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竜障害  作者: 敷知遠江守
第二章 離合 地一級編

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第4話 篠原の欠点

「くそっ!!」


 予選の最終戦、二着だった篠原は、その日の呑み会で非常に荒れていた。雑賀は一着、長井は三着。これで篠原は十六点、雑賀も十六点、長井は十二点。篠原と雑賀はギリギリ準決勝に残れそうだが、恐らく長井は駄目だろう。

 だが今回、長井は、これまでの予選の最高点を大きく更新しており、少し手応えのようなものを得ている。一方の篠原は……


「会心の騎乗だったんだよ、今日のは! 絶対勝ったと思ったんだ。なんで終着板寸前で差されなきゃいけねえんだよ!」

「何でって、良い脚でしたよ、相手の竜。篠原さんのは最後一杯になっちゃってたじゃないですか」

「冷静に言うんじゃねえ! 俺だってわかってるわ!」


 雑賀の一言に篠原がさらに苛つき、乱雑に麦酒のコップを机に置いた。そんな篠原に長井も少し呆れ気味な表情。空になった篠原のコップに雑賀が新たに麦酒を注ぐ。


「俺は後方からの追い上げが得意なんですけど、篠原さんは前と後ろどっちが得意なんですか?」

「それは……女性を抱く時の話?」


 突然下ネタで返してきた篠原に、長井が麦酒を噴き出してむせた。雑賀は真顔で篠原をじっと見つめている。


「くだらない事言うんだったら二度と助言しませんよ?」

「冗談じゃん、雑賀君。そんな青筋立てて怒んなくたって」


 まあまあと両手を広げて篠原が雑賀を宥める。長井はまだむせたまま。


「で、どっちが得意なんですか?」

「どっちも苦手でも無ければ得意でもないかな。これまで、そんな事考えた事も無かった」

「だったらいっその事、徹底して先行策を極めたら良いんじゃないですか? 安定感のある篠原さんにはぴったりだと思うんですけど」


 それを聞いた篠原の感想は「地味」であった。それに雑賀がイラっとした顔をする。


「勝てる勝てないの話をしてるのに、なんでそこに派手さの話が出てくるんですか!」

「いや、だってさ、先行策なら今だってやってるじゃん。だけど、それで勝てて無いんだからさ。それを薦められてもねえ」

「勝ててないのは、篠原さんが終着板まで持久力を持たせる事ができないからじゃないですか!」

「そんな青筋立てて怒んなくたっていいじゃん」


 だんだんと熱くなってきた雑賀を、長井がまあまあと宥めた。篠原は雑賀から顔を反らし、麦酒のコップに口を付けている。一方の雑賀も、助言を考えるのが馬鹿馬鹿しくなっており、もはやどうでも良いという感じで肴の揚げ出し豆腐を突いてしまっている。


 長井としても、せっかく身になりそうな話が始まったのに、ここで話を止められたらたまったものではない。篠原にいかの燻製を向けて玩具で猫をあやすようにくるくると回した。


「ですけど、篠原さん。雑賀さんの言う事、俺もなんとなくわかりますよ。篠原さんってなんであんなに最後の直線で竜を疲弊させちゃうんでしょうね」

「なんでだろうな。俺もよくわかんねえんだよ。昔からなんだよな」

「って事はですよ、それがわかれば勝ち星に繋がるって事だったりしないんですか? それを雑賀さんは言ってると思うんですけど」

「なるほどな。なるほど。そういう話か。なるほどな、誰かと違ってわかりやすいな」


 急に納得しだした篠原だったのだが、最後に付けたした余計な部分で、雑賀はいよいよもって怒りだしてしまった。額に青筋を立てて篠原を睨みつける。そんな雑賀を「どうどう」と竜をなだめるような掛け声をかけて長井が必死になだめる。


「納得はしたんだけど、最大の疑問はなんでそんなに持久力を消費するかって事だよな」


 篠原がちらりと雑賀を見る。雑賀がへそを曲げてぷいと顔を背ける。だがその顔は怒っているというよりもすまし顔。音は出ていないが口笛を吹くような真似をしている。そんな雑賀に篠原は露骨な作り笑顔で麦酒を注いだ。


「その感じ、何か気付いてる事あるんでしょ? 教えてよ、雑賀ちゃん」

「知りません」

「そんな事言わないでさ。ね、良いじゃん。俺と雑賀の仲じゃんか」


 じろりと厳しい視線を向ける雑賀に、篠原は精一杯の作り笑顔を向けた。その態度に雑賀はため息を付いた。さすがにそこは年齢の上下がある。こういう場合に年下が折れるのは、体育会系では鉄の掟のようなもの。


「拍っていうんですかね、竜との息が合ってないんです。それと、追う時に体幹がぶれるんです。これまでは俺も自分の事で必死だったから気付かなかったんですけど、今日勝ったから、ちょっと余裕があって、それで見てて気づきました」

「最後の追い上げって普通無理に追うから息合わなくなるもんじゃねえの?」

「それ、勘違いですよ。鞭を見せた後、竜の呼吸に合わせて追えば、竜の方はそれにちゃんと応えようとしてくれますよ。竜は賢いですからね」


 少し驚いた顔で篠原が長井の顔を見る。長井も少し驚いた顔をしている。どうやら長井も篠原と同じ勘違いをしていたらしい。まるで綺麗な仏像でも見ているかのように、二人とも口を半開きにした状態で雑賀の顔を見ている。


「かくいう俺も、それに気付いたのは開業の後なんですけどね。無理に追おうとすると、かえって竜の走りを邪魔するんですよ」

「それって逃げでも同じなのか?」

「逃げも同じです。逃げだって最後は竜を追うわけですから。反応が悪ければ、その分鞭を振って見せて促してやれば良いんです」


 篠原が雑賀を見る目は完全に講座の受講生が講師を見るような目になっている。長井はコップを手に、目は雑賀を見たまま微動だにしない。急に二人が尊敬の目になり、雑賀は気恥ずかしさで頬を凹ませてしまった。


「だけどよう雑賀、俺の竜、直線に入って鞭見せても思うような加速なんてしてくれないぞ?」

「それは、篠原さんは鞭を振る時に騎乗姿勢が崩れるからですよ。だから無理に押さないと竜が反応しないんです」


 麦酒をくいっと飲み干した雑賀のコップに、篠原が麦酒を注いだ。思いのほか冷静な分析に、篠原も長井も唖然としてしまっている。二人とも全く次の言葉が出ない。

 先ほどの言いぶりだと、雑賀はこれまで自分の事で頭が一杯で、篠原たちの騎乗をじっくりと見ていなかったらしい。つまり、今日の競争だけを見て、雑賀はその事に気付いたという事になる。

 「凄い観察眼」と長井がぼそっと呟いた。それに篠原も頷く。


「なあ雑賀、今日の飲み代はおごるわ。その代わり、明日一緒に調整棟に付き合ってくれや」

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