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竜障害  作者: 敷知遠江守
第一章 混乱 地二級編

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第58話 それぞれの厩舎事情

 地二級の厩舎が決勝に駒を進める事は極めて珍しい。厩舎に等級が付けられて明確に格付けされている以上、下の格の者が上の格の者に敗れるのが当たり前で、その逆は難しい。仮に予選を突破しても準決勝で全員消えていく。特に特二、特三、準特では実力差は歴然であり、そこでの下剋上は極めて珍しい。


 ただ、平特に出るのは地二級と地一級の厩舎のみ。地二級の厩舎の中には、競竜で活躍して竜障害に来たという厩舎もあり、最初から実力と経験を備えての移籍という人たちもいる。そのため、地二級といっても実際の実力は天二級なんて事もある。

 大熊にしても、諏訪にしても、競竜で八級に昇級したという実績がある。本来の実力で言えば地二級の実力では無いはず。


 地二級の諏訪厩舎が決勝に進出という情報を得た報道が諏訪を調査。翌日の新聞に小さいながら経歴を掲載。それを見た多くの調教師は、今回の結果に納得した。元八級の調教師なら地二級に燻ぶっているのがどうかしていると言って。


 諏訪厩舎が決勝に残ってから、大熊も鮎川も邪魔をしてはいけないと言って諏訪厩舎に来なくなった。だが、篠原と長井は雑賀を誘い調整棟で体を鍛えながら歓談している。


「どうなの、決勝は。勝算みたいなもんはあるの?」


 自転車のような器具に跨って篠原が雑賀にたずねた。


「良い線は行くかもだけど、そこ止まりじゃないかなあ。そもそも、小早川コバさんたちを見て、勝てるとはまでは、さすがにね」

「確かにな。コバさん、予選も一、三、二、一だろ。で、準決勝も勝って決勝進出だもんな。雑賀は予選どうだったんだっけ?」

「三、五、五、一ですね。準決勝も二着でギリギリ」


 それを聞いていた長井が「本当にギリギリだ」と言って笑った。実際その通りだし、雑賀もそう思っているので、一緒になって笑っている。


「まあ、間違いなく人気は最低だろうし、負けて当然って考えれば気楽にやれるだろうな」

「ですね。まあ、負けても全体で八位なのは変わらないですから。一つでも上に行ければ御の字ですよ」

「でもさ、こうなると欲は出てくるよな。掲示板に載れば賞金もぽんと入るわけだし」

「もちろん、そこは狙っていきますよ。平特とはいえ、賞金が入れば会派の見る目も変わるって先生が言ってましたしね」


 会派の話が出ると、急に長井の表情が曇った。それを篠原が見逃さず、「何かあったのか?」とたずねた。長井は自厩舎の事情なので言い渋ったのだが、篠原と雑賀はちゃんとここだけの話にしてくれる事がわかっているので、その重い口を開いた。


「実は、うちの先生、成績の事で先日会派と言い合いになったんですよ。なんでこんなに勝てないんだって言われたみたいで。開業二年目でポンポン勝てると思ってる方がどうかしているって先生も電話に向かって怒鳴ってて」

「ああ、多分だけど、会派は競竜の感覚でいるんだろうな。競竜だと月に最大で十頭も出走するし、竜自体に条件戦ってのがあるから、比較的勝ちやすいんだよ。俺たちには条件戦は無いからな」

「先生も同じ事言ってましたね。未勝利だろうがなんだろうが、全ての竜が重賞に出るしかないという仕組みなんだから、勝てないのはおかしい事じゃないって」


 だが、その鮎川の言い方が会派の担当からは居直りと取られたらしく、そこから激しい言い合いになったのだとか。

 長井の話を聞いて、篠原も雑賀も鍛錬の手を止めて考え込んでしまった。


「その分、競竜の八級よりも入線した時の賞金は高いんだし、褒賞も出るし、賞金額だって断然高いんだけどなあ」

「向こうに比べてこっちは実力主義なんですよね。まあ、確かに、考えてみたら新人調教師と新人騎手にとっては、恐ろしく過酷な制度かもしれないですよね」

「だけどさ、雑賀。上手い人の中で揉まれないと技術って上達しないって思わないか?」

「ああ、それは確かにありますね。向こうで開業した当時は、年数やってきた人たちも学校時代とほとんど変わらなかったですもんね」

「そうそう、俺もそう思ってた。むしろ上手い人が昇級して抜けた分、程度が低かった気がする。今にして思えばぬるま湯だったよな。……こっちはいささか湯の温度が高すぎだが」


 最後の一言で、三人がどっと一斉に笑い出した。だがすぐに篠原が真顔に戻った。


「勝ちてぇ。早く一勝してぇ。善戦ばっかはもう嫌だ。うちだって他人事じゃねぇんだよ。このまま善戦ばっかりだと、そのうち俺も会派から何か言われちまうかもな。何でこう勝てないんだろうな、俺」

「そう言えば、コバさんに何か言われてましたね。武器が無いとかなんとか」

「そうなんだよ。長井はちゃんと武器作って磨こうとしてるのに、お前は何だって言われちゃってさ。だけど、俺、自分じゃ自分の武器ってわかんないんだよな。なあ、俺の武器ってなんだと思う?」


 突然そんな重い相談をされ、明らかに雑賀と長井が戸惑った顔をする。二人が黙っていると篠原は「なんだと思う?」と、まず長井に個別にたずねた。


「えっと、そうですねえ。安定感みたいなものが抜群ですよね。どんな展開の競争でもきっちりと対応してくるところなんかは、さすがだなって思います」


 うんうんとうなづいていると、「雑賀はどう思う?」と振られてしまった。


「そ、そうですね。今、長井も言ってましたけど、その時その時に即対応できる対応力と器用さでしょうか」


 精一杯の笑みを浮かべた雑賀だったが、若干その顔は引きつり気味。二人の顔を順に見て篠原がため息を漏らす。


「つまりそれって、これという武器が無い器用貧乏って事じゃんか。はぁ……俺も勝ちてぇなあ」


 情けない声を出して鍛錬を始めた篠原を前に、雑賀と長井は必至に笑いを堪えた。

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