其の七:転入生と居候
カシャン、と玄関のドアに備え付けられた郵便受けに何か入れられる音が聞こえて目が覚めた。
デュノアに会った後、流石に無理が祟ったのか数年ぶりに熱を出した。
寮のリビングでグリーティア――いや、グリーティア様から身体の不調を隠していた事についてのお説教を戴いている途中で限界を迎え、そのまま20時間程気を失っていた。
目を覚ました後の枕元で俺の事をただじーっと何をする訳でもなく見詰めていたあの顔が今でも忘れられない。
反省します、もうしません――多分。
そんな事もあってグリーティアに言われるがまま一週間ほど休養を取り、現在に至るという訳だ。
もう半月も学校を休んでるしいい加減何時も通りの生活に戻さないとな。
立ち上がるともうすっかり本調子――今度は本当だ――で何処にも異常はなかった。
流石はグリーティア様の病人看護フルコースである。
食事の時に「あーん」してもらうとか健全な青少年としてそれなりに興味や憧れがあったりしたけどあれって実際にやると尋常じゃない羞恥プレイの出来上がりだよね。
・・・・・・まあ、必死に拒む俺を羽交い絞めにして無理やり「あーん」されたのだから状況としては甘さ控えめの微糖どころか情緒もへったくれもない苦み走った無糖だったのだが――
切ねぇなぁ・・・・・・
思い出し笑いならぬ思い出し泣きで薄っすらと涙を浮かべながら郵便受けを開けると一通の白い分厚い封筒が入っていた。
心当たりのない封筒を多少訝しみながら差出人の名を確かめるとそこには『王立魔法・武術教育学校』と書いてあり、その隣に御丁寧にも『学校長 デュノア・ホームラトス』と書かれていた。
・・・・・・届いた手紙を読まずに食べたのって何て動物だっけ、ヤギ?
手に持った妙に分厚い封筒の差出人の名前が書いてある辺りを穴でも空きやがれこのヤロウ、と全力で睨み付けていると後ろから声が掛かった。
「お父様、どうしたんですか?」
グリーティアさm――もういいか、グリーティアだった。
眠たそうに眼をこすりながら俺の隣に歩み寄ってくる。
「手紙――ですか?あれ、この手紙の宛て先が私の名前になってます」
その言葉に虚を突かれ、反射的に封筒に目を落とすと確かに『グリーティア・ガウディノル様』と書いてあった。
デュノアの奴、一体何のつもりだ・・・?
「――まあ、考えても仕方ないな。開けてみろよ?」
そう言って封筒を渡すとリビングのソファに座ってビリビリと豪快に破り開けた。
――何か、意外だ。
普段から丁寧な物言いや挙動をしているから封筒をそんな風に開けるとは思わなかった。
因みに俺は封筒然りラッピング然り、可能な限り破らない様に丁寧にちょっとずつ開ける派だ。
依然その事で妹と割と本気で喧嘩した。
妹曰く、「お兄ちゃんはみみっちぃのよ、見てる方がイライラするわ!そんなもんバッとやっちゃいなさいよ!」だそうだ。
勿論徹底的に抗戦し、最後には魔法の打ち合い――俺程ではないがあいつも結構やるのだ――にまで発展し、あとで親父とお袋から死ぬ程怒られたのは今となっては良い思い出だ。
閑話休題。
一体封筒の中身は何だったのか、気になって覗き込もうとするとそれより早く一枚の紙と薄い封筒を差し出された。
宛名には『親愛なる友 レイシャルト・ガウディノル殿』と書かれていた。
デュノアめ、あいつ死なないかな。
誰が『親愛なる友』だ、腐れ縁の間違いだろう。
例によって慎重に封を開け、中身を取り出すと折り畳まれた一枚の紙が出て来た。
その内容は――
『レイシャルト・ガウディノル君
君がこの手紙を読んでいるのはあれから一週間後、と云ったところかな?久しぶり、と言う程ではないな。
例の君の『御嬢さん』の話だがファルヴィム君から話は聞いたよ。聞いたとは言っても君が何でボロボロだったのかや君と御嬢さんが今どんな状態なのかは教えて貰えなかったけどね。
さて、今回私が多忙な中態々君に手紙を書いたのはズバリ手助けをしようと思ったからだ。
確証が無いから何とも言えないが彼女、グリーティア君は身寄りも無いしそれに準ずるアテも無いのだろう?君以外には。
それに放っておくには少々問題があるんじゃないかな?
