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其の一:トカゲ(仮)と魔術師

ココから本編です。

どうぞお付き合いください。


 〔カーン、カーン、カーン〕


 鐘の音が辺りに響き渡り、俺たちは全員全ての動作を停止させた。


 【校内規範五ヶ条・第三条:鐘の音が聴こえる限り有事の際以外はあらゆる動作を停止すべし】


 という物に則った行動だ。

 俺はこの学校に入学して大体半年が経つのだが、未だにこの規範の意味が理解できていない。

 とんだ「ダルマさんが転んだ」だ。


 他の4つは何となく分かるんだけどなぁ。


 〔カーン、カァーーーン……〕


 「ふぅ・・・」


 授業の終了を知らせる五つの鐘の音が鳴り止むと俺は小さな溜め息と共に全身の緊張を解いた。

 先生を含めたその場の全員が似たような状態となっている。


 「よし、それじゃあ今日はここまでっ!」


 「「「ありがとうございました!!!」」」


 生先の言葉に生徒全員が今日一番の元気で応える。

 一日の授業が終わったせいで最高にテンションが上がるのはどうかと思うがまぁ、仕方ないかな。

 俺もその一人なわけだし。


 さて、今日の演習ハードだったしさっさと荷物まとめて早く帰りましょうかね。


 あ、どうも。さっきから喋ってる『俺』こと、レイシャルト・ガウディノルです。

 どうぞよろしく。

 周りからは「レイ」って呼ばれてる。

 そんでもって――


 「おーい、レイ!一緒に帰ろうぜっ!」


 ――なんて声を掛けてくるコイツがクレノ・アストム。

 この『王立魔法・武術教育学校』というシンプル・イズ・ベストを絵に描いたような名前の学校に入学する前――多分5、6歳頃――からの友人で、所謂幼馴染って奴だ。


 カルディアノ王国の首都シャンダルにあるこの学校に入る為に一緒に田舎から出て来た。


 俺たちの住んでた田舎は王国の南端の海沿いにあり、北へ少し行った所に山がある自然に囲まれたクラサム村という名前の村だ。


 周囲を海と山に囲まれていて他所の町や村に行くには山越えする必要があり、交通の便は最悪だし海や山からは時々魔獣なんかが来ちゃったりするしもちろん山越えの時も海を渡る時も魔獣の餌食になったりしちゃう人も決して少なくない。

