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竜障害  作者: 敷知遠江守
第一章 混乱 地二級編

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第54話 再度の復帰戦

 九月に入って、諏訪厩舎は『亀山特別』に参加するために再度鈴鹿へ遠征。

 まだ雑賀の状態は万全という感じでは無く、調教は助手の本多が行っている。なので、雑賀は本番の騎乗のみで、それ以外の日は回復訓練に勤しんでいる。


 基本的に、騎手は決められた装備以外を身に着けてはいけない事になっている。それが例え医療器具だとしても例外は無い。眩しさ軽減のための目の下に墨を塗るとか、埃から顔を守るために布を当てるとか、そういったものは装備品として最初から許可されている。

 骨は繋がったとはいえ、まだ固定具が無いと痛みを感じてしまう事がある。だがその固定具は残念ながら装着が許可されていない。さらに言えば、薬物使用とみなされてしまうため、痛み止めの注射を打ってもらう事もままならない。

 そこで、競争ギリギリまで固定具を装着して、競争の時だけ外し、競争が終わったらまた装着するという事にした。


 こうして、まだお世辞にも万全とは言えない状況で復帰初戦を迎える事になった。



 いつものように篠原、長井と共に調整棟に向かうと、先に来ていた鈴鹿所属の騎手たちに睨まれた。睨み返す篠原と長井。まだ来て間もないというに、いきなり一触即発。そこに遅れて小早川が入って来た。


「なんや、なんや。競争は明日やぞ。今から気合が乗っとんのかいな。そんなんやと本番前に疲れ果ててまうで」


 かっかっかと笑い出す。すると鈴鹿所属の騎手たちは小早川を睨んだ。だが、小早川は全くに意に介さない。

 小早川は騎手たちの中に雑賀の顔を見つけると、嬉しそうな顔をして近寄って来た。


「おお、雑賀! なんやもう良えのか? 酷い妨害を受けてもうたからな。下手したら一年くらい復帰にかかるんかもって心配しとったんや」

「まだ固定具付けないと痛いのは痛いですよ。でも、早く復帰しないとなんか負けてしまっているみたいで」

「おお、良えな。そうか、負けたみたいに思うんか。そうやな、そういう闘争心みたいなもんは失うたらあかんよな。卑劣な事しかできひんような、しょうもない奴らに負けるわけにいかへんもんな」


 鈴鹿所属の騎手たちが一斉に小早川を睨みつける。それでも小早川は涼しい顔。悔しかったら反論してみろと言わんばかり。


「安心せい、雑賀。お前の例の事故は今大問題になっとる。問題の結論が出るまでは、お前に手ぇは出せへん。出したらあのアホへの印象が悪なるだけやからな。そやから、思う存分やったら良え!」

「わかりました! 怪我如きに負けないというところを見せてやりますよ」

「ははは! その意気や!」


 小早川だけでなく、篠原も長井も大笑い。さらには他の岡山所属の騎手たちも笑い出した。一方で鈴鹿所属の騎手たちは歯噛みしており、ギリギリという歯ぎしりの音が聞こえてきそう。


 ◇◇◇


 翌日、復帰初戦はいきなりの第一競争であった。

 下見所では保科が『オニダマリ』の手綱を持って周回している。現在八頭中の七番人気。八頭の内訳は鈴鹿が六頭、岡山が二頭。抽選は電脳で無作為に行っていると聞いているので、このような片寄った状況も偶然以外の何物でもない。


 待機室から騎手が出てくる。横一列に並ぶと、鈴鹿の騎手たちがギロリと雑賀を睨んだ。だが雑賀の顔は『オニダマリ』のみに注がれている。


「無理だけはするんじゃねえぞ。まだ来週も、その先もあるんだからな」


 『オニダマリ』に跨った雑賀に、保科はそう忠告した。雑賀がこくっと無言で頷く。首筋をぽんぽんと叩くと、『オニダマリ』はクェェェと一声嘶いた。


 競技場に竜を入れたところで、なんとも懐かしい匂いを感じた。固められた砂の匂い。降り始めた雨にも似た、カビのような匂い。ここに無事帰って来れたのだという事を強烈に実感させられる。


 すると、岡山所属の騎手が竜を並べて来た。


「どうなんや、痛みの方は? 昨日はまだ痛いみたいな事言うてたみたいやけど」

「弱いですけど痛みはありますね。それより、背中がつっぱってるような変な感覚があります。そっちの方が気になります」

「無理せんようにな。無理して落竜したら、今度はあいつらが変な疑いかけられて、変に揉める事になるから」

「なるほど。確かに、彼らが何かやってきたわけじゃないですもんね」


 恐らく多くの関係者がこの競争を見守っているのだろう。そう考えると無様なところは見せられないと強く感じる。



 発走時刻となり、『オニダマリ』が発走機に収まった。残りの竜が収まるのをじっと待っている。いつもなら一頭くらい枠入りを嫌がる竜がいるものなのに、今日はすんなりと全竜が収まった。


 グポン


 発走機の前扉が開き、全竜が一斉に飛び出した。

 『オニダマリ』は大跳びの竜なので、すんなりした直線の少ないここの競技場は少し苦手としている。だが、それでもやりようはある。まずは竜群の後方で待機。最初の鉤角を曲がり、蛇行路で位置取りを最後方に下げる。

 ここまでは計算通り。問題はつづら折りから先。

 二つの鉤角を抜け、この竜が最も苦手とするつづら折りに突入。ここで離されるともう巻き返しは不可。必死に食らい付いて行くしかない。最後尾ながらも、なんとかつづら折りを抜け登坂障害へ。


 一歩一歩が大きいせいで、登坂もかなり苦戦を強いられるが、ここもなんとか食らい付いて行く。

 二つ目の登坂障害を上り終えたところで、雑賀は早くも合図を送った。

 頂上から一気に飛び降りる『オニダマリ』。着地の瞬間背中に激痛が走る。思わず雑賀の顔が苦痛に歪む。

 その先、反転角を大回りで回って三連の飛越障害へ。跳びが大きい分、障害を越えるのは有利らしく、ここで一気に三頭を抜き去り、位置取りを中団へと移す。


 最終角に差し掛かる時には四番手に付けていた。

 最終角を大きく回って最後の直線へ。

 一頭抜き、二頭抜き、残すはあと一頭。あと少し。もう少しで並びかけられる。

 だがそこで、外から一頭豪快に上がって来た竜に抜かれてしまった。結局、並びかけていた竜にも粘られて、復帰初戦は三着に終わった。

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