君も何時までもそうやって寮に引き籠っている訳にもいくまい。
学校や連盟、国からの依頼、それに例の件もある。
特に学校何かの場合はグリーティア君の事を一人にしてしまう絶好の機会だろう。
だからこその今回の手紙だ。
詳しくは同封してある資料を読めば分かるだろうが端的に言うならグリーティア君の編入手続きをしておいた。
勿論君と同じクラスだ、そこは心配いらない。
そろそろ君にこの手紙を破り捨てられそうな気がするからこの辺にしておこう。
それでは学校生活を楽しみたまえ。
追伸
もう一人君のクラスに転入生が来るだろうがその子の事も宜しく頼むよ。
デュノア・ホームラトス 』
「・・・・・・・・・・・・」
手紙を破り捨てる気力すら削ぎ落とされ、書かれてているがままにグリーティアから手渡されたもう一枚の紙を見る。
『――通知――
『ランクA魔術師』グリーティア・ガウディノル殿
貴殿の『王立魔法・武術教育学校』への編入を正式に許可する。
尚、所属クラスは一学年A組とする。
王立魔法・武術教育学校 学校長 デュノア・ホームラトス』
御丁寧に『魔術師ランク』まで書いてある。
恐らく連盟の王国支部に捻じ込んだのだろう、この調子なら住民登録まで済ませているかもしれない。
因みに、後日確認したところ本当にしてあった。
怖いね、権力者って。
それにしても『ランクA』か――能力的には妥当かもしれないが荒れそうだなぁ・・・・・・
何せ『3人目』になるんだから注目度はハンパないに違いない。
しかも俺とファミリーネームが同じだから俺の方にも注目が集まりそうである。
良くも悪くも学校内の知名度が高い俺としては何ともやるせない思いに駆られるところだ。
くそ、デュノアの奴――絶対に八割方面白がってやがる。
確かに感謝する部分もあるがそれより今はあの賺した面に一発くれてやりたい思いで一杯だ。
最後の『もう一人の転入生』のところも非常に引っかかるが今気にしても詮無いだろう。
途轍もなく嫌な予感しかしないが――
「学校、という所に入った事がないですから何とも言えないですけど――これは要するにお父様と一緒に学校に通っても良い、と云う事ですか?」
「まあ、そうだな。グリーティアの意思が大切だけど許可は出てるってとこかな」
「そうですか――」
途端に何故か瞳をキラキラさせ始めたグリーティア。
両手を合わせて幸せそうな顔で微笑んでいる。
確かに一緒に学校へ行ってくれればコチラとしても心配が少なくて済むから願っても無い事なんだけどこんなに嬉しそうにするとは思わなかった。
この点だけにおいてはグッジョブだったな、デュノア。
「そんなに楽しみか?」
「ええ、とても。話を聞いていた時は一人この部屋でお留守番だと思ってましたから。お父様と一緒にいられる時間が増えて嬉しいです」
面と向かってそんな事を言われては流石に照れくさい。
何となく所在無い気分になって二の句を継げずにいるとグリーティアの方から口を開いてくれた。
何処となくその表情に朱が差しているのは見間違いではない筈だ。
「ところでこの学校へは何時から通えば良いんでしょうか?」
書類が届いたのなら今日からでも良い筈だ。
一応確認してみると他の紙にその事が書いてあった、日付はキチンと今日だ。
その旨を告げるとグリーティアは少し首を傾げた。
「そうですか――
それはそうとお父様、この学校というのは名前から察すると魔法や武術を学ぶ所みたいですけどお父様にもまだ学ぶ所があるんですか?」
うーん、実は無いんだよなぁ。
魔法学も武術指導も基本的にどころか俺からすれば全部復習なんだよね。
しかも解らないところの復習じゃなくて完璧に理解してるところをまたやってる状態だから正直なところ授業を受ける意味はほぼ無い。
「――でも実践演習なんかは動きの良い確認になるから全く意味がないわけじゃないんだよ。集団演習なんかは知識だけじゃなくて実際にやんないと分からない事も多いからね」
「なるほど、それもそうですね。私も武術の方は余り得手と云う訳でもないですから学ぶ事も多そうです」
「そうだな――」
真剣な様子のグリーティアを見ていると思わず笑みが零れる。
微笑ましい情景に和みながらふと時計を見ると割と冗談ではきかない時間になっていた。
