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竜障害  作者: 敷知遠江守
第一章 混乱 地二級編

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第48話 収賄事件

 大熊が酔った勢いで言っていた『鈴鹿で世界選手権』という話。その時点ではまるで夢物語のような扱いであった。以前安見調教師も開催地に瑞穂が検討されているという話はしていたものの、その時点でも、あくまでそういう噂があるというだけの話にすぎなかった。

 ところが、それからわずか二週間後、『四日市特別』の予選三戦目を控えた日、それは急に現実を帯びる事になった。


 その特報は突然世界を駆け巡った。


”『呉越グランプリ』にて大規模な収賄発覚!”


 毎年五月から六月にかけて、呉越国武林競竜場で行われていた呉越グランプリだが、関係者の告発により、何年も前から主催者が賄賂を受け取っていた事がわかった。訴えだけは以前から何度もあった。賄賂を要求された、払わなかったら嫌がらせをされた等々。だが、これまで大会組織委員会が調査を行っても、そのような事実は発見されず、誹謗の類とされていた。


 この度、大会組織委員会の委員からの内部告発があり、複数人の委員が調べ上げられる事になった。それにより、多額の賄賂を受領していた事が発覚。呉越国の竜障害協会に監査が入る事となった。その結果、各国の竜障害協会が事前に呉越竜障害協会の理事たちに『祝い金』として資金を支払っていた事が発覚。告発が事実である事が確認された。


 現在、国際竜障害連盟はこの件に関する処分を検討しており、少なくとも『呉越グランプリ』は廃止される見通しとなっている。それに代わる開催地として、ポンテフィシオ、ライン、マラジョ、瑞穂、アナングを検討しているという。


 翌日の競竜場はどこもその話題一色であった。突然の報に、番記者が少しでも情報を取ろうと馴染みの厩舎や関係者に取材をかけまくっている。

 当然、競争前の調整棟もその話題一色であった。


「ここで世界選手権ねえ。どうりで金かけてあちこち改修しまくるはずだわ。そういう思惑があったとはねえ。そういう事なら、岡山とここまで違いが出るのも仕方ないよな。なんせ国を代表する競竜場にするんだから」

「いやいや、篠原さん。鈴鹿の件はそれで納得しますけど、それと岡山の件は別件でしょ。岡山はいくら何でも力入れなさすぎですよ。多くは望みませんから、せめて最寄り駅に居酒屋の一軒くらい誘致してくれたって、ねえ」


 雑賀のぼやきに、篠原はふふふと不敵に笑う。


「なんだ、雑賀。お前、まだ知らないのか。今度できるんだよ、吉永駅前に」

「できるって、まさか居酒屋が?」

「そのまさかだ!」

「嘘でしょ!」


 そのあまりにしょぼい会話は周囲にがっつり聞かれており、雑賀の驚きの声にどっと笑いが起きた。


「わかるわ、雑賀。俺も最初に聞いた時に腰抜かすか思うくらい驚いたもんな。だってなあ、あの駅の周辺って何も無いやんか。あるいうたら駅の裏手の病院だけ。喫茶店すらないと来たもんや」


 そう言って小早川が大笑い。すると別の岡山の騎手が小早川に笑いかけた。


「いやいや、小早川コバ。実は喫茶店ならあるんやぞ。車で数分行ったとこに」

「何言うてんねん。喫茶店まで車で行ってどないすんねん。駅前にあるから意味があんのやろが」

「お前、どんな都会の生まれなんや。田舎の喫茶店いうんは車で行くもんやがな」


 そんなしょぼいやり取りに、鈴鹿所属の騎手たちが腹を抱えて笑い合った。


 ◇◇◇


 ここまで二戦し、雑賀は初戦こそ競技場の癖のようなものがわからず最下位に敗れたものの、先週は五着と順位を上げた。

 相変わらず篠原は三着、四着と安定した成績をあげており、長井は雑賀から武器を砥げと言われた事を守り、逃げ一本で戦い、五着、四着と粘り腰を見せている。


 ここまで不安定ながらそれなりに良い成績をあげてきた雑賀は、この日も八頭立ての四番人気。騎乗するは『キキョウタテナシ』。

 さすがに三走目ともなれば、雑賀にも多少の慣れのようなものも出てくる。竜も人も発走機の中で落ち着き払っている。


 グポン


 発走機が開いて、全竜が一斉に飛び出した。

 いつものように雑賀は後方待機。

 岡山同様に、鈴鹿も発走してすぐに鉤角がある。だが岡山と異なり、鉤角というより緩い反転角という感じで、そこから観客席の方に戻ってくる。

 そこからぐねぐねと波打った道を進み、ちょうど発走位置の向こうで観客席とは反対側に折れ曲がる。

 少し行くとまた鉤角があり、非常に短い向こう正面となる。

 そこからまたもや鉤角を曲がり、観客席側に向かい、その先に鋭い反転角がある。


 ここまで鉤角が非常に多いものの、全て道は平坦。だが、鈴鹿の競技場がいやらしいのはここから。この先に二つの坂路があり、少し緩めの反転角を回ってから水濠、生垣、竹柵という飛越障害を跳ぶ事になる。つまりここまでの平坦路で持久力を使い果たしてしまうと、最後の障害が飛び越えられないのだ。

 しかも、竹柵、生垣、水濠という場所が多いのに、ここは逆になっている。最も脚を取られる水濠が最初のせいで、そこで躓くと生垣障害を飛ぶ事が難しくなってしまう。


 何とか飛越障害を飛び越えた後、二つの緩い鉤角を越えて最後の直線となる。


 最終角を回った時点で、雑賀は良い手応えを『タテナシ』から感じていた。道中の流れが少し遅かった関係で『タテナシ』の余力は十分だった。


 最後の直線に入る前に雑賀は加速を開始。直線に入った時点で三番手まで位置を上げていた。


 鞭を取り出し『タテナシ』に見せる。『タテナシ』がグイっと前傾姿勢を取りもう一段加速力を上げる。すぐに一頭を抜き去り、残りは一頭だけ。後続も来る気配が無い。

 雑賀が手綱をしごく。『タテナシ』がそれに答えて前の竜を追い詰める。


 終着板を迎えた時、雑賀は思わず観客席側を確認した。前を走っていた竜は最後に抜いたという感触がある。問題は外から差されていないか。


 誰もいない!


 そこでやっと着順掲示板に視線を移す。それまで勝負で強張っていた雑賀の頬が思わず緩んだ。掲示板の一着には『キキョウタテナシ』の『七』が表示されていたのだった。 

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