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竜障害  作者: 敷知遠江守
第一章 混乱 地二級編

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第57話 準決勝二週目

 準決勝の第三戦が終わった。次がいよいよ雑賀の番。

 胸の鼓動の高鳴りは、非常に早い拍を刻んでいる。そのまま口から飛び出して、どこかに勝手に走って行ってしまうのではと思うほどに鼓動が早い。何度も落ち着こうと試みてはいるのだが、落ち着こうと思えば思うほど、焦りに似た感情が込み上げてきてしまう。早く竜に跨りたい。跨って安心したい。自分の出番を待つ間、雑賀はそればかり思っていた。


「どうしたんだ、雑賀? もしかして、怪我が傷むのか?」


 下見所で竜に跨ろうとしたら、保科にそう声をかけられた。


「いえ。そうじゃないんです。準決勝って思うと何だか緊張してきちゃって」

「何言ってんだ、お前。『メング』を見てみろよ。準決勝だろうと何の緊張もしてねえぞ。いつもと何も変わらん。竜がそんな状況なのに、乗り役のお前が緊張してどうすんだよ」

「いやいやいや。こいつは準決勝とか全然わかって無いですよ。何言ってるんですか、保科さん」

「はぁ? こいつだって準決勝だって事くらいわかってるよ。馬鹿にすんじゃねえよ。竜は賢いんだぞ。お前さんよりずっとな。その『メング』がこんなにどっしり構えてるんだ。お前はこいつに身を委ねたら良いんだよ」


 確かに保科が言うように、『メング』はいつもと何も変わない。雑賀を見て嬉しそうに喉を鳴らしている。何か釈然としないものを覚えながら『メング』に跨る。すると、何故かすうっと体の強張りのようなものが抜けていった。


「ほんとに落ち着いてますね、こいつ。何だか緊張してたこっちが馬鹿みたい」

「そうだろ、そうだろ。竜は賢いんだよ。俺たちよりずっとな。お前が怪我してると思えば、ちゃんとそれを気遣う走りをしてくれるんだぞ」

「え? そうなんですか?」

「なんだお前、乗り役なのにそんな事にも気付いて無かったのかよ。お前が怪我してから、竜たちはいつもより疲労が大きいんだよ」


 それが本当の事なのか、それとも雑賀を落ち着かせるための冗談なのか、全く班別は付かない。だけど気が付いたら緊張は全く無くなっているし、変な焦りのようなものもすっかり消え失せている。首筋をポンポンと叩くと、『メング』はクェェェと嘶いた。



 初めての準決勝進出とは思えないほど、雑賀の心は落ち着いていた。海原で言えばまさになぎ。発走機に収まった後も、全ての感覚が研ぎ澄まされ、ただただ扉が開く事に集中している。


 グポン


 扉が開いた瞬間に雑賀と『メング』は発走機を飛び出した。そんな雑賀を他の竜たちが次々に追い越していく。だがこれで良い。雑賀は落ち着き払っていた。

 ゆるい反転角を回り、鈴鹿の特徴でもあるぐねぐねと蛇行した直線を進む。相変わらず、こういう道が苦手らしく、この直線で二頭に抜かれてしまった。この時点で雑賀は最下位。

 他の七頭の速度が明らかに速い。準決勝だからでは無い。恐らく単純に流れが早いだけ。ならば、ここは離されないように追走するのみ。


 短い向正面の直線を過ぎ、諏訪厩舎が苦手とするつづら折りに入る。これでも反転の調教を毎回取り入れているのだが、どうも上手くなっているような気がしない。外柵一杯に膨らみながらつづら折りを曲がっていく。

 つづら折りを抜けた時には、七番手の竜と少し距離ができてしまっていた。予選ではこんな事なかった。もしかしたら予選と準決勝の差なにかもと思うと、少しだけ雑賀の心が焦る。


 登坂障害で少しだけ差を詰め、反転角へと向かう。その先は飛越障害。ここで引き離されたらお終い。そう考えて雑賀は前の竜との差を縮めにかかった。恐らく最初の仕掛けとしては明らかに早かったであろう。

 少し無理をした甲斐があり、飛越障害を終えた時点で、前の竜群との差が一気に縮まった。


 鉤角を抜け、最終角を迎えるところで雑賀は早くも『メング』に加速を促した。これは予定通り。最初からここが勝負所だと決めている。

 『メング』がぐっと体を低く下げ、全速力の体勢を取る。最終角を大きく膨らんで回ったせいで、最後の直線で『メング』はかなり外を走る事になった。

 ちらりと内を見ると、他の竜たちも前傾姿勢を取っている。よく見ると、どの竜も早い流れが幸いして持久力に限界が来ている。


 これは行けるかもしれない!


 雑賀の目が鋭く尖り、得物を狙うものになる。一頭抜き、二頭抜き、三頭抜き。雑賀の目には、他の竜が下がってきているように見えている。どうやらかなり内側の土が荒れているらしく、他の竜は凸凹に脚を取られている。対して『メング』は非常に走りやすそう。

 あっという間に三番手。あと一頭抜けば決勝進出。だが正面直線も残りもわずか。雑賀が懸命に手綱をしごく。右手前方に終着板が見える。

 悔しいが先頭の竜には追いつけそうもない。そう思った瞬間、先頭の竜の加速が鈍った。

 雑賀と共に内で競っていた竜が先頭の竜に襲い掛かる。だが終着板はすぐそこ。三頭の騎手が懸命に手綱をしごく。


 三頭が横一列に並んだところが終着板であった。だが、残念ながら雑賀には抜けられたという自信は無い。ちらりと着順掲示板を見ると、一着から三着まで写真判定となっていた。


 内の二頭の騎手が雑賀をちらりと見てから顔を正面に向けた。その後、騎手である雑賀を見てまた顔を正面に向ける。さらにもう一度雑賀の方を見て、その鞍の番号を確認。二人の騎手はそれが地二級の騎手だとわかり、驚愕の表情となっている。



 検量室へ戻った雑賀は諏訪に「大成功です」と声をかけた。諏訪も満足そうな顔をしている。仮にこれで三着だったとしても、十分な賞金が入るし、ここでこれだけの結果が出せれば、地一級への昇級はすぐそこ。


 雑賀が検量を終えると、突然観客席から歓声が上がった。それに合わせて係員が出てきて掲示板に順番を書き込んだ。

 一着は三、二着が五、三着が二、着差は全てハナ差。

 雑賀は二着。決勝に駒を進める事となったのだった。

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