「うおっ!?ヤバイ、時間が!」
慌てて制服に着替える為に自室に戻ろうとしてある事に気付いた。
「あれ、グリーティアの制服ってどうすんだろ・・・?」
その時カンカン、と玄関のドアがノックされた。
『ガウディノルさーん、お届け物でーす』
呼び出しに応じて荷物を受け取る。
中身は制服、サイズはぴったり。
こういう所は抜け目無いよな、アイツ。
急いで制服に着替えて二人で慌てて寮を出た。
取り敢えず、グリーティアの身体のサイズを何処で他に入れたのかを今度問い詰めなくてはな。
◇◆◇◆◇◆◇
真新しい制服に身を包んだグリーティアは今教室の前で紹介を受けていた。
軍服に近いデザインの青い制服はその容姿に良く似合っている。
多分グリーティアの事だから何を着ても絵になるのではあろうが。
問題はそっちじゃない、隣の――もう一人の転入生だった。
「『ランクC』、リーライト・ファルヴィムです。ヨロシクお願いします」
「お前かよっ!!?」
予想はしていた、というよりも余りにもお決まりの展開に思わず立ち上がって叫んだがクラスメイトの視線が全身に突き刺さり、割と深い精神的なダメージを負って席に着いた。
「あらら~?レイちゃんはこの子とも知り合いなのかな?」
今の声の主は我等がクラスの担任様で名をシャディレイ・ペンタグラフという。
目を疑うほどのナイスバディで物凄い美人、生徒からも他の教師からも――良いのか、それで――絶大な人気を誇る女教師だ。
見た目は確かに極上なのだが性格というか何というか、人を煙に巻くのが大層好きでいらっしゃるので非常に御し難い難解な人物でもある。
そこも含めてファンが多いのだからとやかく言う気は一切ないのだが――
「いや、知り合いというか何というか・・・先日ちょっとした事で知り合ったんです、ハイ」
「ふふ~ん、相変わらずだなぁレイちゃんは。今度は何かな、命の恩人?」
くっ、鋭いな・・・だがしかし、ここで正直に答える訳にも――
おい、リーラ。何故そこで顔を赤くする。
「あらら、アタリか。まあ程々にしときなよ~」
何となく釈然としないまま転入生の紹介は一まず終わった。
あの言い方では俺が節操ナシの甲斐性ナシみたいじゃないか、困っている人はちゃんと男女問わず助けてます。
んで、時は流れて――そこまでじゃないか――放課後。
クラスの連中からの追求――主にグリーティアとの関係についてだったが無難に兄弟という事にしておいた。
それに際して俺の呼び名も『お父様』から『お兄様』にクラスチェンジした、飽くまで人前だけでだが。
相当に渋っていたグリーティアだったが何とか納得してもらった。
頑固なところもあるが基本的に聞き分けは良いのである。
「――という訳で、説明してもらおうかリーラ」
俺の正面の席になったリーラへ腕組みで問いかける――もとい問い詰める俺。
「いやぁ、実は総帥から『君にはこれからレイについて行動してもらう、例の件についても行動は共にしてもらう予定だからその予行演習だと思いたまえ。因みにレイの方にもこれは命令だと伝えて貰えないかな?』と言われまして・・・・・・」
・・・・・・あの野郎、今度覚えてろよ――
「いや、オレもビックリしたぜ。グリーティアちゃんなら兎も角リーラちゃんまで転入してくんだもんなー」
俺の隣に腰を下ろしているクレノも驚いている様だ。
それにしても久しぶりに出て来たなコイツ。
「そこには触れない約束だぜ、レイ」
「む、声に出ていたか。
何かゴメン、だから薄っすら眼に涙を溜めないでくれ、気持ちが悪いじゃないか」
「それ位にしといて下さいお兄様、クレノさんが自殺しそうです」
ジト目のグリーティア様、少しやり過ぎた様だ。
椅子の上で器用に体育座りをして落ち込む大柄な少年を慰めていると向こうから数人が近寄ってくるのに気付いた。
「おーう、久々に学校来たと思ったらまた『レイくんのウキウキハーレム』メンバーを増やしたのか?」
開口一番不穏な事しか言わないこいつはコウ・ヤナギ。
王国東部の島出身で黒髪はそうでもないが珍しい黒い瞳の色白でひょろりとした青年だ。
何かにつけてずけずけとものを言う奴で通称『毒ヤナギ』と呼ばれている二刀流短刀の使い手である『ランクC魔術師』だ。