 それでも村のみんなの仲は非常に良いし、不便なりにもそこそこ真面な暮らしの出来る良い所だから俺はあの村が好きだった。


 そんな村の村長をやってた親父とクレノの親父さんは非常に仲が良く、小さい頃から俺とクレノはよく一緒に遊んだりしていたのだった。


 時に、クレノには少し困った所がある。

 何というか、物凄く人懐っこいのだ。

 15歳にして190センチを超え、未だに成長中の身長。

 クラスメイトからは「壁」と呼ばれる程ガタイの良い体格、しかしゴツ過ぎないのがポイントだ。

 浅黒い色の肌に溌溂とした性格。

 「好青年」の生き見本の様な奴にこうもしょっちゅう構われては暑苦しくて叶わない。


 何時もなら十年来の付き合いによる慣れでどうってことはないんだけど放課後、然も闘技演習の直後ではハッキリ言ってしんどい。


 「――と、言う訳で。今日は疲れてんだ、それじゃあな」


 「おいおい、何がどう言う訳か知んないけどそんな連れない事言うなよ~」


 軽く突き放す程度じゃあダメージを受けるどころか更なる熱波(スマイル)を放ってくるクレノ。


 あぁ、疲れる・・・


 「今日は最後が闘技演習だっただろ。だから俺は疲れてんの。」


 ほんの少しだけ睨んでみる。

 そしたらコイツ、何故かニヤニヤし始めた。


 「・・・何だよ」


 「いやぁ、確かにレイともなると大変だよな~っと思って」


 終始ニヤニヤし続けるクレノ。

 何か腹立つな、コイツ。


 「そうだよなぁ、『完全なる(エンタイア・)魔術師(ウィザード)』様ともなると演習一つ取っても物凄いギャラリーだもんなぁ」


 それを聞いた瞬間、「ビキィッ!」と効果音が付くほど額に青筋が立った。


 「・・・クレノ、言わなかったか?俺をそれ(・・)で呼ぶなって・・・」


 この学校内に限らず、優秀な魔術師や戦士には『通し名』というものが付けられる。

 一般的にはその人物が立てた功績やその人固有特徴などを元に付けられるのだが、これは何かしら公式な物で証明される訳ではなく、飽くまで世間の評価により付けられる。


 例えば、500年前の大戦争を終結せさたセクラディオ・アルノード・サーヴェンスなら『救世主(メシア)』や『大英雄』。

 現王国軍総司令官、デュノア・ホームラトスなら『正義の剣(ジャスティス・ソード)』等がある。


 そして、この俺の『通し名』である『完全なる魔術師』――。


 この不本意極まり無い『通し名』が付いてしまった理由(わけ)は俺の《魔法(アーツ)》に関係する。


 《魔法》というものには当然、〈属性〉がある。

 〈属性〉には〈基本属性〉というものが7つあり、〈無〉〈火〉〈水〉〈風〉〈土〉〈光〉〈闇〉に分かれている。

 実際にはこれら以外にも〈氷〉〈雷〉〈木〉等それこそ(きり)のない程沢山あるのだが、こういったものは〈特殊属性〉と呼ばれ、二つ以上の〈属性〉――例えば、〈氷〉なら〈水〉と〈風〉といった様に〈属性〉を組み合わせる事によって創り出されるのだ。

 因みに〈上位派生属性〉というものもあり、〈上位派生属性〉による〈特殊属性〉なんてものもあったりして結構――いや、かなりか――めんどくさい。


  閑話休題。


 しかし、この〈特殊属性〉を使える魔術師はあんまりいない。


 その理由は、普通の魔術師は全員が無条件に使える〈無〉を除けば使える〈属性〉は1つ、多くても2つ、3つも〈属性〉が使える様になれば魔術師として最高レベルの地位が約束されたも同然なのだ。


 何故その様な事になるのかと言うと、人には其々発動させ易い〈属性〉というものがある。これを魔術師の間では魔力(マナ)の「色」と言う。

 例えば、〈火〉と〈水〉は相性が悪い、という風に魔力の「色」が違い過ぎる〈属性〉は本質的に混ぜ合わせる事が物凄く難しく――決して不可能では無い――、同時に修得するのは困難を極める。だから人によって使えない〈属性〉があるのだ。

 そもそも体内の魔力を操作するという時点で相当の能力が必要な為、こんな事態が起きてしまうのだ。


 さて、ここで俺の『通し名』の話しに戻るとしよう。

 察しの良い人はもう何と無く気付いてるかも知れないが、俺はその基本となる七大属性全てを修得した、いや、してしまった魔術師なのだ。

 即ち、『完全なる魔術師』の「完全なる」の部分は「全ての属性が使える」という意味な訳だ。


 俺の様に七大属性を全修得した魔術師の事を『完全制覇者(フル・コンプリーター)』と呼ぶらしく、大陸全体でも今は俺ともう一人、アンダルフィア法国にしか居ないらしい。

 歴史上でも未だ5人しか現れてないとなればそりゃもう騒がれもする。


 確かに死ぬ程努力はしたけれど、それは血の繋がってない両親や妹を少しでも助けたかったからで、別に地位も名声も欲しく無い身としては厄介この上ない『通し名』である。


 そんなこんなでクレノを睨み付けると、クレノは「やれやれ」とでも言いたげに肩を竦めた。


 「何がそんなに気に食わないかねぇ、カッコイイ『通し名』付けてもらって。オレなんか『壁』だぜ?」


 ・・・それアダ名じゃ無くて『通し名』になっちゃったのか。

 少し同情する。


 「同情するなら才能くれ~」


 「誰がやるか、精進しろ。

 ・・・別に『通し名』何て良いモンじゃないさ。貴族・王族連中には目を付けられるわ、上級生からの視線は痛いわ、教師組には過度に期待されるわ、実技の度に気疲れするわ――」


 「期待はしょうがないでしょ、上級生の態度も。

 入学して三ヶ月目には最初の試験で学科・武術・魔法・総合の全部で校内ランク一位を獲って、次の月には『ランクS魔術師(ウィザード)』指定されるわ、ツラが良いから女子にはモテるわ、そんな完璧超人気にすんなって方がムリっしょ」


