第56話 準決勝一週目
予選最終日の翌日、鈴鹿競竜場の運営から予選の得点表が発表された。
小早川は三位。篠原は二十七位、雑賀は三十位。ここからは勝ち抜き戦で、二着までが決勝に残れる。
準決勝は二週目と三週目に二戦づつ行われる。自分がどこに組み込まれるかは、竜柱が発表になってみないとわからない。そのため、準決勝に残った厩舎は、どこもドキドキしながら竜柱の発表を待っていた。
二週分の竜柱が発表になると、鮎川、大熊二人が諏訪厩舎を訪ねてきた。
「うちは今週の第二戦、諏訪くんとこは来週にまわったんだな」
「ですね。まあ、多くは望みませんよ。準決勝に残れた時点で地一への昇級は見えましたからねえ」
「そうだね。『四日市特別』が負傷棄権だから、その辺が大きく響くだろうけど、まだ岡山に帰って『倉敷特別』もあるもんな。こうなってくると怖いのは怪我だけだな。どうなの、雑賀君の怪我の方は?」
急に話を振られ、雑賀は一瞬戸惑った顔をした。鮎川に怪我の話だと言われ、「もうかなりまで良い」と回答。すると大熊の表情が曇った。
「『もうかなりまで良い』か。だよな、まだ万全ってわけにはいかんよな。改めて思うんだけど、騎手の怪我ってのはさ、厩舎全員の怪我なんだよな。そう考えると、あの梅津っての、ホント許せんよな」
「漏れ聞くところによると、審議委員会を設置しないとって協会は言ってるそうですね。だけど国際的基準には無い話だから難しいとかなんとか。難しいじゃなくて、うちだけでもやれよって思うんですけどねえ」
「ホントだよな。何かにつけて国際基準、国際基準なんだもんな。良いと思う事はどんどん試していけば、国際的な問題が発生した時に、『もう瑞穂では対処しているらしい』ってなって、参考にしてもらえるじゃんかなあ」
「そうなれば瑞穂が海外から一目置いてもらえるようになるのに。競竜でもそうでしたけど、そういう当たり前の感覚がないんですよね、協会のガリ勉どもには。他国を追随してれば安心っていう自己保身ばっかり」
大熊と諏訪が呆れた顔で言い合うと、鮎川も「困ったものだ」と嘆息。事務作業をしながらそれを聞いていた高遠が、目の前の席に座る雑賀を見て鼻を鳴らした。
◇◇◇
準決勝に残ると、その時点で一律の褒賞が出る。決勝に残るとさらに褒賞が出る。それとは別に競争結果によって賞金が出る。なので予選を突破すると獲得賞金が跳ね上がる。逆に準決勝に残れないと、残りの日程は予選と同じく競争結果による賞金のみとなってしまう。そのような制度なので、準決勝に残った段階で大きく賞金額を増やす事ができ、昇級がぐっと近づいて来る。
もちろん、重賞の格によって賞金額も褒賞も全然違ってくるので、より高い格の重賞に出走し、より高い賞金を稼げば、天二級、天一級と昇級できるという事になる。
小早川や篠原は地一級なので、より賞金の高い準特、特三にも挑戦できるのだが、その二つには天二級の厩舎も出走してくるので勝てる見込みが少ない。さらに言えば、特三に至っては天一級まで出走してくる。
全く歯が立たなければ、いくら格の高い競争でも賞金も褒賞も得られない。そのため、唯一地二級が出走できる平特にも地一級の厩舎が殺到している。
当然の事ながら準決勝まで残っているのは大半が地一級の厩舎ばかりとなる。今回も、地二級は雑賀ともう一人だけであった。
まずは小早川が準決勝の第一競争に出走。
道中はじっくり後方で足を溜め、後半の三連障害を越えてから徐々に加速。最終角を回ってから一気に溜めた足を解放し一着で終着。
決勝に駒を進めた。
次いで篠原の第二競争。
竜障害に来てから、篠原は未だ勝ち星が無い。二着はある。ここまで惜しい競争を何度も繰り返して地一級に昇級してしまった。その残念っぷりがここでも発揮されてしまった。
道中はずっと三番手で追走。逃げ竜が一頭逃げて、それを見るように別の竜と二頭で走っていた。飛越障害を越えたあたりで篠原は逃げ竜を追って加速を開始。最終角を回ったところで先頭に躍り出た。
そこからは駆け引き無し。叩き合いだけ。懸命に手綱をしごき、終着板を目指した。ところが、終着板まであと少しという所で、外から上がって来た竜に抜き去られてしまった。それでも二着なら、そう思っていたところに二頭の竜に並びかけられ、三頭による写真判定となった。
結果は四着。残念ながら、篠原は脱落。
その競争にはもう一人の地二級の騎手が出ていたのだが、そちらは最下位に沈んでしまった。
◇◇◇
準決勝を前にして、執務机に着いて竜柱をじっと見ていた諏訪は、突然椅子から立ち上がり、雑賀を呼んで竜舎へ向かった。
「雑賀。せっかく残った準決勝だ。俺は癖の無い『タテナシ』で行こうと思っていたんだ。だけど竜柱を見て気が変わった。『メング』で行こうと思う」
「え? 能力的には『タテナシ』の方が高い気がするんですけど」
「今回、竜柱を見た感じで前目の竜が多いと思うんだ。あれだと絶対に流れは速くなる。後ろから行って最後に差した方が有利にやれると思う。それなら『オニダマリ』が良いんだろうが、この仔は前走に使ってしまったからな」
諏訪の理由に賛同した雑賀は、『メング』の首筋をポンポンと叩いた。
よろしければ、下の☆で応援いただけると嬉しいです。




