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竜障害  作者: 敷知遠江守
第一章 混乱 地二級編

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第5話 解散の通告

 諏訪が差し出した茶封筒の中にあった一枚の紙を三つ折りにした小冊子。それは一昨年に開催の報道があった『竜障害』の案内であった。



 ――かつてはそこかしこにあった競竜場。だが、その多くは現在の競竜協会の設立によって経営不振となり、閉鎖を余儀なくされた。観客席は壊され、競技場の中心に家が建てられて展示されるというような惨めな事に。

 それでも、止級という海竜を扱っていた競竜場は、競竜場連合という組織を作って何とか存続を図った。だがそれ以外の競竜場は完全に役目を終えてしまった。


 競竜で扱われる恐竜は五種しかいない。

 トカゲのように地を這う姿から伏竜とも言われる仁級。

 ダチョウのように地を走る姿から走竜とも言われる八級。

 馬のように地を駆ける姿から駆竜とも言われる呂級。

 鷹のように大空を羽ばたく姿から翼竜とも言われる伊級。

 イルカのように海を泳ぐ姿から泳竜とも言われる止級。


 競竜協会が設立した時には伊級の競竜場は常府と大津の二か所にしか無く、呂級も幕府と皇都の二か所にしか無かった。そのため、閉鎖された競竜場の多くは仁級と八級を開催していた競竜場であった。


 仁級は元々路面を舗装していたため、閉鎖後は催事会場や公園として市民の憩いの場となっていた。

 だが八級の競技場は砂。観客席は取り壊されたものの、大量の砂が問題となり、なかなか再利用の道が見つからない。しかもその砂は元は海岸にあった砂。かなり濃い塩分を含んでいる。その塩分が邪魔をし植物を植えてもすぐに枯れてしまう。結局舗装して資材置場にするしかなかった。


 こうして、徐々に潰されていった競竜場だが、中には竜術の練習のできる乗竜場として保存されていたところがあった。大抵は市街地から少し離れたところにあった競竜場で、単に再利用の計画すら立てられなかった場所である。


 そんな放置されていた競竜場を改装して、海外で話題となっている『竜障害』専用の競竜場を作ろうという計画が持ち上がった。十五年ほど前に『瑞穂竜障害協会』が設立。競竜協会にお願いし広く竜障害の参加者を募り、四年前、主に仁級と八級所属の調教師が竜障害へ移籍する事となった。


 当時、諏訪は仁級の愛子競竜場に所属して四年目。特に何の興味も抱く事なく、東国二位の成績で八級へ昇級した――



「俺はもう決めたんだ。来週にもこの話はするつもりだった。竜障害って言っても競竜の一種だからな。厩務員は必要だし騎手も必要だ。だから、付いて来たい者には付いて来てもらって、そうでない者は俺の方で転厩先を探そうって思ってる」


「えっと……高遠主任以外、誰もこの事を知らないのですか?」


「さっきも言ったが、うちで知ってるのは高遠さんだけ。お前が二人目だ」


 そう言うと諏訪は雑賀から小冊子を取り上げ、茶封筒にしまって、また引出しにしまってしまった。


「競竜学校からの付き合いだから、できればお前には付いて来てもらいたいと思っているが、無理強いはしないよ。お前にも人生設計ってもんがあるだろうからな」


「……急にそんな話をされても」


「わかってる。厩舎閉鎖までは、まだ一月近くあるから。十二月に入ったら閉鎖手続きに入る。それまでに色々と考えておいてくれよ」


 諏訪はぽんと雑賀の腕を叩いた。相変わらず、その表情からは感情が読めない。


 ◇◇◇


 翌週、急遽厩務員たちが集められ、諏訪の口から厩舎が一旦解散する事と、来年から竜障害に参加する事になった旨が告げられた。


 全員、突然告げられた重大発表に呆然。何を言って良いかわからず言葉を探っている。唯一出たのが筆頭厩務員の保科の口から出た「は?」であった。

 事前に話は聞いたものの、何となく口外しない方が良いと感じ、雑賀もこれまで黙っていた。そのせいで、皆の反応に後ろめたさのようなものを感じてしまう。


「強制はしない。そもそも、どこの競竜場の所属になるかもわからないからね。家族のいる方からしたら、盛岡に残りたいって家族の意向もあるだろうし」


「先生。こんな重要な話を、たった一月で決めろって言うんですか? この件は、恐らく先生が思っている以上に重大な話ですよ?」


「保科さんの言いたい事もわかるよ。昇級のように事前に心の準備のできるような話じゃないからね。だから厩舎は解散なんだよ。来年から新たに開業する事になる。付いて来たい人だけ来てくれれば良い」


 すると、厩務員の小笠原が手を挙げた。その視線は鋭く、表情はかなり険しい。


「一つ聞かせてください。この件、いつから決まっていたんですか?」


「最初に会派から打診があったのは五月だったかな?」


「ふざけんな! だったら! その段階で俺たちに相談しろよ! 俺たちは部下じゃない仲間だって、あんた言ったよな!」


 小笠原の他に三人の厩務員が同調。他の厩務員たちは何も言わないが、一様に納得いかないという顔をしている。


「十一月一杯まで厩舎を運営しないといけなかったからですよ! もしもその段階で相談したら、君たちはその事で意見を対立させて、厩務に影響が出ると考えたからですよ」


「それは……いや、そんな事にはならなかったはず――」


「いや。なったと思いますよ。少なくとも『菊花杯』は勝てなかったでしょう。俺は、この判断に関して間違っていなかったと思ってます」


 厩舎の事務室がシンと静まり返る。厩務員たちが互いにちらちらと顔を見合わせている。だが、誰も口は開かない。


「十二月に入ったら竜は全て転厩になる。そこで順次希望を聞いて行くから、それまでに答えを用意しておいてください」

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