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声だけ綺麗な令嬢は、王子の目となり光となる

掲載日:2026/04/02

 ヴェリタス・オークターは、「声だけが綺麗」だと評される伯爵令嬢だった。

 声、だけが……。


 鏡の前に立てば、彼女はいやでも自覚する。

 その身には、艶やかな金髪も、切れ長の瞳もない。貴族の令嬢であっても、華美な宝石のような美貌など、一つもないのだと。

 法衣貴族オークター家は由緒こそあれど財は細い。ヴェリタスの纏うドレスも質素で、装飾は控えめ。

 社交界で見栄えのする娘ではなかった。


 だが、ひとたびヴェリタスが口を開けば、空気が変わる。

 すっと伸びる澄んだ声は、冬の窓辺を打つ陽光のように柔らかく、胸の奥まで沁みわたる。

 読み聞かせをすれば、子どもは眠り、老人は目を細め、喧騒の中にいた者まで、思わず手を止めて聞き入るほどだ。

 教会の賛美歌隊には、何度も推薦された。

 それでも、婚約の話は一向に来なかった。


「まあ、悪い娘ではないのだがね」

「声は良い。だが、見た目が地味では……」

「オークター家は学識はあっても、持参金がなあ」


 そんな囁きを、社交の場で何度も耳にした。ヴェリタスは笑って受け流すことをとっくに覚えていた。

 だが。痛みがない訳ではなかった。


 彼女が十五歳になった春、父が少し困ったような顔で言った。


「ヴェリタス。お前には、王宮侍女見習いの話も考えていたのだが……別の話が来た」

「別の、話ですか」

「第二王子の教育係だ」


 その名を聞いて、ヴェリタスは思わず息を呑んだ。

 第二王子コルパラム。


 王家の末子にして、利発で優しく、書物を好む聡明な王子だと聞いていた。

 だが数年前、とある事故により視力の大半を失ったと噂されている。

 以来、コルパラムは学ぶことも、剣を振るうことも難しくなり、今では宮廷の奥へ、引きこもっているという。

 実際、ヴェリタスはコルパラムの姿を見たことがない。


「教育係と言っても、読み書きや作法のそれではなく……本を読んでくれる者を求めているそうだ」

 父は付け加えた。

「王子は人の声に敏い。とくに、落ち着いた音の者がよいらしい。お前の声は評判だからな。まあ、断っても我が家に何ら、お咎めはないであろうが……」


 ヴェリタスは、しばし黙った。


『声だけ綺麗』


 その言葉は、ずっと胸に刺さっていた。けれど、今はそれが、唯一の武器になるかもしれない。

 なにより――視えるものだけで、人は判断されるべきではない。

 そう思ったとき、ヴェリタスの胸の奥に、はっきりした熱が灯った。


「お引き受けします」


 父は目を丸くした。

「よいのか」

「はい。……少し、気になる方ですので」


 本当は、少しどころではなかった。


 ヴェリタスには、所謂前世の記憶があった。


 日本という国の、どこかの学校の風景。


 特別な配慮が必要な子どもたちへの、支援を行う学校だ。

 特別支援学校の教室で、目の見えにくい子、音に敏い子、あるいは聞こえにくい子、言葉をうまく出せない子たちと向き合っていた記憶。

 手を取るときの温度、声の出し方、環境の整え方、本人の尊厳を損なわない支え方。そうしたことが、体の奥に残っていた。

 記憶の奥底にあるのは、子どもたちの笑顔だ。


 あの世界で学んだことが、今の自分を呼んでいる気がした。

 だから、ヴェリタスは王宮へ向かった。



 第二王子の私室は、静かだった。