敵の背後を取るのを生き甲斐としており、使う魔法も攻撃系統よりも幻覚作用などのあるものをよく使う。
兎にも角にも人をおちょくるのが好きな面倒な奴である。
「そんな怪しげな組織を作った覚えはない」
「本人にその気が無くても現実は大差ないの」
一切の感情が感じられない無表情の彼女がフリーネ・ピーリム。
小柄な身体と本人の趣味らしい真っ青見染め上げられたショートヘアに翠の瞳。
そのイメージ通りに〈氷〉の魔法が得意な『ランクD魔術師』である。
魔法技能は非常に優秀だが魔力量が多少乏しいためこのランクに留まっているが、魔力操作では『ランクB』にだって引けを取らない。
主武器はトンカチ、ハンマーでは無いのがポイントだ。
重量にして100㎏はあろうかという巨大なトンカチを普段は魔法で縮めて腰に提げている。
小柄な少女が巨大なトンカチで魔獣の頭を無表情で叩き割る光景は筆舌尽くしがたいものがあり、付いた『通し名』は『かち割り女王』である。
以前にした会話の中で彼女は「魔獣然り人間然り、生で割るより凍らしてからの方がフリーネとしては好ましいの。汚れないし、何よりスカッとするの」と無表情でのたまっていらしゃった。
ある意味恐怖体験である。
「そうそう、ガウちんはモッテモテだもんね~」
如何にも頭の軽そうな喋りの彼女はネルノーム・メリアム。
金髪碧眼の腰まであるストレートヘアが特徴で隣のフリーネとは違ってスラリと背の高い少女である。
言動の通り普段はかなりのおバカさんだが戦闘時には性格が豹変、具体的には先日のラディスの様に――いや、もしかしたらそれよりも狂暴かもしれない。
普段のギャップと相俟って、それはそれは怖い。
小動物ならショック死するレベルだ。
魔法の方も威力重視の強力なものが多く、使う属性は〈火〉の上位派生である〈炎〉の魔法。
格闘戦を得意としていて武器である手甲に炎を纏わせながら戦場を蹂躙する様は一種の感動すら覚えるほどの容赦の無さだ。
『魔術師ランク』もBと高く、魔力の絶対量に関してだけ言えば『ランクA』並。ついた『通し名』は『猛り狂う獄炎』。
戦闘時の性格の激しさは校内1と言われている。
「何だよ、寄って集って。そんなに言うならそっちだって大して状況は変わんないじゃないか」
憮然とした態度で言い返すとヤナギはフフン、としたり顔で腕を組んだ。
「そりゃぁ、俺は常に女を囲う努力をしてるからな。どこぞの鈍感魔王とは違うって訳よ」
ドヤ顔全開のヤナギだが女性陣の反応は芳しくなく、寧ろ若干軽蔑視されているようにすら感じられた。
「勘弁して欲しいの、誰が『毒ヤナギ』なんかに囲われるの。それならまだレイの方がマシなの」
「そうそう、ガウちんは絶対に実害が無いから安全だよね~。まあ絶対に本命にはならないけどね~」
言いたい様に言われて儚そうに遠くを見つめるヤナギ。
それと同様に同じく言いたい様に言われた俺も先刻のクレノの様に椅子の上で体育座りを敢行するのだった。
「ところでグリちんはガウちんの妹なんだよね~?何で今編入したの?」
「えっ!?ああ、その――」
ネルの突然の問いかけにアタフタし始めるグリーティア。
恐らく今日初対面の相手にいきなり愛称を付けられたりしたからテンパったのだろう。
さて、助け舟を出すか。
「グリーティアはちょっと前に魔法で事故って臥せってたんだ。それでも才能はあるしやる気もあるから俺から校長に話を通したんだよ」
この場合の事故とは即ち魔法の暴発の事である。
暴発事故の事にはあまり深く突っ込まないという魔術師内での不文律があるから良い誤魔化しになるだろう。
更にこの学校では高ランク魔術師が校長であるデュノアに直談判することが間々ある為怪しまれる事も無い。
あまりにスラスラと大法螺を吹く俺に面食らった様なグリーティアと面白そうな目で俺を見るクレノにまとめて視線を返した。
「ふぅ~ん、じゃあリラちんは~?」
「うえぇ、私!?私は偶々そういう運びになっただけで特に理由は無いんだけど――」
「あぁ、そっちもそうだけど~。あたしが聞きたいのはガウちんとのカンケイ~」
「か、かんっ、関係!?」
瞬間的に真っ赤になった。
そんな反応すると皆が勘違いするでしょうが。
ほら、早速ニヤニヤし始めた!
