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第一話

もともと読みきりで投稿しようと思っていた作品をなかなか書きあがらないので分けて投稿することにしたものです。

厳島探偵事務所物語



「京さん。コーヒーここに置いておきますね」

「うん。分かった」

目の前のリクライニングチェアに座っている人物、厳島 京との出会いはかれこれ半年前のことになる。



当時俺は大手コンピューターソフト開発会社に勤めていた。自分で言うのもなんだが結構優秀なプログラマーだった。そこそこ大きな仕事も任せられていい給料ももらって三十過ぎても女の噂もない以外は悠々自適に暮らしていた。しかしそんな日常に突然終わりが来た。


ドンドンッ!!  ドンドンッ!!!

「すいません。山本さん、山本 明さんのお宅ですよね?すいませんがあけてもらえますか?」

「はーーい」

ここで無用心にもドアを開けたのが俺の転落人生の始まりだった。・・・まぁ、開けなくても同じだっただろうが。


「すいませんが、金を返してもらえませんかね?」

「は?」

訳がわからなかった。そこそこ稼いでいるし、浪費癖のあるわけでもない自分に何故借金があるのか?

「いやいや。とぼけられても困るんですわ。ここにほら、田上 勇作さんの連帯保証人にあなたの名前があるでしょう?」

訳がわからない!!そこに記された大学時代のサークル仲間の名前を見て混乱がピークに達し思わず大声を上げた。

「知らないよそんなもの!!!俺はそんな書類にサインも印鑑も押した覚えはない!!帰ってくれ!!」

「そんなこと言われても困るんですよねーー」

むこうは困ったようにいってきた。

「知らないものは知らん!!こんなとこで下らんこといってるなら田上を探して来い!!」

「そう言われても夜逃げされちまったんでね。一千万・・・一千万だよ。耳そろえてあんたが返してくれれば済む話なんだよ!!」

突然大声で威嚇して

「返してもらうまでお願いしに来るわ」

といって帰っていった。



それから二ヶ月間家に来る取立てを無視し続けたが、とうとう仕事場に現れるようになってしまった。二ヵ月後にはこれ以上会社にこんな人間を呼び寄せられては困るといわれて、十年間働いた会社をクビになってしまった。

その後もしつこい取立ては続き、日雇いの仕事で食いつないでいた俺の目の前に一枚のチラシが落ちていた。


「大きな事件からペット探しまで何でもご相談ください。

価格は要相談


厳島探偵事務所 (TEL)03-×××-××××」


よく分からない上にあまり内容もないチラシだったが藁にも縋る思いで電話をかけた。よくよく冷静になって後で考えてみるとなんで弁護士事務所じゃなく探偵事務所に電話したのだろうか?亰さんに言わせると

「人の行動は大体の場合もとは理由も何もないんだよ。理由は結果が出てから肉付けされる付随物に過ぎない。なんせ過程はどうあがいても結果にはなり得ないからね」

だそうだ。


言われたとおりに事務所のあるビルに入り事務所のドアをたたいた。

「どうぞ」

凛としたまだ若い少女のような声を聞いて少し不安になったが乗りかかった船と思い、思い切って中に入った。そこにはスーツを着こなしたまだ若い女性が座っていた。

「どうも。厳島探偵事務所所長の厳島 京です。山本 明さんですね?」

「はい」

「では今回の依頼の内容を」

そう促されて、俺はこれまでのことを目の前の人物に話した。すると京さんは面白そうに笑ってこう言い放った。

「山本 明さん。これからこの探偵事務所で助手として働かないかい?」


これが俺が厳島探偵事務所で探偵助手として働き始めるきっかけと所長厳島 京との出会いであった。




これがきっかけで俺は自分よりも十歳以上歳の離れた少女に借金を肩代わりしてもらったうえに職まで与えてもらうことになったのだが自分で言っていて情けなくなってくる。しかしおいしい話ばかりではない。この少女見目麗しい見かけと反比例するかのように生活能力が低いのだ。しかも、片付けなどの整理はできるから実際に近くでいる時間が長くないと発覚しないという問題児なのだ。得意料理カップラーメンというのは将来が心配でならない。よって基本的に家事などは助手である俺がするのだが・・・・これは探偵助手の仕事に入るのだろうか?家政婦としての給金はもらえないのだろうか?











そんなこんなで今に至る。家事スキルAを持っていると自認する俺だがまだ探偵業務には慣れていない。でもこれは理不尽だと思う。

「山本さん!!猫を探すのになんで一ヶ月もかかるんですか!!」

いや、猫って結構見つかんないものだよ?

などと思うのだがこの少女はどうも俺に自分と同レベルの技能を求めているようで・・・

「うちでは猫探しは基本三日で見つけるんです!!」

などと普段の冷静な面持ちを崩して怒鳴ってくる。いつも超然とした態度なので初めは新鮮な驚きがあったが今は子供を見守る親の気分で微笑ましく思いながら表情は真剣に反省の色を見せている。・・・しかし迷子の猫を聞き込みもしないでどうやって三日で捕まえているのだろうか?


そんなくだらない日々をなんだかんだ言って満喫している自分を省みて半年前には想像もつかなかったと思い思わず

「平和だな」

などとおっさん臭いことを口走ったが良く考えると

「あなたはもうおっさんですよ山本さん」

京さんが口を挟んでくる。

「なんでこのタイミングで発言できるんですか?読心術でも習得してるんですか?」

そう尋ねると亰さんは自信満々にこう言い放った。

「明さんは私の助手ですから。助手の考えてることくらい分かるんですよ」

さも当然のように言い放っているが、理由になってない。

「まぁ。ただそんなことを考えてそうな遣る瀬無い顔をしてたからなんですけどね」

「それは追い討ちをかけたことになるって分かっててやった顔ですね」

「よく分かったね」

分かるに決まっている。こういうことをするときの彼女の顔は心底面白そうにしているからだ。

そんな不毛なやり取りをしているうちに今日も夜八時に事務所の時計の鐘が鳴り挨拶をしてから俺は安アパートへ帰宅の途についた。


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