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竜障害  作者: 敷知遠江守
第一章 混乱 地二級編

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第39話 反射神経

 他厩舎からしたら、たかが二点なのであろう。まだ予選は三戦残っているし、準決勝戦に進む事を考えたら、わずか二点と言っても良いかもしれない。だが、諏訪厩舎にとっては、大きな大きな二点であった。しかもわずかではあるが賞金も入った。


 その日の諏訪厩舎は、まるで『姫路特別』に優勝でもしたかのような浮かれようであった。お祭り騒ぎだったと言っても言い過ぎでは無いかもしれない。

 夕方から酒宴が開かれ、大熊調教師や鮎川調教師、柿崎主任や本庄主任、篠原騎手、長井騎手まで祝福に駆けつけてくれた。口々に言われたのは「出遅れたけど、ここから」という言葉。何度も言われた事で、改めて自分たちが発走に失敗したのだという事を強く実感させられた。


 ◇◇◇


 翌週、竜を替えて『メング』で挑んだのだが、やはり結果は四着。内容は前回と同様、出遅れて後方の位置取りになり、最後の直線で猛追、届かず四着というもの。

 どうも一朝一夕では競争感覚というものは戻らないらしい。暇さえあれば視聴室に籠って、過去の競争映像を穴が開くほど視ているのだが、あまり効果は実感できなかった。


 三週目。最後の一頭『タテナシ』で挑む事になった。これでもそれなりに勝負になるようなら、これからの競争にもかなり期待が持てると諏訪は言っている。後は確実に順位を上げていくだけだと。


「昨年一点も取れなかったのに、いきなり連続得点だもんな。完全に軌道に乗ったって感じだね。長井もうかうかしてると先に地一に上がられちまうぞ」


 そう言って、篠原が豪快に笑った。長井も決して不快な感じではなく、自分の事のように嬉しそうにしてくれている。


「まだ二戦だけじゃないですか。しかも、どっちも出遅れだし。十か月の空白を埋めるのはそう簡単な事じゃないですよ」

「そういうのって、どうやって取り戻すんです? 例えば怪我したら数か月乗れないなんて事もあるんですよね。そこからの復帰ってどうすれば良いんでしょう。俺、新人だから、そういうの全然わからないんですよね」

「俺も色々と試してみてるんだけど、あまり効果のようなものは感じないね。競竜の経験からいくと、実戦を積み重ねるしかないんじゃないかって思ってる」


 すると、具体的にどんな事を感じているのかと篠原がたずねた。


「とにかく体の反応が鈍いんですよ。ここだと思ってから、実際にそれに体の動きが追い付くまでに時間がかかるんです」

「そっか。だから二戦ともに明らかな出遅れなのか」

「それだけじゃないんです。障害の飛越、勝負所の仕掛け、全てが一拍遅れるんですよ。こういうのって予測して対応できるものばかりじゃないから困っちゃうんですよね」


 そんな感じなのかと話を聞いていた長井が、何かを閃いたようで、席を立ってどこからに向かって行った。帰って来た時には手に数札を持っていた。


「おい、長井。うちらは賭け事は禁止だぞ」

「違いますよ! これで雑賀さんの反射神経を鍛えるんです」


 思ってもいなかった指摘を受け、長井が笑いのつぼを突かれたようで、大笑いし続けている。そんな長井を他所に、雑賀は数札を箱から出し、下の塊を上に置いて混ぜ合わせていく。その後、それぞれ三人に均等に配った。すると長井は、自分の分の札が多いと言って、半分を二人に配った。


「まず、手元の札山から五枚を表にして並べてください。今から、俺が一枚札を出しますから、その札よりも数が上か下の札を乗せていってください。先に手札が全部無くなった方が勝ちです」


 そう言って長井が手札の中からポンと一枚を場に置く。ポンポンと篠原は札を重ねて行くのだが、雑賀は判断が遅れ全く札が出せない。篠原が出せる札が無い時に雑賀が出せる程度。みるみるうちに篠原の札山が減っていく。最後の一枚を篠原が出した時には、雑賀の札山はまだ半分も減っていなかった。


「おお、これ良い訓練になるかもな。反射神経だけでやれるわけじゃなく、駆け引きもある。これから三人揃ったら毎回これをやろうぜ。俺も鍛錬になりそうだからな」

「篠原さん、もうちょっと付き合ってくださいよ。訓練うんぬんの前に、純粋に面白いです、これ」


 結局、そこから三人は就寝ぎりぎりまで数札で遊んだ。


 ◇◇◇


 翌日。昨晩の数札の効果が出たのか、第二競争に出走した篠原は、初めて二着という、ここまでで最高の着を拾った。さらに続く第三競争では、長井も自身の最高着順である三着に入線。


 そして第五競走。雑賀の出番となった。


 『タテナシ』に跨った雑賀は、奇妙な感覚を覚えていた。どういうわけか、竜の背が近く感じる。だからと言って周囲が見えていないわけではない。むしろいつもより遠くが見える気がする。


 発走機に収まってからも奇妙な感覚は続いた。時間が非常にゆっくり流れている感じがする。どういうわけか近くに見えるはずの鉤角が非常に遠くに感じる。


 グポン


 発走機の扉が開く早さが遅く感じる。合図を送るのが早すぎたようにも感じた。だがそうでは無かったらしい。『タテナシ』は扉が開いてすぐに飛び出すように発走。先頭に躍り出た。


 発走してすぐに外から並びかけてきた竜がいて、その竜に先頭を譲り、内柵沿いを二番手追走。そのまま二番手で向正面の三連の飛越障害に突入。

 最初の竹柵障害を越えたところで、先頭の竜が失速。再度『タテナシ』が先頭に躍り出た。

 最後の水濠障害を越えたところで、再度先ほどの竜が先頭を奪いに来る。『タテナシ』は特に先頭に拘らないといけない気性難の竜では無い。そこからまた二番手に下がった。


 どうもつづら折りを諏訪厩舎の竜は苦手にしているらしい。『オニダマリ』は大跳びなので仕方がない部分があるのだが、『メング』も、この『タテナシ』も不器用に曲がる。そのせいで一旦は四番手まで位置が下がってしまった。


 だがそこから勝負所に入ると、『タテナシ』は体を前傾させ、するすると位置取りを元の二番手に押し上げた。最終角を過ぎ、一団となって最後の直線へと向かう。


 雑賀が鞭を見せると、『タテナシ』はさらに体を前に傾けて加速。その太い腿で大きな足を前後させ、一歩一歩砂を掴んで前へ前へと走る。

 ここまでの位置取り争いで先頭を走っていた竜はすっかり体力切れ。直線に入ってから抜かれた竜を斜め前に見ながら、内で加速する『タテナシ』。


 悔しいが前との差がジリジリとしか縮まらない。直線はもう半分しか残っていない。確実に差は縮まってはいる。もう少しで並びかける事ができる。

 だが、無常にもそこが終着板であった。

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