剣に手をかける、同時に神経を研ぎ澄まし殺気を放っている「本体」のアクションに備えた。

 その時――


 「あぁ、やぁっと見付けましたよ」


 ――背後から非道く間延びした声が聞こえてきた。

 俺達は声の方向に振り返る。

 そこには――何時ぞやの白い男が仲間を引き連れて立っていた。


 本当に、勘弁してくれよ。


次回はいよいよ戦闘回です。

上手くキャラを動かせるか心配ですが頑張ります。

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