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竜障害  作者: 敷知遠江守
第一章 混乱 地二級編

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第51話 思いがけない支援

「丈夫な体に産んでくれた両親に感謝だな」


 お見舞いに来てくれた諏訪が安堵の表情でそう言った。

 諏訪が来る前に精密検査が行われ、体中に打撲はあるものの、骨は肋骨の骨折だけ。今のところ頭部には異常が見られない。全治は一月程度という診断であった。


「毎年、浜松の両親がしらす干しを送ってくれるんですよ。俺、小さい頃からしらす干しが大好きで。それで骨が丈夫になってるのかもしれないですね」

「本当にその程度で済んで良かったよ。俺は事故を映像で見ちまってるからな。もし何かあったら、両親にどんな顔して会おうって思ってたんだから」

「俺は映像見てないからわからないんですけど、そんなにだったんですね。楓さんから聞いてびっくりしましたよ」

「正直、死んだと思った。仮に一命は取り留めたとしても、騎手としてはもう駄目なんだろうなって覚悟した。それくらいの事故だったんだよ」


 諏訪の顔は極めて真剣。その発言が全く冗談では無い事を感じさせる。


 諏訪が椅子の位置を雑賀の枕の方に移動させた。


「もしかしたら石川から聞いたかもしれないが、篠原たちがあの一件は故意だって騒ぎ立ててるんだ。なあ雑賀、冷静な意見を聞きたいんだが、お前はどうなんだ? 事故だと思う? それとも故意だと思う?」


 部屋には二人しかいないのに、なぜか諏訪は小声で聞いてきた。非常に鋭い目で雑賀を見ている。競竜学校で出会ってから、雑賀もここまで諏訪とはそれなりに長く付き合ってきたが、こんな怖い顔を初めて見る。


「……俺は故意だと思っています。調整室に行ってすぐに小早川コバさんから警告を受けてるんですよ。道中も執拗に妨害を受けていましたし」

「コバって、佐藤先生のとこの小早川か?」

「そうです。地二級で予選に勝って準決勝に残ろうとすると、そういう妨害をされるって言われたんです。着を拾う事より無事に帰って来る事を考えろって。そうは言っても脅し程度だと思っていたんですけどね」


 「脅しにしては度を越し過ぎている」とすぐに諏訪は指摘した。事故当時の映像には殺意を感じたと言うその諏訪の目は極めて鋭い。


「実はな、今回の件、業務妨害で訴えようとも思っているんだよ。少なくとも一か月うちらは予期せぬ活動停止を余儀なくされたわけだし」

「恐らくは故意か事故かが裁定の基準になると思うんですけど、絶対向こうは事故だったって言ってきますよね。その辺りはどうするんですか?」

「以前にも似たような事故を、あの梅津という騎手は起こしているんだそうだ。あの時、前を塞いだ騎手がいたろ。その事故の際にも、そいつが一緒に出てて、全く同じ役割を担っていた事がわったらしいんだよ」

「何でそれがわかったんです? だって昨日の今日ですよ?」


 雑賀の疑問に、諏訪は口角を上げて緩みそうになる顔を必死に持ち堪えた。それでも緩んでしまっている。


「お前、赤松先生を知ってるか?」

「赤松先生って、あの浦上騎手の所属厩舎の? 毎年吉弘騎手や青柳騎手と賞金王を争ってるあの浦上騎手の?」

「そうだ。その浦上騎手のとこの赤松先生だ。あの先生、今『阿蘇記念』に出るために阿蘇競竜場にいるらしくてな。その先生から、今朝連絡が入ったんだ。もし訴えるつもりなら賛同者を集めてやるって」


 「いつの間にそんな有名人とお知り合いになったのやら」とからかう雑賀に、諏訪は短く「知り合いのわけがない」ときっぱりと答えた。わざわざ調べて、向こうから連絡を入れてきてくれたのだそうだ。


「どうしてまた? そんな凄い先生が?」

「赤松先生って、元岡山所属なんだって。さっき、以前にも似たような事があったって言ったろ。それ、浦上騎手の事なんだよ」


 ――赤松清則は清流会所属の調教師。元は八級の調教師で、竜障害開幕の年に移籍している。その時の所属は岡山競竜場。

 諏訪厩舎と異なり、赤松たちは初年度上期から全力だった。そして五月の『赤穂特別』でその事件は起きた。一着で勝利した翌週、鈴鹿所属の騎手たちの妨害によって、浦上騎手が落竜させられたのだった。

 診断の結果は全治四か月。そこから下期を治療と再起に費やす事になってしまった。


 翌年復帰した浦上騎手は、上期の級別けで地一級に昇級。下期の級別けで天二級に昇級。さらに翌年には天一級に昇級した。竜障害開幕前に移籍してくれた厩舎では無く、開幕後に移籍した厩舎が、たった三年で天一級に昇級と、当時はかなり驚愕され話題となった。

 天一級に上がった赤松は岡山から鈴鹿へ移籍。所属変更が認められた第一号でもあり、その事でも有名となっている――


「詳しくは聞けなかったんだけど、次にこういう事が起きた時にって色々と準備をしてくれていたんだそうだ。鈴鹿移籍もそのためなんだって」

「で、どれくらいで結論は出るんですか?」

「わからん。もしかしたら何年もかかるかもしれん。だけど、それも重要なんだよ。少なくとも揉めている間は同じような事がやれないんだからな」

「そっか! もし同じ事したら、それも合わせて審議されるし、俺の件の心象が悪くなるって事ですか!」

「そういう事だ。最終的な裁定はどうあれ、揉める事で復帰後のお前の身の安全が図れるって話なんだ。うちらに悪い話は何も無い。しかも赤松先生という強い味方も得られる。こんなに良い話は無いだろ」


 諏訪はそっと雑賀の肩に手を置いた。


「無理をする必要は無いけど、皆がお前が戻ってくる日を心待ちにしているからな。お医者さんの言う事をよく聞いて、復帰に向けて頑張ってくれ」

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