 静かすぎる、と言った方が近い。

 重い帳が閉められ、窓辺には柔らかな光だけが差し込んでいる。香炉の匂いは薄く、足音まで吸い込まれそうな空気の中、ひとりの少年が椅子に座っていた。


 コルパラム王子だった。


 年はヴェリタスより三つ下。まだ少年の面差しを残しながらも、まっすぐな鼻梁と薄い唇は、王族らしい気品を宿している。薄紫色の眼差しは、空を向いている。

 ただ、空を見てはいない。


 ヴェリタスはそっと膝を折った。


「ヴェリタス・オークターと申します。お声がけをいただき、本日より参りました」


 返事はなかった。

 侍従がひとつ咳払いをし、低い声で告げる。


「殿下。こちらが、本を読んでくださる令嬢です」


 それでも、コルパラムは動かなかった。

 しばらくして、ようやく彼は冷えた声音で言った。


「……また、私に哀れみを覚える者が来たのか」


 鋭い言葉だった。

 ヴェリタスは少しだけ目を伏せ、それから静かに答えた。


「哀れみではなく、お手伝いをしに参りました。殿下が読みたい本を、声でお届けするために」

「声で、か」

「はい」

「私を慰めるために?」

「慰める、というより……本の世界を、一緒に歩くためです」


 その言い方に、コルパラムはわずかに顔を上げた。


「一緒に、歩く?」

「ええ。殿下の御目が見えていなくても、物語の中なら、いくらでも遠くへ行けます。私はその道のりを、読み上げるだけです」


 それは、妙に軽くもなく、押しつけがましくもなかった。

 コルパラムは黙ったまま、やがて小さく息を吐いた。


「……それなら、試してみる」

 それが、ふたりの始まりだった。


 最初の一週間、コルパラムはとにかく心を閉ざしていた。

 読書をしても、返事は短い。

 食事は淡々と、必要なことしか言わない。時折、何かを落とせば、苛立ちを隠さず舌打ちする。


 ヴェリタスは焦らなかった。焦る必要もなかった。


 彼女は本を読む前に、必ず今日の天気を伝えた。

 窓辺に差す光の強さや空気の湿り気。

 庭で鳴く鳥の声。

 次に、これから読む章の長さを伝える。

 途中で止めたくなったら止めてよいと告げる。


 これは彼女が前世で学んだ、見通しを持たせるための支援だった。


 そして、読み方も工夫した。

 人物が入れ替わるときは、声の調子で区別できるようにする。

 場面転換の前には間を置く。

 難しい語には、言葉を選んで説明を添える。

 物語の中の情景は、音や匂いまで想像できるように語る。


 最初、コルパラムはそれを鬱陶しそうに聞いていた。だが、三日目の午後、ほんのわずかに体を傾けて言った。


「お前の声は……確かに、耳に残る」

「ありがとうございます」

「褒めたつもりはない」

「ええ。ですが嬉しいです」


 その日、彼は初めて、少しだけ笑った。

 それは、あまりに小さな変化で、侍従たちが気づくほどでもなかったが、ヴェリタスには十分だった。


 やがて彼は、本の内容について口を挟むようになった。


「その騎士は愚かだ。なぜそこで背を向ける」

「殿下、それは物語ですから」

「物語なら、なおさら愚かでは困る」

「では、殿下ならどうなさいます?」


 その問いに、彼は少し考えてから答えた。


「逃げる。見えぬ今の私は、剣を持つことができない。だから、別の手段を選ぶ」

「たとえば?」

「相手の足音を聞く」


 ヴェリタスは、思わず目を細めた。

「いい考えです」


 それから少しずつ、コルパラムは物語以外のことも話すようになった。


