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其の三:助けた少女と厄介事











 腹の辺りに何か重さを感じ、俺は目を覚ました。

 視界には見慣れた寮の自室の天井。

 ・・・あれ?何で俺自分の部屋で寝てんの?

 確か清々しい程綺麗にぶった斬られましたよ?

 あれ~、なにがどうなってんだ?


 どうも、真っ二つになったと思ったら何故か生きてたレイシャルト・ガウディノルです。


 いや、マジでどうなってんの?

 状況に対する情報が少な過ぎる。

 取り敢えず俺は周囲の様子を確かめ様と身体を起こし――


 「――――ッ!?」


 余りの激痛に視界が明滅した。

 叫び声どころか呻き声すら上げられ無い。

 痛みの発信源は左肩から右の脇腹に掛けて、どうやら斬られたのは夢じゃ無い様だ。

 ってか、マジ馬鹿だろって程いってぇよ。


 声は出せず、かと言って身動きも一切出来無いので無言無動作で悶え続ける俺。

 すると俺の気配に気付いたのか腹の上の重さがもぞりと動いた。

 やめて!動かさないで!激痛がっ!!


 動くものの正体を確認しようにも動かせるのは精々手足の指ぐらいのもので、そんな状態では状況の把握すら儘なら無い。

 大して込められ無い力を必死に振り絞り、喰いしばれない歯を死ぬ気で喰いしばり激痛に耐える。


 何度も気を失いそうになりながら痛みに耐えていると、フッと腹の上の乗っていた重さが無くなった。

 代わりに顔の方に何か近付いて来る――。

 その方向に顔を向け様にも首が動かせ無いので大人しくそれ(・・)が近付いて来るのを待った。


 「お父様・・・?」


 顔を覗き込んできたのは目の周りを真っ赤に腫らしてそれなのに深い隈が出来ているグリーティアだった。

 あーあー、美人が台無しじゃないか。

 誰がこんな事を――って、俺か・・・。

 心配させたのだろう、と思い声を掛けようとしたのだけれど――


 「グ・・・リーティ、ア・・・」


 酷く掠れた声しか出せなかった。

 言葉も今の一言が精一杯だ。


 「お父様っ!」


 それでも俺の声を聞いて心の底から安堵した表情で目に涙を一杯に溜めて俺に抱き付いた。

 余り勢いは無かったが抱き付かれた衝撃で数瞬意識が飛んだ。

 グリーティアさん、このままじゃ貴方のお父様は死んでしまいますッ!


 「ああっ!ごめんなさい!」


 どうやら通じた様だ。

 いや、うん。そんな「この世の終わり」みたいな顔で謝らないで、ただでさえ凄まじい罪悪感をこれ以上加算されたら本当に死んでしまう。


 俺が動かない身体でオロオロしていると、突然玄関のドアがズバンッ!と勢い良く開けられる音がした。

 誰だか知らんが壊してくれるなよ。


 「グリーティアちゃん、どうした!?レイになんかあったか!?」


 音の主はどうやらクレノの様だった。

 玄関とこの部屋はドアで隔ててあるはずだがそんな事は関係無しにドタドタと足音が聞こえてくる。


 「クレノさん!お父様が、目を覚ましました!」


 ◇◆◇◆◇◆◇


 一時間程クレノに怒られた。


 一人で勝手になにやってんだとか。

 ドジやって死にかけてんじゃねぇよとか。

 グリーティアに心配かけやがってとか。

 オレだって心配したんだぞ馬鹿とか。


 「わ、りぃ・・・心・・・配、か・・・けた・・・」


 必死で言葉を絞り出す。

 そんな俺にクレノは喋んな休めと言った。

 本当にすまん――。


 ところで、何で俺生きてんだろう?

 みんなの様子から俺が斬られたのは夢じゃ無い様だし。


 「私の力です、お父様」


 グリーティアの力?

 何だそれ?てか、今なんで俺の考えてる事が分かったんだ?

 声には出してない、そもそも出せる状況でも無い。


 「今お父様と私は完全に同一(イコール)になっているので思考も多少通じるんです」


 同一って、何が何やら・・・

 じゃあ俺が考えてる事は全部筒抜けなのか?


