第12話 取引違反
予選第三戦、最終戦と週末のたびに雪が降り、競争は軒並み流れが遅くなり、その結果、雑賀は六着、五着と大健闘。もちろん予選落ちではあるのだが、八戦八敗を覚悟しての参戦だったので、二度も掲示板に載れたというのは上々の結果であった。
厩舎内では、このまま準特に出続けるのも選択肢としてアリなんて強気な発言が聞こえている。ただ首脳陣は、たまたま雪が降っているからだという事を重々承知しており、挑戦する気概は持ちつつも無理は禁物だと言い合っている。
落竜した篠原はゆっくりとだが回復訓練に入ったらしい。病床にいる間も判断力が鈍らないようにと自分なりに考え、ひたすらけん玉で遊んでいたらしい。大熊先生の話によると、その大道芸で食っていけるんじゃないかというくらいには上達したのだとか。大熊厩舎ではあの事故以来、毎日、早装丁の訓練を欠かさず行っているらしい。
鈴鹿に遠征中の鮎川厩舎では、長井が徐々に覚醒してきたようで、未だ勝ち星はあげられていないものの、二着、三着という成績をあげている。
二月に月が替わり後半戦に突入。そんなある日、新聞を片手に大熊と柿崎主任が諏訪厩舎にやってきた。
「諏訪君、今日の朝刊見た? 瑞穂が竜輸出で協定違反発覚だって!」
「見ました! 見ました! 重賞で決勝に残った竜を輸出していたらしいですね」
その情報の発信元は国際競竜協会らしい。
昨年に発覚した呉越国の収賄事件。事件そのものは竜障害の話なので、当然、調査は国際竜障害連盟が捜査団を派遣していた。その調査団が最初に上げてきた報告が、瑞穂国の竜取引で不審な点があるという内容であった。
呉越竜障害協会を調査させているのに、呉越竜障害協会の報告をせずに関係無い瑞穂国の報告を送ってきた。どうやら調査団が買収を受けているらしいと国際竜障害連盟はそれで判断。即座に調査員を別の人物に全て交代させた。交代になった調査員が最初に上げてきた報告は、呉越竜障害協会が賄賂を贈ってきたというもの。さらに宿舎に毎日のように薄着の女性がやってくるという報告も送られてきた。
呉越竜障害協会がクロだと判断した国際竜障害連盟は、その後も調査員が固定化されないように定期的に無作為に人員交代をしていったらしい。
その調査団が中途報告として、まだ不確定な情報ではあるがという注釈付きであったがあげてきた内容の中に、瑞穂から不正に竜を輸入しているというものがあった。
だが、国際竜障害連盟は竜産に関しては門外漢なところがある。そこで竜産を管轄している国際競竜協会へ情報を入れた。
主要六か国の一つ、瑞穂皇国で不正が行われている。国際競竜協会もにわかには信じられなかった。瑞穂競竜協会は主要六か国の中でも不正に厳しいという印象が国際競竜協会にはあった。そこで情報の真贋を確かめるため、調査団を瑞穂に派遣する事になった。
瑞穂の競竜は五つの組織で運営されている。国際的な窓口となっている競竜協会、竜主の会合である竜主会、実際に競争を開催している競竜執行会、競竜関係の労働者を一括管理する労働組合、竜の生産を管理している生産監査会。この五つの組織に立ち入り、資料の提出を求め、数日がかりで調査を行ったのだが、資料上は何も怪しい点は無かった。
どうやらガセネタだったらしい。そう結論付けて帰ろうとしていた調査団を、竜主会が報告したい事があると言って呼び寄せた。そこで提出された資料に調査団は酷く驚く事になった。そこにあったのはまさに自分たちが今回調査に訪れた目的。登録抹消処分をされた竜の調査結果という極秘資料だった。
調査団は非常に困惑した。目の前の資料は間違いなく自分たちの立場を著しく貶めるもの。なぜこのような資料をわざわざ提出してきたのだろうか?
調査員の一人は、もしかして組織同士の権力争いじゃないかと指摘した。また別の調査員は、不満分子なのではないかと指摘。だが、調査団の団長は、以前にも瑞穂に来た事があり、竜主会という組織はかなりまともな組織である事を知っていた。そして会長である白詰会の一条会長、及び筆頭秘書の甘利がかなり切れ者だという事も知っている。
その甘利から驚く事が告げられた。
「我が国の反社会組織が呉越国と組んで竜の不正売買を行っています。以前にも一度調査を行い、生産監査会の職員が逮捕されたりしているのですが、その後も継続されてしまっている事がわかっています」
「その手口というのが、この報告書にある内容なんですか?」
「ええ。重賞の決勝に進出した竜を盗み出し、表向きは死んだ事にして海外、主に呉越国に密輸されている事がわかっています」
「ならば、なぜあなた方の警察権で取り締まらないのですか? これをこのまま報告してしまうと、瑞穂競竜の印象が非常に悪いものになってしまいますよ?」
そう指摘した調査団の団長に、甘利はため息交じりに、「やむを得ない」と回答。
「もう我々だけでは手詰まりなんです。調査をさせればさせるほど、犠牲者が増えるんです。これ以上は外圧によって受け入れを止めていただく他は無い。そういう判断に至ったんです」
「犠牲者が増えるというのはどういう?」
「先ほども言いましたが、犯人は反社です。しかも政治家を抱え込んだ反社なんです。そのせいで、この件で逮捕者、行方不明者、死者が多数出ているんです。警察とその身内にも被害が及んでいるんです」
団長は試みに「どの程度の人数が?」とたずねてみた。すると甘利は「わかっているだけで」と断った上で指を三本立てた。
「三十人も! それは……」
「違いますよ。軽く三桁は行っているという意味です」
「なっ!」
甘利の回答に調査団は騒然となってしまった。そんな調査団に甘利は丁寧に頭を下げた。
「この件を公表していただいて呉越国への輸出が止まれば、彼らの大きな資金源が一つ潰れます。該当の反社『六花会』の壊滅に力を貸していただきたいのです。なにとぞ、よろしくお願いします」
ここまでの内容が、国際競竜協会の記者会見で調査団の団長から報道に語られたのだった。
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