「ほほう、こりゃあの鈍感大魔王にもついに春が来たか?」
「黙れ暇人ども、むs――妹の前で変な事言うんじゃねぇよ!こんな所で溜まってないでサッサと帰れ!」
全力で自分の事を棚に上げて叫ぶとヒャー何て言いながら楽しそうに逃げて行った。
フリーネは終始無表情だったが。
「人気モンは大変だねぇ」
他人事の様に――まごう事なき他人事だが――呟くクレノを睨み付ける。
我ながら八つ当たりも甚だしいがこの位許してくれたって良いだろう。
「まあまあお父様、その位にして下さい」
周囲に人がいなくなったのを確認した途端呼び方が元に戻った。やはり『お兄様』呼びはスッキリしないのだろうか――
「そういやリーラちゃんて結局何モンだった訳?」
そういえばクレノには何も話していなかった。
そういう訳で説明タイムである。
ここ数日にあった事全部を粗方話し終えると深くウンウンと頷いていた。
「色々あったんだなぁ――言ってくれれば手伝ったのに、デュノアのオッチャン相手にすんのも二人の方が楽だったろう?」
「それもそうだけど何分急な話だったから・・・・・・」
「アンタら、一体何者なの・・・・・・?ていうか全部話しちゃって良かった訳?」
クレノもデュノアと顔見知り以上の面識があった事に酷く驚いている様子だった。
俺たちの村出身の奴は基本的にこんなもんだけどなぁ――
親父と仲良いから何時も俺の実家に来てたし。
「クレノは良いんだよ、俺の『ランク』知ってる数少ない人間の一人でもあるん、だし――」
人間の――と無意識に言った自分に少し動揺した。
それはグリーティアにも伝わった様で隣からそわそわした感じが伝わってくる。
幸い二人は気付かなかった様子で特に変化はなっか為動揺を無理やり飲み込んで一まずは思考の隅に追いやった。
「ま、そういう事なら良いんだけどね。人に話すなとは言われてない訳だし」
それは恐らく言うまでも無い事だから言われて無いだけの様な気もするが確かにそうだ、そういう事にしておこう。
あ、そういえば――
「リーラって何処から学校通うんだ?シャンダルに前から住んでるみたいだから家から通うのか?」
特に深い意味の無い何の気なしの質問だったが俺はこの質問をしたことを死ぬ程後悔した。
しなくても結果は同じだったのだが要は気分の問題だ。
「いや、借りてた部屋は引き払ったの。今日から寮に入る予定よ」
「じゃあ女子寮か――」
「いや、女子寮じゃないのよ」
――何?
女子が女子寮に入らずに何処の寮に入るってんだ。いや、まさか――
ドッといやな汗が背中を伝う。
「レイの、部屋――なの・・・」
「――お約束過ぎるわっっ!!!」
叫んだ、全力で。
瞬間的にその場の全員がビクゥッとして、その中で涙目になりながらリーラは必死に弁解を始めた。
「しょ、仕様がないじゃない!総帥からそういわれて部屋の鍵まで渡されて気が付いたら部屋の荷物全部あの部屋まで送られちゃってたし!部屋はもう解約されちゃってたんだから!
それにこれは任務、そう、任務の一部なの!だから仕様がないの!!」
顔を真っ赤にしながら必死に捲し立てるリーラだったが全くと言って良い程迫力がない。
だがしかしこの事象がデュノアのクソ野郎の差し金だってことはよぉ~く分かった。
今度賺したあの顔に一発ぶち込んでやる!
次の手合わせが楽しみだぜ!!
と、いう訳で――
「仕方、無いか――」
また一人寮の住人が増えたのだった。
これから賑やかになりそうだ。
誠に勝手ながら次話から更新を週一回にさせて戴きます。
申し訳ありません。
文章量を増やす等してカバーしていくので御容赦下さい。