 「全てじゃありません。ある程度は、です」


 ・・・まあ、それでも俺の考えてる事を喋らずに伝えられる事は分かった。正直、ありがたい。

 それじゃあグリーティア、あれからの事を教えて欲しいんだけど――


 「・・・分かりました」


 そう言うとグリーティアの顔にすっと(かげ)がさした。

 思い出すのが辛いのだろう。


 「――私はあの時、お父様が突然何処かへ行ってしまった時、すぐ戻ると言ったのに時間が経っても帰って来ないので心配になって追いかけたんです。

 あ、荷物はその時通り掛かったクレノさんにこの部屋まで届けて貰いました」


 「オレびっくりしたぜ、通り歩いてたら急に知らない年下美少女に声掛けられんだもん。

 そんでキョトンしてたらあの時のトカゲちゃんだって言うじゃないか、だからまあ、荷物は心配すんな。隣の部屋にきっちり置いてあるよ」


 クレノとグリーティアはあの場で対面していたらしい、確かに俺もクレノの立場なら死ぬ程驚く。

 現在進行形で死にかけてる俺が言う事じゃないんだろうけど。

 うん、クレノには随分と心配掛けたな、今度何か奢ってやんなきゃ。


 「おう、だからさっさと治しやがれ」


 グリーティアがクレノに伝え、クレノは二カッと笑いながら俺に応える。

 本当に良い奴だぜ。

 それにしても、グリーティアは良く俺の事を見つけられたな?


 「お父様の魔力(マナ)のニオイを追ったんです。私とお父様の間の回路(ライン)によって微弱ながら私達は常に魔力をやり取りしているので、その跡を追うのは簡単でした。そして――」


 そこまで思い出して限界が来たのか、グリーティアは俯いてしまった。

 ごめんな、グリーティア――。

 頭の一つでも撫でてやりたいのだが手を動かそうとしても指先が僅かに動いただけだった。

 その手をそっと握るグリーティア。


 「大丈夫です。お父様は今こうして生きています、私はそれだけで十分です」


 にっこりとぎこちなく微笑み、続けますね?と言った。


 「あの時、確かにお父様は一度死にました。お父様は死んだ命に「猶予(モラトリアム)」があるのを知っていますね?」


 その話は知っている。

 人間や動物等、あらゆる生き物の魂は死んでから俗に言う「あの世」へ逝くのにすぐに逝くのではなくある程度の間その場に留まるらしい。そして、その時間差を利用するのが《蘇生魔法》だ。グリーティアが言いたいのはこれだろう。

 しかしこの魔法(アーツ)、発動に尋常じゃ無い魔力を必要とし、更に魔力とは別に身体の一部――髪の毛等で良い――を触媒として捧げる為、使える場面はほぼ無い。そもそも人間一人でどうにかなる魔力量では無いのだ、俺だって使えない。

 だからあと数年は魔力の回復が必要なグリーティアには――


 「そうです。確かに今も私には蘇生魔法を使うのは魔力が足りません、あれは人間なら数千人単位で行う大規模儀式魔法ですから。

 なので私はあの場でお父様の魂と私の魂を同調(リンク)させ、無理矢理でしたがお父様の身体へ戻しました。

 この状態は、本来なら「人それぞれの肉体と魂を繋ぐ糸」を私と共用し、「二つの肉体と魂を持った一つの命」と言った状態にしているんです――」


 ・・・そんなの聞いた事無いぞ、そんな状態がうまくいくとは思えないが――


 「これは私達の間に伝わる禁術指定された《古代魔法(エンシェントアーツ)》ですから。

 ともあれ、このままの状態ではとても無理があります。一対のものを繋ぐ糸にその倍のものを繋いでは簡単に切れてしまいます。なのでこのピアスを使いました」


 見ると右耳にはピアスがついているのに左耳にはついていない。


 「瞳と同じ色だったので関連付けはさほど難しくありませんでした。

 このピアスを私の肉体の一部と設定し、お父様の左耳にピアスの片方をつけ、これで「私の肉体の一部を宿している」状態を作り上げ、肉体と魂を繋ぐ糸の補強をしているのです」


 そんな事になってたのか。

 それにしても禁術って、とんでもない事してんのな・・・


 「とは言えこれでも万全には程遠いです。

 私達は今からどちらかが死ぬ、もしくはピアスを外すとその瞬間二人共死ぬ事になります」


 何!?ならこの状況随分マズイだろ、俺今さっきまで死に掛けてたぞ!?


