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竜障害  作者: 敷知遠江守
第二章 離合 地一級編

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第9話 反省会

「私が……私があそこで焦らんと、ちゃんと台を置いていたら……私が……」


 競争が終わった後、厩舎の事務室で石川が泣き崩れてしまった。そんな石川を三村が背をさすってなだめている。仁科は竜の首を撫で、土橋は調教用の鞍の腹帯を手にしてじっと見つめという感じで、鞍の装丁を担当した二人も無言でうなだれている。


 そんな三人を見て、筆頭厩務員の保科が一人一人肩をぽんと叩いていった。


「見ているだけの時は気楽だったよな。雑賀の事をああだこうだと言っていれば、それで良かったんだから。こうして当事者になってみて初めてわかったよな。どれだけ今まで雑賀が重責だったかって事が」


 土橋が雑賀をちらりと見る。


「ほんまですよね。うちらがもたついてもうたら、どんだけ雑賀君が頑張っても、一瞬で水の泡になってまうんですもんね」

「土橋、その考えは良く無いな。そうじゃあない。俺たちの頑張り次第で、これからは雑賀の負担を軽減させてやる事ができるって考えないと」

「……なるほど。そしたらこういう事ですか。僕らが慣れるまでは、その分雑賀君に頑張ってもらわなあかんって」

「まあ、それくらいなら及第点だろ。ちと雑賀の酒量が増える程度で済むだろう」


 保科が雑賀を見て笑い出した。他の厩務員たちもくすっと笑う。雑賀だけが眉を寄せて納得いかないという顔をしている。


 それでも泣き続ける石川の前に保科はしゃがみ込み、その肩に手を置いた。


「石川。最初から上手くいく奴なんていないんだよ。先生だって、八戦全て八着でも仕方がないと言って参加を決めたんだ。だから、今日の失敗は次回に生かせば良い」

「せやけど……私が最初に……」

「だから! 泣いたって悔やんだってしょうがないんだよ。順位を変えられるわけじゃないんだから。その失敗をどうやって次の糧にするかなんだよ。泣いてる暇があったら、次回別の奴が同じ失敗しないように、どうしたら良いかを考えろ」


 「お前らもだ」と言って、保科は仁科と土橋を指差した。普段、少しひょうきんな所のある保科が声を張り上げるのは非常に珍しい。特に保科は竜房では絶対に負の感情を表に出さないようにしている。失敗してもニコニコしながら注意する。その保科が怒りを露わにした事に厩務員たちは驚き、今の自分たちの態度を反省した。


 竜房から怒声が聞こえた事に驚き、諏訪が事務室からやってきた。その雰囲気を一目見て、何となく何があったか想像がついたらしい。


「保科さん。良さそうなら今日の件、今から反省会やろうと思うから、全員を会議室にお願いね。夜遅いけど、鉄は熱いうちに打てっていうからね。雑賀も出席よろしくな」


 そう言ってそそくさと出て行った。



 会議室に向かうと、諏訪と高遠の二人が茶をすすって、ああだこうだと言って笑い合っていた。向こうは泣くわ喚くわなのに、それに比べ随分とお気楽な雰囲気の二人。そんな二人に皆が少し不快感を示し、横目でちらりと見て無言で空いた席に向かって行く。普段は首脳のみ五人だけの会議だが、こうして椅子の数一杯まで席に着くと、狭い会議室がさらに狭く感じる。厩務員たちの雰囲気も相まって、少し息苦しさのようものを感じる。

 最初に口を開いたのは諏訪だった。


「皆、今日はご苦労様。まあ、結果は残念だったけど、初戦だからね、こんなもんだろ。最初から上手くいくなんて俺も思ってなかったしね。でも、想像より少し良かったんじゃないかな。俺はもっと酷いのを想定してたからね」


 能天気な事を言い出した諏訪に、「どんな状況を想定してたのやら」と保科がぼそっと呟いた。口調は悪態という感じ。他の人は無言。


「前日の練習見れば、この結果は容易に想像できるよ。腹帯を締めすぎて竜が暴れて、雑賀が台から落ちて失格にならなかっただけマシじゃないかな。実際、準特ではよくある光景だそうだからね」


 それにも全員は無言。それを見て、今度は高遠が呆れ口調で言った。


「これまで俺も色々と調べてみたけど、竜交換でもたついて最下位に転落するなんて、海外の有名な陣営でも普通にある事なんだよ。そんな人たちですらそうなんだから、俺たちなら普通にそうなるだろ。ましてや初回なんだからさ」


 高遠が全員の顔を見まわして行く。今は何を言っても無駄と感じたようで、何が起きていたのか報告を求めた。まずは石川から。


 順番として、まずは保科が競争後で少し興奮している竜を宥め、そこに石川が台を用意し、雑賀を降ろすという段取りであった。ところが雑賀が降りようとしたら、台が脚元に無く、片足を鐙に引っかけた体勢で台の位置を調整してもらった。台はそれなりに幅があり、多少位置がずれていても問題は無い。にも拘わらずその状況であった。興奮した竜を宥めるうちに竜の位置がずれるのはよくある。問題は石川がそれに合わせて台を用意できなかった事。

 次に仁科が鞍を外し、それを土橋に手渡し、三村が宥めている次の竜に乗せていく。鞍が外れた段階で保科は竜を曳いて場所を空け、土橋は鞍を装丁して、雑賀の乗る台の隣に三村が竜を移動させ、雑賀が竜に跨り竜の交換が完了する。ところがその段階で雑賀から装丁の再調整が入り、一旦降りて腹帯の付け直しになってしまった。


 それまでどこか緩い顔だった高遠の顔が、報告が進むにつれ、きゅっと険しいものになった。


「昨日、腹帯の件はすでに問題になってたじゃないか。なんでそれが修正できてないんだよ。何のための練習だったんだよ。それと、興奮した竜が通常より制御が難しいのは、皆、普段の厩務でわかってるだろ。それを想定して動かなきゃ」


 高遠が叱責するような口調で言うと、それに保科が反発し、両掌を机にバンと叩きつけた。


「口で言うのは簡単なんだよ! だけど、人間そんなに想像力は豊かじゃない。想定外の事ってのは出るもんだろ。そんな言い方しなくたって良いじゃないか!」

「じゃあ聞くが、腹帯の件はどういう工夫をする事になってたんだ?」

「それは……石川が手を挟んで感触で……だけど、最初の台の事で気が動転しちまったんだよ。仕方ないだろ」

「昨日先生も言っただろ。腹帯が緩んで雑賀が落竜したら、最悪死ぬ事もあるんだよ!」


 興奮する両者を諏訪が「まあまあ」と言ってなだめた。怒りで中腰になっていた両者が少し冷静さを取り戻し椅子に腰かけた。


「言い合いなんてしたってしょうがないじゃん。冷静に、建設的に。ね。誰も責任の所在なんて求めてないんだよ。俺は失敗の原因を知りたいだけなんだ。この失敗を次回に生かさなきゃいけないんだからね」


 無理やりだが笑顔を作り、殊更ゆっくりと、諭すように話す諏訪。そんな諏訪を見て、高遠と保科の二人が同時に大きく深呼吸して、気持ちを整えた。

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