3:追跡者
リリィの準備した朝食を食べていると、少し離れた木の陰から「グゥー」と魔獣が唸る音が聞こえた。
ひぃッと声を上げてリリィは俺を見る。
「%&$#”*だろ?」
「ごっくんしてから言ってください!」
口に含んでいた物を飲み込み――繰り返す。
「どうせアイツだろ?」
――と。するとリリィは安堵して続いた。
「なんだまた魔獣かと思いました。彼の分も用意しますか?」
「いや、いらんだろ。食いたいなら金を請求する」
俺たちの話していることが聞こえたのか――――
「どの口が言ってんだぁぁぁ――――! オンボロ魔法筆屋がぁぁぁ!! 使えなくなった魔法筆の代金返せ――――」
国外追放される前に魔法筆を売った客の青年が飛び出してきた――――しかしながら。
再び張り直した結界で青年の男は『ふがッ』と声を上げてぶつかった。
「あらら……」
「しつこいガキだな……」
「……この詐欺師め……」
しばらくし、青年は目を覚ました。
おでこにバンダナを巻いた青年はよく見知った顔だ。
俺が魔法筆屋をあの国で始めた頃から何度も店に来ては『値切り交渉』をしてきたガキだった。
もちろん、そんな値切りは一切受け付けず――。
金を貯めさせて売ったわけだが、実質的に魔法筆が使えたのはよくて二時間程度だろう。
何とも運のない奴である。
「――――おっさん! この魔法筆使えねぇじゃねえかよ!! 返金だ返金。それが嫌ならまた使えるようにしてくれ!」
三十歳にも満たない俺をおっさん呼びとは、中々世間を知らないガキだ。
「俺はまだおっさんではない。それにその魔法筆を売る時に『売買契約書』を交わしただろ。魔獣の腹の中に納まりたくないなら、さっさと国に帰りな――」
「だから何度も言ってんじゃねえかよ! そんなもん捨てちまったって!!」
「めんどくせぇ~。つーかお前、魔法使わなくてもここまで着いて来れたんだから、充分に戦えるだろ? なんで戦えるのにわざわざ魔法なんか使う必要があんだよ?!」
俺がそう言うと青年は立ち上がり、鼻をこすってこう言った。
「今の時代……男が拳一つで成り上がるなんて野暮だろ。俺は魔法筆を華麗に扱って、クールな男になりたいわけよ」
流し目で遠くを見る青年は数年後の自分に酔っているのだろう。
「……リリィ、こういう男と一緒になると将来苦労することになるから辞めとくんだぞ」
「お師匠、大丈夫です。そもそも顔がリリィのタイプじゃありません。それにバンダナって……ちょっとセンスを疑うといいますか」
俺とリリィが青年をよそに話していると。
「……えっ?? このバンダナ……行商人から女の子にモテるって言われて買ったんだけど……」
おでこのバンダナを手に取った青年の顔は少し歪んでいた。
その顔は……俺も彼ぐらいの歳の時に鏡に映った自分で観たことがある。苦い思い出だ。
このバンダナ青年の名前はダンテというらしい。