 「ええ、物凄く心配しました。

 この魔法、魂が上手く定着しない事があるんです。お父様もあれから十日も意識が戻らなかったですし・・・」


 十日!?俺そんな寝てたのかよ!

 やべえ、学校どうしよう。


 「心配すんな、オレから学校には言ってある」


 苦笑しながら言うクレノ。

 それなら何とかなるか――。

 何か迷惑掛けっぱなしだな・・・


 ところで、そんな状態なら回復魔法を使ったら良いんじゃないか?

 そうすれば十日もデッドorアライブする事は無かったと思うけど――


 「魂が定着しきっていない状態で他人の魔法を受けると体内の魔力のバランスが崩れて危険なんです。しかもお父様クラスの魔力が暴走すればここら一帯が更地になります」


 なにその人間爆弾、そんな人外認定されても嬉しくないよ。


 「普通なら既に起爆してますよ、こんな膨大で複雑な魔力。

 そんな訳でこの十日間、私とリーラさん、クレノさんで看病してたんです。

 その間にクレノさん達には私の事やその他諸々の事情は話しておきました」


 そうか・・・ん?リーラさんって誰だ?


 「ああ、お父様は知らないんでしたね。あの時助けた黒の女の子ですよ」


 そうだ!そう言えば黒の女の子と白の男ってどうなったの?


 「白い男の方はリーラさんが追い払ってくれました。そして、バラけたお父様を魔法で繋いでくれたのもリーラさんです」


 そうだったのか・・・って言うかバラけたって・・・

 ところでそのリーラさんは?


 「今は買い物に行ってくれています。わたし一人では心配だとか、助けられた義理があるとか言って私と交代でお父様の看病を手伝ってくれていたんですよ」


 そうか、じゃあ後できちんとお礼を言っとかなきゃな。


 「そうですね、是非そうして下さい。

 ではお父様、今まで起きた事は粗方話し終わりました」


 ・・・グリーティアさん?何故貴方はそんなに眼をギラギラさせてるんですか?


 「今までは魂の定着が確認出来ていなかったので使えませんでしたがもう遠慮はいりません。ね?クレノさん」


 「おう、そうだな」


 いやいや、何?キミ達今から俺に何すんの?


 「回復魔法です。そうですね、全治一時間ってとこですか?」


 待てぇぇぇえええ!!!一時間も回復魔法かけられたら死んでしまうわ!!


 回復魔法と言うのは身体の傷をあっという間に治せる代わりに、魔力干渉が凄まじいのだ。

 そもそも魔力とは生命力の一部で、魔力干渉があるということは即ち精神への過負荷を意味する。

 通常、一番弱い干渉強度の回復魔法――水属性回復(ティア)系になるのだが、これの最下位魔法で大体400m走を全力でやった時と同程度の疲労感がくる。

 それをぶっ通しで一時間、しかも使う魔法は上位から最上位クラスの魔法だろう、そんなもんトライアスロン連続10回したってお釣りが来る位の精神負荷がくるだろう。

 軽く死ねる。


 「それでも今の状態よりマシです。それに私は信じてます、お父様の事」


 信じてますじゃねぇ!!マズイ、このままじゃ本当にマズイよ。


 「諦めな、レイ。どっちにしたってお前動けないだろ。それとも、グリーティアちゃんの気持ちを無駄にすんのか?心配すんな、おれも手伝ってやるからさ」


 それはそうだけど!裏切ったか、クレノ!


 「――では、いきます」


 イヤァァァアアアッ!?と、我ながら情け無い叫びを心の中で上げる。

 それから一時間、地獄の回復魔法フルコースが俺に襲い掛かるのだった――。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 一時間後、クレノは用事があると部屋を出て今は俺とグリーティアだけがこの部屋にいる。

 精も根も尽き果てて、身体は動く様になったのにベッドの上でグッタリしていると、玄関のドアがガチャリと鳴った。

 確認の為のそり、と上体をおこす。

 ああ、身体が動くって素晴らしい――。

 そんな感慨に耽っていると部屋のドアが開き、入って来たのはあの時の黒の女の子だった。

 今もあの時と一緒の黒一色の服を着ている。


 「あら、起きたの?」


 入って来て俺を見ると僅かに驚いた様に眼を見開いた。


 「あ、いや、どうも。何かお世話になったみたいで・・・君がリーラさん、だよね?」


 「ええ、リーライト・ファルヴィムよ。リーラで良い、さんはいらないわ。よろしくね?」


 リーラさん改めリーラの姿を俺は初めてしっかりと見た。

 腰まである殆ど黒のダークブラウンの髪、綺麗な赤味がかった黒い瞳。

 服は何かの制服の様で見ようによっては軍服の様にも見える。

 うん・・・?黒の軍服・・・?