 魔術師のランクとは大陸の魔術師の殆どが加入する巨大組織『アデルフィア魔術連盟』が公式に定める国際資格で、能力の高さをA~Eの五段階に分けられる。

 ランクEの基準が「武装した兵士5人とほぼ同等」程度の強さである。

 一般にランクCにもなれば一人前、ランクBで一流、ランクAともなると戦術兵器と同等クラス、と言われている。


 因みに、魔術師の中には連盟に加入していない奴も居て、其れらの理由は大抵何か後ろ暗い事がある奴が大半だ。逆に、連盟加入者は社会的にある程度の信用が得られる。


  閑話休題。


 この連盟、見かけ上は国際組織だが実際は国毎の支部がほぼ独立しており、実質的には五つの魔術師ギルドの様になっている。


 連盟加入魔術師には大きく二つの「義務」がある。


 一つは連盟支部に寄せられた依頼(クエスト)の解決。

 これが主に連盟がギルド呼ばれる理由で、具体的には依頼された問題を解決し、報酬を貰うという極有り触れたものだ。

 ただし、依頼を受けられるのは15歳から――連盟加入制限年齢が15歳からだからだ――である。


 二つ目は、国家間戦闘行為における出兵義務だ。

 しかし、連盟加入者の殆どは国軍もしくはそれに準ずる組織等と何かしらの関係を持っている為、この規則はあまり意味をなしていない。


 そして俺が与えられている『ランクS』だが、これはランクAの中から特に高い能力を持った魔術師に特別に与えられるランクで、具体的には戦略兵器と同等以上、一人で国家規模の戦力と渡り合える強度とされている。

 その余りの戦力の高さから戦争時ですら滅多に戦場に出ない、所謂「切り札」的な扱いだ。

 ランクSの魔術師は存在自体が国家機密扱いで、発表されているのはその人数と所属国家だけである。

 その情報すら一部の人間にしか知られておらず、つまりはほとんどの人はその存在すら知らない。

 それ故、本来自分のランクを偽るのは重罪だが『ランクS魔術師』はその性質上、公式ランクはAという事になっている。

 だから――


 「・・・俺のランクのことは絶対にだれにも言うなよ」


 『ランクS魔術師』は現在一つの国に一人ずつの計五人存在が公表されていて、大陸全体でおよそ5万人居ると言われている魔術師の中で――大陸全体人口は約30億人――たったそれしか居ないという時点で相当ぶっ飛んだ能力と言えるだろう。

 その中の一人である俺が言うことじゃないけど。


 まぁ、何が言いたいのかと言うとそんなの周りに知られたら騒ぎになるどころから他国もしくは自国から存在自体消されかねない。家族や友人達にも迷惑が掛かる、ということだ。


 「分かってるって。とはいってもランクAだってこの学校にはお前と三年生に一人の二人だけだぜ?」


 やっぱ目立つよなー、なんて完全に他人事だ。


 「クレノ、お前の方こそどうなんだよ」


 因みに、クレノ自身も相当の実力者だ。

 〈土〉と〈水〉の二つを修得し、学校内でも10人しか居ない「ランクB魔術師」である。

 一学年約200人、全校生徒600程いる中で学年順位は俺に継いでニ位、校内ランクも必ずトップ10には入っている。

 成績もさる事ながら容姿も良く、学校内には学年を問わず少なくないファンがいたりする。


 「俺の場合は冷やかしでもクレノは本気で女子に人気あるんだし。お前の方が大変だろ、そう言うのに関して言えば」


 「・・・・・・・・・・・・」


 ・・・おい、何でそんな風に俺を見る。

 そして何故「何にも分かってないな、コイツ」的な感じで溜め息を吐くんだ。


 沈めるぞコラ。


 「まぁ、レイのそれ(・・)はもう病気みたいなモンだからなぁ。同情するぜ、女の子達・・・」


 「何が言いたい、ハッキリ言えよ」


 「いやぁ、オレが此処で言ってもねぇ。それより、帰ろうぜ」


 「ああ、そうだな・・・」


 何かもう疲れたよ、俺。


 ようやく帰るべく荷物をまとめ始める。


 魔具(魔法の補助道具)や回復薬(ポーション)、その他諸々の道具が入ったバッグ――俺が魔法をかけた特別製、容量拡大と重量緩和、盗難防止の魔法がかけてある――を肩に斜めに掛ける。


 ベルトの投げナイフ6本がキチンととまっているのを確認し、腰の左右に提げてある片手用のロングソードを確認する。


 よし、大丈夫だな。


 さーて、帰りますか。と歩き出してから改めてクレノを見て初めて違和感を覚えた。


 「あれ?お前、今日武器(エモノ)持ってないじゃん」


 クレノは何時もなら全長2メートルは有ろうかという大きな幅広の両手剣を背中に担いで居るのだが今日は何も持っていない。


 「うん?ああ、この前依頼で魔獣と()った時に刃こぼれしてな、今修理中」


 刃こぼれって・・・あの大剣が?


