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竜障害  作者: 敷知遠江守
第一章 混乱 地二級編

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第55話 予選最終日

 予選の初戦は三位と健闘したものの、続く二戦目は五位、さらに三戦目も五位と準決勝に残れるかどうかは崖っぷちという状況になってしまっている。『四日市特別』を負傷棄権してしまっている関係上、予選最終戦でもう少し良い着を拾っておかないと来季から地一級に昇級という計画が修正を余儀なくされてしまう。


 すでに骨折の痛みはかなりまで無く、若干突っ張る感じは残っているものの、ほとんど騎乗に影響は無い。自身の体調の回復と比例するように、雑賀の中で根拠の無い自信が沸き上がってきていた。



 調整棟で待機していると、何人かの騎手が雑賀に声をかけてきた。これまで篠原、長井と三人だけでいる事が多かった。全く知名度も無いから、その三人以外と会話をする事など稀な事であった。ここのところ、その輪にやって来て、次の競争は一緒だからよろしくといった感じで挨拶をしてくれる人がちらほら現れる。恐らくは、ここに来て雑賀の成績が目を見張るものがあるからだろう。逆に考えればこれまでは同じ岡山の騎手たちですら三人を無視していたという事になるのだが。

 中でも特に距離が近くなったのは小早川騎手。最近では誰かしらを連れて来て、五人で歓談する事も少なくない。


「俺はこれまで、ずっと仲間を募ってきたんや。天一級に上がるためには、もちろん個人の技量が一番大事や。厩舎の育成も必須。それ以外に騎手仲間の繋がりが重要になってくると思うてんねん」

「どういう事ですか? 競争で協力でもするんですか?」

「そうやない。多くの目ぇで監視をするんや。上に行けば行くほど、妨害いうんは激しうなる。海外に行ったら当たり前のようにえぐい事をされるやろ。それに皆で声をあげるんや」


 「今回の雑賀の件のように」と小早川は付け加え、正面の雑賀を指差した。篠原がそれに、うんうんとうなづく。


「そのためには、長井に早く一人前になってもらわないといけませんね」

「何を他人事みたいに言うてんねん、篠原。お前かて、まだまだ半人前やないけ。長井は新人なだけで良えもん持ってんねんぞ。うかうかしとったら抜かれてまうぞ」

「わかってますよ。ですから、今一生懸命武器を作ってるんじゃないですか」

「遅いねん。いつまでかかってんねん。早よ完成させえや」


 小気味良い小早川の指摘に皆が一斉に笑い出した。だが、すぐに長井が真剣な顔で小早川にたずねた。


「武器ってそんなに簡単にできちゃうものなんですか?」

「人によるやろな。そらそうや。卵焼くんかて、手こずる奴と見ただけでぱっとできる奴はおるもん。焼くコツみたいなんを心得えとったら、新しい焼き料理なん、すぐにやれたりするやろし」

「つまり経験値って事ですか……」

「お前はまだ焦る時とちゃう。まだじっくりいかなあかん時期や。おかんがよう言うてたやろ。何でもよう噛んで食べやって。今は色んなもんをよう噛みしめて、じっくり味わう時期や」


 もの凄く良い事を言っているようなのだが、どうにも小早川の例えは何かがおかしい。どうやら皆同じ事を思ったようで、何とも言えない微妙な表情をしている。その表情が可笑しかったようで小早川が豪快に笑い出した。


 ◇◇◇


 翌日、いよいよ予選の最終日となった。


 まずは第二競争に出走の篠原。

 発走で他竜に先んじた篠原は、そのまま先頭を走り続けた。何となくだが、後から走る長井に、逃げとはこうやるんだと見せているような感じに見える。非常にゆったりとした流れを作り出し、後続と付かず離れずの絶妙な距離を保っている。

 最終角を回ったところでは余力十分であったのだが、最後に外から来た竜の猛追に屈してしまい二着で終着。


 次が第四競争の小早川。

 小早川の走りは流石と言う他無かった。道中はじっくりと三番手を保持。最終角を過ぎ、最後の直線では前の竜をその加速力でかわし、後続の猛追を振り切り、見事一着で終着。


 次いで第五競走の長井。

 いつものように、素晴らしい反射神経で先頭で発走すると、そのまま先頭をひた走った。一応は篠原の競争をしっかりと見ていたようで、いつもよりゆったりとした速度で流すように走っている。だが、最後の登坂障害で後続に迫られると、そこで調子を乱してしまった。

 最終角を回ったところまでは一着を保っていれたのだが、最後の直線の半ばくらいで一杯になり、あえなく失速。最終的に三頭に抜かれて四着に終わった。


 そしていよいよ第七競走。雑賀の出番となった。

 発走自体は平凡。可も無く不可も無く。道中は中団やや後ろ目、五番手に位置取った。そこからは登坂障害までじっと待機。登坂障害を越えると、雑賀は一つだけ位置を上げた。

 三連の飛越障害の後、徐々にじわじわと位置を上げて行く。最終角を曲がる頃には、先頭に並びかけるような状態であった。

 そこから一気に加速を開始。最後の直線では、前の一頭と、後ろから来た一頭、三頭での叩き合いとなった。後ろから来た竜の脚色が良かったのだが、直線残りわずかという所で息切れ。さらに前で粘っていた竜も息切れ。それでも三頭もつれるように終着板を通り過ぎた。


 周囲からはどれが勝ったかわからなかったようだが、雑賀には自分の竜が抜けているという自信があった。その自信が自然と終着後に拳を握りしめさせている。

 その雑賀の自信が正しかった事を、その後しっかりと着順掲示板が示してくれた。

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