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竜障害  作者: 敷知遠江守
第一章 混乱 地二級編

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第45話 友達紹介

 五月の予選四戦が終わり、雑賀も長井も残念ながら準決勝には進めなかった。


 篠原は昨年の十一月に行われた『倉敷特別』で準決勝に残っている。まだ勝利こそ無いものの、大崩れする事が無く、常に上位の着を拾っている。九月の『亀山特別』でギリギリ準決勝に残れず、十一月の『倉敷特別』では準決勝に残った。さすがに準決勝では全く歯が立たず八着と大敗ではあったものの、『四日市特別』『亀山特別』『倉敷特別』、下半期で稼いだ賞金額はそれなりとなっており、地一級へ昇級を果たした。


 『安濃津特別』不参加、『姫路特別』予選敗退、『赤穂特別』も予選敗退が濃厚という雑賀は、残念ながら昇級は下期に持ち越し。昨年の『赤穂特別』から予選落ちを繰り返している長井も状況は全く同じ。長井は低い成績で安定してしまっているので、先が見えないという状況であった。



 かなり落ち込み気味の長井を連れて、雑賀は春香と会う事になった。事前に話はしており、春香も大学の友人を連れて来てくれている。体裁としては四人での食事会という形となっている。


 春香が連れてきたのは、春香とどこか似た雰囲気を感じさせる綺麗系の女性。音楽をやっている人特有の整った顔。そして春香と同じ髪色。長い髪を束ねているところも同じ。何となく服も雰囲気が似ている気がする。


「えっと、こちらは詩織しおりちゃん。同じ大学で同じ音楽学部の人なんよ」

花房はなぶさ詩織です。春香ちゃんとは入学以来の友だちなんです。ね」

「詩織ちゃんはヴィオラなんやけど、雑賀さん、そろそろ楽器の名前覚えた?」


 悪戯っぽい顔で春香がたずねると、詩織もくすくすと笑う。


「えっと……び、ビオラ……太鼓みたいなのだっけ?」

「もう、全然ちゃうよ! 雑賀さんが思い描いたんはティンパニ。ヴィオラは弦楽器! もう、いつになったら楽器の名前覚えてくれるんよ」

「す、すみません……頭悪くって」


 そんな二人のやりとりに詩織はくすくす笑いっぱなし。雑賀の隣では長井が話の内容が全然わからず困惑して目を泳がせている。


「春香ちゃん、そんな言うたら可哀そうやん。うちらかて全然違う世界の話されたら、なかなか覚えられへんと思うよ。特に楽器なん全部外来の言葉なんやもん」

「そうは言うけどね、詩織ちゃん。うちら会ったん二か月も前なんよ。そっから何度か音楽堂に交響曲を聞きに行ってるんよ。それやのに雑賀さん、まだ私の楽器の事『長筒』言うんよ」

「あはは。『長筒』なん初めて聞いたわ。言い得て妙やけどね。でも、『縦笛』言われへんだけマシちゃう?」

「二か月して『縦笛』言われたら、私、ちょっと見方改めるわ」


 春香と詩織二人でケタケタと笑い合う。一方の雑賀と長井は笑顔が引きつっている。


 長井が雑賀の袖をちょんと引いた。


「雑賀さん、弦楽器って何っすか?」

「糸の張ってある楽器だよ」

「琴みたいなやつ?」

「三味線みたいなやつだよ」


 二人はボソボソと小声で話しているつもりだったのだが、残念ながら前の女性たちに聞かれてしまっていた。


「ちょっ、三味線みたいなやつって……いや、合うてるけども」

「弦楽器って琴の事やから、長井さんが言うてる事も合うてるんやけどね。私のヴィオラは『提琴』言うそうやし」

「へえ、そうなんや。ほな、私のファゴットは何て言うん?」

「筒笛ちゃうの? 知らんけど」

「絶対嘘や」


 そんな感じで、春香と詩織は二人でケタケタと笑い合っている。長井は二人が何を喋っているのかちんぷんかんぷん。困惑した顔のまま。一方の雑賀は、春香がいつにも増して楽しそうにしている姿を見て心がほっこりとしていた。


 あの日から、春香はいつも何かに怯えている感じであった。二人で町を歩いていても、後ろを誰かが通ったというだけでビクビクしている。完全にあの日の事が心傷になってしまっているようで、近くで大きな声が聞こえると泣き出しそうな顔をする。気分が悪くなってしまい、椅子に腰かけたまま震えていたという事もあった。その都度、雑賀は笑顔を見せ「どうしたの?」と優しく声をかけて安心させている。

 その彼女がこんなに楽しそうにしている。雑賀も思わず顔が笑顔になる。



 するとふいに、春香が化粧を直してくると言って席を立った。その後ろ姿を見て詩織がぼそっと呟いた。


「春香ちゃん、今日は結構安定してんね。ここんとこ、ちょいちょい不安定やったけど」

「え? どういう……」

「雑賀さんと付き合うようになったのって二か月くらい前やんね。そこからあの娘、ちょっとおかしいんよ。学校でも男の子見るとビクビクして。雑賀さん、あの娘になんかした?」

「俺は何も。でもその原因に心当たりはある。本人が言ってないなら、俺から言う事はできないけどね」


 その雑賀の言い方で、何か事件があったらしいという事を詩織は察した。


「花房さん。申し訳ないんだけど、もし春香ちゃんに何かあったら、俺に連絡してくれないかな。春香ちゃんにも直接言ってあるんだけど、可能な限り駆けつけるからさ」


 真顔でお願いする雑賀に、詩織も真顔でうなづいた。

 そこに春香が戻って来た。


「お待たせ。真剣な顔して何の話してたん?」

「花房さんの美瑛って楽器について、講釈を受けてたんだよ」

「……美瑛やのうてヴィオラね。何も頭入ってへんやないの、もう」

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