 まあ、いいか。

 顔立ちはかなり整っている。

 グリーティアが近くにいるせいで多少霞んでしまってはいるが、大きくて勝気なその瞳もスッと通った鼻筋も十二分に美少女と言っても良いだろう。

 背は大体160cm位、決して低い方では無い。


 さて、何時までも観察してないで俺の方も自己紹介しなくては。

 折角名乗ってくれたんだしスルーと言う訳にもいかないしな。

 俺はフラつく脚に力を込めてゆっくりと立ち上がった。

 それを見て二人は驚きに目を見開いている。

 何故だろう?


 「レイシャルト・ガウディノルだ、レイって呼んてくれ。こちらこそよろしく」


 右手を差し出すと、リーラは恐る恐ると言った感じで俺の手を取った。


 「喋れるって事はグリーティアが言ってた『回復魔法一時間コース』受けたんでしょ?しかもその直前まで死に掛けてたのに――よく動けるわね・・・」


 どうやら驚愕の原因はそれらしい。

 確かに、普通に考えればそうだわな。


 「体力には自信があるんだ」


 「そんな次元じゃないでしょう・・・?」


 本日二度目の人外認定。不本意で仕様がない。

 今にも倒れそうなのには違いないんだぜ?

 そんな事を考えてたら早速膝から力が抜けてその場に崩れ落ちそうになった。

 なった、と言うのは傍らのグリーティアが倒れる前に俺の事を支えてくれたから助かった為だ。


 「無茶しないで下さい、お父様」


 「ああ、ありがとう」


 心配そうなグリーティアの頭をわしゃわしゃと撫でる。

 眼を細めて嬉しそうだ。こういう所はドラゴンと言うより猫っぽいな。

 グリーティアに支えられながらゆっくりベッドに腰を下ろすと、そこでちょっとした違和感を感じた。


 「・・・グリーティア、何かデカくなった?」


 グリーティアの姿を見上げると少なくとも10cm以上背が高くなっていた。

 リーラより背が高い所を見ると、165cmはあるかも知れない。


 「魂をお父様と同調させた事によって見た目の年齢も同調したんですよ」


 じゃあ買った服とかはまた買い直さないとなぁ。


 「買った物なら大丈夫です。私が魔法でサイズ直しましたから」


 「そうか――」


 今更ながら便利だな、魔法って。

 そんな風にしみじみとしているとリーラが口を開いた。


 「ところでグリーティア、何だかよく知らないけど「最後の仕上げ」ってのがあるんじゃなかったの?」


 「ああっ!そうでした!」


 ポン、と手を叩くグリーティア。

 一体なんだ、「最後の仕上げ」――何て怪しい響き。


 「私とお父様の魂の最終接続をするんです。これをしないと「糸」に負荷が掛りすぎてすぐに切れてしまうんです。よく保って三年、てとこでしょう。なのでそれを寿命まで保たせる為に魂そのものを接続して「糸」への負荷を減らすんです」


 それも古代魔法かと聞くと首を縦に振り首肯するグリーティア。

 先のトラウマ再臨でなくて本当に良かった。とは言えやっぱトンデモ無いな、古代龍。


 「それでは右手を出して下さい」


 言われた通りに右手を差し出すと、その掌にグリーティアは左手の平を重ねた。

 途端に、周囲から総ての音が消えた――

 それに呼応する様に重ねられら手とお互いのピアスが淡く輝き始めた――


 「《―――古より我等と盟約せし七つの精霊よ、始原の火、生命の水、叡智の風、安寧の土、混沌の闇、秩序の光、そして総てを司る無の力―――今こそ我が魔力を糧とし彼の者と我が魂を等しく結び給え―――》」


