PHASE.05 対峙
手を挙げたままの冴木に、視線が集まった。
一瞬遅れて、周囲が反応する。
「冴木さん、マジで?!」
「本命来たな」
「隊長と副官、賭けるか」
白倉だけが、端末を抱えたまま一歩踏み出す。
「え、ちょっと待ってください」
眉をひそめて、冴木を見る。
「冴木さん、何やってるんですか」
「実機テストでしょ。副官が触らないのも変だし」
そう言って、冴木は短刃ブレードを手に取る。
指先で重さを確かめ、何事もなかったように構えた。
白倉は一度、蓮の方を見る。
「構わない」
白倉は一度息を整え、メガネをかけ直す。
「条件、再確認します。銃は使用しません。接近戦のみ」
簡潔に、言葉を重ねる。
「非致死判定。有効制圧で終了です」
周囲がさらに沸いた。
「接近戦かよ」
「そっちの方が面白ぇ」
冴木は短刃ブレードを軽く手元で回す。
慣れた動きだった。
「いい?」
蓮はライフルを戻し、代わりに短刃ブレードへ手を伸ばす。
「来い」
冴木からさっきまでの軽さが、ふっと消えた。
口元の笑みが消え、視線だけが定まる。
蓮は、それを見逃さなかった。
呼吸の置き方。
重心の位置。
踏み込む距離を、冴木は既に計算している。
「……」
何も言わないまま、蓮は構える。
開始の合図はなかった。
どちらともなく、動いた。
冴木が先に間合いを詰める。
床を擦る音が一拍遅れて響いた。
速い。
羽柴の時とは違う。
一直線ではない。
角度を変え、蓮の懐に潜り込もうとする。
制御された踏み込み。
蓮は半歩、後ろへ。
刃が空を切り、肩口をかすめた。
次の瞬間、冴木の身体が反転する。
肘、膝、体重移動。
一連の動きが、切れ目なく繋がる。
蓮は受け止めない。
流す。
腕を絡め、力の向きを変える。
金属がぶつかる音が倉庫に弾けた。
冴木が低く息を吐く。
そのまま距離を詰め直し、今度は下から入る。
「──っ」
蓮の足が床を蹴った。
一気に間合いを潰し、冴木の手首を正確に押さえる。
しかし、冴木は止まらない。
押さえられたまま、体を預けるように踏み込み、逆の腕で蓮の脇腹を狙う。
寸前。
蓮が捻る。
冴木の身体が浮き、体勢が崩れる。
その隙を逃さず、蓮は背後に回り込んだ。
首元に、確かな圧、逃げ場はない。
周囲のざわめきが、完全に消えていた。
聞こえるのは、二人の呼吸だけ。
白倉が、息を詰めたまま告げる。
「終了。制圧、確認」
冴木は動きを止めたまま、静かに笑った。
「さすが」
蓮は拘束を解き、冴木の腕を支える。
至近距離で、視線がぶつかる。
深い色の瞳が、互いを映すも、視線は交わったまま、長くは留まらない。
先に視線を外したのは、蓮。
指先が離れ、距離が戻る。
「この後は、各自で続行するよう伝えろ」
白倉に告げると、蓮は振り返らず歩き出す。
冴木は、深く息を吐き、長めの前髪を指で払う。
「あの、冴木さん」
冴木はかすかに笑みを浮かべ、白倉へ向けて軽く手を上げた。
そのまま通路へ向かう。
「踏み込む気は、ないってことか」
冴木は先に行く蓮の背中を見ながら、ほんの一瞬だけ、目を伏せた。