 大半の視力は失っているが、明暗だけは感じ取れる。

 だが、階段の段差が怖い。

 人の視線が、気配として刺さる。


 ヴェリタスは、そのたびに環境を整えた。


 机の上の物は必ず同じ位置に置く。

 部屋の中を歩くときは、床の質感や壁までの距離を言葉にする。

 彼が自分で動きたいと言えば、すぐに手を貸さず、必要なときだけ支える。


「……お前は、奇妙な人間だな」

 ある日、コルパラムがぽつりと言った。


「どこがですか」

「人は、私ができないことばかり見てくる。だが、お前は最初から、私にできることを探している」

 ヴェリタスは本を閉じて、少し笑った。


「殿下は、できないことが増えただけです。でも元々の能力が全部、なくなったわけではありません」

「慰めか」

「事実です」


 彼は何も言わなかった。

 だが、その日以降、彼の声は少しだけ柔らかくなった。


 数か月が過ぎるころ、ヴェリタスは王宮内で、奇妙な視線を感じるようになった。

 振り返ればそれは、第一王子ローレンのものだった。


 第一王子ローレンは、整った笑みを浮かべる男だった。コルパラムと顔の造形は似ているが、瞳の色は違う。青い眼だ。

 礼儀正しく、人当たりもよい。

 王宮内では既に『将来の王』として、高く評価されている。

 だが。

 ヴェリタスには、その目の奥に凍ったものが見えた。


 彼は、たびたび弟の私室を訪れた。


「コルパラム、読書は進んでいるか」

「はい、兄上」

「それはよかった。お前が少しでも役に立てるよう頑張っていると、私は嬉しいぞ」

 言葉だけは優しい。


 けれど、ローレンが帰ったあとのコルパラムは、決まって無言になった。

 ある夜、ヴェリタスが本を閉じると、コルパラムは突然言った。


「兄は、私を、私の目を、気にかけているように見えるか」

「見えます」

「では、実際は?」


 ヴェリタスは少し考えた。


「心からかどうかは、わかりません。ただ……殿下を、弱いままにしておきたいように、自分の庇護下から抜け出さないように、囲いを作っている感じがします」


 コルパラムの指先が、膝の上で強く握られた。


「やはり、お前もそう思うのか」

「お前、()?」


 彼は唇を結んだあと、低く言った。

「事故の前、私が剣術で兄に勝ちかけたことがある。父上の前で。兄は、あのときだけ妙に穏やかだった」


 その声は震えていなかった。だが、苦渋の色と静かな怒りが流れていた。

 ヴェリタスの胸の奥で、何かがつながった。

 事故と呼ばれた視力喪失。それは、本当に事故だったのか。


 真実は、思ったより早く顔を出した。


 ある日、王宮薬師の古い記録を見せてもらう機会があったのだ。

 ヴェリタスは、以前コルパラムが頭痛を訴えた際、香料に敏感なのかもしれないと考え、薬草の種類を調べていた。すると、記録の端に、妙な注記を見つけた。


「瞳孔反応の異常、熱傷様症状、香煙吸引後に悪化」


 香煙。


 それは、コルパラムが事故に遭った日の、儀礼用の香と一致する。さらに、古い侍従が震える声で明かした。

「その日、香炉を替えたのは……第一王子付きの侍従でございました。ですが、誰も疑わず……」

 証言は断片的だった。けれど、断片が重なれば、形を造る。


 ヴェリタスはコルパラムにそれを伝えた。彼は長く黙っていたが、やがて静かに言った。


「……兄を、告発するつもりか」

「殿下が望まれるなら」

「望む、か」


 彼はその言葉を噛みしめるように繰り返した。