 明らかに人の言葉とは違うものでゆったりと歌う様に、流れる様に唱えられる呪文が止むと、今まで淡く輝いていた手が その光を強めた。

 視界の全てが真っ白に塗り潰される――

 本日何度目かの強烈な光に目をやられない様にしっかりと目蓋を閉じていると徐々に辺りから音が戻って来るのを感じた。


 「もう大丈夫ですよ、お父様」


 グリーティアに声を掛けられゆっくりと目を開く――

 当たり前かも知れないが、視界には何時もの部屋の風景が広がっていた。

 その事が、何故だか今の俺には何となく信じられなかった。


 ふと、右手の甲に熱を感じ、それに目を落とす。

 そこには紫の紋様――ドラゴンを象った紋様がしっかりと刻み込まれていた。


 「それが私とお父様の魂が同一になっている証です。これによって私達の間で幾つか出来る様になる事があります」


 「出来る事?」


 「はい、先ず物理的な距離に関わらず念話が可能になります。簡単に言えばテレパシーですね。更に、それの応用である程度の五感や感情を相手に伝える事が出来ます」


 トンデモ無い便利機能だな、言うならば遠距離通信魔法の永続発動である。

並の魔術師が30秒で音を上げる魔法が無制限に使える上に+αで五感や感情まで交信出来るんだからかなりの効果だ。

 まあ、それ以上の欠点(デメリット)も十二分にあるんだけど。


 「他にも色々ありますけど全て説明していては物凄く長くなりますからそれ等は追い追いと言う事で。一番大切なのは私達の『存在』の事です」


 ・・・何だか一気に物騒になったな。

 存在何て言われても良く分からない。

 特に身体に変化はないようだけど――


 「見た目の変化はほぼありません。重要なのは私達の魂のほうです。こちらに変化があると少なからず影響が出るんですよ、なんせ存在そのものの核ですから」


 「じゃあ一体どんな変化があるんだ?」


 流石に自力で魂の変化を調べるなんて事は出来ないし。


「私達が魂を直結させた事によって私達の魂は互いに混ざり合っている状態にあるんです。人と龍本来相入れないはずの魂が混ざり合い、今の私達は言うならば『半龍人』とでも言うべき存在になっています。半分人間で半分ドラゴン、まさにハイブリッドです」


 ハイブリッドです、じゃねぇよ。

 表現が斬新過ぎるだろ、せめてハーフと言え。

 つうか何か聞いてる限り俺もう人間辞めてるよね?人外認定どころかリアル人外じゃん。

 ここまで来ると逆に何とも思わないなぁ。


 「具体的には私は人間に、お父様は古代龍にその存在が近似しています。私の方は本来の姿があのちっこいトカゲ(仮)の方ではなくこの姿になったぐらいですがお父様の方は部分的にではありますが古代龍の力を身体に宿した事と同義です」


 「・・・・・・・・・・・・」


 グリーティア以外のその場の全員が絶句した。

 いやいや、古代龍の力って・・・バケモンでもまだ可愛げがある。

 今でさえ俺の魔法は大陸最高クラスなのにそんなもんプラスされたら尋常じゃ無いでしょ。


 「今のお父様なら本気を出せば5分で一国を焦土に出来るでしょう。でもそんな事すれば間違いなく死にますけどね。幾らか頑丈になってはいますが元はどうしても人間ですから、とは言え私ももう純粋な古代龍ではありませんから同じ事すれば死にますけどね」


 グリーティア、そんなに良い笑顔で言わないで・・・。

 神獣が暴れたってそこまでじゃないよ。

 唯一の救いは本気出したら死ぬっていう最高レベルの安全装置(セーフティ)が付いてる事だな――


 「それでも、お父様なら、大・・・丈、夫・・・・・・」


 グリーティアの身体が突然フラリとバランスを崩し、俺の方に倒れてきた。

 酷く顔色が悪い。


 「どうした!?グリーティア!」


 さっきの魔法の反動だろうか、呼吸は浅く、グッタリとしている。


 「お、父様・・・本当、に・・・よく、起きて・・・いられ、ます、ね・・・」


 はい・・・?一体何の――


 「強過ぎる、感覚は・・・本人の、意思とは、無関係に・・・相手へ、伝えられるんです・・・全てではなく・・・十分の一程度、ですが・・・十分の一で、これ、なのに・・・」