 「何と闘ったんだよ・・・」


 俺は以前クレノが大剣でアイアン・ゴーレムを真っ二つにぶち割る所を見ている。

 アイアン・ゴーレムとはそのまんま金属製のゴーレムで、本体も相当頑丈だが体表に魔法装甲を纏っているため尋常で無い硬さなのだ。


 「いやぁ、実はエンシェント・トータスとちょっとばかしな」


 「んなっ・・・!?神獣じゃないかっ!」


 魔獣の中でも特に強力なものを聖獣、それよりも強力な化物クラスの事を神獣と言う。


 エンシェント・トータスとは巨大な亀で、その全長は小さいもので20メートル、現在確認されている最大全長は130メートルを超えていたらしい。


 この亀、個体寿命が恐ろしくながく、寿命自体は現在も不明。

 確認された中では7億年が最高だと言う。


 特徴としては死ぬまで成長し続け、それに応じて甲羅の硬度が上がり、気性も荒くなる。

 甲羅は幼体ですら加工困難な程硬く、大陸中でも扱える職人は20人も居ないと言われている。


 「お前、よく生きてたな・・・。それで、殺ったのか?」


 「バッ、馬鹿言うな!あんなバケモンそう簡単に殺れる分けないだろ!」


 目を見開いて手と首をブンブン振るクレノ。

 確かにランクBにはしんどいわなぁ。


 「あんなモン、ランクAの奴らでも相当上位の魔術師じゃなきゃ手も足も出ないだろ・・・

 それこそお前らみたいなクラスS(バケモン)でもない限り討伐何か無理だって」


 確かに、神獣クラスは流石に苦労するだろうな〜。


 「苦労するだけで殺れ無いことは無いんだろ?」


 「うん、まあ、そうだな」


 そう言うと遠い目をするクレノ。

 いや、うん。何かスマン。


 「レイの規格外は今に始まった事じゃないしな、別にいいよ」


 それはそれで腹立つな。


 「それはそうとお前、どうやってあの亀から逃げたんだよ」


 「あぁ、最初ぶち割ってやろうと思ったんだけど全く歯が立たなくてな。奴、馬鹿みたいな重量してるだろ?動きも遅いし。

 だから足下底無し沼に変えてやって足取られてるウチに逃げた」


 恐らく、クレノの〈特殊属性・泥〉の魔法だろう。


 幾ら動きが遅いとは言え神獣の足止めは容易では無い。こうなったらクレノの昇格も近いだろう。


 「買い被んなって、オレ何かまだまだだよ」


 謙遜とかじゃ無くて、本気で言ってるんだから性質(たち)が悪い。

 まあ、本人がそう思ってなくても周りがほっとかないだろ。


 それにしても――


 「すんごい人だな、これ」


 学校から校外寮への途中にある市場通りには何時もの何倍もの人が歩いている。


 各店も色々な飾り付けが為されていて、通りの雰囲気自体が何処か華やいでいて「何の祭り?」って感じだ。


 「今年は聖王暦1000年のメモリアルイヤーだし、終戦500年でもあるからなあ、今年一杯はこんな感じでしょ。

 今日からシャンダルの店屋が全店年末までの大セール始めるらしいし、、何か買って行く?」


 通りを見て目をキラキラさせるクレノ。


 だがこんな人混みに突入したら最期、絶対に厄介事に巻き込まれると俺の第六感が告げている。


 「いや、辞めとこう。何かやな予感がする」


 自慢じゃ無いが、俺の勘はよく当たる。

 何故かはよく分からないが恐らく場数の問題だろう。


 それを知っているクレノも少し緊張した面持ちになる。


 「じゃあ人混みは不味いな。裏路地使うか?」


 「ああ、そうしよう」


 ◇◆◇◆◇◆◇


 裏路地に入って暫くして視線の端――ゴミ捨て場の辺りに蠢く影を見つけた。


 一気に身体が緊張する。

 何故かは分からないがトンデモ無く嫌な予感がしたのだ。


 恐る恐る『それ』に近寄る、その様子に気付いたのかクレノも足音を忍ばせる。

 やっぱりコイツは優秀だ。


 無視する、と言う選択肢も確かにあったがその時俺にはどうしてかそれが出来なかった。


 薄暗い中でモゾモゾと蠢く影が段々とハッキリと輪郭を帯びてくる。


 そしてついにその姿が――


 「――って、トカゲ?」


 そこに居たのは30センチ程度の鈍色のトカゲ(?)だった。

 イマイチハッキリしないのはそのトカゲ(?)に羽が生えていたからだ。

 羽ってゆうか、こんな小っちゃいけど翼?