「私は、兄を憎みたいわけではない。だが、何も知らぬふりで生きるのは、もう嫌だ」

「でしたら」

 ヴェリタスは彼の前に、そっと手を差し出した。


「一緒に、確かめましょう」

 コルパラムは、その手を見つめた。見えなくとも、そこにある温度を感じるように。

 そして、彼は初めて、自分からその手を取った。


「……頼む、ヴェリタス」

 その瞬間、彼の声は、子どもではなかった。


 彼女の前世の記憶が、本当に役に立ったのはその頃だ。

 視覚が不自由な人が、どうやって世界を把握するか。

 音、触覚、空間の記憶。

 本人の『できる』を増やすためには、周囲が支え方を誤ってはならない。

 手を出しすぎれば依存を招くが、放っておけば孤立する。


 ヴェリタスは、コルパラムのために歩行訓練を始めた。


 中庭へ出る。

 砂利の鳴る場所、芝の柔らかい場所、花壇の端。

 彼に足元を言葉で示し、杖の持ち方を教え、階段の数を覚えてもらう。

 遅々としたあゆみに、最初は少々苛立っていた彼も、やがて音の違いで場所を見分けられるようになった。


「右手の先に、噴水があります」

「水の音がする」

「はい。三歩進んだら、花壇の縁があります」

「……わかる」

「それから、殿下。今、少し肩に力が入りました」

「なぜそれを」

「声が、少し高くなりました」


 彼は呆れたように笑い、それから、ほんの少し肩の力を抜いた。

 ある日、中庭の芝の上で、彼は唐突に言った。


「私は、お前がいると安心する」

 ヴェリタスの手が止まった。


「……それは、教育係として、でしょうか」

「違う!」


 彼は即座に否定した。あまりにも迷いがなかったので、ヴェリタスの方がかえって息を呑む。


「お前の声が聞こえると、世界が輪郭を持つ。私がどこに立っていて、何を失ったのか、そして何がまだ残っているのかが、わかる」


 ヴェリタスは、胸の奥が熱くなるのを感じた。

「殿下……」

「だから、離れるな」


 あまりにも一直線な言葉がヴェリタスに届く。

 けれど、その直後、彼は少しだけ言い淀んだ。


「……いや。離れるな、というのは、私の我がままだな」

 ヴェリタスは、ゆっくり首を振った。


「我がままではありません。ですが、それなら、こちらも我がままを言います」

「何だ」

「私は、殿下が立ち上がるところ、歩くところを見たいのです。見えない世界の中でも、殿下がご自身の足で進むところを」

「……見えぬ者の行いを『見たい』とは」

 彼の声には、かすかな笑みがあった。


「ええ。わたしが見ています。全身を使って」


 その一言に、コルパラムはしばし沈黙し、それから、誰にも聞かれぬような小さな声で言った。


「ずるいな、お前は」



 第一王子ローレンの企みが明らかになるのは、それから半年後だった。


 王宮内で、第二王子の回復を願う名目の茶会が開かれた日。

 ローレンは弟の手を取るように見せかけ、ひそかに侍従へ命じた。

 ヴェリタスは、その動きを見逃さなかった。彼女は先に集めていた証言と薬師の記録を、王の前へ差し出した。


「第二王子の失明は事故ではなく、香煙に混ぜられた薬草による、毒性反応の可能性がございます」

 会場が凍った。

 ローレンの笑みが、ほんの一瞬だけ消えた。


「愚かなことを。証拠はあるのか」

「ございます」

 ヴェリタスは、静かに答えた。


「当日使われた香の調合、侍従の証言、薬師記録の一致。さらに……殿下が視力を失われたあと、第一王子付きの者が何度も、治癒を妨げるような指示を出していた記録もあります」