 そこまで言ってグリーティアは意識を手放した。

 どうやら魔法の反動では無く俺の無理が少し伝わってしまったらしい。

 グリーティアを抱き上げ、ベッドに寝かせる。

 俺は近くの椅子に腰を降ろした。


 「本当に、大丈夫なの?アンタ・・・私、彼女(グリーティア)に聞いたけど古代龍何でしょ?未だに信じられないんだけどさ・・・それでもそんなグリーティアがこんな風に倒れるなんて――」


 心配そうに声を掛けるリーラ。

 グリーティアが自分の事を話したという事は彼女は信頼出来ると判断したんだろう。


 「大丈夫だよ。幾ら古代龍だって言ってもグリーティアは女の子だからな、それに俺はこういうのには慣れてる」


 魔法の修練、国からの緊急依頼、その他諸々の紛争やなんやかんや――一体何度死にかけたか、数えるのも馬鹿らしい。

 そんな生活してりゃ慣れもする。


 「そう――」


 何気ない、会話の間を保たせる為の相槌の様なこの一言。これを聞いた瞬間、俺の厄介事センサーが物凄い勢で反応した。

 無意識に警戒心が募っていく。


 「――伊達に『ランクS魔術師(ウィザード)』やって無いわね」


 それを聞いた瞬間、警戒レベルは一気に最高まで高められた。


 「・・・参考までに、何処で俺のランクを知ったのかな?」


 俺の正式ランクは最重要国家機密だ、その辺の女の子が簡単に手に入れられる情報じゃない。

 そもそも、これを知っているのは王族と王国の最高官僚クラスか軍の最上層部、極一部の最上位貴族、あとはクレノと俺の家族だけだ。ランクS何てモノがあるのを知ってる人間だってこの大陸の一握りの者だけだ。


 「私の組織に軍の内情に詳しい人がいるの、その人に聞いたのよ」


 「詳しい何てレベルじゃ無いだろう・・・」


 どんな人脈を持ってるんだ、ソイツ。


 「・・・で、俺に一体何の用だ?」


 さっきから腰の細剣(レイピア)に手を添えているリーラに問いかけ、俺は魔力を練り始めた。

 今の状態では肉弾戦なら遅れを取るだろうが、魔法なら話は別だ。

 俺は一秒あれば半径10mの範囲を一瞬で消滅させられるだけの魔力が練れる。

 ハッキリ言って負けは無い。

 それを理解したのかリーラは両手を上に挙げ、バンザイした。


 「トンデモ無い魔力量ね、こりゃ勝てないわ。魔法圧に押されて立ってるのがやっとだよ」


 リーラの雰囲気がさっきまでのものに戻っていた。

 勿論此処で警戒を解くことはせず、充分な魔力を維持しておく。


 「隙もないな~、こんなボロボロでこんだけヤれるなんて、どんだけ場数踏んでんのよ。

 大丈夫、闘う意志はないわ。さっきのは脅かしただけ、あそこでバッサリ殺られたキミが本当にあの『完全なる(エンタイア・)魔術師(ウィザード)』か試したかったの」


 ビキリ、と額に青筋が立ったが我慢する。

 リーラは何も知らないのだ。反射的に魔法を放ちそうになったが寸前で踏み止まった。


 「・・・その呼び名は好きじゃないんだ、別のにしてくれ」


 「え、えぇ、ごめんなさい・・・」


 俺の異様な雰囲気に呑まれたのか酷く怯えた様子のリーラ。

 さて、前置きはこのぐらいでそろそろ本題に行こう。

 さっきから俺の厄介事センサーが尋常じゃ無い程反応している。


 「そうね、私もそれが良いと思うわ」


 そういうとリーラは俺の目の前まで歩み寄り、ビシッと背筋を伸ばして直立した。


 「改めて、私は《黒の軍》所属、リーライト・ファルヴィム。『ランクS魔術師』レイシャルト・ガウディノル、貴方へ《黒の軍》総司令部より正式に協力要請する旨を伝えにきました」


 「――はぁ?」


 厄介事は俺の思考の斜め上をいっていた。

 いやいや、何がどういうこと?

 《黒の軍》ってあのアレか?


 ああもう、訳わかんないよ。

 何この厄介な女の子?

相変わらず動きが少ない・・・


近々戦闘シーンに入る予定なのでそこで巻き返したいです。

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