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竜障害  作者: 敷知遠江守
第一章 混乱 地二級編

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第36話 復帰戦に向けて

 三月から始まる『姫路特別』での再始動に向け、諏訪厩舎では臨時会議が開かれる事になった。参加者は諏訪、高遠主任、保科、雑賀、本多助手の五人。


「まず、昨年の『赤穂特別』での結果、あの原因は安見先生のところの研修でわかった。竜が障害を怖がってしまっていたんだ。だから最後の直線でも、ここからまた障害が来るのかもと竜が身構えてしまっていたんだ」

「それ、俺も雑賀君から報告受けたんですけど、そんな話なんだとしたら、大熊厩舎や鮎川厩舎も同じじゃないんですか? あっちはそんな事にはなってないのに、なんでうちだけが?」

「それもペヨーテで聞いてきた。競竜で短い距離を走らされていた竜が竜障害に転向した時にありがちな症状なんだそうだ。そういう竜は感覚で走るようになるから、そういう事に鋭敏になるんだそうだ」


 競竜の八級では現在『パデューク』という竜の血統が幅を効かせている。パデュークは爆発的な瞬発力を伝えた種牡竜で、多くの活躍竜を輩出。その子も種牡馬として、その爆発的な瞬発力を子に伝えた。身体的特徴としては、とにかく足が大きく、膝の関節の骨が大きく、腿や胸の筋肉が太い。

 ただ、『パデューク』は気性難の気があり、それも子に伝えてしまう事が多かった。そのせいか、長距離を非常に苦手としており、活躍竜は圧倒的に短距離竜が多い。


 研修を終えて帰ってきて、血統を見てわかったのだが、諏訪厩舎の三頭の竜、『メング』『タテナシ』『オニダマリ』全てがこの『パデューク』の血統だった。安見の話では、『パデューク』系の仔は競竜としては優秀なのだが、竜障害では気性難が災いしてあまり活躍が期待できないのだそうだ。


 パデューク系の種牡竜はどれも種付け料が高額なので、恐らくは会派としては少しでも元を取りたいと考えて送ってきたのだろうが、今回はそれが大きく足を引っ張る事になってしまった。

 パデューク系の竜は体が大きい仔が多いので、決して竜障害がダメというわけでは無いと思うと安見は言っていた。だが、それは慣れた調教師ならという話。少なくとも新米調教師に預ける竜では無いだろう。


「話はわかりました。で、どうするんですか? 竜を代えてもらうように交渉するんですか?」

「今から交渉したら、走れるのは下期になっちまうよ。このまま行く。その為に俺はわざわざペヨーテまで行って研修を受けてきたんだから」

「具体的な方針だけでも示してもらわないと、約一年の空白の件、厩務員たちは納得しないんじゃないですかね」

「わかってる。高遠さんは送った指示書見て、調教計画の内容が変わったのは気付いてる?」


 高梨がふるふると首を横に振る。すると諏訪は雑賀に同じ事をたずねた。


「俺は多米さんに話を聞いてましたから。以前のような調教場を一周するんじゃなく、直線の飛越障害を往復するように変更になってますよね」

「で、どうだ? 変化はあったか?」

「四か月継続した事で、跳躍力が上がった気がします。飛越する時の視線の高さが上がったように感じるんです。それまでのようなギリギリを飛び越えるというような状況では無くなったんじゃないかなって」


 諏訪は雑賀の報告に満足し、大きく頷いた。


「ですけど、その分、小回りの調教と直線の加速調教、坂路の調教は大きく減ってしまってますよね」

「良いんだ。飛越調教を多くする事で、その分くるぶしと太腿、腰の肉が付く。それは通常の走行でも必要な筋肉だからな」

「ですが……」

「雑賀。あの竜たちはな、平路は嫌というほど走っているんだよ。一朝一夕で忘れはしないさ。最終調整で一回か二回走らせれば、それで事足りる」


 ペヨーテでの研修が余程諏訪の自信になったようで、昨年までと違い、どこか堂々としたものを感じる。その態度に高遠、保科、雑賀、本多の四人は安心感を覚えた。


「目標は上期での地一級昇級だけど、それはさすがに厳しいかもしれない。だけど来年には確実に昇級してみせる! 約束するよ」


 そう言って微笑んだ諏訪の顔は実に良い笑顔であった。


 ◇◇◇


 こうして、あっという間に時は過ぎ去り、二月の末を迎えた。外は連日白いものが舞い落ちている。話声と同時に白い息が吐き出される。そんな全てが凍えた世界で、諏訪は十か月ぶりに事務棟へ出走登録を提出に向かった。


 事務室には高遠と雑賀が残されている。凍えた外の世界と異なり、壁際に置かれた七輪の熱とやかんから吹き出す蒸気で、部屋はそれなりに温かい。


「雑賀君、どうなの? どの程度やれそうなの? 調教してて手応えみたいなものってある?」

「手応えですか。そうですね。悪くはないですよ」

「なんだよ、その記者への受け答えみたいなのは」


 高遠がゲラゲラと笑い出す。指摘されて雑賀もそう感じたようで、一緒になって笑った。


「すみません。正直、よくわからないんですよ。前よりはやれるのかもというのはあるんですけど、なんせ俺自身十か月競争してないでしょ。感覚みたいなのが鈍ってやしないかって心配なんですよね」


 ここまで調教をしてきたので、騎乗の感覚そのものが鈍っているとは思わない。だが竜障害は競争。競争という事は駆け引きがある。体力の配分計算がある。位置取り争いもある。そういった勝負感覚が、もしかしたら鈍ってしまっているかもと雑賀は危惧している。

 残念ながら高遠にはそういうのはよくわからないらしく、相槌のように小さく首を振るだけ。


「そっか。じゃあ復帰戦の節で劇的に何か変わるわけじゃないかもしれないって事なんだな。まあ、雑賀君も気楽に乗りなよ。点数一点でも取れたら、遠征許可してもらえるんだからさ」

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