「口先だけ、女の戯言だ」


 ローレンが冷ややかに言ったそのとき、コルパラムが、ゆっくりと立ち上がった。

「口先だけ、ではない」


 場が再び静まる。

 彼は、見えないはずの目をまっすぐ前に向け、揺るがぬ声で言った。


「私は、彼女の声で学び、彼女の言葉で立ち直った。彼女は、私を哀れんだのではない。支えたのだ」


 その言葉には、弟としてではなく、一人の男としての確かな意思があった。

 王は長く黙したあと、調査を命じた。

 結果、ローレンの周囲の者たちが次々と口を割った。

 事故に見せかけた工作、医療記録の改ざん、香料の差し替え。


 ローレンは拘束された。


「その色が嫌いだった。コルパラムの目の色が」

 兄の呟きを拾ったコルパラムは、それでも前を向いていた。

 視力を失くした紫の瞳が、僅かに濡れていた。


 王宮内の塔で幽閉されたローレンは、最後まで言い張ったという。

「弟が、優秀すぎたからいけないのだ」


 王宮の空気は、徐々に軽くなっていった。


 コルパラムの失った視力は完全には戻らなかったが、彼の生活は大きく変わった。

 彼は訓練と補助具を受け入れ、自分で歩き、書物を聞き、必要な助けを選べるようになった。

 視える者にすべてを委ねるのではなく、自分の足で選ぶ王子へと、成長していった。


 ヴェリタスは相変わらず彼の傍にいた。

 だが、以前とは違う。

 彼女はただの教育係ではなく、彼にとって最も信頼できる存在になっていた。

 そして彼にとって、彼女は声だけ綺麗な伯爵令嬢ではない。知恵があり、観察眼があり、相手の尊厳を守る強さを持つ、誰よりも誠実な女性だった。


 時は流れた。

 十五歳だったヴェリタスは二十一歳に、十二歳だったコルパラムは十八歳になった。


 その夜、王宮の庭園では、月明かりが白く花を照らしていた。


「……ここで待っていてほしいと言ったのは、殿下の方でしたね」


 ヴェリタスが笑い混じりに言うと、コルパラムは少しだけ照れたように顔を背けた。

「大事な話がある」

「大事な話、ですか」

「そうだ」


 彼は深く息を吸った。

 以前の彼なら、言葉にするだけで何度も迷っただろう。だが今の彼は、迷っても逃げないと決めていた。


「私は、お前をただの教育係だと思ったことはない」

 ヴェリタスの胸が鳴る。

「それは……」

「私にとって、お前は光だった。けれど今は、それだけでは足りない」


 彼はそっと、彼女の手を取った。以前、初めてその手を握ったときのように、丁寧で、けれど今度は明らかな意志を伴っている。


「ヴェリタス。私の隣に立ってほしい。教育係としてではない。私が王となるなら、その隣で、世界を見てほしい」


 ヴェリタスは、息を飲んだまま彼を見つめた。

 長いあいだ、自分は『声だけ綺麗』だと思っていた。地味で、選ばれない令嬢。

 けれど、この人は違った。

 最初から、彼女の声の奥にあるものを聞いてくれていた。


 前世で学んだ支援と、今世で積み重ねた努力が、一本の絆になった瞬間だった。


「……私は、ずっと殿下の世界を読んでいました」

 ようやくそう返すと、コルパラムの肩がわずかに揺れた。


「なら、これからは」

「はい」

 ヴェリタスは、笑った。今度は、胸を張って。


「これからは、一緒に読みましょう」

 コルパラムは、そこでやっと、深く息を吐いた。


「……ああ。ぜひ、そうしてくれ」

 彼は、そっと彼女の額に額を寄せた。触れるだけの、静かな口づけのような距離。


「私に、もう一つだけ教えてくれ」

「何をですか」

「恋は、どう始めればいい?」


 ヴェリタスは少しだけ目を細めた。


「きっと、もう、始まっています」


 彼は小さく笑った。

 それは、王族の微笑みではなかった。

 ひとりの青年の、素直で、あたたかな笑みだった。


 数日後、王都には新しい噂が広まった。

 第二王子コルパラムが、王宮侍女見習い出身の伯爵令嬢ヴェリタス・オークターを、正式な婚約者として迎えることになったというものだ。


「声だけ綺麗な娘」などと見下していた社交界は、今さら慌てたように彼女を褒めた。だが、ヴェリタスはもう気にしなかった。


 支える力は、静かであってもいつしか世界を変える。

 そして、誰かに選ばれるだけではない。誰かを選び、自分の足で未来へ進むことができる。


 庭園の朝靄の中、コルパラムは彼女の声を聞きながら言った。


「今日の本は、何を読んでくれる」

 ヴェリタスは、笑って答えた。

「未来の話です」

「それは長いか」

「ええ。きっと、何冊も必要です」


 ヴェリタスは、そっと彼の手を握った。

 その手は、もう迷っていなかった。

 失った視界の先で、彼は確かに光を選び取った。そして彼女もまた、自分の声が誰かの世界を照らすことを知った。


 ふたりは、ゆっくりと並んで歩き出す。

 朝の陽はやわらかく、王都の空は澄んでいた。

 

 ヴェリタスとコルパラムの、永遠の恋の始まりである。

お読みくださいまして、ありがとうございました!!

評価やブクマ、感想等々、全てに感謝いたします!!

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― 新着の感想 ―
うおおおおん!!!!(ブワッ)
拝読させていただきました。 また筆力を発揮されましたね。 重厚で奥深い背景にして、爽やかさも併せ持つ。 お見事です。
一文一文が沁み入るような素晴らしい物語でした!! 懸命で真摯な心持ちの主役ふたりに好感が持て、これまでも、そしてこれからもコルパラムとヴェリタスが支えあって生きてく様子が目に浮かび、尊かったです!! …
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