表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜障害  作者: 敷知遠江守
第二章 離合 地一級編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/74

第5話 年末の競争

 篠原の体幹の弱さは、実は前々から雑賀は気が付いていた。どうやら本人も気付いてはいたらしいのだが、改善の仕方がわからなかったらしい。以前、雑賀が多米から教えてもらった、大きなゴム鞠の上に置いた板に座るという方法を篠原に試してもらっている。

 一方の長井は、竜を追う拍を体に染みつかせるためにひたすら木馬に揺られている。

 その間雑賀は、反射神経を鍛えるため、モグラの飛び出す遊具でひたすらモグラを叩いている。

 もちろん、少し鍛えたからと言ってすぐにそれが結果となって現れるわけではない。特に篠原は三人の中でも一番の年上。長期戦を覚悟しないといけないだろう。


 その日の午後に予選の結果が発表となった。

 篠原と雑賀は準決勝進出。残念ながら長井は予選落ち。ちなみに小早川は『亀山特別』の結果に気を良くして、茂木競竜場に遠征して準特の『初雪賞』に出走している。



 篠原の準決勝と雑賀の準決勝は同じ週だった。残念ながら篠原も雑賀も三着で準決勝で敗退。その裏で長井は一般戦で二着であった。

 そして最終週。三人は仲良く一般戦にまわる事になった。


「はあ、これで今年も最後か。できれば勝って新しい年を迎えたいよなあ。最悪、勝てないまでも二着くらいは……」


 いつものように調整棟で三人固まって雑談に興じていると、急に篠原が最後の一枚になった暦を見て、そんな事を言い出した。すると長井も口をへの字に曲げて鼻から息を漏らした。


「俺も何とかここでちゃんと賞金積んで、来年は二人と同じ地一に行きたいんですよ」

「見込みはどんな感じなんだ? ある程度計算はしてるんだろ?」


 その篠原の問いに、長井は眉を下げ、さらに深刻そうな表情になってしまった。


「鮎川先生の計算だと四着以内くらいならスレスレで潜り込めるんじゃないかって……」

「今の長井の成績からすると、まあまあ厳しいな。しかも相手のある事だから、スレスレだと駄目かもしれないんだもんな」


 はぁと長井がため息をつく。思った以上に厳しいと感じているらしい。なんだか空気が重くなってしまったと感じた雑賀は、なんとか別の話題に変えようと試みた。


「そういえば、篠原さんって準特の『東海賞』に出たんですよね? あれって途中で竜の交換があるんでしょ? どんな感じだったんですか?」


 雑賀からしたら、これで少しは場の空気が軽くなると思ったのだが、篠原がまずため息をついた事で一層空気が重くなってしまった。


「最悪だったよ。一周した後で装丁室に入るんだけどさ、そこで次の竜に今まで乗っていた鞍を付け替えるんだよ。だけどさ、皆慣れて無いから、もたもたもたもた……その間に他の陣営はどんどん発走していってさ」

「じゃあ、全然だったんですか?」

「ああ。八戦全て八着だった。大熊先生も時期尚早だったって言って、しばらくは平特って事になったんだよ」


 篠原の話した状況は容易に想像がついた。恐らく現状では諏訪厩舎も同じような状況になるだろう。


「でも、この先、一つでも上を目指そうってなったら、その問題って先送りにはできませんよね?」

「早装丁に関しては毎日研究してるよ。ただ、先生が判断を下さないところを見ると、まだ満足な出来では無いって事なんだろうなあ」

「地一に上がれそうだからって、うち、先月から竜が二頭増えてるんですよね。来年に入ったら一回はうちも準特に出ると思うんですよ。それ聞いちゃうと、ちょっと尻込みしちゃいますね」


 もう八戦全て八着になるのはこりごり。ぽつりとつぶやくように言って、雑賀は薪の燃える暖炉に視線を移した。


 ◇◇◇


 翌日、まずは第二競争の雑賀。

 雑賀は平特に優勝したにも関わらず、まだ地二級で斤量で優遇を受けている。そのせいで、地二級には腕の差で勝っており、地一級には斤量の優遇で勝っている。結果は余裕の勝利。


 次いで第三競争の篠原の番となった。

 あれから篠原は毎日、暇さえあればゴム鞠の上に乗って体幹を鍛えている。その成果が若干出たらしい。

 するすると逃げる竜の後ろに位置取って道中進んだ。岡山は鈴鹿とは逆に飛越障害は前半にしかない。残りは平坦。その障害を全て飛越した時点で先団二番手で最内を走行。その時点では、雑賀から見ても手応え抜群に見えた。

 最終角を回ると篠原は一気に竜を加速、先頭に躍り出た。ただ、いつもここまでは良いのだ。ここまでは毎回勝てる雰囲気を醸し出す。だがここで後続に追いつかれ、気が付いたら竜群に沈んでしまっている。問題はここから。

 今日の篠原はそこからの粘りが凄かった。直線残り半分を過ぎても、まだ余裕で先頭を保持。これはいけると雑賀も応援に力が入った。だが、そこから大外を追い込んで来た竜に並ばれて二頭で終着。写真判定の結果、残念ながら二着であった。


 決勝戦の一つ前、第六競走が長井の番。

 四着以内という至上命題はあるものの、長井がやれる事は単純明快。誰よりも早く発走し、そのまま終着板を目指す。ただそれだけ。ただし、出遅れたら全てが終わる。これまでも焦って何度かそれで最下位に沈んでいる。


 今回も発走機の扉が開いた瞬間に勢いよく飛び出した。最初の鉤角を曲がる時点で後続とは二竜身ほど差が付いていた。恐らくは後続も、長井は行くだろうが、どうせ最後に捕まるんだから勝手に行かせておけという感じなのだろう。だが、長井はこの一年逃げ戦術を研究し続け、ある事に気が付いていた。それは、岡山競竜場は競技場の特色で大逃げが決まりやすいという事。

 登坂障害を越えた辺りから長井は竜を好きに走らせた。三連の飛越障害を飛越した段階で後続とは六竜身近い差が付いている。完全に大逃げの体勢。つづら折りを抜けた頃から後続の騎手たちが焦り始めた。明らかに長井の手応えが良い。どの竜もつづら折りを抜けた後から早仕掛けで長井を追った。

 そうは言っても長井もさすがに気持ちよく走らせすぎたらしい。最終角を回る頃には、もはや持久力は限界を迎えていた。それでも鞭を見せ、最後の直線を追った。いつもならズルズル下がってくる長井が全然下がって来ない。直線はもう残りわずか。そこで後続がやっと追い付き、全竜が一団となって終着板を通過。

 写真判定の結果、長井は一頭に差されてしまい二着であった。

よろしければ、下の☆で応援いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