 取り敢えず危険は全く感じられない。


 俺の勘もたまには外れんのなー。

 何て考えながらもう一度トカゲ(仮)を見る。


 そこで初めて気付いた。

 トカゲ(仮)の身体が血に塗れている事に。


 薄暗くて気にしていなかったが、よく考えると人が近寄って蹲りっ放しなのもおかしい。


 慌ててトカゲ(仮)様子を確認する。


 ・・・正直、不味い。

 このままだと恐らく数時間中には――。


 「・・・見逃せないわな」


 俺は手に魔力を集める。

 液体が身体中からトカゲ(仮)にかざした掌に流れ込み、溜まってゆく感覚を覚える。


 掌が淡く輝き始め、その光が段々と力強さを増していき――


 「《――全てを癒せ(ゼノ・ラ・ヒーリアス)》」


 刹那、強い輝きがトカゲ(仮)の身体を包みこむ。

 鈍色だった鱗が徐々にその輝きを取り戻し、美しい銀へと変わっていく。


 その変化が止まると同時にトカゲ(仮)を包んでいた輝きも消えてゆく。


 「・・・いつ見てもトンデモナイよな。光属性の回復(ヒール)系最上位魔法を即詠唱(ワン・スペル)だなんて――おっと」


 クレノが呆けている目の前でトカゲ(仮)が起き上がり、その目を開いた。


 とても綺麗な紫の色をしていた。

 はて、こんな生物いただろうか。

 恐らく魔獣の幼体なのだろうが――


 「――ブフッ!?」


 飛び付かれた。顔に。


 いきなり正体不明の生物に顔面タックルされたせいで割と本気で死んだかと思った。


 ――って、何しやがる!?息が出来ん!


 強情にへばり付くトカゲ(仮)を必死で引き剥がす。意外と力が強い。


 トカゲ(仮)の襟首――で、あってるのか?――を掴んでぶら下げて顔の前に持って来た。

 暴れるかと思ったが意外にも大人しく、長い首を竦めた様にして俺の顔をじっと見つめている。


 ・・・何となくそんな気がしてたんだけど、コイツって――


 「――ドラゴン、なんじゃねえの?」


 クレノに先を越されてしまった。


 「いやでも、こんな色のドラゴンいたっけか?」


 「・・・いや、俺にも心当たりが無い」


 この世界のドラゴンは紅龍、蒼龍、翠龍、璜龍、白龍、黒龍の六種類。

 大昔には古代龍というのがいたらしいが、今は滅びたと言われている。


 このトカゲ(仮)は六種類のどれにも当てはまらない。

 そもそもドラゴンは神獣の中でも最高位、個体数は非常に少なく、こんな所に居る筈がない。


 「多分亜龍だろう。こんな色のドラゴンは見た事も聞いた事もない」


 「まあ、そうだろうねぇ」


 亜龍とはワイバーンやリザードマンの様なドラゴン系の魔獣の通称だ。


 ドラゴン程ではないが強力な個体が多く、数もそれなりにいる。

 飽くまでもそれなりだから決して沢山いる訳じゃないが。


 「さて、こんな所にいても不味いしな。サッサと逃げな」


 トカゲ(仮)を地面に降ろしてじゃあな、と言って俺は歩き出した。

 俺は召喚師(サモナー)じゃ無いし、どうもしないが他の人間が見つける前に逃げなきゃどうなるか分からない。

 亜龍も貴重には違いないのだ。


 助けた身としては上手いこと逃げ延びて欲しい。願わくば、人間に危害を加えない魔獣に育ってくんないかな~?


 とそこで俺は後ろから何かがついて来る気配を感じた。


 振り返るとそこにトカゲ(仮)が居る。


 「・・・・・・・・・」


 少し歩いてからまた振り返る。


 やっぱりトカゲ(仮)が居る。

 長い首を傾げて「どうかした?」とでも言いたげに佇んでいる。


 「・・・クレノ、コイツついて来るんだが」


 「・・・ああ、そうだな。もしかしてレイに懐いたか?」


 まさか、では試しに聞いてみよう。


 「そうなのか?」


 「ピイッ!」


 ・・・そうなのか。この鳴き声はどう考えても肯定だな・・・。


 契約もしてないのに魔獣が人に懐くなんて・・・。

 聞いたことないぞ、そんなの。


 とは言ってもこのまま放っておくと何がどうなるか検討もつかない。

 となると、選択肢は一つ――


 「・・・ついて来るか?」


 「ピイッ!!」


 翼をパタパタとはためかせ、俺の胸に飛び込んで来るトカゲ(仮)。


 元気な返事をありがとう。

 可愛いじゃねぇか、チクショウ。


 こうして俺はドラゴンっぽいトカゲ(仮)の面倒を見ることになった。


 さて、これからどうしよう。

読んでいただいてありがとうございます。

これからも読んでいただけたらうれしいです。

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